第十三話 試験
シャルの学園での一年目の生活が終わろうとしていた。
今日はその締めくくりともいえる試験の日だった。
この成績次第で進級と二年時のクラス割りが決まる。
そしてその試験を受けるのはシャルだけでは無い。
俺もおまけで受けさせて貰える事になった。
俺の成績がシャルの成績にも反映されるらしいので気が気ではないが。
「アンタは全力で受ければ良いのよ」
『私は多少手を抜くけどね』
言葉と頭に直接との使い分けでシャルは俺に話した。
シャルは授業だけでなく、エレクトの教えも受けている。
と言っても休業中に教わった事を繰り返し修練しているだけだが。
そしてシャルは少しずつではあったが使いこなせるようになっていた。
すでにシャルは対魔法障壁を使える。
それ程長くは使えず効果は一瞬だけだがな。
そして俺は対魔法障壁を未だに使えない。
一応何かしら発動はしているようなのだがその効果が全くと言って良いほど無かった。
『俺本当に時空属性なのかな……。
炎属性とかの方がまだ使えるのに……』
一応火は出るし、空も飛べる。
別の属性の方が適正ある気がしてきていた。
『魔術の属性は一つしか使え無いのよ。
魔法ならどの属性でも使えるけどね。
ドラゴンなら複数使えるのかもしれないけど』
『ですよねー……』
「焦らずに今できる事を全力ですれば良いのよ!」
最後に元気よく励まされ、そして背中を押された。
◇◇◇
試験は大まかに分けて四種類ある。
筆記試験で学力、主に一般常識と礼儀作法などだ。
魔術試験で魔力、魔法や魔術を使いその威力で判定される。
武術試験で武力、遠距離以外の魔力を使い接近戦で判定される。
総合試験で戦闘力、何でも有りの戦闘試験だ。
それぞれが二十五点、計百点で試験は行われる。
学力よりも実技が重要視されているという事だ。
俺はシャルに言われた通り全力で試験を受けた。
筆記試験は簡単だった。
解けない問題は無く羽ペンが流れるように進んだ。
だがケアレスミスがあったようで二十四点だった。
魔術試験では火を吐く事にした。
それしかできないのだがな。
その火はやはり小さく周りの失笑を買うだけだった。
得点は六点。
空を飛ぶのが五点で火を吐くのが一点だそうだ。
ちょっとだけ泣きそうになったわ。
武術試験は相手が人間だった。
キルシュの騎竜だったらどうしようかと思ってたよ。
だが結果は散々で簡単に木刀で殴られてしまった。
いやだって体当たりしか出来る事が無くて、木刀の間合いに入るしか無かったんだよ。
手加減されたのか全く痛くなかったのが幸いか。
ドラゴンだから堅いだけかもしれない。
結局オマケで三点貰った。
動きが結構素早かったよと慰められたよ……。
総合試験はもうお分かりだろう。
遠距離から魔術を使われておしまい。
気休めの対魔法障壁を使ったがそれを試験管が気付く事は無かった。
魔法によるダメージは全く無かったがそれは相手の手加減が上手かったと言う風に評価されたようだ。
俺の体が丈夫だっただけだろうに!
……一点貰った。
結果発表……俺は三十四点。
ぶっちぎりの最下位だった。
◇◇◇
得点は全員の分が張り出され、誰でも閲覧する事が出来る。
俺とシャルはそれを見に来ていた。
「アンタにしては頑張ったんじゃない?
筆記試験とか私より点数が良いじゃない!」
「うん……そうだね……」
慰めがとても辛かった。
「五十点未満は留年だからこれから離れ離れになっちゃうね。
でもまぁアンタなら次はきっと大丈夫よ!」
「え!? そ、そんなの聞いていないよ!」
本当にそんなの聞いていない。
俺は本当に焦っていた……今更どうしようもないのに。
「って冗談よ。
この世の終わりみたいな顔しないの」
「じょ、冗談か。
本当に焦ったわ……」
「私の成績に反映はされるだろうけどね。
……それなりの点数は取ったから大丈夫でしょうよ」
シャルは手を抜くと言っていたがその辺は考えていたようだ。
シャルは八十四点。
どの試験も万遍なく点数を取っていたようだ。
「本来ならBクラスだけど……一つか二つはランクが下がるでしょうね。
まぁランクなんて私は気にしていないからね。
そんな顔して気にしなくても良いわよ」
『本気を出したらAランクだったでしょうが目立ち過ぎるのは良くないからね』
最後に念話でシャルは言葉を付け足した。
急に成績が良くなったとしたらそれを周りはどう思うだろうか。
まず間違いなくドラゴンの力だと思うだろう。
実際はシャル個人の力だったとしてもそこまで事細かに伝わるとも思えない。
目立ち過ぎればまた襲って利用しようと思う者が増えるかもしれないからな。
だが今のままでもまた襲われる可能性はある。
逆に強大な力を見せつけ襲おうとする気すら起こさせないと言う方法もあるだろう。
元の世界でいう外国などが大きな銃や大柄な警備員を配置し抑止力とする方法だ。
しかしシャルは力を隠すと言った。
日本などが代表的で相手を委縮させないように配慮するという事だろう。
魔物……ドラゴンというだけで委縮しそうなものだがな。
そしてシャルは全力で試験を受けて良いと言った。
それはまだ俺に隠すほどの力が無いという事だ
俺はもっと頑張らないといけないのだろう。
「シャルさんはEクラスなのに凄いな」
「キルシュは五十六点……魔術がダメだったようね」
キルシュはシャルを褒めていた。
キルシュ自身は魔術があまり得意ではないらしい。
そういえば武術ばかりに力を入れていたな。
「私は……五十四点……」
「あの魔術を食らってもウネウネと回復していくのは凄いんだよー」
マルメラは回復魔法が凄かったようだが魔術としてはまだ拙いようであまり点が伸びなかったようだ。
「ショコラは……五十点……」
「そうだよー、計算通りだよー」
「筆記二十五点が魔術二十五点で後は記録無し。
相変わらず馬鹿だけど頭は良いのね」
シャルが褒めているのか貶しているのか分からないような言葉を掛けていた。
どうも試験を二つ受けた時点で寮に帰ってしまったらしい。
五十点で進級が出来るとはいえ普通そんな馬鹿な事は出来ない。
それが出来るほど頭が良いと言う事なのだろう。
シャルの言うとおりという事だろうか。
◇◇◇
五十点未満は留年。
五十点から五十九点はEクラス。
六十点から六十九点はDクラス。
七十点から七十九点はCクラス。
八十点から八十九点はBクラス。
九十点から百点はAクラス。
多分知り合いとは二年時からは別のクラスになるであろう。
ちなみにケーゼは九十一点のAクラスである。
きっと賄賂を使ったに違いない。
キルシュの騎竜は主人と一緒に試験を受け、点数はキルシュの物に加点されていた。
言葉が主人と使い魔でしか通じない事が多いので普通はそうするらしい。
俺もそうして欲しかったとは今更言えなかったがな……。
試験後にシャルは面接を受けていた。
今後の事についてらしいが俺は同席出来なかった。
シャルにもっと強くなれと言われ魔術のトレーニングをしていたからだ。
感覚共有で何を話しているかは分かるのだがな。
国からの勧誘とか学園で働かないかとかそんな感じの話だった。
そしてシャルはそれらは断って冒険者かギルドで働くと伝えていた。
シャルは理由に関しては何も言っていなかった。
だが俺には察しがついた。
ギルドは全てではないだろうがほとんどのお金を管理している。
シャルらしい選択肢だな!
愛想が尽きて売られないようがんばろう……。