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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百三十五話 年上の幼きモノ3


「ここでドラゴンの事を知る許可を貰う事になる。

 その前にまた同じ様な質問を受けるかもしれないが我慢して答えて欲しい」


 連れてこられた場所はおよそ人の住む場所では無かった。

 いや場所自体は大丈夫なのだが、その周囲は人の歩ける場所では無い。

 それこそ空を飛んでしか降りられない様な場所だった。

 その様な切り立った崖の上に……その居城はあった。


「ここにベンアの皇帝がおられるのだ。

 許可は皇帝にしか出せないからな」


 ディアマントは何を言っているのだろうか。

 自分で言っては何だが、こんな危険な者達を簡単に連れて来て良い場所では無いだろう。


「ディアマント、着いたか。

 報告にあったのは、この者達か。

 ここから先は私が案内しよう。

 ……恐れる事は無い。

 客人として扱う様に皇帝より仰せつかっている」


 城の中はこの男が案内してくれるようだ。

 話しぶりを見るに竜騎士隊の隊長より地位が高そうだ。

 この国ではつまり……力もあると言う事だろう。


 他にも少し気になる事もある。

 飛竜よりも早く、この地に報告が届いている。

 駕籠を運んでいたとは言え、竜より速い物が存在するのだろうか?


 情報を伝える何かしらのマジックアイテムがあるのかもしれない。

 単純な力ばかりに気を取られてはいけないと言う事か。


 いや、俺がした事は報告に上がっているはずだ。

 その力を知っているにもかかわらず、皇帝と言う国の重要人物の元へと連れて来た。

 俺の力を封じるか、それ以上の力を持った者がいる可能性があるかもしれない。


 ……ここに本当に皇帝がいるかどうかの確認も必要か。

 俺は考える事があり過ぎて困ってしまっていた。




◇◇◇




 ディアマントと別れ、城の中へ入るとすぐにこの案内の男は……脅しをかけてきた。


「……本来こんな事はあり得ない。

 皇帝から直接の指示が無ければとっくに拘束して拷問でもしている所だ」


 その真意は分からない。

 これが客人に対する対応なのかと問い詰めたくなるほどだ。


「それは恐ろしいですね。

 ですが今それを言う理由は何でしょう?」

「皇帝がどれだけお前達を庇おうが、私達(・・)臣下はそれを無視してでもお前達を罰すると言う事だ」


 俺達は目の前の男だけでなく、物陰からいくつもの兵士達に見張られていた。

 憶測だが皇帝は俺達に興味があるのかもしれない。

 ……ただの独裁者で勝手が過ぎるだけの可能性もあるか。


「罰するとは大げさですね。

 私達はこの国で何もしていません。

 ちょっと国の外で暴れただけです。

 そしてこれからお会いする皇帝にも失礼の無い様にするつもりですよ」

「当たり前だ!」


 何をそんなに怒っているか理解出来ないな。

 皇帝に特別扱いされた俺達を良く思っていないだけなら良いのだが。


「この先が謁見の場所だ。

 くれぐれも失礼の無い様にな!」


 何度も繰り返し同じ注意を受けて逆に反発したくなるな。

 ……シャルに睨まれたのでそんな事はしないが。




◇◇◇




 謁見の場所は兵士達が守っていた。

 その兵士達が扉を開ける。

 開けた空間の先に皇帝が偉そうに座っていた。

 ただ威厳は感じない。

 ……皇帝が小さな存在だったからだ。

 幼いと言った方が正しいか。


「苦しゅうない面を上げよ。

 そち達が報告のドラゴン使いか!

 まぁ、そんな事はどうでも良い。

 ドラゴンを出すのじゃ!

 ドラゴンをわらわの前に!」


 皇帝は幼い少女にしか見えなかった。

 そして驚くべきは外見では無く、その魔力量。

 小さな体に俺と同じかそれ以上の魔力を感じる事が出来る。

 そしてそれ以上に感じる事もある。

 初めての感覚だがこれは……畏怖と呼ばれる物だろうか。


 俺はいつの間にか言われるままに前へと出ていた。


「そちが……そうか、そうなのか!

 だがしかし属性竜如きが……情けなくなるの……」


 皇帝は本当の少女の様に喜んだり悲しんだり喜怒哀楽が激しかった。

 ……皇帝とは言え、本当の少女なのだから当たり前なのか?


「悲しんでも仕方ないの。

 今はそちと出会えた事を喜ぼうぞ!

 して、名は何と申す?」

「……ファースト」


 俺はまたしても言われるままに答えていた。

 この感覚は何か変だった。


「属性竜が人の言葉を話すか!

 これは不幸中の幸いとでも言うべきかの!」


 何が不幸なのか分からないが皇帝はなぜか喜んでいた。


「そちの名はファースト……ファーストか!

 その名に込められた意味や想いは分からんが良い名じゃの!

 まずその響きが良い!

 これからはわらわの為に存分に尽くすが良いぞ!

 そうじゃ、わらわも名乗らねばの。

 わらわはラヴィーネじゃ!

 ……ファースト、わらわの名を呼んではくれぬかの?」

「ラヴィーネ」


 俺は自然に答えていた。


「おおお、やはり人の言葉で呼ばれるこの感覚は違うのぅ!

 ファースト! 今日からはわらわに存分に尽くすのじゃぞ!」


 ラヴィーネはいきなり何を言っているのだろうか。

 だが俺はそれを……嬉しく感じていた。


「ちょっと待って!

 いきなり何を言いだすの?

 ファーストは私の使い魔よ。

 勝手に話を進めないで!」


 シャルはここまで大人しく話を聞いていた。

 だがさすがに使い魔を取られる? となっては黙ってはいられない。


「そうじゃったの。

 そちには代わりのドラゴンを渡そう。

 飛竜でも属性竜でも好きな物を言うが良い」


 当初の予定通りに話が進んでいる。

 しかしシャルはずっと俺がベンアに居ると言う事は承服しかねるようだった。


「ファーストは私の使い魔だって言ってるでしょう!

 代わりなんていないのよ!

 ……しばらく預けると言う事なら考えても良いわよ」


 シャルは取り乱していたが、当初の予定を思い出したようだ。


「わらわは譲歩しておるつもりじゃ。

 お主を殺して奪い取っても構わんのじゃぞ?

 だがそれでは使い魔であるファーストが悲しみそうじゃからの。

 出来れば避けたい所じゃのぅ」

「シャルに手を出すのはやめてくれ……」


 俺は何故か懇願していた。


「……ファースト、どうしたの?

 どうしてそんなに遜っているの?

 いつもはもっと不遜な態度を……」


 シャルは何かに気付き……感覚共有(シンパシー)を使っていた。

 俺が今、どう感じているのかを知る為に。

 だが感覚共有では感覚だけで感情までは分からないはずだ。

 しかし……女の勘とは恐ろしい物だった。


「……最低、最低! 最低!!!」


 シャルはこれまで見た事も無いくらいに怒り狂っていた。

 それも仕方のない事だ。


「この……ロリコン!!!」


 殴られた。酷……くない。

 俺はこの皇帝に初めは畏怖を感じた。

 だがそれはすぐに好意へと変わっていた。

 それも幼い少女に対してだ。


 ……言い逃れのしようも無かった。




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