第十九話 遠征3
本日二回目の投稿です。
ケーゼはそれ程大した怪我では無かったようだ。
学園専属の魔術師……白の治癒属性によって簡単に治されたしな。
「弓矢のことなど知らん。
魔術に関しては力加減を多少誤ってしまったよ。
だが誰も重症など負っていないだろう?
何も問題無いだろうに!」
矢じりに関しては誰が放った矢なのか特定など出来ない。
だがケーゼが指示したに違いないと誰もが思っていた。
そして刃物で切り付けておいて怪我が無かったから良いだろうみたいな事が許されるものか!
「用件はこれだけか?
まだ傷が疼くのでね、これで失礼するよ」
ケーゼは逃げるようにその場を去っていった。
「あの生徒は少し問題がありそうですね。
レーレン先生からもきつく言っておいて貰いたいものです。
……ただ逃げ足の速さだけは評価しましょう」
「ベアイレ先生から言われずとも分かってはいるのです。
ただ生徒自身に気づいて欲しいのです。
このような事に何の意味もないと」
「相変わらず生徒にはお優しい事で」
「貴方ほど急いでいないだけですよ」
結局ケーゼにはお咎め無しという事になったようだ。
「先生方にはもっと厳しく対応して欲しいです。
……殺ってしまえば全て解決です」
「さすが私のクラスです。その性急さは素晴らしいですね」
「貴方は生徒にどのような事を教えているのですか……」
「シャルさんってこんな怖い人だったか?」
同席していた小隊員達も少し引いていた。
特にフォースさんが気にしているようだった。
「まぁいろいろあるんだよ!」
「そのいろいろが気になるんだよ!」
「んー、許嫁っていうのになるのか?」
「許嫁を殺るってどうなってんだよ」
「そんな良い物じゃ無いわよ。
……私の身売り先がケーゼってだけよ」
シャルはばつが悪そうにそう答えた。
「本当なんですか!? そうと知っていれば俺達が殺ったのに!」
「今回の遠征はもうおしまいよ。
次があれば宜しくお願いするわ」
シャルはいつの間にか慕われていた。
実力があり強く、厳しいが優しい。
そして何より可愛いからな。
慕われないはずがない……俺もその信者の一人だからな!
◇◇◇
五日目の朝が来た。
例年よりスムーズに遠征は進んだようだ。
もし七日を越えたら食糧などはどうしていたかって?
それくらいの余裕を見るのは当然として、それを教える事もこの遠征の目的の一つらしい。
後は帰るだけなのだが皆荷造りに忙しそうだった。
俺はする事は特に無いけどね。
そこでふとここから少し離れた所に妙な気配を感じる。
「シャル、ちょっと気になる事があるからその辺を飛んでみてくるわ」
「良いけど早めに戻るのよ。
荷造りが終わったらすぐにでも出発なんだから」
「了解、じゃあ行ってくる」
俺は荷物も無いし空も飛べる。
それほど時間が係るとも思えないし、すぐに追いつく事も出来るだろう。
しばらく北西の方向へ飛ぶと騎乗された騎竜を見かけた。
キルシュの使い魔以外にもいるんだな。
それほど珍しいっていう事もないようだな。
俺と違って!
そこからさらに進むと大規模な集団を見つけた。
なんていうか俺達と同じような感じだ。
軍隊というか兵隊というかそんな感じの集団だ。
違いと言えばその人数と騎竜の集団が居る事だろうか。
そこには五本の剣が描かれた旗を掲げていた。
近くにあると言う駐屯地の兵隊だろうか?
これがプロというか一人前の兵士の気配という事だろう。
俺達とは違い殺気のような物を感じる。
◇◇◇
「用事はすんだのかしら?」
「うん、ただの兵隊だった。
あれが本当の兵士と言う物なんだろうねー。
殺気が感じられたよ!」
俺はシャルに見てきた事を事細かに伝える。
「ふーん……それって他に何か特徴が無かった?」
「んーと、五本の剣が描かれた旗を掲げてたね。
駐屯地に詰めている兵士さんだろうねー」
「それって一本だけ剣が大きく、あとは小さめの剣が四本描かれてた?」
「そう言えばそんなそんな感じだったかも?」
「馬鹿! それはアフュンフ国の旗よ!」
「そうなの? なんであんなとこにいるんだろうね」
「なんで分からないのよ……。
アフュンフは敵対国よ!
戦争しに来たに決まってるでしょうが!」
◇◇◇
「それで北西でアフュンフの軍勢を見たと言うのは本当なのかい?
アフュンフは東の国なのですが……」
レーレン先生が信じられないという感じだ。
「私の使い魔が旗も確認しています。間違いありません」
「ではそれがアフュンフと仮定してだ……その目的はなんだろうね?」
「北の駐屯地でしょう。この当たりで狙うとしたらそこしかありません」
ベアイレ先生が答えた。
「それで私達はどうするべきかだが。
まずは此方は発見されているのかどうかだが……」
「あー、騎乗した騎竜を近くで見かけました……」
「それを早く言いなさいよね!」
「それは斥候だね。此方は発見されたと思って間違いないね」
あれ、これまずくね?
「相手の数は約三千だったね? 魔術師が五百はいるだろう。
それに騎竜が百騎程か……。戦いになったらまず間違いなく全滅だね」
ですよねー……。
皆それが分かっているのか絶望的な表情だ。
「駐屯地まで一日、王都まで戻るとして三日。
相手には騎竜もいるから逃げ切るのは難しいな。
……伝令を駐屯地と王都へ出し、救助を求める!
それまで王都へ撤退しつつ防衛に当たる!」
軍学校の教師陣もそれで納得したようだ。
普通軍学校の方が優先されそうだが、この世界では魔術師が上らしいな。
「キルシュ君は居るか? 君には王都への伝令に走ってもらう。
万が一に備えて多少護衛の騎馬もつける。
騎竜よりは遅いかもしれないが伏兵が居た場合に備えてだ」
騎竜は速い、無難な人選だろう。
俺が選ばれなかったのは魔物だけで伝令に行っても信用されない可能性があるからだ。
書簡等を持っていたとしてもだ。一刻でも速く伝えたい事も思慮されたのだろう。
だがキルシュは別の事を思ったようだ。
「それは僕の家柄を気にされてでしょうか? 僕は残って戦います!」
「そうではないよ。単純に能力の問題だ。それには君が一番の適任だよ」
「ではせめて駐屯地に。必ずや兵を率いて戻ってきます!」
キルシュは絵に書いたような真面目君だな。そして勇敢でもある。
「駐屯地には行けるかどうか分からない。そちらは教師陣の中から人選して向かう。
北西からアフュンフ軍が現れただろう。ならどこを通って現れたと思う?
それはライフィー共和国を通ってだろう。東の警戒を抜けてくるのはまずあり得ないよ。
だが北西なら別だ、ライフィーとは停戦条約も結んでいるから警戒も薄いだろうからね」
もしかしたらすでに駐屯地は戦闘状態にあるという事か。
「……分かりました。必ずや王都より救援を率いてきます!」
キルシュは足早にこの場を離れた。
「さて生徒諸君は荷物をすべて職員の手伝いの方に渡しなさい。
彼らは戦闘能力など無いただの運び手だからね。
荷物と共に先に出発させるよ」
王都まで三日、飲まず食わずは厳しいだろう。
何方にしろ守るべき物だからな。
「ならば俺達Aクラスが補給物資の護衛にあたろう」
そう言ったのはケーゼだ。
一番安全な場所を選んでいるか、もしくは逃げたいだけにしか思えない。
「……いいでしょう。ですが決して安全な場所では無いという事を忘れないでくださいね」
「公爵様の家柄なのに誰かとは大違いなんだよー」
「さすが……公爵様と言うべき……」
「死ねばいいのに」
辛辣な言葉が並べられるがケーゼは気にもしていない。
「後は誰か指揮するかですが……」
どうもレーレン先生は指揮をしないようだ。
「生徒達に難しい指示などしても無駄だ。
レーレン先生が初めの陣形を指示するくらいで後は成り行きに任せるしかないだろう」
「ベアイレ先生の言う通りかもしれませんね」
「殿、もしくは迎え撃つなら先頭は私が受け持つよ。
進軍と撤退の指示くらいならどの教師陣でも出来るだろう。
私が攻撃したら進軍、倒されたら撤退だ……簡単だろう?
レーレン先生は問題児達と補給物資の護衛に当たるのが良いでしょう」
なんというかベアイレ先生はシンプルだ。
きっとそれが速さに繋がるに違いない。
その速さが自信に繋がっているのか何時もより少しだけ不遜な感じだ。
そして教師達から生徒に現状置かれた状態を説明された。
「まさかそんな事が……」
「とにかく急いで逃げるしかないのか」
「俺達なんかで戦いなんて無理だよ!」
「本当に襲われるの……狙いは駐屯地じゃないの?」
生徒は口々に信じられないや無理だなどと言っている。
「例年ならもう一日ここに滞在する事になります。
相手がそれを知らないという事はまず無いでしょう。
君達生徒は未来の貴重な戦力です。
相手がその戦力を無視する事は無いでしょう。
敵は倒せる時に倒すものなのですから……」
敵……か。
俺はこの国の事すらよく知らない。
それが他の国の事となったらなおさらだ。
敵と言われても何の事やらだ。
人であった時の世界では分からない知らないと言えば簡単に逃げる事が出来た。
だがこの世界では逃げれない。
もう逃げれないのだ。




