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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百三十四話 年上の幼きモノ2


 爆発のせいでベンアの兵士達はすぐに飛んできた。

 それは文字通り、空から飛んで来ていた。

 飛竜ワイバーンに乗って。


 ワイバーンは俺とは少し違うドラゴンに思える。

 それは騎士団長の従魔とそっくりだった。


 飛んできた数は一個分隊。

 五匹のワイバーンと五人の竜騎士と言われる者達で構成されていた。

 その内の一騎だけが地上へと降りてくる。

 残りの四騎は上空で俺達を見張っていた。

 降りてきた一騎の竜騎士はワイバーン自体からは降りずに俺達に言葉を掛けてくる。


「先程の爆発がここから放たれた閃光によって起きた事は既に確認している。

 ここでいったい何が起きたか説明しろ!」


 それは俺達と言うよりも意識を取り戻していたベンアの兵士に向かって投げかけられた言葉だった。


「怪しい一団を見つけましたので尋問していた所、ドラゴンを所持している事を確認しました。

 ベンアのドラゴンが流出したのかと思いましたが違うようです。

 他国が所持するドラゴンでありました。

 その証拠にドラゴンを思い通りに操ります。

 またその力も確認しようとしました。

 信じられない事だったので実践して見せる様に言った所……思いもよらない威力を発揮いたしました」


 ここまでベンアの兵士が説明した事は俺達が言わせた事だった。

 気絶から意識を取り戻した兵士にお願い(・・・)をしただけだ。

 そしてベンアの兵士達を拘束する事無く、自由にしていた。

 そのお陰か、舞い降りた竜騎士がすぐに攻撃してくると言う事も無かった。

 それに金も握らせた……ほんの感謝の気持ちだ。

 ……実際の所は大きく違っているのかもしれないがな。


「そこの小さな飛竜がやった事だと!?

 信じられないが……また実践させる訳にもいかないか。

 それでその飛竜がベンアの物では無い事は確かなのか?」

「はい。

 飛竜は従魔では無く、使い魔です。

 その主人はアインツの者です。

 たとえベンアの飛竜が使い魔として召喚されていたとしてもそれは主人の物になるはずです。

 それにベンアから流出した飛竜は過去に一匹しか確認されていません」

「ええい!

 その事は言うな!

 ベンアの恥だからな……。

 そこの飛竜が完全な別物と言う事は分かる。

 ……その姿も、力もな」


 俺は幼生の姿だが空に浮いていた。

 飛竜と言う事はすぐに分かった事だろう。

 その飛竜は厳重に管理されているようだ。

 そして過去に流出した一匹はきっと騎士団長の飛竜だな。


「お前達は我が国のすぐ傍で一体何をしでかそうと言うのだ?」


 今度こそ本当にそれは俺達に向けられた言葉だった。


「私達はやってみろと言われたので力を見せただけです。

 此方に敵対する意思など無く、ただドラゴンの事を知りたくてベンア竜帝国を訪ねたのですよ」


 答えたのはベアイレ先生だった。


「此方にも落ち度はあったのかもしれないな。

 ……私はベンア竜帝国竜騎士隊の隊長ディアマントだ。

 其方も自己紹介をしていただけると助かる」

「我々はアインツ王国魔術学園の者です。

 私は教師で他の者は生徒です。

 後学の為、ドラゴンの事を知りたくこのベンア竜帝国を訪れました」

「魔術学園……それにアインツか」


 ディアマントと名乗った男はアインツの事を気にしているようだった。

 ……騎士団長は本当に何をしたんだがかな。


「そなた達をこのまま帰す事は出来ない。

 目的もベンアにあるようだし、我が国に招待しよう。

 案内や護衛にベンアの兵士が少し同行する事になるが我慢して欲しい」


 拉致か拘束と言った方が良いんじゃないか?

 だがこの程度は覚悟していた事だし、問題はない。


「此方からお願いしたい事でもありました。

 出来ればベンアの色々な所を案内していただけると助かります」


 ベアイレ先生は嬉しげに答えていた。


「……では案内しよう。

 地上はこの者達が、空は私達が護衛する」


 そう言ってディアマントは空へと戻って行く。

 ……まずは侵入成功と言った所か?




◇◇◇




 俺達は護衛されながらベンアの街に入る。

 街並みはアインツや他国と変わらないが、そこに暮らす物達は少し違っていた。


「何て言うか……色々な種族が入り乱れていますね」

「普人族、獣人族、半獣に……あれはモンスター!

 枷も無しに一体この国はどうなっているんだ?」


 ブリッツとシュトゥルムはその光景に驚いていた。


「全ての物がここでは平等だ。

 たとえモンスターであってもな。

 唯一の法は力だ。

 強い物が弱い物を支配する。

 それがこのベンア竜帝国だ」


 女メガネは流石の博識だった。

 伊達にメガネはかけていない。


「国の名を最強の種族であるドラゴンから取ったのも、その為でしょう。

 現在は人がこの国を治めていますが過去、この国はドラゴンが総べていたとも言われています」


 今のベンア竜帝国はドラゴンを数多く使役する。

 人がドラゴンを支配し、その力を超えたと言う事だろうか。


「色々とベンアの事を知っているようだな。

 だがドラゴンがこの国を総べているのは今も変わらない。

 ドラゴンは私達、人を助けているだけだ。

 ドラゴンがいなければベンアは成り立っていないだろう」


 ディアマントの言葉は本当の事なのかもしれない。

 モンスターすらも枷が付けられていない。

 それは当然の様に飛竜達にも付いていない。


 この国には飛竜だけでなく、騎竜も多い。

 町の至る所でそれは活躍していた。

 ……店番をしている物すらいるのだから。

 器用にお金をやり取りしているのを見るとなんだか不思議な気分になってくる。


「良い国ね……」

「そう思うよ」


 シャルも同じ気分だったのかもしれない。

 ここではまるでモンスターやドラゴンが人の様に思えるのだから。

 その姿形は全くの別物なのに。

 もしかしたら俺もこの国では人になれるかもしれない。


「ここからは駕籠を使っての移動になる。

 ドラゴンの事を教えるには許可が必要なのだ。

 その許可を貰うには少し遠出になる。

 まぁ、駕籠を使えはすぐだ!」


 なんだかどんどん引き込まれている様にも思える。

 だが付いて行くしか道はないのだろう。


「それにこれは我が国でも最高のもてなしに近い事なんだぞ?」


 なぜか楽しげなディアマントが気にはなっていた。




◇◇◇




「凄い凄い! これは爽快ですね!」

「飛ぶのは初めてだ……」


 俺達は楽しんでいた。

 駕籠とは飛竜によって空を運ばれる移動手段の事だった。

 何匹もの飛竜によって大きな駕籠と呼ばれる馬車の荷台のような物に乗って俺達は運ばれていた。

 ……その乗り心地はお世辞にも良いとは言えない。


「……気持ち悪い」

「ブリレ君、ここでは吐かないで下さいよ。

 他に行くところなんて無いのですから」


 ブリレは酔っていた。

 俺に乗った時はそんな事無かったが、この馬車の様な乗り物はかなり揺れるからな。

 ドラゴンに直接乗るのとはまた違った感覚なのだろう。


「それにしてもこの国は一体どれだけ広いの?」

「もうアインツを何週も出来る程に飛んでるな」


 シャルの言葉も仕方のない事だ。

 これまでアインツから移動してきた距離の何倍も既に移動している。


「ベンアの凄さが分かって頂けただろうか?」


 ディアマントはただ自分の国を自慢したいだけだった様だ。

 説明の為に自分の飛竜にも乗らず、同じ駕籠に乗っているくらいだからな。

 飛竜が勝手に飛んでいるのはある意味凄い事なのだろうが。

 ……飛竜を扱う部隊の隊長がこんな奴で良いのだろうか。

 もしかして偉い奴かと思っていたのだが、考え直さなければいけないな。


 ただ今は童心に戻ってこの状況を楽しんでおくのも良いのかもしれない。

 だがそんな余裕は……すぐに無くなる。




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