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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百四十七話 完璧なる半端モノ3


 シャルの話はずっと続く。

 既に俺が迷宮に籠り、七日が経とうとしていた頃の話だ。


 アインツ王国魔術学園の一室では国中の重役達が集まっていた。

 勿論、王である陛下その人もだ。

 ……まぁ、ただの友人だけどな。


 だがその場を仕切っていたのは陛下では無く、一介の兵士だった。


「メガネ、説明して」


 しかも重役と言える人物を召使いの様に使う。


「……不本意ながら私の方から説明させて頂きます。

 今回集まって頂いた理由はもうご存知かもしれません。

 ですが、改めて確認いたします。

 全ては迷宮攻略の為です」

「そんな事の為に陛下のご予定を変更してまで集まる必要があったのか?」


 ここに集まっているのはシャルの知り合いだけでは無い。

 国の重役、つまり貴族達も集まっていた。

 その一人から今回の件の重要性が問われる。


「迷宮攻略は陛下の許しも得て、既に決まった事です。

 ですが、その重要性、緊急性を説明しましょう。

 ……迷宮の主が復活祭の終わりに合わせ、出現する可能性があります」

「……迷宮の主?

 そんな物の存在、聞いた事が無い!

 しかも迷宮のどこに現れると言うのだ?

 全てが本当の事としてそれの討伐が目的と言うのなら確かな情報があるのであろう?」


 取ってつけた理由だからな。

 辻褄が合わない事や情報の不確かさはどうしても出てしまう。


「迷宮の主、つまり最下層に居ると言われるボスの存在を聞いた事は無いでしょうか?」

「……噂やお伽話の様な話ならある。

 最下層には地上と見まがう空間があり、そこにはドラゴンが居ると言う噂をな」


 この手の噂は大抵想像の産物だ。

 そしてそれはどれも似たり寄ったりの物で大抵は最強の生物、ドラゴンがボスとして存在する。

 ……あってるな。

 噂も馬鹿に出来ない物だ。


「この者はそのドラゴンを使い魔にしていました。

 正確には主の子、と言う事になります」

「それは噂では無く、本当の事であると知っている。

 ただその使い魔のドラゴンが迷宮の主とやらと関係しているかどうかは証明できんだろう」

「ドラゴン自身に説明させたい所ですが、今はこの場に居ません。

 ……迷宮へと帰っているのです。

 その目的はドラゴンとしての力を開花させるため。

 次に現れる時は子では無く、主そのものに成長しているでしょう。

 そして子では無く、大人となったドラゴンが人に使われるでしょうか?

 逆に支配しようとするかもしれません。

 その為の対策を立てようと言うのが集まって貰った理由です」

「全てが憶測で証拠が無い。

 その者の言う事を全て信じよと言うのか?」

「僕は信じているけど?」

「……陛下、お戯れを。

 いくら陛下の友人とは言え、何の証拠も無く信じる事は出来ません」


 王が国を治めているとは言え、全てを独断で決められる訳では無い。

 行動する為には何かしらの証拠や根拠が必要だった。


「証拠はありませんが、根拠や事実はあります。

 ここに集まっている方々なら公にはなっていない重要機密もご存知でしょう?」


 メガネは重役達を本気で説得する様だ。


「陛下が信じると言った理由はそこにあります。

 陛下は皆様方と違い、その目で見られているのですから。

 ……まだ陛下が学生であられた頃、エルフとの一件を御存じでしょう」

「エルフの至宝が使用され、それをドラゴンが防いだと言う話か?

 あれは至宝本来の力を使用しなかったと聞いている」

「本来の力では無くとも十等級の一撃を防げるモノなど存在するのでしょうか?」

「むぅ……」


 あれは本気でビビった。

 でも体が勝手に動いていたから恐怖はそれ程感じなかったな。


「隣国ハトノでは勇者様に剣を贈っています。

 それは迷宮で手に入れた物です」


 贈っていない、貸しただけだ。


「国宝級の剣だと聞いている。

 馬鹿げた威力の剣らしいがそんな物を隣国に渡すなど信じられなかった。

 偽物かと思っていたが……迷宮から手に入れたか……」


 貴族は少しずつ信じ始めている様だ。


「そしてベンア竜帝国より飛竜を二匹借り受けました。

 これはこの者の功績が大きく、またその理由は使い魔であるドラゴンにあります。

 そのドラゴン無くしては不可能な事でした」

「ただの飛竜ではいくら使い魔とは言え交渉など出来んか……。

 その実績からもこの者を信じる意味はあるか……」


 この貴族だけで無く、ここに集まった者全てがシャルの事を信じ始めていた。


「信じて頂けたようですね。

 ……それでは本題に入ります。

 迷宮攻略ですが、上手く行けばドラゴンが自ら迷宮から現れます。

 そしてまたこの者、シャル君に仕える事になるでしょう」


 上手く行くに決まっている。

 ただどうしても不安を感じるのは仕方のない事か。


「ここからが本題です。

 もし万が一、迷宮から現れたドラゴンが暴れ出した時は……討伐します。

 ですが……国を挙げての作戦行動になりますが、討伐は難しいでしょう」

「いくらドラゴンとは言え、倒せぬ事はあるまい。

 被害は覚悟せねばならぬだろうが」

「十等級の攻撃を防ぐ存在です。

 如何なる攻撃も足止め程度にしかならないでしょう。

 唯一有効なドラゴンスレイヤーですが、空を飛ぶモノには届きません。

 騎士団長と新たな竜騎士達に期待するしかありません」

「その時は私が全力で相手をしよう。

 ……ただ私では勝てないとだけは言って置く」

「騎士団長がその様な弱気な発言をするなど……」

「気分の問題では無い。

 本当に勝てないのだよ。

 無抵抗で降伏した方がまだ良いかもしれないよ?」


 騎士団長はこんな時も冗談の様な話し方だ。

 その話を信じる者は少なかった。


「また迷宮より現れない可能性もあります。

 その場合は迷宮攻略を進めます」

「悪戯に刺激せぬ方が良いかもしれぬぞ?」

「問題を先送りしても仕方ありません。

 ずっと国内に不安要素を残しておくのでしょうか?

 準備もせずに対応する事に比べればすぐにでも攻略を始めた方が幾分良いと言えます」

「そうかもしれぬが……」


 ここは少し強引に説き伏せた。

 アインツは何方かと言うと守りに入る事が多いからな。

 現に迷宮からモンスターが溢れだした時は周りを見張ると言う消極的な方法を取ったのだから。


「僕はもうこの作戦の進行を命じた。

 それに全ては万が一の為の対策だ。

 僕はドラゴンと話をした事もあるが、きっと何事も無かったように元通りの生活を送ると思うよ?

 ドラゴンの主人は君の奥方より怖いからね!」

「陛下、その話はご勘弁を!」


 キルシュはシャル達だけでなく、他の貴族とも交流を深めている様だ。

 一国の王としての立場もあるのだろう。


 どうにかこうにかシャルの思惑通り、迷宮攻略は決定された。

 キルシュの言葉で。

 その後、キルシュがドラゴンの主人による恐怖を再度確認する事になったらしいが詳しくは聞けなかった。


 ……マジで怖いから。




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