第十四話 授業4
シャルは無事二年生へと進級した。
俺は元々生徒ではないのでそのままついて行く事になる。
だが俺の成績がシャルの成績に反映されEクラスのままとなってしまった。
三十四点と八十四点、平均して五十九点でEクラス。
加点じゃないのかよ! とも思ったが特に不都合がある訳では無いので文句も無かった。
また知り合い同士同じクラスなので此方の方が良かったのかもしれない。
「シャルさんEクラスなんだな……ドラゴンのせいで」
「いきなりBクラス、まともな使い魔ならAクラスに行けたかもね」
「壁役としては中々だと俺は思うぜ!」
「それ使い魔の仕事なの? 私はあの愛くるしい所が良いと思うわ」
「そうだねー、リボン付けてるし……ってそれも使い魔の仕事じゃないでしょうが!」
周りからの声もあるがそんなに悪い事じゃないな。
この暫くの間にも俺は成長したものだ。
か、悲しくなんてないんだからね!
◇◇◇
「もっと速く、そう……そうです!
速さこそが魔術の神髄です!」
ベアイレ先生はEクラスの担任だ。
常に速さを求め、それこそが魔術で一番大切な事だと教える。
間違ってはいないのだがそれ以外はあまり教えて貰えないのが困った所だ。
「シャルさんは素晴らしい速さですね。
どうしてEクラスにいるのか分かりませんね」
すいません俺のせいです。
「ドラゴン君も速い!
私のクラスで最速は貴方達で決まりですね!」
俺が速いのには理由がある。
魔術ではなく魔法だからだ。
二工程、もしくは一工程しかないのだから当たり前の事という訳である。
そして俺は伸び悩んでいた。
と言うより全然成長していない。
「きっと何かが足りないのよね……」
「それが速さじゃない事は分かる……」
ベアイレ先生の教えは何も間違っていないし、それを忠実に実行もできる。
だが俺はシャルよりも対魔法障壁の威力が弱い。
シャルに言わせたら俺の方が総魔力は上らしいのでまったくもっておかしい。
適性の属性もあるのに……だ。
俺とシャルは頭を抱えていた。
その時……その解決策が向こうからやって来てくれた。
「やあシャル君。
やっと時間が取れたよ……今から少し話をしたいのだが大丈夫かね?」
それは属性を調べてくれた先生。
レーレン先生だった。
「自分の受け持ちのクラスがやっぱり優先だからね。
中々時間が取れなかったよ。
それでシャル君にと言うよりもドラゴン君にだね」
「俺に? 丁度どうすれば魔術の威力が上がるか聞きたかったんです」
「私も同じ件での話だよ。
ドラゴンの生徒を持つのは初めてでね。
学園が休業中の間も色々調べていたんだよ」
何とも頼りになる先生である。
「だが初めに謝らなければならない……。
間違った事を教えていた、いや正確には教える事が出来ないのだがね」
「どういう事かな?」
「魔力を出す練習をすればいつか魔術が使えるようになるといったがそうでは無かった。
君があまりにも人間らしくて根本的な事を忘れていたよ。
……魔物は魔術を使う事ができない」
「え!?」
「ああ……」
俺は驚きの声をあげ、シャルは納得のそして諦めの声を上げた。
「念話などの主人と使い魔の特殊な能力以外では魔術は使えないんだよ
君達はお互いの場所がなんとなく分かるんだったよね?
それも特殊な魔術に当てはまるね」
「それでは属性はあってないような物ってことです?」
「例えばだがシャル君なら氷属性だよね?
魔法でいうと水を出す事が容易という感じに得意な属性という事になるね」
「俺は六工程目の威力を上げるという事は出来ないのか……」
俺は首を下げ落胆してしまった。
「いや魔術を使えなくても魔法の威力を上げる事は出来る。
実際にシャル君が水の量を調節しているのは魔術ではないだろう?」
「はい、そうですね」
「一工程目の魔力を出す所で大量の魔力を使えばそれだけ威力を上げる事が出来る。
魔力の消耗は激しくなるだろうがね」
確かに俺は四工程目以降をやろうと努力していた。
そうすれば威力が上がると思っていたからだ。
だが一工程目で多くの魔力を出そうとした事もある。
対魔法障壁を使う時だ。
「一工程目で大量の魔力を出そうともしてみた事はある。
だけど何度やっても一定の量の魔力しか出せない」
「ふむ、一定の量を出せるのか……。
魔力を一度体の中で集めるようにしてみたらどうだろうか?
体内でこうグッと貯めるんだ。
そして一気にドーンと魔力を解放するんだ」
なんかどこかで聞いたような説明だった。
そして実際にレーレン先生はその工程をやって見せてくれた。
体内に魔力が貯まっているのがなんとなく分かった。
「これは感覚的な物だし慣れるしか無いんだよ。
これからは魔術を使おうとするのではなく魔法を意識すると良いはずだ。
人間である私がいう事ではないのかもしれないが……。
魔法は魔術に劣るものでは無い。
魔法を使う技術が魔術なだけであって本来同じものなのだよ」
「有難う御座います。
これから何をすればいいか分かった気がします」
「これが私の仕事だからね、礼を言う必要は無いよ。
時間の許す限りまた相談に乗ろう。
それまでにまだ他に何か教えれる事は無いか調べておくよ。
私はドラゴンの生徒を持ててとても嬉しいのだからね」
レーレン先生は良い笑顔で笑っていた。
教える事が何よりもの生き甲斐なのだろう。
◇◇◇
「炎の吐息!!!」
俺はショコラと魔法を打ち合っていた。
そして俺は初めてショコラよりも強力な炎を吐く事が出来た。
炎は数メートルもあろうかという範囲に渡って燃え盛っていた。
「おー、私より強力になったんだよー」
「フハハハハ!
もう役立たずとは言わさない!」
俺は有頂天になっていた。
だってやっと本当に魔法って言えるような事ができたんだもん。
『ごめんなさいね……』
『ん? どうしてシャルが謝るんだ?』
なぜかシャルが念話で話しかけしかも謝っていた。
『私は力を隠す為に強力な魔法を使わなかった。
そのせいで魔力を貯めるという事を上手く教える事が出来なかったわ』
『そんな事ないさ。
先生も感覚的な事って言ってたし説明無しに見ただけじゃきっと出来なかったよ。
それに今はもう出来るようになったんだから問題ないさ!』
『そう。
今は良く出来たと褒めてあげれば良いのかしら?』
『うんうん!』
少し遠回りをしたかもしれないが強力な魔法を使えるようになった。
ショコラにも勝ったし一人前だろう!
「……それじゃあ今度は本気で打ち合うんだよー」
「ふふーん。
負け惜しみかなー?」
「やってみれば分かるんだよー」
いつもにこにこショコラさんがちょっと引きつった笑みになっている。
俺に負けたのが悔しいのだろうがもう負けないぞ!
「炎の吐息!!!」
「火矢」
俺は同じようにブレスを吐いたがそれどころじゃなかった。
ショコラは今まで俺と同じような炎を放って来ていた。
だが今回はショコラから火の矢が放たれた。
矢と言っているが大きさは人間程もあった。
俺の炎を簡単に突き抜け襲い掛かってくる。
「う、うわー!!! あっつ!」
俺は火だるまになっていた。
だが言葉や見た目とは裏腹に特にダメージは無かった。
ドラゴンだからだろうか。
「今まではドラゴン君に合わせて魔法を使ってたんだよー。
これが私本来の魔術だよー!」
そしてこのドヤ顔である……。
ショコラはもしかして魔物は魔術を使えないと知っていたのか。
言葉足らずだったかもしれないがレーレン先生と同じ事を言っていたな。
そして俺は今まで使用された魔法ばかり見ていてショコラ自信を見ていなかった。
シャルが手加減していなくても魔力を貯めるという事はやはり気付けなかっただろう。
そしてショコラは魔術試験で満点だった。
俺より強いに決まってるじゃないか……。
「すいません、調子に乗りました……」
「分かれば良いんだよー」
そして俺は一人前……一歩手前くらいの魔法を使えるようになった。