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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第五章 羽化
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第百二十三話 邪な聖なるモノ3


 どうもここに集まったのは団長の計らいらしい。

 メガネがこんなめんどくさい事をしたのは団長の命令か。

 あいつもいろいろ苦労してんだな。


「私がどうしても君達を案内したくてね!」

「……ライフィー共和国を見張らなくて良いの?」


 シャルはここ最近の情勢を気にしてかそんな発言をしていた。

 天罰の日に大きく関与したアフュンフは既に無い。

 今はライフィーがその国を吸収したのだ。

 当然、次はライフィーに目が行くと言う物だ。


「ライフィーにアフュンフを取られたと言う事になったがアインツには関係ない。

 ただ警戒する事は必要かもしれないな」

「じゃあなんでここに居るんだよ!」


 俺は全く理解出来なくて突っ込んでしまった。


「団長がどうしても一目息子に会いたいと言うから仕方なく時間を取る事になった。

 この後はすぐにライフィーとの国境へ戻ることになる。

 ……案内人など出来ません」


 メガネが冷静に答えていた。


「私一人に頼るのはもう限界だろう?」

「だから今、この依頼が必要とされているのでしょう」

「……アイゼンはいつもこんな感じでね。

 全く取り付く暇が無いよ」


 団長は自分の方が立場が上なのに何を言っているのか。


「まったく、命令書に帰るとだけ書いて寄こした時はどうしてくれようと思いましたが……」


 これはメガネが怒っている時の眼鏡をクイクイする仕草だ。

 ……ちなみにすべて同じ動作から繰り出されるので見分けはつかない。


「私がきっちり国境へと連れて行って差し上げます。

 ブリレ、後の事は頼みますよ!」

「む、無理です!」


 女メガネの言葉はメガネには届かなかっただろう。

 もうこの場にはメガネと団長は居なかった。




◇◇◇




「……説明役も案内人も居なくなった。

 ベンアに速く行くにはどうすれば良いと思う?」


 具体的な指示が無かったので、神速が速さについて語り出す。


「俺が成体になればすぐだが、乗せれるのは精々二人かな」

「三往復で行けるわね」


 それに俺とシャルが追従する。

 ……転移は無しだ。

 シャルからきつく言われている。

 絶対に使うなと。

 転移の魔法は一歩間違えば簡単に人が死んでしまうから。


 飛行機に乗るのを極度に嫌がる人が居るだろう。

 それと同じで転移装置が出来たから使ってみてと言われても、絶対に使いたいとは思わない。

 鉄の塊が空を飛ぶだろうか?

 空間を越える事が生物に出来るだろうか?


 死んでしまう様な状況で他に方法が無い様な時にしか使用する事は無いだろう。


「……ベアイレ、速さの前にベンアに簡単に入れると思うなよ」


 そこで女メガネが横槍を入れる。


「ベンアは世界で最強の国だ。

 その防備は空にも及んでいる。

 噂では何十体も飛竜を使役していると聞く。

 簡単には侵入できないはずだ」


 そんなに詳しいなら始めから女メガネが仕切れよな。

 ……メガネに頼まれるくらいだ、それなりに情報を持っているのかもしれない。


「それはその通りかもしれない。

 ではどうやって速く行くか再考しよう」

「ベンアの警戒範囲の傍まで俺が運ぶだけじゃね?」

「女メガネを置いていけば二往復で行けるわね」

「だからそう言う事を言いたいのでは無くてだな……シャルは何気に酷くないか?」


 もういきなり仕切れていなかった。


「私が酷いと言いたいの?」

「それはそうなのだがそうでは無くて……ええい!

 アイゼン様から作戦を聞いている。

 それを今から説明するから黙って聞け!」

「始めからそう言えよな」

「勿体ぶるのは無駄です。

 速さにはそんな事は必要ありませんから」


 なんて言うかグダグダだった。


「……これがアインツ最強の騎士団なのか?」

「世界最強のベンアも実は対した事ない可能性はありますね」


 ブリッツとシュトゥルムもそれは感じていた。


「もう黙れ!

 今から私がベンア竜帝国がどれだけ脅威が説明してやる。

 作戦はその後だ!」


 ぶち切れた女メガネの説明は夜遅くまで続けられる事になる。




◇◇◇




「……で、ベンアが凄いって事は分かったから、詳しい作戦は?」

「それは知らん」


 もう夜中だと言うのに何も進展していない。

 ベンアの人口や保有竜数、これまでの戦果などを聞いた所で凄いと言う事しか分からない。

 領土すらもベンアが一定範囲から先を封鎖して居る為、分からない。

 どれもこれもがあやふやな情報をもとに語られていた。


「アインツは団長の力で持っていると言っても良いくらいだから、竜を恐れるのは分かるんだけど……」


 シャルは何時になく慎重だった。


「恐れてばかりじゃ何も出来ないぞ?」


 俺の言葉は女メガネだけで無く、シャルに対しても言っている事だった。

 シャルもまた竜と言う物を知り過ぎているのかもしれない。

 ……俺以上に。


「だが穏便に進める為に交渉という手段を選ぶ事になるだろう。

 その交渉方法を先に検討しなければベンアに行ったとしても意味がない。

 最悪、いきなり拘束される可能性すらあるからな」

「アインツとベンアは仲が悪いの?

 それともベンアは他国の者を受け入れないとか?」


 シャルの質問に女メガネが答える。


「アインツと仲が悪いのだ。

 ……団長が原因でな。

 ちょっと借りるからと言ってワイバーンを連れて来たらしい。

 団長からはベンアに行ってもフェーブスの名は出すなと言われている」

「父上は一体何をしているんだ……」

「ブリッツも知らない事かよ!

 元から案内人とか出来ないじゃん!」


 俺はそう言わずにはいられなかった。


「ブリレ、今夜はもうこれでお開きにしよう。

 各自で交渉方法を考え、明日にまた集まって話し合う方が良いだろう」

「そうだな。

 元からすぐに決まるとはアイゼン様も思っていなかった。

 今夜は学園の寮を借りれるよう手配してあるので心配はいらない」


 どうやらメガネは色々と考えてあった様だ。

 それなら交渉方法も考えておけと思うが……嫌な事ばかり思い付いてしまう。

 メガネが考え付かないと言う事はまともな方法では無理と言う事だからだ。


 だが今回の依頼は特に期限がある訳では無い。

 失敗したからと言って何かが起こる訳でも無い。

 ただベンアとの関係がこれ以上? 悪くならない様にだけはしなくてはならない。


 交渉方法は十分に考えなければならない事だった。




◇◇◇




「寮に泊まる事になるなんてね」

「今日は本当に久しぶりな事ばかりだな」


 俺とシャルは寮の部屋でくつろいでいた。

 残念ながら学園に通っていた頃とは違う部屋だったが、同じ作りの部屋なのだからあまり差は無い。


「あの頃は自分の事ばかり考えていたわ」

「でも俺の事も考えてくれてたんだろ?」

「あまり考えていなかったわ。

 ファーストは何でも自分で出来るって信じてたから」

「俺は何でも自分で出来るシャルの為に何が出来るかって考えてたよ」


 思い出を語るには良い場所だった。


「本当にそうだったの?

 馬鹿な事ばかり考えていた様な気がするけど」

「……それは今も変わらないな」


 俺は本当に馬鹿な事を考えていた。

 ……今も。


 俺は今日この日の為に取っておいたと言っても過言では無い物をマジックボックスから取り出していた。


「……それをどうしようと思っているの?」

「今日は制服プレ……ふぎゃうっ!」


 殴られた。酷い。


「もぅ! 雰囲気が台無しよ!

 ……ちょっとだけだからね?」


 学園での夜は更けていく。

 子供の様に遊ぶ事はもう出来ない。

 今は周りの事を考えなければいけないのだから。


 だが……やっている事は大人の遊びだった。




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