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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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閑話 ご主人様は真っ黒6

 人によっては好ましくない表現があるかもしれません。

 この場面は飛ばしても問題ありません。


 俺はいつもの様にシャルを抱いていた。

 ドラゴンの姿だがそれはもう慣れた物だ。

 その慣れが……問題だった。


『あの耳や尻尾がモフモフで癒されるのよね』


 初めのうちは見るだけだった。


『ちょっとくらい触っても良いわよね』


 次は触れる事だった。


『撫でて! 揉んで!』


 どんどんそれはエスカレートしていった。


『獣人族、シュトゥルムは一応人間だから!

 それ以上は駄目だから!』

『じゃあ、次はブリッツに……』

『それ本当の人間だから!』


 シャルは可愛い物に興味があるのだと思っていた。

 実際そうなのだが、それは可愛い男の子に興味があると言う事だった。

 ペットとしてでは無い。

 どちらかと言うとアイドルと言った物に近いかもしれない。


 この世界……異世界では美男が溢れていた。


 シャルはちょっとくらいならと思っているのかもしれない。

 逆ハーレムでも作ろうとしているのか……。


『ファーストが一番よ!

 ……でも二番、三番が居ても良いじゃない!』

『元の世界では許されない事だよね?』

『愛でるくらいなら良いでしょう?』

『……俺が同じ事したら?』

『男の子なら……アリ?』

『ナシだから。そこは女の子で考えて欲しい』


 シャルは本当に悩んでから答えを出した。


『……自重します』

『分かってくれて嬉しいよ』


 そして今、シャルは俺の腕の中にいるのだが……どうしても安心できなかった。

 その日は酷くシャルを責めた。




◇◇◇




「ファーストさん?

 お姉さまと一緒では無いのは珍しいですね。

 ……何か浮かない顔をされていますが、どうかなさいましたか?」


 俺はシャルの実家に来ていた。

 そこでは「きれいなシャル」を見つける事になる。

 何色にも染まっていない本当にきれいな女の子。


「クラハはいつも優しいな……」


 こんなドラゴンの顔色を気にしてくれている。


「もしかしてお姉さまと喧嘩でもしたのですか?」

「まぁ、そんな感じかな?」

「私が相談に乗りましょう!

 詳しくお話になって下さい」


 クラハはどこか楽しそうに俺の話を聞いていた。

 俺の話を聞くとクラハは何か思い当たる事があったようだ。


「……ふふふ。

 ファーストさんをこんな気持ちにさせるなんてお姉さまも意地悪ね。

 ……知ってますか?

 お姉さまは私と話す時、いつもファーストさんの事ばかりなんですよ?」

「そう……なのか?」

「ええ、そうなのです。

 ファーストさんはお姉さまの言う事は何でも聞いてくれる。

 でも自分の希望はあまり言わないって」


 確かにそうかも知れなかった。


「でもお姉さまが男の人と仲良くすると慌ててすぐにやめろって言うのでしょう?」

「……そうだな」

「お姉さまはそれが嬉しいのですよ。

 本当に意地悪な方ですよね?」

「ああ……本当にな!」


 俺はいいように操られていたのかもしれない。


「でもファーストさんも悪いのですよ?

 もっとお姉さまに言葉を掛けてあげて下さい。

 女性はそれだけの事で安心するのですよ?」

「分かった!」


 俺は何か吹っ切れた気分になれた気がした。

 でもここで俺はある事に気付いた。


「……クラハは俺とシャルの関係をどこまで知っている?」

「それはもう夜の情事まで全部!」

「シャルは妹になんて事を話しているんだ……」


 俺は急に恥ずかしくなっていた。


「ファーストさんは真っ黒なのに赤く感じられるのはどうしてでしょうね?」

「クラハも意地悪だな」

「ふふふ、姉妹ですから似ているのは当たり前ですよ!」


 それはそうかもしれないな。


「でもお話だけでは分からない事もあります」


 クラハはそっと俺の体に手を添える。


「私も体験してみたいです……」


 それは……そのまま意味で受け取って良い物なのだろうか。

 俺は慌てふためいてしまいまともに考えられない。


「……ダメー!!!」


 俺とクラハの間にもっと慌てた様子のシャルが急に飛び込んできた。

 シャルは俺とクラハの事を覗き見していた様だ。

 俺はそのままシャルに抱きかかえられる。

 シャルはクラハから守るように俺を抱いていた。

 それはまるで姉妹で玩具を取り合っているかの様だった。


「ふふふ、あんまりファーストさんを苛めてはいけませんよ?」

「……言う様になったわね」


 クラハはシャルが覗き見している事に気付いていたのかもしれない。

 一連の言葉は全て偽りと言う事か。


「でもお姉さまの物はなぜか本当に欲しくなるんですよ?」

「私のお下がりで良ければあげるわよ?」

「じゃあ下さい!」

「……冗談よ」

「お姉さまはいつもそう!

 お人形もハンカチもリボンも何も下さらない!」

「良いじゃない!

 クラハも新しい物を買って貰ったでしょう!」

「お姉さまが持っている物が欲しいのです!」

「なにそれ! 私から奪いたいだけじゃない!」

「年上なら何か一つくらい譲っても良いでしょう!」

「私は一ギルだって譲らない!」

「守銭奴!」

「偽善者!」


 聞くに堪えない言葉が行き交っていた。


「も、もうその辺で……」

「「ファーストは黙ってて!」」


 きれいに二人は揃っていた。




◇◇◇




 俺はシャルと二人きりになっていた。


『シャルは俺の事が信じられないのか?』

『ファーストは私の事が信じられないの?』


 同じ問い掛けをし、二人で黙り込む。

 ……何を言って良いか分からない。

 そんな俺はクラハに言われた事を思い出していた。

 言葉にしなければ分からない事も、伝わらない事もあるのかもしれない。


『……愛して?』

『なんで受け身なの?』

『愛してた』

『過去形とか最悪』

『愛すかも』

『かもって何!』

『愛してる』

『……初めからそう言いなさいよ!』


 それは簡単な事だった。


『どうしてファーストは……もぅ!

 ……私もよ』


 それは簡単で単純なモノだ。


『『愛してる』』


 ただそれだけのモノ。


 俺は久しぶりに安心できた。

 その事に気付かないくらいに。


『愛してる! 愛してる! 愛してる!』


 ただ目の前のシャルに夢中でその言葉を掛けていた。

 ……行動でも表しながら。

 周りに気を掛ける事は出来なかった。


「……凄すぎです。

 お姉さまは普通ではありませんが……何故か憧れてしまいます」


 また一人、此方側へ足を踏み入れる者が……居たのかもしれない。




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