第二話 学園
今日は二話分更新予定です。
次は二十時になると思います。
俺はまた新しい環境に慣れなくてはいけなかった。
ここはアインツ王国魔術学園。
十歳から入学でき、五年制で優秀な魔術師を育てる学校らしい。
魔力を使用できる者は少なく、入学できただけでも優秀らしいが。
初めの二年間は初等部で一般常識と魔法を習い、後の三年間は高等部で軍事と魔術を習う。
一般常識とは読み書き算術、貴族の礼儀作法などの事だ。
軍事とは魔法を使えるものは戦争時に強制で兵として扱われる事があるので最低限の知識を覚えることになる。
魔法とは魔力の法則であり、魔術とは魔力を使う技術である……なるほど、わからん。
国中から魔法の才ある者が集まり、日々魔術の勉強をしている。
学費が高額であり、学生のほとんどが貴族である。
学生はすべて寮に住んでいるが格差があり、裕福な者は専属のメイドを連れている。
まぁ俺が通うわけではないのだがな。
そして俺は自分の現状もよく理解できないまま、あの可愛い女の子の寮の部屋へと運ばれていた。
「私の名前はシャル。
貴方は私の言う事が分かるのかしら?」
「ギャウギャウ!」
俺は分かるというアピールをしたが女の子、シャルは分かっていなさそうだ。
「召喚は失敗したと思ったんだけどね。
でも貴方が現れたし、契約もきちんと交わせた筈よ」
召喚する時と契約をする時、魔法陣が光を放つ。
だが俺の時は初め魔法陣が光らずに黒い闇のような物が地面に現れたらしい。
そして俺がそこから現れたと。
悪魔かなにかと初めは警戒されたらしい。
シャルがすぐに契約をし、通常通りに魔法陣が光ったので少し驚いていたが周りは安心したらしい。
――契約。
召喚もしくは捕えた魔物などを使い魔、従魔とすることだ。
契約すると使い魔は主人から力を分け与えられ、特殊な力が使えるようになる。
人間の言葉を話したり、念話で離れていても直接頭の中で会話できたりする。
また通常使えない魔術を使用出来るようになる事もあるらしい。
主人と使い魔の契約ではどちらか一方に不利益などは無いとされている。
お互いが分かり合うことでより強力な力を使えるとされている。
良い事だらけに見えるが、分かり合えずに魔物に殺されることもある(逆もあるが)。
そもそも契約自体ができない事の方が多いらしい。
「んー、言葉を話せないしテレパシーも無理そうね。
何となく私の言っている事は分かってはいるようだけど」
「ギャウギャウ!」
俺は相槌を打つくらいしかできない。
「確か分かり合う事が大切って習ったわ。
取り敢えず、私の自己紹介をするわね」
寮の部屋にある椅子にシャルロットは座り、俺は机に乗せられた。
ちなみに俺の体は生まれた時からまったく大きくなっていない。
あの大きな両親を見ると少しだけ不安になるな。
「私は普人族で……一応貴族よ。
父と母、上に二人の兄と下に一人妹がいるわ。
あまり仲の良い家族とは言えないけどね。
初等部の一年で年は十歳。
魔法は使えるけど対したことはないわ、一般魔法で生活の役に立つくらいね。
一応、属性は氷だけど今は何も使えないわ。
武術も全然ね、多少体力に自信がある程度よ。
貴方のようなドラゴンを召喚できたのが自分でも信じられないわね。
一応適性があるかもって、学生全員がダメ元でやる召喚だったからね」
普人族……まぁ元の世界でいう人間の事だろう。
ドラゴンがいるのだからエルフとか獣人とかいるのかもしれない。
そしてシャルはそれほど優秀というわけではないようだ。
まぁ俺も優秀ではないのだから人のことは言えないのだが。
「次はあなたの番ね。
貴方は飛竜なのかしら?
もし空を飛べるなら物凄く高く売れるわ!」
まただ、俺は売られちゃうのか?
こういう主人と使い魔って死ぬまで運命を共にするものじゃないのだろうか。
それともお金に困っているのだろうか……貴族なのに。
「まぁ今すぐって訳じゃないし。
貴方はまだ子供のようだから今後に期待するとしましょう。
まずは貴方の名前を決めましょうか?」
そうだな、俺は名前がまだ無かった。
ドラゴンの両親はなぜか名前を付けなかった。
人であった時の名前は覚えているが心機一転、別の名前でもいいだろう……前の名前を伝えれないし。
「犬、猫、コボルト……ゴブリン。
黒いからクロとかかな。
どんな名前が良いかしら?」
俺はどの名前も嫌だというのを必死でアピールした!
「んー、貴方は男の子? 女の子? そもそも性別とかあるのかしら」
俺はここで少し考えた。
ここは女の子と答えた方が良いのではないだろうかと。
その方が通常男では行けないような所や寝る時なんかも密着できるのではないかと!
「女の子なのかしら? んーどうしようかなー」
女の子として伝わったらしい。
ここで俺は冷静になった。
人では無いのだから、性別とか関係無いだろうと。
ペットの性別がどうこうで対応を変える人はあんまりいないなと……。
だがいまさら変えることはできない。
せめてあまりにも女の子らしい名前で無いことを祈ろう。
「貴方の名前は……ファーストでいいかしら?」
なんか適当な名前だけど、まぁ良いんじゃないだろうか。
「ギャウギャウ!」
俺は肯定の意志を示してみる、伝わるかは分からない。
「これから宜しくね!」
「ギャウギャウ!」
そしてシャルはベッドに仰向けに寝転がり、俺を両手で高く持ち上げ……。
「ぎゃうぎゃう? ぎゃうーーー」
ドラゴンの鳴きまねだろうか満面の笑みで話しかけてきた。
猫にニャーニャー話しかけるアレである。
ちょっとバカっぽいがそれはとても微笑ましかった。
可愛いなもう!
俺にはここから去るという選択肢もあった。
だが元の世界に戻る方法どころかドラゴンの両親がどこにいるかもわからない。
元の世界に戻る方法があったとしてもこの姿をどうにかしないといけないだろう。
一人で生きていく自信もなかった。
そしてここにいても良いかなとも思えていた……理由は良いものではないかもしれないが。
言い訳をしたいわけじゃないのだが……俺は大人な女性が好きだった。
だが……幼い子も結構好きなようだ。
ドラゴンだからきっとセーフだろう。
お互いに(・・・・)不純な動機かもしれないが、俺とシャルの生活が始まった。