閑話 ご主人様は真っ黒10
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
俺は犯されていた。
他ならぬ、シャルに。
人の姿を手に入れた代償はシャルが払っていた。
そしてシャルが無償で肩代わりする訳が無い。
その取立ては想像を絶していた。
◇◇◇
始めは人の姿に戻り、その今ではもう忘れてしまっていた感覚に戸惑っていた。
慣れようにも慣れない。
その感覚は徐々に強くなっていくのだから。
シャルは一つ一つ確認する様に俺を嬲る。
抵抗しようとすれば出来たのかもしれない。
でも目の前の存在が恐ろしく、また愛おしかった。
俺は受け入れるしかなかった。
◇◇◇
次第に何も考えられなくなり、頭の中が真っ白になる。
いや、真っ黒と言った方が良い。
ただその黒い欲望に流されるだけだのだから。
ただなされるがまま、でも体は反応を続ける。
無限とも思える時間、それは続いた。
でも永遠に続く訳でも無い。
俺は終わりが近づくのを感じていた。
シャルは人間らしさを取り戻していた。
だがその行動は変わらない。
その姿が徐々に人間に戻っていたのだ。
体の一部、手や足と言った部分ごとでは無い。
指の第一関節と第二関節の間。
足の膝半分。
頬の一部。
本当に体の小さな小さな一部分が人間へと戻り始めていた。
その姿はドラゴンよりも異形だった。
それに呼応するように俺の体も少しずつドラゴンへと変化する。
シャルとは正反対の変化だ。
二つの異形が交じり合う様は醜かったかもしれない。
でも人とドラゴンが交じり合うよりずっと自然で一体感があった。
それが一つの存在と言って良い程に。
◇◇◇
主導権はいつの間にかシャルから俺へと移っていた。
いつもの行為と変わらない物へと。
ドラゴンの雄叫びが今は可愛らしい声へと変わっている。
意味不明の音だった物が意味のある言葉へと変わる。
「……おかえり、ファースト」
「……ただいま、シャル!」
求めた物とは違った結果だった。
でもそんな事は関係ない。
俺は満たされていた。
そしてきっとシャルも。
……俺がシャルに影響を与える事無く、人へと擬態出来ると分かるまでは。
魔力の遮断は俺の得意とする事だったのにどうして気付かなかったのか。
「馬鹿! もう本当に馬鹿なんだから!」
「言い訳のしようもありません」
シャルは怒り、いつもの様に殴られる。
でもそれは全く痛くなかった。
今はもう人の姿でドラゴンでは無いのに……だ。
まるで妹のクラハの様にポカポカと殴るシャルは本当に可愛かった。
きれいなシャル。
いや、これでは前までのシャルが汚いと誤解を受けそうだな。
ホワイトなシャル。
前はブラックだった……。
こういった方が良いかもしれないな。
「でもファーストの気持ちが少し分かったから良かったかも。
……あー、あと人になったからって逃げちゃ駄目だからね!」
「何から逃げるって言うんだよ。
俺はずっとシャルと一緒だから」
「一緒だけじゃ駄目。
ファーストは私の物なんだから!」
シャルはそう言って俺にリボンを結ぶ。
……これは恥ずかしい。
全然似あってないし、俺は男だし。
でも外す事は出来なかった。
シャルは俺を繋ぎとめる。
解けても、千切れても、無くなったとしても。
シャルあっての俺だから。
その逆も同じ事。
白一色だけでは何も描けない。
それを縁取る黒が必要だ。
真っ白なご主人様は真っ黒な使い魔が守るモノだから。
次の更新は少し時間が空くと思います。