表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
150/176

第百二十八話 純粋な混じりモノ2


 壁を越えまず見えてきたのは穀倉地帯だった。

 そこでは獣人族と思われる者が農作業を行っていた。

 だがその首や手足には……枷が付けられていた。


「……奴隷か。

 純粋な信仰とやらは上辺だけらしいな」

「ドラゴン君、それは違います。

 あれは家畜、いえ使役動物と言った方が良いでしょうか」


 それは奴隷より酷い扱いと言う事だろうか。


「お前は半獣を見るのは初めてか?

 アインツでは飼育する事は禁止されている。

 見た事が無くても仕方のない事か」


 女メガネがドヤ顔で言ってくる。

 その後も女メガネの説明は続く。


「姿は獣人族に近いかもしれないが半獣は人よりも獣に近いだろう?」


 獣人族は耳と尻尾くらいしか獣の特徴は無い。

 だが半獣は顔も体も毛むくじゃらでその体型だけが辛うじて人の形をしているだけだった。


「大昔はアインツでも利用していたが、大きな反抗を起こされてな。

 それからは追放処分と言う事になっている」


 反抗か。

 半獣の知能が気になる所だ。

 そんな俺の考えを察したように女メガネは説明を続ける。


「半獣の知能は高い。

 人の言葉を少しは理解できる。

 その為、簡単な作業をさせるには打って付けなのだ」


 それが今見ている光景という訳か。


「そして半獣はその生まれ方からして問題がある。

 半獣は人と獣の間に出来た物だ。

 ……それは忌むべき事とされている。

 人間は徐々に進化して今の存在になった。

 獣人族やエルフ、普人族などの元を辿るとそれは全くの別物なのだ。

 純粋に別の存在から進化して今ある人間という形に進化したと言われている」


 元の世界では人間はサルの様な物から進化したと言われていたな。

 獣人は猫や犬から進化したのだろうか?

 エルフは兎? そんな訳無いか。

 この異世界での人間とは純粋種と呼ぶべきなのだろうか。


 そして人と獣の間に出来た物、それはこの異世界でのハーフと言う奴だろうか。

 だが人と犬などの動物の間には種はまず産まれない。

 ……人と魔物、魔獣と言った物の間には産まれるのかもしれない。


「純粋な物を信仰している……ね。

 半獣を奴隷の様に扱う為の建前に聞こえてしまうわ」


 シャルの考えと同じ事を俺は考えていた。

 いくら人では無いと言われても中々受け入れられないくらいに半獣は人に近かった。


「それは分かりませんが、この国の者にそう言った事を言わない様にして下さい。

 無用な争いを生む事になるかもしれません」


 ベアイレ先生は忠告を繰り返していた。


「でもあんまり気分の良い光景では無いな」

「半獣は人より劣る。

 この結果は当たり前の事なのかもしれない」


 ブリッツもシュトゥルムも忠告を聞いていたのだろうか。


「この認識の差が国の違いと言う物なのかもしれないな。

 ……あまり大きな声では言えないが私も好きにはなれない光景だ」


 思っている事は皆同じか。

 それは俺達以外の者も同じだったのかもしれない。


「ああ、もう!

 半獣の人達(・・)に枷なんて必要無いのに!」

「そうだねぇ。でもそれを口に出してはいけないよ」


 どこかで見た事のある者と、どこかで見た事のある……猫だった。


「ちょっと枷を外してくる!」

「本当にフルートは馬鹿だねぇ。

 そんな事をしてもまたすぐに枷を付けられるさね。

 ついでにフルートにも枷が付けられるかもねぇ」


 変わらないやり取りがそこでは繰り広げられていた。


「フルート! ヴェレ! 久しぶりだな!」

「んー? ドラゴン?

 こんな所で会うとは奇遇だねぇ」

「ドラゴンの使い魔って事は……シャル!」

「フルートは相変わらずな様ね。

 ヴェレも苦労が尽きないわね」

「……全く持ってその通りさね」


 俺とシャルはフルートとヴェレに声を掛けていた。


「シャルはインツェンにどうして来たの?」

「……観光と競争試合に興味があったからよ。

 フルートはどうして?」


 嘘は言っていないな。


「私は……インツェンの生まれなの。

 それに競争試合に参加しようと思ってね」


 フルートも目的は競争試合か。


「わたしゃ無駄だって言ってるんだけどねぇ。

 ……ファルには勝てないよ」

「そんな事は分かっているの!

 ……でもそれしか方法が無いじゃない!」

「……方法?」


 競争試合に勝てば何か成し得る事があるのだろうか。

 シャルも同じ事が気になったらしく聞き返していた。


「試合に勝てばインツェン国民の支持を得られるかもしれないんだよ。

 フルートは半獣を解放したいのさね」

「半獣も人間だよ!

 だって人の形もしてるし、会話だって出来るのに!」

「会話なら使い魔も出来るさね。

 形だけならそこの草だって人型に見えない事もないよねぇ?」

「ヴェレの馬鹿!

 そう言う事を言ってるんじゃないもん!」

「……馬鹿はフルートだろうにねぇ」


 俺にはヴェレの言いたい事は何となく分かった。

 たぶん、半獣が人として認められたとしても今の扱いは変わらない。

 人であったとしても奴隷と言う物が存在する国もある。

 根本的な解決にはならないと言う事だろう。


 そしてフルートの言いたい事も何となく分かる。

 意思疎通の出来る物を虐げるのはなぜだかとても可哀想に思えるんだよな。

 ……お、俺自身の事じゃないんだからね!


「シャル君、そろそろ先を急がねばなりません。

 名残惜しいでしょうが進みましょう」


 ベアイレ先生がシャルに声を掛ける。


「フルート、ごめんなさい。

 もう行かなくてはいけないの。

 でも私達も競争試合に参加するからまた会えるかもね」

「分かったわ。

 私達は冒険者ギルドの方に行くから時間のある時に顔を出してね!」


 同じ所へ向かうのだ、また会える事だろう。

 フルート、ヴェレと別れるとベアイレ先生が俺達に話しかけてきた。


「……知り合いとは言え、あまり親しくしない方が良いでしょう。

 他の国の者を守れる程、アインツには余裕がありません」


 これからベンア竜帝国での事を考えるとそう言う事になるのかもしれなかった。

 それにアインツは昔よりかなり弱体している。

 余裕などはあるはずが無かった。


「……分かりました」


 シャルは大人しく忠告を聞いたが……色々考える事はあるようだった。




◇◇◇




「受付は此方でするようです」


 俺達は街で宿をとり、そのまま競争試合の受付へと来ていた。


「それにしてもすごい人だかりだなぁ」

「国を挙げての行事だからかもしれない」


 ブリッツとシュトゥルムは大勢の人だかりに驚いていた。


「今回の競争試合は全員参加です。

 良い成績を取ればアインツからも報奨金が出るので頑張るように」


 ベアイレ先生からお金の話が出ると全員の目の色が変わった。

 ……特にシャルの。


「……インツェン主催なのだから当然、他にも何か得られる物があるのでしょう?」


 そうなのだ。

 当然、主催国からの賞金などがあるはずだ。

 シャルはそこの辺りをベアイレ先生に聞いていた。


「インツェンからは記念品くらいしか出ません。

 しいてあげるなら栄誉でしょうか。

 シャル君のお知り合いが言っていたように国民の支持も得られるでしょう」


 シャルは一気にやる気が無くなったようだが、何かに思い当たったようだ。


「……絶対に賭けが行われているわ。

 ファースト! すぐに調べるわよ!」

「……ほどほどにして置いてくださいね。

 その前にまずは出場登録をして下さいね」

「まったく、シャルはいつもこうだな」


 女メガネは呆れていた。

 そして他人事の用に思っていたのかもしれない。


「全員参加と言ったでしょう。

 ブリレ君も出場するのですよ?」

「な!?」

「ちなみに試合の結果が悪ければ成績(・・)に響くでしょうね」


 女メガネは本当は生徒では無い。

 では成績に響くとは……減俸と言う事だろうか?


 インツェンの栄誉を賭けた試合はアインツのお金を賭けた者達によって穢される……かもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ