第十八話 遠征2
遠征も三日目に入りもうすぐ目的地という所まで来ていた。
誰しもの顔に疲れが見え始め、足取りも重かった。
一応団体行動なので勝手に休憩なども取れず、着いて行くだけで精一杯の者も多かった。
そして休憩の号令がかかり、皆安堵の表情で休憩した。
「靴を脱いで足を見せなさい」
シャルが何かに気づきフォースさんに命令していた。
そう言えば足を引きずっていたかもしれない。
「いえ、問題ありません。休憩すれば大丈夫です」
「良いから足を見せる」
シャルが強引に靴を取るとフォースは苦悶の表情をした。
その足は靴擦れで赤く擦り切れており少し膿んでもいるようだ。
「少し沁みるかもしれないけど水で洗うわよ」
シャルが手から魔法で水をだし傷口を洗う。
フォースさんは痛いのか少し表情が歪んだ。
セカンドさんが綺麗な布を取り出し、それをフォースの足に巻いた。
「これで少しはマシでしょう。
あと荷物はアンタが持ちなさいね」
「了解!」
まったく人使いの荒い事で。
俺は荷物を足で器用に掴み宙へと浮き上がった。
結構何とかなるもんだな。
「……すいません」
「気にしないで、こいつが暇そうだったから丁度良いのよ」
フォースさんは謝っていた。
そしてシャルは何かこの遠征中、俺に対して厳しい気がする……。
◇◇◇
遠征目的地に何とか着くことが出来た。
見渡す限りの平原、何も無い所だ。
ここでなら多少魔法で荒らしても問題ないのであろう。
今日はこれで体を休め、明日からクラス対抗戦の模擬戦闘が始まる。
と言っても能力順でクラス分けされているので結果はほぼ見えている。
「もう一度足を見せて。
あとアンタはアレを出しなさい」
「……どうしても?」
「良いから出しなさいよ」
俺はマジックボックスから薬、緑色のジャムを取り出した。
余程の事が無い限り生徒自身が準備した物で遠征中は対応する事になっているのだ。
「それは高価な物ではないのですか?」
「友人から貰った物だから気にしないで」
シャルはそれをフォースさんの足に塗った。
「これ凄いですね、痛みが無くなってむしろ気持ち良いくらいです」
「そう、他にどこか変わった事は無いかしら?」
「はい? もう怪我はありませんが?」
「……その薬本当に効くんだな」
俺は半信半疑だった。
だってそれは……。
「え、これ薬じゃないんですか!?」
「確か初めに説明を受けた時は足が伸びるとか言ってた。
その後に改良したらしいけど!」
「なんて物を使うんですか!!!」
「道中で使って何かあったら大変だから到着してから使ったんだよね?」
「アンタにしては賢い考察ね」
「ねぇ俺大丈夫? 足とか伸びてない?」
「お、落ち着け! 足なら伸びても問題ないだろう!」
「みんな落ち着けよ……」
フォースさんが取り乱して大変だったな。
◇◇◇
翌日の朝、四日目に今回の遠征でのメイン種目が始まる。
クラス対抗、総当たり戦による模擬戦闘だ。
基本的に隊列を組んでの正面衝突で、今回は複雑な動きや陣形をする訳では無い。
一列が四つの小隊、計二十名でそれが五列。
横陣と呼ばれるがただ並んでいるだけだ。
百対百の大規模な戦闘になる。
小隊ごとの間隔は数メートル離れており、お互いの動きを邪魔しないようになっている。
だがそれ程離れているという訳では無く連携も取れる距離ではある。
あまり近すぎると魔法で一気に倒されてしまうからだ。
小隊の隊列は前に兵士四人が並びその後に魔術師が立のが基本だ。
ハンターポジションと呼ばれる。
魔術師を中心に四方を兵士が囲む隊列もある。
インペリアルでは無く……クロスポジションと呼ばれる。
ふと昔やったゲームの陣形が思い浮かび懐かしく感じた。
魔術師の位置、ポジションで名前が決まるようだ。
「安全第一! 怪我をしないようにしましょう。
あとアンタは高く飛び過ぎて味方の攻撃に当たらないようにね!」
「「「了解!」」」
相手はDクラス、魔術師としての差はそれ程無いはず相手だ。
軍学校の兵士達も実力で分けられているが魔術師よりは更に差が無いはずだ。
陣形はE、Dクラスどちらも同じただ並んでいるだけの物だ。
だが小隊の隊列が違った。
Dクラスはハンター、兵士が弓矢を放ちそれを魔術師が風の魔法などで強化する。
矢には矢じりが付いておらずただの棒だが当たれば痛いしそれで倒された事になる。
魔法は強力な物を使用する場合は盾を狙う事になっている。
盾が吹き飛ばされたり、魔法が体に当たったりした場合に倒された事になる。
Eクラスはクロス、魔術師を前と左右から盾で守り、後方の一名が頭上を守る。
魔法の差、兵士の力量の差があるで射程距離が違うのだ。
「氷でガードするわ!
でも魔法は防御に向かない、物理の方がどうしても堅いからね。
威力は落ちてるはずだから盾でしっかり守のよ。
氷の壁!」
「いや、シャルさんの魔法が凄すぎて盾まで相手の攻撃届いてませんよ!」
「矢じりが付いてないからかな?」
EクラスがDクラスに近づく頃には大半が疲弊し、幾人かはやられてしまっている。
そして次は射程の関係上、魔法で直接攻撃が飛んでくる。
魔法だけよりも物理と魔法が組み合わさった方が射程が長い。
基本的に物理+魔法>魔法>物理の順で射程が長い。
そして威力は魔法だけの方が強い事が多い。
魔法>物理+魔法>物理の順になる。
だが魔法は強すぎると自分自身も巻き込んでしまう為、接近戦だと物理が重要になる。
よって遠距離は物理+魔法、中距離が魔法、近距離は物理が基本となる。
そして今は中距離、魔法の攻撃による最大の激戦区だ。
しかも物理による弓矢の攻撃が止まる訳では無い。
この距離なら魔法の援護無しで届くからだ。
「魔法の防御はアンタに任せるわよ?
貴方達は隙をついて兵士達を吹っ飛ばしなさいよね!」
「了解、防御は任せとけ!」
「どうやって、兵士を吹っ飛ばすんだよ!
盾で守るので手一杯だって!」
「こうするのよ……氷の矢!!!」
シャルの魔術アイスアローが三本連続で相手の魔術師に命中した。
矢と言うよりは先端がとがっていないので棒だけどな。
相手は油断していた。
まだ魔法が届くとは思っていなかったのだ。
それどころか此方は防御に手一杯で魔法を使うとすら思わなかっただろう。
まぁそこは俺のアンチマジックフィールドが活躍したんだよ!!!
その為、相手の兵士達は盾を構えるのが遅れ魔術師が倒れた。
その隙に此方の兵士達が相手の兵を吹き飛ばした。
盾を構えたまま突っ込んだのだった。
遠距離であまり疲弊しなかったのが功を奏したのかもしれない。
そこで戦闘は終わりになる。
「すげー、俺達勝っちゃったよ!」
「まぁ損耗を考えると勝ちとは言えないけどな」
Eクラスはその大半が倒されていた。
対してDクラスは一列目の兵士が少倒された程度だった。
その後もCクラス、Bクラスとは同じ展開の戦いになった。
Eクラスのほとんどが倒され、シャルの小隊が突破するといったものだ。
そして問題のAクラスとの対戦が残った。
◇◇◇
「作戦を立てるわよ」
Eクラスの魔術師達が集まって話し合いを行う。
「それは勝ちに行くって事かい?」
「一方的に嬲られるというのは避けようって事よ」
「私が本気を出したら楽勝なんだよー」
「すぐ……降参しよう……」
クラスの大半は降参するのに賛成のようだった。
「降参しても攻撃はされるわよ。
だから少しだけ陣形を変えましょう」
「相手は陣形を変えないのに此方だけ変えるのは卑怯では無いかい?」
「相手は遠距離で攻撃するだけだもの。
陣形を変えないのではなくて変える必要が無いだけよ」
「……確かにそうかもしれないね。それで陣形はどうする?」
「魚鱗で行くわ。……発案者の私が先頭でね。
それなら皆文句も無いでしょう?」
「了解したよ」
「面白そうだねー、私も頑張るんだよー」
「分かった……頑張ってね……」
魚鱗というのは三角形の形をした陣形だ。
その先頭というのはもっとも危険な場所だろう。
「という事になったから、貴方達も頑張るのよ」
「Aクラスの攻撃を耐えるだけできついのに……」
「先頭とか耐えれる気がしないわ……」
「しかもシャルさんはこれまでの戦いで注目されてますからね。
きっと集中攻撃ですよ……」
「俺を相手に投げつけるのだけは勘弁な!」
Aクラスとの対戦が始まる。
陣形を変えてきた事に多少戸惑ったようだが彼方も作戦があったようだ。
シャルを狙うという作戦が。
そしてそれが先頭にいるのである、戸惑いはすぐに無くなったであろう。
「それじゃあ……行くわよ!
Eクラスらしく速さを活かしましょう!」
「「「了解!」」」
皆声を揃えて叫んだ。
そしてシャルの周りの声は今までよりも大きい。
気合で大きいのではなく、人数が多いのだ。
シャルの小隊には兵士が八人いた。
集中されるであろう攻撃を耐える為だ。
俺達は後続を引き剥がすかの勢いで進んでいた。
だがその前方に炎で出来た大きな壁が立ちふさがった。
それはシャルの小隊すべてを覆い隠すほどだ。
「何してるの! そのまま突っ込むわよ!」
「「「りょ、了解!」」」
俺達はその炎の中に飛び込んでいった。
そしてその炎から俺達は無傷で現れた。
その炎はショコラが放ったもので見かけ倒しの威力が全然ないものだったのだ。
Aクラスの者達は虚を突かれ驚く。
だがすぐに対応し俺達に魔法だけ攻撃してくる。
シャルの魔法が届く事を知っており兵士達は魔法に備え盾を構えていた。
そしてシャルの小隊はシャルと俺、セカンドとフィフスだけとなっていた。
ここまでの攻撃で皆倒されてしまっていたのだ。
後続もほとんどついてきていない。
魚鱗とか陣形とか意味など無かった。
「これ以上は進めないよ!」
「もう限界だ!」
「ここまでかよ!」
「無理です……」
「とにかく油断せずに守って!」
まずフィフスさんが倒れた。
体に矢が刺さってだ。
「クッ、大丈夫だ……よ。獣人族は頑丈だからね」
「なんで矢じりが付いてんだよ!」
「大丈夫か? 取り敢えず後方へ下がるんだ。
Aクラスの奴らふざけやがって!」
「まだよ! ……来るわ!!!」
シャルが何かを感じ取り叫ぶ。
風の魔法、いや魔術が俺達を襲う。
風の竜巻と呼ばれるものだ!
「あんなの防げるわけないだろ……」
「明らかに模擬戦闘の範疇を越えてるだろうが!」
「愚痴ってないで守るわよ……アイスウォール!」
シャルはこれまでで一番大きな氷の壁を出したがそれは簡単に吹き飛んでしまう。
俺はそのタイミングでアンチマジックフィールドを使用する。
タイミングを間違うとシャルの魔法まで中和してしまうからだ。
これまでで一番魔力を貯めて使用したがその全てを中和する事は出来なかった。
「グハッ!」
「はあああ!!!」
「キャッ!」
セカンドさん達は盾ごと吹き飛んでいた。
俺はシャルの盾になろうとしたがこの小さな体では全てを守り切れない。
俺自身は全く傷つかなかったがそれに何の意味もない。
シャルは腕に裂傷を負っていた。
シャルの顔が苦痛に歪……んではいなかった。
これは笑みだろうか?
口元は吊り上がり、笑っているのに怖い顔をしてる。
Aクラスの後方で人間が宙を舞っていたような気がした。
そこで模擬戦闘は終了した。
「キルシュの騎竜は凄いんだよー」
「やる時は……やるのね……」
皆が褒める中、シャルだけは違っていた。
「殺れって言ったのに……」
「いや流石にそれはまずいから!」
キルシュがシャルを宥めていた。
殺せってなんだ?
「でもまさかAクラスの人達があこまでするとは思わなかったんだよ。
それを知っていたらもう少し強く吹き飛ばしておいたよ。
シャルさんに怪我も負わせたようだしね!」
「それは……私が治した……」
キルシュが怒っているのは珍しいな。
そしてマルメラは戦闘ではあまり役に立たなかったが終わってからは頼りになった。
シャルはキルシュにだけ特別な作戦を伝えていた。
キルシュが使い魔に騎乗し、単独でAクラスを強襲するというものだ。
シャルの小隊に増えた兵士はキルシュの小隊の兵士達だった。
シャルが注目を浴び、キルシュが回り込むという作戦だった。
いや一つ間違った。
Aクラスを強襲するのではなく、ケーゼを殺れと言う物だった。
Aクラスの後方で宙を舞っていたのはケーゼだ。
「最近ケーゼが大人しかったからね。
絶対何かしてくると思ったの」
「もし何もしてこなかったら?」
「何方にしろ痛い目にあって貰う事に何の問題も無いでしょう?」
シャルの目が座ってる……。
これ以上突っ込むのはやめよう。
ちなみにフィフスさんの傷は緑のジャムで治した。
本人は相当に嫌がっていたが効き目は抜群だった。
……足は伸びてないからな?




