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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百十六話 魔人


 俺とシャルは依頼を受けた。

 王都襲撃、その原因を突き止める為に。

 そしてアインツに、俺達の周りの人間に仇なす者を突き止める為に。


 まずは連絡の途絶えた者の消息を探す。

 住んでいた場所、連絡を取り合った者などはすぐに分かった。

 だが肝心の本人は見つける事が出来なかった。

 ドラゴンの感覚を持ってしても、会った事のない人物では限界があった。


『んー、見つからない』

『会った事のない人物は流石に見つけられないわよね』


 ドラゴンと言えど万能では無いと言う事か。


『痕跡が何も残っていない。

 この世界でそんな事をする必要があるのかと言うくらいにな』

『何の為に……あーもう嫌な予感しかしないわ』


 そう、まるで念入りに調べられる事が分かっていたかのようだ。

 この世界には科学的に捜査する者も方法も存在しない。

 あるとすれば魔力を使った物か……超感覚的な物。

 つまり……嫌な予感しかしないと言う事だ。


『諦めて最近不審な人物がいなかったか街を調べてみるわ。

 ファーストはそのまま警戒をしていてね』

『了解。

 シャルに不信な者が近づいたらすぐ知らせる。

 ……いやすぐ傍へ行く』

『心配性ね。その辺は任せるわ』


 シャルに限ってそうそうやられる事は無いと思うが、俺はもう姿を隠す事を諦めている。

 姿を晒したら晒したでそれ程問題にはもうならない……はずだ。




◇◇◇




 シャルが街で不信な人物について聞いて回るとすぐに情報が集まった。

 むしろ広まっていた。

 腕に覚えがあり、迷宮へ行ける者が募集されていると言う事が。

 それ程変わった募集では無いがこれが冒険者ギルドに発注されていないと言うのが問題だ。

 ……ギルドに発注出来ない程、怪しげな事をするに決まっていた。


『……募集に参加してみるわ』

『それが手っ取り早いか。

 まぁ大勢募集しているようだし潜入は容易だろう』


 募集は不特定多数に渡って行われていた。

 噂という形で伝わっているのだからな。

 そして参加の仕方も簡単だ。

 酒場で男に会うだけ、それだけだった。

 だがその男がローブの男という訳では無いが。


「お、嬢ちゃんも迷宮探索に参加希望か?」

「ええ、でもまずはどんな事をするのか話を聞かせて欲しいわ」

「それは構わねぇが、ここではちょっと人が多すぎる」


 そう言ってどこにでも居そうなおっさんは紙切れを一枚、シャルへと渡す。

 それにはある場所の位置が書かれていた。

 ここで話すと言う事だろう。


 おっさんは目配せをする。

 返答の有無を知りたいのだろう。


「……分かったわ」

「是非参加してくれることを祈ってるぜ!」


 このおっさんを捕えて話を聞きだす事も出来るかもしれない。

 だが今は言われた通りの場所へ行ってみる事にした。

 ……何かあればまたこの一般人にしか見えないおっさんに話を聞くことになるだろう。

 今度は少し手荒な方法になるかもしれないが。




◇◇◇




 シャルは警戒しつつも一人だけでその紙に書かれていた場所へと来ていた。

 ……当然、上空には俺が待機しているが。

 ここは街からも迷宮からも遠い人気の無い場所だった。

 そして普通の者なら本当に人の気配を感じる事は出来なかったはずだ。

 そのローブの効果で。


 だがそれはシャルのローブの事だけでは無い。

 目の前に居るローブの男(・・・・・)の事も含んでいる。

 目の前と言っても木の影に身を隠してはいるが。


「出てきなさい。

 ……わざわざ誘いに応じてあげたんだから手間を取らせないで」

「……分かっていたのか。

 それでもここへ来たのは勇敢なのか、無謀なのか」


 シャルは分かっていた。

 ローブの男がシャルを誘っていたのを。

 いや、そこには俺も含まれるのかもしれないな。

 わざわざ国の手の者を痕跡を全く残さず消したのは俺と言う存在を呼び寄せる為だ。

 普通では気付けない様な事を調査する為には超感覚を持つ様な存在が必要だからな。

 また如何にも怪しい募集をしていたのもわざとだろう。

 そして目当ての者だけにこの場所を教えたと言う事か。


 俺は上空で隠れているつもりはもう無かった。

 ……どうせローブの男は気付いているのだろうし。

 上空から急降下し、俺はローブの男へ言い放つ。


「それはこっちの台詞だな。

 たった一人で現れるとは無謀な奴だ」


 そして俺は隠し事などせずに人の言葉で話しかける。


「ドラゴンか、久しいな。

 ……あの時よりは成長しているようだな」


 ローブの男は俺の幼生時の姿を見てそう言った。

 当然、成体の事を知っていると言う事だろう。

 そしてちょっと馴れ馴れしいのがムカつくな。


「世間話をしに来た訳では無いの。

 でも色々と話をしたいと言う事は同じね」


 シャルはそう言って深く被っていたローブから顔を出す。


「まずは顔を見せてくれないかしら?

 後は自己紹介でもしてくれたら助かるわ」


 そんな事をする訳が無い……とは言い切れない。

 わざわざこんな場所まで誘い出しておいて、未だ奇襲すらかけられない。

 周囲に伏兵が居ない事も確認している。

 何かしら話をしたいと言うのがローブの男の目的に感じられた。


「これは失礼したね。

 俺の名前は……別に何でも良いだろう?

 まぁ、お前達と同じ様な者だ。

 ただ立場は完全に違っている」


 ローブの男は本当に自己紹介を始めてしまった。

 怪しげな説明ではあったが。


「俺はアインツに敵対する者だ。

 まぁ、それは言わなくても分かっていただろう。

 あとは、そうだな。

 お前達を勧誘しに来たと言えば納得してくれるか?

 俺と一緒にアインツを滅ぼそう。

 それがこんな場所へお前達を誘った理由だ」


 そして自らの目的までも話しだした。

 これはあれか、嘘を言って言葉巧みに俺達を操ろうって言う魂胆か。


「その調子で色々と話して頂戴。

 ……ただそのローブを脱いでからにして貰おうかしら。

 貴方の返答に答えるのはそれからでも遅くは無いでしょう?」


 シャルが言う事はもっともだった。

 顔を隠した相手とはまともに話し合おうとは思えない。


「俺としたことが忘れていたな。

 たびたび失礼して申し訳ない。

 ……だが話し合う必要は無くなるかもしれない」


 そのローブは多分シャルと同じ気配を薄くするマジックアイテムなのだろう。

 いやもっと強力な認識疎外の物か。

 話す為にそのローブを脱いで貰ったが、言葉通りその必要は無くなったのかもしれない。


 ローブの男は男では無かった。

 そして女でも無い。

 人の形をしているだけで透明な液体の様に感じられる。


 まるでスライムのモンスターの様に。


「もうお分かりかもしれないが、王都襲撃を行ったモンスターを裏で操っていたのは俺だ。

 だが特殊な力で操った訳では無い。

 今と同じ様に言葉で行った事だ。

 迷宮のモンスターは俺の話をよく聞いてくれたよ」


 その姿に驚く間もなく、このスライムはどんどん確信を話していた。

 驚くほど簡単に。

 黒幕はコイツでモンスターはやはり迷宮からの物だった。

 ……話した言葉が本当ならだがな。


「俺は何もかも正直に話している。

 話し合う必要など無いと思っているかもしれないが、もう少しだけ話をしないか?」


 俺の心を読んだのかスライムは本当の事だと念押しして来た。

 理由はすぐに戦闘行為をしたくない為だろうか。

 それとも本当に俺達を仲間にしたいと誘っているのだろうか。

 多分両方か。


 そして俺はこれまで何度も同じ体験をしてきた。

 今のこのスライムと同じ側の体験だ。

 ……人は簡単にはモンスターの話を聞かない。

 きっと本能的に感じてしまうのだろう。

 モンスターと話し合っても意味がないと。


「……これが貴方の戦い方なの?

 言葉で敵を操るなんて、モンスターとは思えない変わり者ね」


 シャルは俺よりも冷静だった。

 これは戦いだ。

 俺達はこのスライムの手の内に誘い込まれているのだから。


「……お前は俺の天敵かもしれないな。

 昔、ドラゴンを誘拐した時もそうだ。

 本当の主人を偽り、俺を混乱させた」


 ……そうしたくてそうした訳では無かった。

 そんな事よりも重要な事はスライムが俺達の事を良く調べていた事だ。

 あのレーム達以上に。


「そして今回は使い魔としてでは無く、主人としてドラゴンを操るか。

 ……ドラゴンの方なら簡単に俺の言葉で操れそうだったのにな」


 シャルは俺とスライムの会話の間に割って入ってきた。

 そして以降はずっと会話の相手をしている。

 何か嫌な予感をシャルは感じ取っていたのかもしれない。


 ……俺は守るつもりが守られていた様だ。

 その事を敵であるスライムに教えられるとは……。

 いや、しかし俺がスライムの口車なんかに乗るはずが無い!

 ……と思う、たぶん。


「私のドラゴンは繊細なの。

 これ以上、貴方の言葉を聞いていたら悪い方向へ行くと判断したわ」


 スライムの言葉は本当なのかもしれない。

 だがそれを確認する方法は今は無い。

 これ以上の会話はやはり不要なのかもしれない。


「最後に、貴方は使い魔だと思うけれど……主人はどこ?」


 モンスターが人の言葉を話すのは使い魔である可能性が高かった。

 またこの様な人間くさいスライムはそれ以外考えられなかった。


「……もう居ない。

 出来ればもっと詳しく説明したいが……」

「もう語る事は無いわ」


 敵である者の素性なんて、知らない方が良い。

 それがたとえモンスターであっても。


 俺は話を聞いてからでもと思っていた。

 だが忘れてはいけない。

 コイツは王都襲撃の黒幕だ。

 そんな事をする前に話し合いをするべきだったのだ。


 しかし……しかしだ。

 その話し合いは出来たのだろうか?

 コイツの行った事は元の世界で言うならばテロに近いのかもしれない。

 話し合いで解決しようにもその話し合いを行う事が出来ないのだ。

 そしてその間にも片方の側が虐げられている事もある。

 ……モンスターの様に。


 それに主人の事も気になる。

 主人と別れた使い魔の、その存在意義はなんだろうか。

 ……考えたく無かった事だ。

 そして頭に浮かんだ事は全てが悪い結果ばかりだった。


『ファースト! 今は深く考えないで』

『あ、ああ!』


 俺はやはり言葉に弱いのかもしれないな。

 シャルは俺に檄を入れると同時にこれからの指示も出していた。


「……作戦会議は終わったか?

 今はそのテレパシーがとても羨ましい」

「もう語る事は無いと言ったはずよ!」


 シャルの言葉に続き、俺は行動へと移す。

 瞬時にして成体へと変態し、己の力を解放する。

 魔術でスライムが炎に包みこまれるまで一瞬の事だった。




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