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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百四十六話 完璧なる半端モノ2


 シャルの話は続く。

 それは二日目に行われた事だ。


 シャルは思い立ったらすぐに行動する。

 それは迅速で……強引だった。


「……襲撃だ! 陛下を守れ!」


 復活祭の間、アインツ王国の王族は国内の様々な場所を回る。

 まだ裁きの日の傷跡が残る国内で国民達に安心感を与える為に。

 ……ただの好感度稼ぎだが。


 その道中でまだ王になって日の浅い、キルシュ・アインツは襲撃を受けていた。


「一体どこの手の者だ!

 捕まえて必ずその目的と存在を明らかにしろ!」


 護衛の兵士や共に各地を回っていた貴族達が叫んでいたようだが、どうでも良い事だった。

 そしてキルシュを取り囲む者達に報告が入る。


「襲撃者は一名。

 その者は我がアインツ王国の紋章を偽った盾を堂々と掲げているようです。

 ……来ました!」

「全員、攻撃に備えろ!

 陛下には傷一つ付けさせてはならん!」


 襲撃者は護衛の兵士などものともしない。

 ただ真っ直ぐにキルシュの元へと進んでいく。

 そして何事も無かったかのように陛下の前へと歩み寄り言い放つ。


「キルシュ。

 先代から頂いた盾は何の役にも立たないわ。

 もっと良いのを頂戴」

「はぁ……僕の首が欲しいなんて言わないよね?

 兵士や貴族達が怯えているし、まずはお茶でもどうかな」

「頂くわ。

 でもその前に軍の主要人物を集めてくれない?

 ちょっと手伝って欲しい事があるのよ」

「ははは、一国の王を狙った襲撃者が現れたんだよ?

 僕が何もせずとも集まってくるから安心して欲しい」


 キルシュの立ち振る舞いから取り敢えず危険は無いと周りは判断したようだ。


「……陛下、この者は一体?」


 護衛の兵士の一人がキルシュに質問をする。


「友人だよ。

 先代の陛下も認めた者さ。

 あの盾は偽りなくアインツ王国の紋章だからね」

「し、失礼しました!」


 こんな強引な方法で会いに来る奴はまともじゃないからな。

 兵士達の対応も致し方ない。

 シャルは普通なら捕えられるのが妥当なのだから。


「それで……どうして僕に会いに来たのかな?

 説明はしてくれるよね?」

「ええ、勿論よ」


 シャルの目的は簡単な事だ。

 キルシュの、アインツ王国の力を借りに来た。

 ……迷宮を攻略する為に。


「学園の迷宮を攻略する。

 迷宮の深遠、最下層に行きたいの」


 シャルは今まで誰一人として辿りついた者は居ない……迷宮の最下層へと行くつもりだった。




◇◇◇




 次にシャルは魔術学園へと足を運んでいた。


「はぁ……久しぶりにシャル君に会えて嬉しいと思ったのですが……。

 生徒達を迷宮から遠ざけろ? ……と。

 生徒達の楽しみを奪うのは本意では無いのですが仕方ありませんね」


 レーレン先生に迷宮攻略の邪魔にならないよう生徒達の誘導をお願いする為だ。


「すぐにでも国から同じ通達が来るはずです。

 申し訳ありませんが協力をお願いします」

「はぁ……シャルはいつも……」


 レーレン先生の傍ではマルメラも話を聞いていた。


「でも助かりました。

 マルメラ君の実験に付き合う事が出来なくなりましたから」

「手が伸びる薬……まずは手を切り落とす……」


 ここでは恐ろしげな実験が繰り返されている様だ。

 ……レーレン先生は不死身なのかもしれない。


「……マルメラにはまともな薬を大量に用意して欲しいわ」


 シャルの要望は聞き入れられたが……用意された薬を使うには勇気が必要だろう。




◇◇◇




「私は息子との時間を大切にしているのだよ……」

「騎士団長!

 いい加減、子離れして下さい!

 もうブリッツ君は成人しているのですから」


 騎士団長は副団長に引っ張られてキルシュの元へと来ていた。


「はぁ……やっぱりシャル君か。

 ブリッツの飛竜の件ではとても感謝しているが復活祭の間くらい大人しく出来ないかい?」

「騎士団長、この件が片付きましたら好きなだけブリッツと一緒に過ごせば良いでしょう。

 その為の時間を作る手助けはしたはずです」

「いや、まぁ、そうなんだけどね。

 シュトゥルム君も居るお陰で私の自由になる時間はだいぶ増えたし」

「……私の時間は減りました。

 復活祭の間さえ騎士団長達の行動を調整する為にどれだけ苦労している事か……」


 副団長……メガネは新しい飛竜、竜騎士達を含めて面倒を見ている様だ。


「メガネは文句を言う暇があったらさっさと騎士団員を招集しなさいよね」

「まずは事情と状況の確認が必要だ。

 はぁ……やっとシャル君から離れられたと思ったのですがね」

「いいから招集を先にして!」

「それは既にブリレが行っている。

 陛下に無理矢理に会いに来るほどだ。

 ただ事では無いと思ってね」


 女メガネは既に動いていた。

 メガネは行動が早くて助かるな。




◇◇◇




「はぁ……儂は商売に忙しいのじゃがの」


 復活祭でも商売人は休まない。

 むしろ働いてこそ、商売人と言えるだろう。


「アードラー、その商売の話をしたいのよ」

「それなら歓迎じゃて」


 そしてアードラーだけでなくその息子達にこの場に顔を出していた。


「はぁ……頭取の命令とは言え、復活祭の間くらいはゆっくりしたいのですが……」


 キューケンはまだまだ商売人としては二流かもしれない。


「頭取も老いたのですね。

 はぁ……復活祭に家族と会いたいなど凡人の考えです」


 オイルはキューケンよりは商売人として上かもしれない。


「儂はお前らの顔など見なくても良いのじゃが……商売の為じゃ。

 しっかり働くのじゃぞ」


 アードラーはシャルに呼び出された時点で既に商売の匂いを感じていたのかもしれない。


「苦労に見合うだけの報酬は約束するわ」


 ただシャルの話は……物凄く苦労する事が多いけどな。




◇◇◇




 そして次に現れたのは……なんでこいつを呼んだんだ?


「Bランク冒険者、ゲファール様の力を借りたいとはどんな一大事なんだ?」


 ちっ、ランクが戻ってやがる。

 どうでも良いけど。


「アンタは呼んでないわよ。

 ギルドマスターに声を掛けたんだけど?」

「マスターは大急ぎで冒険者達をかき集めてる最中だ」


 ギルドマスターの代理で来たと言う事だった。

 ゲファールも偉くなったもんだな。

 ギルドの職員で良いと思うがシャルと縁? のある者を選んだのかもしれない。


「ギルドマスターに話が通じているならそれで良いわ」

「はぁ……まったく、久しぶりにあったと言うのに釣れない奴だぜ。

 そんなんだから未だに良い男一つ捕まえられないんだろ?」


 それは今、絶対に言ってはいけない事だった。


「うっさい!」

「ぐふっ!」


 シャルの重い一撃がゲファールの腹に刺さる。

 古代竜さえ痛みを感じる強烈な一撃が。

 迷宮の攻略が始まる前から脱落者が出てしまう。

 それ程までに危険な? 試みが始まろうとしていた。




◇◇◇




「貴方が私達の力を借りたいと言うとは思っていませんでした」

「私は神を信じていない。

 でも利用出来る物は何でも利用する。

 それだけの事よ」

「はぁ……悔い改めたのかと少しだけ期待したのですが……」


 最後に現れたのは教会の枢機卿ザフィーアだった。


「私は信じていないだけで否定はしていないわよ?」

「否定しても良いので信じて欲しいのですよ」

「ザフィーアとは考え方が違うの」

「分かり合えないとは悲しい事です。

 ですが……まずは自分から歩み寄る事が大切だと私は思います。

 教会は来る者を拒みません。

 力を貸す事を約束しましょう」

「ありがと。

 寄付は期待して良いわよ」

「言葉だけで良いのです。

 でも最後の言葉こそが貴方らしいのでしょうね」


 シャルは力を借りるどの者達にも報酬を約束していた。

 あのシャルがお金をケチらない。

 この事こそが今回の件の重大性を皆に伝えていた。

 ……殴られた。酷い。


 皆は様々な考えをしていたのかもしれない。

 皆が一様に同じ思いを感じていた。

 そしてそれはすべて同じ行動から感じる事が出来る。


「はぁ……」


 厄介な事になる。

 それを察した為のため息だけは共通していたのだから。




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