閑話 ご主人様は真っ黒5
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
いつも以上に気分が悪くなるかもしれません。
また偏見などは決してありません。
俺は契約した瞬間に生まれたのかもしれない。
運命の瞬間と言う奴だろうか。
「君が私の使い魔くん?」
目の前に居る主人は一目見た瞬間から大切な存在だと感じられた。
「まさかスライムが召喚されてくるなんて……」
俺はがっかりさせてしまったのだろうか。
自分が弱い存在と言う事は自覚していた。
「私にピッタリね!
君に望むのはただ傍に居て、話し相手になってくれる事だから!」
彼女は……主人は少し変わっていた。
◇◇◇
主人は知り合いが居なかった。
決して友達が居ないと言う意味では無い。
主人もまた召喚された存在。
異世界からの召喚者だった。
「この世界の人は戦いばかりでちょっと苦手」
召喚されてすぐの俺は答える事が出来なかった。
ただプルプルと震える事しか出来ない。
「でも君は違うみたいだね?」
それでも俺の言いたい事は伝わっていた。
◇◇◇
「勇者と称えられてもやる事は人殺し……もう嫌になっちゃう」
主人はいつも戦争に駆り出されていた。
隣国が攻めてくるたびに最前線でそれを迎え撃っていた。
当然、傷つく事も多い。
「ありがとう。君は治癒が上手だねー!」
俺はその度に怪我を治していた。
俺に唯一出来る事だった。
◇◇◇
「有名人は大変だよー……」
主人は街へ買い物などで出かける時にローブが必須だった。
そのローブはマジックアイテムで着る者の気配を薄くする物だ。
主人は勇者として周りに知らない者はいなかった。
歴代の勇者達は全て同じ様な経験をしているらしい。
◇◇◇
『私の名前はアスカ。君の名前は何て言うのかな?』
『俺に名は無い。アスカに決めて欲しい』
長く暮らすうちに俺はテレパシーを使えるようになっていた。
『凄い凄い!
これで本当に会話出来るね!
あ、えっと、名前だったね。
んーと、私が決めて良いんだね?
……プルプル。
君は今日からプルプルだよ!』
『俺は……プルプル。
今日からはそう呼んで欲しい』
『分かったよ! プルプル!』
……正直、この名前はどうかと思う。
だが俺をそう呼ぶのはアスカだけなのだから問題は無かった。
◇◇◇
「また戦争か。私はもうここから動くなって言われちゃったよ」
「問題は無い。俺が傍にいるのだから」
俺はついにテレパシーだけでなく普通に会話も出来るようになっていた。
「そうだね。……でも一人で戦争をしろって酷くない?」
「一人じゃない。俺も居る」
アスカはたった一人で隣国からの攻撃を受け止めていた。
味方がこの場に来るのは食糧や雑貨品を届ける為だけになっていた。
アスカの戦闘力はずば抜けており、周りを巻き込む危険を考えたら正しいのかもしれない。
だがアスカは簡単に受け入れる事は出来なかった。
「敵国も敵国だよ。
いい加減諦めて欲しいよ」
「本当にな。俺達を倒す事など不可能だ」
俺はこの状況をそれほど悲観していなかった。
どんな状況でもアスカと二人で居られればそれで良かったからだ。
◇◇◇
隣国と停戦になったのは随分後になってからだ。
停戦と言っても攻めてこなくなっただけで今も戦争状態らしいが。
「最近は静かになって良いねぇ」
「そうだな。ただ少し暇ではあるか」
アスカはもう満足には戦えない。
……問題は年齢だ。
もう老人と言って良い歳だ。
逆に俺は変わらない。
この先の事が心配になってきたところだった。
アスカとの別れの心配を。
だがそれは考えていたよりもずっと酷かった。
◇◇◇
「アスカ! アスカ! しっかりしろ!」
「ぐぅぅ……うっ!」
アスカは血を吐いていた。
病気や老衰と言った症状では無い。
……毒だった。
そしてタイミングを見計らったように大人しくしていた隣国が攻めてくる。
後で知った事だがアスカの仕える国と隣国は裏で手を組んでいた。
強大になり過ぎた勇者をどうやって抑えるかと言う事で。
アスカを恐れていたのは隣国よりも仕えていた国自身だった。
『プルプル……』
アスカはもう口から言葉を発する事は出来ない様だ。
『もう良い! じっとしていろ!
今、毒を治している所だ。
必ず助けるから安心するんだ!』
毒で破壊された組織を治す事は出来るが、毒の除去には時間が掛かる。
そしてそれは苦痛を伴う事だった。
その上で更に戦闘など……不可能だった。
『プルプルは生きろ。
そして……人間を恨まないで欲しい』
戦闘前の口調の厳しいアスカだった。
アスカは最後まで戦うつもりだったのかもしれない。
そんな事は出来ないのに。
隣国だけでなく、仕えていた国からも軍が向けられていた。
表向きは隣国に対しての挙兵だったが、実際はアスカを倒すために。
そして俺はアスカとは二度と言葉を交わせなくなってしまった。
俺はアスカを助ける事は出来なかった。
なのに俺は……まだ生きていた。
◇◇◇
俺はアスカの言葉を守る事になる。
正確に、という訳では無いが。
アスカの後を追おうとしたが無理だったのだ。
俺の体は勝手に再生を始めどれだけ傷つけても……死ねなかった。
洗礼で神に頼もうとしたが失敗し、魔力が増えただけだった。
そして俺は……アスカの言葉を守る事が出来なかった。
あんな奴らはアスカと同じ人間だとは思えないからだ。
俺の体からはいつの間にか魔石が無くなっていた。
それは……心を失ったからかもしれない。
◇◇◇
俺はアスカのローブを羽織って旅をした。
「……大丈夫か? これで怪我は治ったはずだ」
「あ、ありがとうございます。
もう駄目かと思いました。
少ないですが、お礼のお金を……」
「そんな物はいらない。
ただ……俺の力になって欲しい」
俺は各地で人間を癒していた。
見返りに俺の力になって戦う事を約束させて。
それは驚く程簡単に進んだ。
なぜなら癒した者達自身が既に俺と同じ者達を恨んでいたからだ。
「あいつらは善行だと言い、俺達を虐げてきた」
「施しだと食べ物を配るがそれは元々俺達の物だ」
「こんな奴らに俺達は感謝などしない」
「いつか……いつか復讐してやる!」
人間はいつまでも争っていた。
アスカが亡くなって何百年も経ったと言うのに。
◇◇◇
俺の復讐は終わりを迎えようとしていた。
これまで念入りに準備した。
必ず成功すると思えた。
迷宮に籠り、同じモンスターに助力を求めた。
そのモンスターは人間の世界に興味を持っていた。
話は簡単に進んだ。
だが失敗した。
人間が思わぬ兵器を持っていたからだ。
また俺と同じ様な存在も邪魔をした。
ずっと目を付けていた奴らだ。
俺は更なる計画を実行に移した。
此方の方がより人間らしくて良い計画かもしれない。
今度こそ成功するはずだ。
この時の為に人間達を送り込んだのだ。
……俺と同じ恨みを持つ敵国の者達を。
だがそれを最後まで確認する事は出来なかった。
諦めていたもう一つの道へ進む事になったからだ。
俺は討伐された。
同じ様な、本当に同じ様な存在に誘われて。
後悔は無いと言ったら嘘になる。
でも永遠にアスカの居ない世界で暮らす事には耐えられなかった。
◇◇◇
俺は死んだ……はずだ。
俺は周りが真っ白な空間に存在していた。
魔力だけの存在として。
『汝はこの世界に大きく貢献した。
その為、その望みを叶える事になる』
俺の前には人の形をした神々しい者が存在していた。
これはもしや過去に失敗した洗礼を受けているのだろうか?
『お前は人間の神か?
俺はこの世界に貢献した記憶は無い。
それでも俺をアスカに会わせてくれるのか?』
俺の望みなど一つしか無い。
そして俺の問いかけに神は順番に答える。
『我の存在は会う者の望む姿になる。
汝は人の神を信じているから人の神の姿をしているだけだ。
我は魔力の循環を目的とした存在で、神と言うのは勝手につけられた名だ』
俺は確かに人間の神を信じていた。
洗礼と言う証拠もある。
だがモンスターの神などは信じようも無かった。
そしてこいつは神ですらなく、ただの魔力の集合体なのかもしれない。
『この世界の貢献とは魔力の循環を助けた事だ。
今、この世界は魔力の循環が停滞している。
汝の行った事はそれに大いに貢献した』
俺はただ争い事を起こしただけだ。
それによって確かに魔石は大量に消費された。
また人間も多く死んだだろう。
人間自体が魔力の塊だと考えれば……循環した事になるのだろうか。
そして最後の一番重要な問いかけにこの存在は答える。
『汝の言うアスカもまたこの世界に大いに貢献した。
その願いを叶える為でもある。
アスカは元の世界で元の生活を送っている。
そのアスカの元へ汝を送ろう。
死んでからの時間の差など些細な事は気にするな』
俺はアスカにもう一度会う事が出来るのか。
だがアスカから聞いた世界ではスライムなど存在しない。
それが少しだけ心配になっていた。
そんな心の中は簡単にこの存在には分かるのだろう。
『汝は生まれ変わる。
アスカと同じ人として』
俺は何の心配もしなくて良いのか。
そして俺はこの真っ白な空間からどこかへ移動しようとしていた。
きっとアスカの居る世界へと。
『最後に加護を与える。
……肥満と薄毛の加護だ。
世界に貢献した者に祝福を!』
『は? お前、それは加護な訳が……』
俺の抗議は異世界へ行く為に途中で遮られた。
デブとハゲは元の世界ではあまり良い容姿では無かった気がしたが……。
それは異世界では違うのだろうか?
そこまではアスカに聞いた事が無かった。
最後の最後で俺は不安になっていた。
◇◇◇
俺は人間へと転生した。
だがすぐにアスカと会えた訳では無い。
赤子として本当に生まれた所からの転生だった。
俺は何不自由なく、すくすくと成長した。
その過程でこの世界の事も分かった。
一番実感した事は……デブとハゲは大変だと言う事だ。
だが使い魔でスライムとして暮らしていた頃に比べれば対した事は無かった。
そんな事よりもアスカだ。
俺はアスカに未だ会えない。
手がかりは記憶の中の容姿とアスカと言う名前だけだ。
その名前は異世界でも同じ名を名乗っていたと言っていた。
間違いは無いはずだ。
◇◇◇
俺は学校と言う物に進学する事になった。
そして俺はここで運命の瞬間をまた体験する事になる。
「ア、ア、ア、アスカ!」
俺はまともに言葉を発する事すら難しい程に興奮していた。
「……誰?」
アスカの返事はつれないものだったが。
だが俺はもう感動で行動を抑えられなかった。
俺はアスカを抱きしめていた。
スライムの時では上手く出来なかったが、今はそんな事は無かった。
アスカも喜びを……。
「キャー! 痴漢!」
俺の得た物は強烈なパンチだった。
スライムの時には無かった鳩尾に拳が深々と刺さっていた。
「ぐほっ!」
俺は腹を抑えながらその場に膝を落とした。
目の前があの真っ白な空間とは違い、真っ黒になる。
苦痛だけで無く、色々な意味でだ。
そうこうしているうちに俺は警察に捕まっていた。
しかし……俺の願いは叶えられた。
一目どころか抱きしめる事も出来た。
思い残す事は何もな……少しだけあった。
アスカにあの蔑んだ目で見られるのだけはきつかった。
「俺だ! プルプルだ!
姿は全く違うかもしれないが、それだけは信じて欲しい」
「私のプルプルはもっと可愛いわよ。
こんなツルツルとしたハゲでもポヨンポヨンのデブでも無かっ……」
全く信じていないアスカだったが何かを思い出していた。
そしてその顔は俺の知っている顔に変っていく。
「このツルツルな手触り、ポヨンポヨンな弾力……。
……プルプルなの?
プルプルなのね!?」
アスカは手錠を掛けられた俺に抱き付いていた。
アスカは危ないと止める警察には容姿が大きく変わっていて知り合いだと気付かなかったと説明した。
俺は全ての事から解放され……アスカと会う事が出来た。
神の嫌がらせは祝福だったのかもしれない。
だがこんな変わった事をしなくても良かったはずだ。
かっこいい容姿でアスカと恋に落ちる展開でも良かったのではないだろうか。
ここは異世界のスライムらしさを残してくれたと好意的に取るべきだろうか。
「デブとハゲが神の加護?
そんな訳無いでしょう……。
プルプルが何か悪い事でもしたに決まってるの!
怒らないから正直に話しなさい!」
俺はアスカとの会話を楽しんでいた。
今はまだ……楽しむ余裕があった。
これから行われる長い長い説教を聞くまでは。
彡⌒ミ
やあ(´・ω・`)
ようこそ、真っ黒な空間へ。
この紅茶はドラゴンもおすすめだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「エロ無し」なんだ。済まない。
シャルの顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この項目を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「異種姦」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした異世界で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。
そう思って、この項目を作ったんだ。
じゃあ、感想を聞こうか。
か、感想クレクレじゃないんだからね!
デブとハゲと女の子は異種姦になるのでしょうか?