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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百三十六話 年上の幼きモノ4


 俺はシャルにボコボコにされていたが、思わぬ所から助け舟が出る。


「シャルと言ったか?

 わらわのファーストに酷い事はしないで貰いたいのぅ」

「アンタのじゃない! 私のだから!」

「貴様、皇帝に対して何たる口のきき方だ!」

「良い、ベーゼ。言わせてやれ」

「……はい」


 ここまで案内して来た男、ベーゼはシャルに怒っていたがラヴィーネに止めらる。

 ラヴィーネはシャルに好きなように話させたいようだ。


「どうして初めて会ったファーストにそれ程の感心を持つの?

 属性竜って何の事?

 それが関係しているの?」

「そち達は何も知らないようじゃの。

 ふむ……その為にこのベンアに来たと報告にあったのぅ。

 ベーゼ、この者達に教える事を許す。

 説明してやるが良い」

「はっ! お前達、寛大なラヴィーネ様に感謝するんだな」


 前置きは良いから早く説明しろよな。

 ……シャルが怒り狂っているんだから。


「ドラゴンには数多くの種類がある。

 代表的な物は騎竜、飛竜、属性竜、亜竜、そして古代竜だ。

 騎竜はもっとも数が多く、空は飛べないが地上を速く走る事が出来る。

 飛竜は数は少なく、空を飛ぶ事が出来る。

 属性竜は更に数が少なく、人の様に魔法の得意属性を持つ。

 得意属性では人の魔術を越える魔法を使用する事が出来る。

 そしてドラゴンと呼ぶのも汚らわしい亜竜。

 ドラゴンとその他の種族が交わって出来た種族の事だ。

 その姿形は多種多様に及んでおり、分類は難しい。

 それをすべて同じ亜竜とするなら、数は騎竜よりも更に多い」


 俺はその属性竜に分類されるのだろう。

 確かに得意な属性、黒の時空属性を持っていた。


「最後に古代竜だが、純粋なドラゴンの祖とされる物だ。

 これまでの歴史上、数えるほどしか確認されていない。

 詳しい事は不明だが、強大な力を持つと言われている」


 俺よりも更に上は存在すると言う事だろう。


「……その属性竜であるファーストをどうして欲しがるの?

 話しぶりでは他にも何匹もいるようじゃない!」

「数は教えられないが、このベンアにいくらかは存在する」


 ベーゼはシャルの言う事を肯定していた。


「理由はそこのファースト自身が知っておる。

 いや感じていると言った方が良いかのぅ」


 ラヴィーネが俺に話を振ってくる。

 ……本当に嫌なタイミングで嫌な事を聞いてくる。


「ファースト……本気なの?

 ねぇ、どうなのよ!

 答えなさいよ!」


 シャルもそれを問いただす。

 理由は本当に簡単な事だった。

 ……一目惚れとはこういう感覚なのだろうか?

 俺は何故だかラヴィーネに特別な感覚を感じていた。


「すまない……シャル。

 俺は……」

「嘘! 嘘よね!?

 こんな初めて会ったような奴に……あり得ないわ!

 たちの悪い冗談でしょう?

 ねぇ……そう言ってよ……ファースト!」


 詰め寄るシャルに俺は何も答えられなかった。


「分かっても、理解出来ぬか。

 信じたく無いだけかもしれないがの。

 だがいつまでもそち達に付き合う気は無い。

 わらわはファーストともっと話をしたいのじゃ」


 ラヴィーネはどこまでも自分本位だった。


「おお、そうじゃ!

 もっと話したいが、その前にご両親にも挨拶せねばの!

 近くに来ておるのじゃろう?

 すぐに呼んではくれまいか?」


 ラヴィーネは何を言っているのだろうか。

 俺の、ドラゴンの両親は近くには居ない。

 アインツ魔術学園近くの迷宮内だからな。


 俺はその事をシャルに掴み掛られながら何とかラヴィーネに答える。


「……両親は近くには居ない。

 何故そんな事を聞く?」

「隠さずとも良い。

 あの爆発はファーストのご両親の力じゃろう?

 幼いドラゴンの姿で油断させ、もしもの時は親の力で脱出する。

 そのくらいの事は想像がつく。

 一番の力を持つ物をわざわざ送り込むのは愚策じゃからの」


 確かに内部に注目させ、もしもの場合は外部からの力で逃げる。

 それは良い策なのかもしれない。

 だが……。


「あれは正真正銘俺の力だ」


 そして俺は証明する為に成体の姿へと変態した。

 ……ラヴィーネにかっこいい姿を見せたかったからかどうかは自分でも分からない。


「「なっ!?」」


 ベンアの者達に衝撃が走っていた。

 いつもよりもっと驚きに包まれていたのは何故だろう。

 ドラゴンに詳しいのなら当たり前の事では無いのだろうか?


「今まで擬態しておったとは!

 ……それでこそ、わらわに相応しい!」


 ラヴィーネは何故だか喜んでいた。


「……目の前で見せられたのだ。

 隠しても仕方ない。

 古代竜は擬態する事が出来る。

 山よりも大きな体を成体へ、幼生へ。

 そして……人の姿へと」


 ベーゼの言う事に思い当たる事はあった。

 俺の両親は人の姿へと擬態していた。

 そして目の前の……少女も。


「ファーストはわらわと同じじゃ!

 何千、何万年と待ったかいがあったと言う物じゃ!

 わらわの伴侶(・・)となるべき物が属性竜如きとは情けなかったが、それは間違いじゃった!

 ファーストはわらわと同じ……古代竜じゃ!」


 そう言ってラヴィーネは成体へと擬態した。

 きっと本来の姿は山よりも大きく、この場には収まり切らないのだろう。

 そしてこの場には二匹のドラゴンが並んでいた。


「……お似合いだな」

「ああ、ファーストさんにも良き相手が見つかったようだな」


 ブリッツとシュトゥルムはその言葉を最後にその場に倒れる。

 ……怒り狂ったシャルの手によって意識を刈り取られていた。

 命までは……刈っていない。


「……受け入れろ。

 どうしようもない事もあるのだ」


 俺とシャルの事を知っている女メガネがシャルを珍しく慰める。

 だがシャルはそれを受け入れる事はない。


「シャル君……私にもこれはどうする事も出来ません。

 ですがまだ話し合う余地は残っているはずです」


 ベアイレ先生の言う通りだった。

 俺はまだ揺れ動いている。

 俺自身もいきなりの事で理解が出来ないのだ。


 でも分かる、分かってしまう。

 魅了の魔法などでは無く、純粋に同種の存在として求めている事が。

 そして……ラヴィーネが俺の伴侶に相応しい事が。


 もう当初の予定など関係なかった。

 いや、もう考える事すらなかった。


「ファースト、お願い……。

 今までの事を忘れたなんて言わないよね?

 急に同じ種を前にしたから……一時の気の迷いよね?

 お願い……私を一人にしないで!」


 俺はすぐに答えを出せず、戸惑ってしまった。

 これまでこんな事は無かった。

 シャルの事を考えて戸惑った事なら何度もある。

 しかし今は自分の事で迷っていた。


 そして……俺の出した答えはいつも通りだった。


「……俺はシャルを選ぶよ。

 ラヴィーネには悪いがお前の物になるつもりは無い!」

「ファースト……ありがと……」


 シャルは少しだけ安堵していた。

 だが俺は力強く言い切ったが、実際はまだ揺れていた。

 それ程にギリギリの答えだった。


「種の存在に抗うか。

 ああ、そうじゃ。

 使い魔と主人の関係も抗う事は難しいからのぅ」


 そんな事は無い! と言い切れないのが情けない。

 それは俺がシャルを選んだ事に少なからず影響しているはずだから。


「……ならば主人を亡き者にするのが良い様じゃのぅ」

「やめろ! そんな事は俺が許さない!」


 これは交渉どころでは無い。

 最初から此方を誘い込む為にこの場へと連れて来たのだ。

 今はシャルの安全が第一だ。

 俺はすぐにシャルを転移させようとした。

 しかしそれは出来なかった。


「なん……で」

「わらわから逃げられると思うてか?

 それにここはわらわの居城ぞ」


 俺の魔法はラヴィーネによって防がれた。

 俺はいつもアンチマジックフィールドで相手の魔法を封じていた。

 そして実際にされる側になってみて、初めてその理不尽さを感じていた。


 それに俺が初めに感じた畏怖はモンスター特有の生存本能とでもいうべき物だろう。

 モンスターは己より強いモンスターに近づかない。

 俺は逆の立場ではそれを何度も経験していた。

 そしてその逆、俺より強いモンスターにあったのは初めてだった。


 更にシャル達をベンアの兵士達が取り囲む。

 国境付近に居た者達より、明らかに実力が上の者達が。

 更に外は飛竜が守っているに違いない。

 ……逃げる事すら難しかった。


「抵抗するな!

 大人しくしていればドラゴンの主人以外は解放してやる!」


 ベーゼが降伏を勧告してくる。

 俺は油断していた様だ。

 こういった状況になる可能性は分かっていたのに自分の力を過信した。


 そしてこの状況は非常にまずい。

 俺はラヴィーネだけで手一杯だ。

 ブリッツとシュトゥルムは既に倒れている。

 その二人を守りながら残りの三人で対処する事など出来るはずが無い。

 せめてシャルが二人に手を出して居なければ戦う事は出来ただろうに。


「抵抗はしない!

 ……私は別だけど!」


 答えたのはシャルだった。


「シャル、私達も戦う。

 一人だけ残すなどその様な事する訳が無いだろう!」


 女メガネは玉砕覚悟で戦うつもりのようだ。


「……女メガネ、気を使って貰わなくても良いのよ。

 これは私の問題だから」


 シャルはそれを断る。


「シャル君……いつから覚悟を決めていたのだね?」

「……ファーストがラヴィーネを見た時に」


 ベアイレ先生もシャルも何を言っているのか?


「私達の事は気にせずに……いえ、私達は邪魔しません。

 好きなようにするのが良いでしょう」


 ベアイレ先生はとっくに気付いていた。


「ラヴィーネ!

 ファーストは私の物よ!

 貴方の相手は……私がしてあげる!」


 シャルはラヴィーネを倒す。

 その覚悟をしている事に。




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