閑話 ご主人様は真っ黒8
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
シャルは傷ついていた。
ラヴィーネとの戦いで全身に斬り傷や火傷、凍傷の様な物まで負っていた。
そんなシャルの世話は俺自身がしていた。
他人には任せられない。
特にベンア竜帝国の者には。
まだ完全に信用した訳では無いからだ。
……特にあのベーゼとかいう奴は注意しなければならない。
だがそんな俺の不安は今の所まったく当たっていない。
「ファースト……ありがと……」
シャルは事あるごとに感謝の言葉を言っていた。
……本当になれない事だ。
シャルは体の傷よりも心の傷の方が大きい事が分かってしまう。
「大丈夫、俺がずっと一緒に居るから」
俺は言葉だけで無く、本当に四六時中シャルと一緒に居た。
シャルは俺の姿が見えなくなると不安になるようだ。
……幼い子供の様に。
でもその理由は子供とは少し違う。
俺がラヴィーネの元へと行かないか心配なだけだろう。
そしてその行動も子供とは違う。
事あるごとに俺に抱き付き、大人の行為に誘ってくる。
「……傷に障る。
今は傷を治す事を優先しような?」
「でも……」
「大丈夫だから、こんな傷すぐに治るさ!」
冗談では無く、本当に傷に障る。
俺達の行為はどうしても体に酷く負担が掛かってしまうから。
普通では無い、間違った行いだからだろうか?
いや、今はそんな事を考えてはいけない。
俺が迷ってしまったらシャルはもっと傷つくのだから。
……シャルの傷は心の方が大きく、治るのも時間が掛かりそうだった。
◇◇◇
「ファーストは……ラヴィーネとしたいの?」
「そんな事はないよ」
シャルは体の傷はすぐに治るだろう。
だが心の傷はまったく治っていない。
俺が行為を避けるせいで余計に悪くなっているのかもしれない。
でもそれは仕方のない事だった。
「……私にはもう興味が無いの?」
「今も昔もずっと俺はシャルに夢中だよ?」
……嘘では無い。
でもラヴィーネに興味が無い訳でも無かった。
それは抗えない種族としての感覚だった。
「でも……ラヴィーネにも興味がある?」
「……ドラゴンの同じ種族としてならね」
シャルには俺の思っている事が分かってしまうのかもしれない。
「女として興味は無いのね?」
「無い!」
俺はロリコンでは無い。
その様な事は断じてない。
「ならドラゴンの雌としても興味は無いのね?」
「……無い」
興味は無い。
無いのだが……種族としては求めているのかもしれない。
今度は強く断言できなかった。
「……ごめんなさい。
どうしても言葉だけでは安心できないの。
行動でも示してくれない?」
「ああ、俺はシャルの為なら何だってするよ!
して欲しい事があれば何でも言ってくれ。
でもシャルの負担になるような事は、今は駄目だからな?」
シャルはただ不安なだけだ。
それを何とかしようと自分で行動し、傷を負ってしまった。
次は俺がどんな事をしてでも不安を消して挙げなければならない。
それこそ、俺が傷を負う様な事をしてもだ。
「ファーストにして欲しいの。
……一人で」
「一人で何を?」
シャルが初め、何を言っているのか分からなかった。
「えっと……本番では最後までいけなくても、一人でならいける事もあるのよね?」
「……はい?」
えっと……そう言う事もあるらしいが、今ここで俺にそう言う事をしろというのだろうか?
「私に夢中なら出来るよね?」
「さすがにそれはちょっと……」
これはそう言う問題では無い。
俺の自尊心の問題だった。
「やっぱりファーストは私の事なんて……」
「いやいやいや、そんな事は無いから!」
シャルは……安心したいだけだ。
自分の為になら俺はどんな事でもすると。
それは俺が種を残せない事も関係して、そう言う考えに行き着いたのかもしれない。
たぶん、俺がいけない事がシャルの不安の一つなのだろう。
そしてラヴィーネと言う存在が現れた。
ドラゴン同士ならあるいはと考えるのは自然な事かもしれない。
「お願い……私の前でして見せて?」
俺はこの日、傷を負ったのかもしれない。
心に大きな消えない傷を。
「やっぱり駄目なのね……」
しかもそれは……最後までいけなかった。
「でもファーストはやっぱり私の物なのね」
代わりに得られたものはシャルの安心だ。
……十分な結果だと思っておこう。
そしてこれで終わり、という訳では無かった。
「……少しだけ私もしたくなっちゃった」
「それだけは駄目。
シャルの事が一番大切だから」
余計な結果もついて来ていたのかもしれない。
「……そうだ!
幼生の姿でしよっか?」
「……はっ?」
それは幼児プレイでは無く、幼生プレイというものだろうか。
……俺とシャルは少し変わった深淵へと進んでいるのかもしれない。
普通では無い、真っ黒な深淵へと。
シャルは俺の小さな幼生の体を抱いていた。
いつもは大きな体でシャルを包み込む方が好まれていた。
だが今はシャルの腕の中に納まる方が良い。
その方がシャルは安心していた。
俺を……ずっと捕まえていられるから。