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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第十七話 遠征


 二年の授業では魔術をどのような状況で使用するかという事が主になっていた。

 迷宮に続き今回は遠征である。

 生徒は皆、遠足と言っているが。


「えー、今回の遠征はライフィー共和国の国境付近で行います。

 国境付近と言っても遠征場所との間にはアインツ王国の駐屯地があるので特に危険はありません。

 ライフィー共和国とは停戦条約も結んでいますしね」


 ベアイレ先生はこんな事を言っているが全然安全ではない。

 ほんの数年前まで戦争をしていたし、ライフィーと言えば誘拐事件の時のあの国だ。

 関係ないかもしれないが不安にしか思えない。


「遠征と言っても行軍と簡単な小隊の指揮をして貰うだけです。

 内容は授業ですでに教えているのでその通りにすれば問題ありません。

 今回は小隊での行動という事で食料、その他必要な装備は各自で持って行く事になります。

 必要な物は学園ですでに準備してあるので出発前に各自持って行ってください。

 期間は七日間の予定ですが良く考えて準備するように。

 不足な物があった場合でも現地で職員から支給します。

 ですがあまりに酷い場合は別途補習を行う事になりますので気を付けるように!」


 迷宮の攻略だけでなくこの遠征を見越しての収納(アイテムボックス)の習得だったのか。

 あんまり入れれないけどな。


「軍学校との合同の遠征になる為、小隊の人員は其方の方々と組む事になります。

 兵士の見習いとは言え君達もまだ魔術師として一人前とは言えません。

 平民の方が多いですが見下すような事が無いように!」


 小隊は基本的に魔術師一名と兵士四名の計五名体制になる。

 魔術師は家系にもよるがおよそ千人に一人の割合で生まれると言われている。

 その為、兵士は魔術師の壁となる事が求められている。

 そう言った事も見下す原因になっているのかもしれない。


「それでは迅速に小隊を組み、必要な物を各自準備するように。

 速さこそが大切ですよ!」


 今回の遠征は二年生のみだがAからEクラスまで各二十名の計百名程になる。

 魔術師が百名、兵士は四百名になるのか。

 あとは職員の手伝いなどの兵士もいる為、合計で六百人程になるのかな。

 資材等運ぶのに馬や従魔などもいる。

 まさに遠征と言う感じだ。




◇◇◇




「Eクラスのシャル? っていうのは居るかー?」


 兵士、シャルと行動を共にする小隊の代表だろうか?

 一人の男……男の子と言った方がいいのだろう。

 シャルと同年代っぽいしな。


「私がシャルよ。

 貴方が小隊の代表さん?」

「そうだ、取り敢えず他の者達の所へ行くぞ」


 あれ、魔術師が指揮とるんじゃないのか?

 ちょっと偉そうだぞこいつ。

 シャルと同じ貴族なのだろうか?


「俺を含めたこの四人が小隊だ。

 まぁまずは名前でも言おうか。

 お前の名前はシャルと言うのは皆知っている。

 俺の名は……」

「ああ、そういうのは良いわ。

 覚える気ないし、適当に呼ぶから」

「え!?」


 うわー、シャルさんちょっとご機嫌ななめだよ。

 小隊の代表も驚いてるわ。


「ぼ、僕を馬鹿にしているのか!?」

「いえ、誰でも同じ関係ないわよ」


 なんか一人称が安定してない。

 動揺しているのかこっちが素なのか。


「一応名前くらい知っておかないとこの先行動しづらいと思うのですが……」


 別の小隊員が話す。

 此方は一応下出に出ている感じだな。

 小隊員はすべてシャルと同年代の男の子だな。


「はぁ……貴方からセカンド、サード、フォース、フィフスね」


 うあ、適当だ。

 俺の名前ってもしかしてめっちゃ適当だったんじゃ……。


「な、そんなの認められるかよ!」

「あんまり五月蠅いと……ドラゴンの餌にするわよ」

「はっ!?」


 俺は今まで空気だったらしい。

 俺と言うドラゴンに気づいてからは態度が一変した。


「わ、わかったよ」


 小隊の代表、セカンドさんは肯定の台詞を言った。


「ごめんね、初めての代表でこいつ舞い上がっちゃってさ」


 サードさんがフォローする。


「そうそう、貴族なんかに見下されてたまるか―ってね」


 フォースさんがおどけて見せる。


「魔術師を怒らせたらどうなるかって考えないのかな……」


 フィフスさんが呆れていた。

 今気づいたがフィフスさんは獣人族みたいだ。

 なんかモフモフな耳と尻尾があった。

 その他の人間は皆……普人族だな。


「分かれば良いのよ。まぁ宜しくね」

「宜しくお願いします!」

「よろぎゃうー!」

「ドラゴンがしゃべった!?」


 こんな感じで小隊の紹介は終わった。




◇◇◇




「野営の道具まで各自でなんだな……」


 セカンドさんがぼやいていた。

 野営の道具、食糧、そして武器防具である。

 それはかなりの量になってしまう。

 俺のマジックボックスは非常食と医療品で一杯だった。

 特に水が大きな割合を占める。


 魔法で水を出す事も出来るがそれは一時しのぎに過ぎない。

 魔法の効果が無くなれば消えてしまうからだ。

 それは食糧としては使えないという事だ。


「食料は多めに持って行くわよ。

 私の使い魔は大食漢なの」


 俺はそんなに食べないぞ!

 ……多めに持って行って余ったら売るつもりじゃないだろうな。


「あと水は食糧の分だけ最低限で良いわ。

 生活用水は私が魔法で出すから安心して」

「え!? 僕達の分も出してくれるの?」


 完全に初めとはキャラの変わったセカンドさんが聞き返してきた。


「そうよ、私は氷属性だから必要な時はいくらでも言って良いわ」

「いやそういう事じゃなくて、貴族って普通そんな事しないから。

 シャルさんは貴族ではないのでしょうか?」


 フィフスさんが信じられないという顔をしている。

 

「一応貴族よ。

 あとシャルと呼び捨てで良いし、そんな畏まった言い方しなくて良いから」

「変わってるねー」


 サードさんがそう言った。


「準備は出来たかしら?

 ……それで私が持つ分はどれ?」

「シャルさんも運ぶの!?」


 フォースさんが驚いていた。


「シャルは力持ちだから大丈夫だよ!」

「そしてドラゴンは何も持たないのかよ!」

「なんか苛めてるみたいになるから持たせないのよ……」


 セカンドさんが冷静に突っ込み、シャルが理由を言う。

 俺の体は小さいからなそういう風に見えるかもしれない。

 そして本当は俺に持たせたいのか……容赦ないな。




◇◇◇




「お前達の盾って重そうだな!」


 遠征地までの道中、彼ら兵士見習いは食糧等以外にも武器防具を持ち歩いていた。

 道中は当然徒歩だ、大変である。

 俺は特に何も持っておらず暇なのでなんとなく聞いてしまった。


「これは俺達の実習課題みたいなもんだよ。

 本来はこれに槍や弓矢なんかも持たないといけないんだ。

 まだ見習いだからこれでも楽な方なんだよ」


 セカンドさんが背負っている荷物を軽く持ち直しながらそう言った。

 盾以外には剣も持っていた……やっぱり大変そうだな。


「それにシャルさんが荷物を持ってくれたおかげで本当に助かっています」


 フィフスさんが本当に嬉しそうにそう言っている。

 尻尾をフリフリさせてるからな。


「これは訓練なのよ。

 ここでサボっても良い事なんて何もないわ」


 まったくもって優等生な回答である。


「それに優秀な奴や金持ちの奴は他に自前の武器なんかも持って来てるな。

 俺達はシャルさん達でいうEクラスみたいなもんだし、平民だからな。

 軍学校の備品である盾と剣くらいしか持ってきてないよ」


 サードさんが盾と剣を見せながらそう言った。


「そういえばシャルさんの剣は変わっていますね?

 まるで木刀みたいだ」


 フォースさんがシャルの持っていた変わった剣を見ながらそう言っていた。


「ん、これ? 貴方達と一緒よ。

 学園で使っている訓練用の木刀よ。

 剣なんて買うお金持ってないもの」


 シャルは他には防具も無い。

 いつもの学園の制服である。

 遠征地に着いたら訓練の模擬線みたいなのがあったと思うのだが。


「え……そんなので大丈夫なんですか……」

「貴族と言っても貧乏なんですね……」

「俺達と同じだなぁ……」

「す、すいません! 聞いちゃいけない事でした……」


 口々にそう言っていった。

 ちょっと申し訳なさそうに。

 結構実戦的な事をすると聞いていたが魔術師だし大丈夫だろう。




◇◇◇




「ドラゴンさん食事を作るので火をお願いします」

「おう、まかせとけ!」


 俺は役に立つ事が今まであまりなかった。

 今ちょっと輝いているかもしれない。


「どう? まだ点ける? まだまだいけるでー!」

「いや、もう良いですから……」


 若干邪魔にされているような気もするが。

 そして道中何もしていなかった俺に試練が与えられた。


「肉しか……無いだと……」

「ドラゴンって肉を食べるんじゃ?」


 この使えない兵士共め!

 ん、シャルの目が怪しく光っている。

 こ、こいつ知っててそのままにしやがったな。


「遠征中……俺は断食するわ!

 ドラゴンに不可能は無い!」

「倒れちゃっても知らないんだから……」


 大丈夫、水さえ飲めば何とかなる……きっと。

 そしてなるべく寝て過ごそう。

 そうすれば消耗を抑えられるはずだ!

 だがそれも上手くは行かなかった。


「その……本当にシャルさんと一緒に寝るんですか?」

「私だけ外で寝ろって言うの?」

「いや俺達が外なのかなぁって……」


 フィフスさんが気を使っていた。

 野営時のテントが一つしか無い。

 これはシャルの指示でそうなっていた。

 普通はこんな事しない。

 二つ持ってくるか、兵士は無しだ。


「襲われちゃったりしたらどうするんですか!?」

「襲うの?」

「いえいえ、そんな事しませんけど!」

「んー……夜通しアンタが見張ってればいいわね」


 シャルさんは俺をご指名である。

 言われなくても見張るけどさ!!!

 こうして俺の計画? はご破算となった。

 そして一番きつかったのは俺ではなかったようだ。


「なぁ……眠れたか?」

「無理だよ。あんな可愛い吐息とか聞いたらもうね……」

「だよな。俺隣だったし寝返りとか打たれたら……」

「僕は獣人族なんだよ? なんで男ばっかりの中であんな良い匂いするの……」


 皆一様に寝不足だった。


「ちゃんと寝なかったの?

 そんなんでこの先大丈夫なのかしら?」


 知らぬは本人ばかりである……。




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