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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百十四話 意訳


「な、な、何を?」


 アルタールの間抜けな言葉が聞こえてくる。

 素手で拘束具を引きちぎるなど信じられないのは仕方がない。


「こんな物で私を拘束できる訳が無いでしょう?」


 シャルはそう言って女メガネの拘束具も簡単に引きちぎる。

 ハトノの者達は呆気にとられて何の行動も起せなかった。


「本当は色々仕返しして上げたい所だけど別に乱暴な事もされなかったから今回だけは許してあげる。

 アインツとの外交問題になっても面倒だしね」


 それはまるで天使の様に優しい回答だった。

 ……シャルらしくない。


「アキラ、剣は返して貰うわね」

「は、はい!」


 アキラでさえ目にした光景に驚きを隠せない。

 シャルが呼び捨てにした事すら気付かない程だ。

 言われた通り剣をシャルに返すのが精一杯だった。


 初めにいつも通りの対応が出来たのはこの光景を目にしていないハトノの兵士だった。


「報告します!

 近隣の街にゴーレムが攻めてきました。

 巨大なゴーレムも確認されています。

 しかも一体では無く、複数です!」


 その報告にまたしても皆は驚いていた。


「あらあら大変ね。

 ……私はもう帰らせて貰うけど」


 シャルだけは全く驚いていないが。


「……あ、あわ、慌てるような事ではありません!

 クノッヘン! そこの咎人達を捕えなさい!

 勇者様は再度の討伐をお願いいたします」


 アルタールはめっちゃ慌てていたが何とか指示を出していた。

 アキラは状況に着いて行けていないと言うよりもまた迷っている様な感じだった。

 そしてクノッヘンは……俺を鷲掴みにしていた。


「……無駄な抵抗は止めて頂きたい。

 無益な殺生をしたくはありません」


 クノッヘンはそう言いながら俺をシャル達の方へと向けたいた。

 このまま大人しくしないと俺はどうなってしまうのか!


「ファースト、もう良いわ。帰りましょう」


 シャルのお許しが出た。

 俺を縛る物はもう何も無い。


「ぎゃうぎゃう! じゃ無かった、了解だ!」


 もう周りは驚きすぎて呆れかえっている様な感じだった。

 そしてその驚きは最高潮を迎える。


 ……俺が成体へと変態したからだ。

 それと同時に拘束具である首輪も壊れる。

 当然、クノッヘンが掴む事は出来ない。

 逆に俺がクノッヘンを下敷きにしていた。


「ハトノの皆さん、あんまりシャルを怒らすなよ?

 ……食べちゃうぞ?」


 その反応は様々だった。

 腰を抜かす者。

 震え上がる者。

 武器に手を掛ける者。

 そしてクノッヘンなどは何が面白いのか笑い声を上げていた。


「……君はそんな力を隠していたんだね」


 そしてアキラも笑っていた。

 先程までの迷いなど吹き飛んだのだろう。

 今、目にしている事に比べたら何と些細な事と思えているのかもしれない。


「何も隠してねーよ。

 ……シャルの部屋に勝手に入りこんだ事とかな」

「なっ! ……それは隠しておいてくれよ」

「すぐテレパシーで告げ口したし!」

「お前は本当に……嫌な奴だよ!」


 おいおい、俺はもっとお前の事を嫌っているって!


「ファースト、その辺にしなさい」

「はいはい」

「はいは一回!」

「はひ!」


 久しぶりに話した会話は何とも締まらない落ちだった。


 シャルが会話を切ったのは理由があった。

 一応、今はゴーレムが攻めてきていると言う報告を受けたのだから。


「私達は帰らせて貰うけど、アキラはどうする?

 ……もし良ければアインツへ来ない?

 ハトノよりは幾分ましな程度だけど」

「……そこは良い国だと言って欲しい物だ」


 シャルはアキラをアインツへと勧誘していた。

 言い方は女メガネが突っ込むほど酷い物だったが。

 俺は正直アキラには来て欲しくない。

 むしろ、死んで欲しいくらいだからな!


「行きます……と少し前の僕なら言っていたかもしれません。

 でも僕は曲がりなりにも勇者なのです。

 一度言った事は守ろうと思います。

 ……僕はハトノに忠誠を誓っています。

 お誘いには応じれません」


 アキラはシャルの誘いを断った。

 正直、驚きだ。

 俺はこれまでの事で何一つ驚いていなかったがこの言葉には本当に驚いた。

 それはシャルも同じだった。


「まさか断るとは思わなかったわ」

「僕はシャルさんより長くハトノに居ます。

 悪い事ばかりが目につくかもしれませんが、良い所もあるんですよ?」


 そう言ってアキラはハトノの皆に笑顔を見せていた。

 先程までハトノの連中はこの世の終わりの様な感じだったのが、一瞬にして明るい感じに変わってしまった。

 これが勇者と言う存在の力なのかもしれない。


 だが俺はこの瞬間気付いてしまった。

 アキラはハトノの方を向いていたが、正確にはグレーテを見ていた。

 ドラゴンの感覚でなければ気付けない程の僅かな時間だけだがな。

 そしてドラゴンで無くても誰が見てもグレーテは勇者に惚れていた。


 たぶん、アキラもグレーテを好いている。

 アキラは決して表には出さないがな。

 俺はアキラを敵対視し、その行動を事細かに監視していたから気付けた事だ。


 そして導き出された答えはやっぱりアキラは死んだ方が良いのかもしれないと言う事だ。

 アキラはシャルを囮にしやがった。

 自分が好意を寄せた者は多かれ少なかれ監視下に置かれる事が分かっていたのだろう。

 最悪の場合……シャルのような目に遭う。

 そうなればアキラ自身も身動きが取れなくなる。

 シャルを囮に選んだのは自分よりも強く、守る必要が無かったからかもしれない。


「そうなのかもしれないわね。

 でも私の(・・)ファーストはアキラとは違う考えみたいなの。

 あんまり長居すると暴れ出しそう。

 早めにお暇させて貰うわね」


 シャルは俺の方へと進む。

 その後には女メガネも続いていた。

 もう姿を晒してしまったのだ。

 空を飛んで帰る事に何の支障も無いからな。

 だがシャルは何かを思い出したように立ち止まり、アキラの方へまた戻っていく。


「忘れていたわ。

 ……この剣を渡しておくのをね」


 シャルは先程返されたばかりの剣をまたアキラへと渡していた。


「良いのですか? とても高価で貴重な物だと思いますが……」

「貸すだけよ。必ず返しなさい!」

「……はい!」


 はぁ……。

 シャルはかっこいい事言って剣を渡してしまった。

 あれ見つけるの結構苦労したのに。


「あと、アルタール! 貴方には言っておく事があるわ」

「……謝罪が欲しいのでしょうか?

 勇者様はハトノに残って下さる。

 戦う為の剣もその手にある。

 私の、ハトノの望みは全て叶っています。

 どんな事でも聞き入れましょう。

 ……協議や再考などせずに」


 アルタールはもう抜け殻の様になっていた。

 今まであった威厳の様な物はもう無い。


「私はモンスターでは無いの。

 そんなに酷い事を言うつもりは無いわ。

 ……アキラさんに貸した剣の使用料はハトノが払いなさい。

 年間十億ギルで良いわ!

 買取なら一千億ギルね!」


 確かにモンスターはこんな事は言わない。

 酷いかどうかは別として。


「……聞くとは言ったがそれが叶えられるとは言っていない」


 アルタールはこの期に及んでまだそんな事を言っていた。

 やっぱりこいつは信用ならない。


「大丈夫。

 支払いの心配はしなくて良いのよ。

 ……必ず支払わせるから」


 シャルは天使の様な笑顔で悪魔の様な事を言っていた。

 異世界風に言うと魔王の様な、だろうか?

 いや、とても人間らしいと言うべきか。


 言葉に詰まり何も話せないアルタールを置いて俺とシャル、女メガネはその場を後にした。

 俺は背に二人を乗せ、建物を破壊しながら空へと上がる。

 ハトノには色々と後始末がたくさん残っていたが、それはもう面倒だ。

 どうせどっかのメガネが上手くやるに決まっているからな。


 俺が建物を破壊したのは気晴らしに少し暴れたかっただけだ。

 そしてそれはまだ始まったばかりだった。




◇◇◇




 俺とシャルはアインツへと帰って来た。

 女メガネからは解放されやっと落ち着けると思ったがそうはいかなかった。

 目の前には元祖メガネ。

 副団長が怒りを抑えながら此方を睨んでいた。


「今回の任務は大成功だった様ですね。

 一歩間違えばハトノと戦争になる所でしたが!」


 メガネは説教モードに入っている様だった。


「その辺は良いからハトノがその後どうなったか教えて」


 シャルはいつも通りそれを躱す。


「……まぁ良いでしょう。

 先に其方の件を話します。

 貴方達が暴れて立ち去った後、勇者様の手によってゴーレムは討伐されました。

 報告書にあった一般のゴーレムよりも巨大な大型ゴーレムも全てです」


 それは予想通りだ。


「ハトノの受けた被害は建物の損傷だけで人的被害はありません。

 勇者様の力は素晴らしい物の様ですね」


 それも予想通りだ。

 だってシャルがレームにそうしろって言ったんだもん。

 つまり全てが出来レース!

 レームには一度ゴーレムが全て討伐されたと思わせようと提案していた。


「そして最大の焦点であった勇者様の身元ですが、それは冒険者ギルドの協力で確認出来ました。

 保存されていた過去の勇者のギルドカードによってです。

 結果は過去と現在の勇者は同じ魔力を持っていました。

 つまり同一人物です」


 この世界に魔力が全く同じ者は存在しない。


「ここからは何の確証もありません。

 アルタールの証言だけが全てです。

 アルタールは勇者の遺体を再生、復活させました。

 ……加護の力を使って」


 人間に遺体を蘇生する事など出来ない。

 だが神になら可能と言う事だろうか。

 アルタールは洗礼を受け、加護の力を得ていた様だ。

 全く同じではないが似たような加護を持つ者を見た事がある。

 いやそれは加護では無く、純粋な祈りの力だったか。

 その時は瀕死の重傷でもう死にそうだった者がいや死んでいたのかもしれないが一瞬にして怪我が治ってしまった。

 神の奇跡と言った方が分かりやすいかもしれないな。


「ですがそれは完全ではありませんでした。

 肉体は再生出来ても精神は宿らなかったようです」


 それは魂? が無かったと言う事だろうか。


「死んだ者は蘇らない。

 それは精神が戻らないと言う事だと。

 アルタールはそれならばと……召喚によって再生した勇者の体に精神を入れようとしました」


 新しく異世界の人間を召喚すればとも思ったがそれは出来なかったのだろうか。

 アルタールは過去の勇者の体に何かこだわりがあったのかもしれない。


「アルタールは元教会の関係者でした。

 秘密裏に召喚方法を入手したそうです。

 後日教会はその事実を知る事になり、ハトノとアルタールを監視していたそうです。

 その時に勇者の存在を確認し、各国に広めたと言う事でした」


 教会は基本的に国に不干渉だからな。

 周りの国を動かしてどうにかしたかったのかもしれない。

 純粋に勇者の存在を広めたかっただけかもしれないが。


「話を戻しましょう。

 アルタールは召喚方法を入手しましたが、召喚自体には失敗しています。

 これは他言無用に願いますが、教会で保管されていた召喚方法は不完全な物だった様です。

 正直な所、実際には何も起きない様な物です」


 もしかしたら敢えて不完全な物を残したのかもしれない。

 それは考え過ぎだろうか。


「ですがアルタールはその不完全な召喚方法を独自に研究していました。

 実際に何度も実験を繰り返していた様です。

 結局それは不完全なままでしたが……半分くらいは成功していたようです」

「半分とは?」


 メガネの説明にシャルが質問をしていた。

 それはとても興味深い事だった。


「異世界から精神だけは召喚出来たと言う事です。

 しかし肉体と精神は一緒にある物らしく、精神だけではどこへ召喚されるか分からない様です。

 最後まで召喚では再生した勇者の肉体には宿らなかったのです」


 気になる事は沢山あったが今は続きを聞くしかなかった。


「召喚の実験は何度も繰り返されました。

 そしてその間ずっと勇者の肉体を保存しておく事は出来ませんでした。

 精神の無い肉体はすぐに朽ち果ててしまうのです。

 召喚の実験と同じ様に勇者の肉体の再生復活も何度も繰り返されました」


 精神の様な見えない物ならまだ何とか耐えられるかもしれないが、肉体が何度も朽ち果てるのは想像したくなかった。


「ゴーレムを執拗に狙ったのは精神について調べたかったからだと。

 もしかしたら召喚失敗の影響で発生したのかもしれないと考えたそうです」


 魂の無い人形が動いていたのだ。

 何か関係があると思っても無理はない。


「また話しが逸れているわ。

 ……アキラは一体何者と言う事を知りたいのよ」


 俺もそれが知りたかった。

 敵の事を知っておく事は重要だった。


「何度も繰り返された実験。

 そのうちの一回で何故か精神が宿ったらしい。

 それも召喚の時では無く、肉体の再生復活時と同時に精神も宿っていた」


 そんな事があるのだろうか?

 何らかの別の力が働いたと考えた方が自然だと思えるが所詮は憶測だった。


「結局どうして宿ったのか分からないと言う事ね。

 長々と話を聞いて損した気分よ」


 だが有意義な情報もあった。

 ほんのわずかな可能性に過ぎなかったが。


「まだ話は終わっていない。

 勇者様についてはこれだけだが……次は君達の取った行動についてだ」


 メガネはこれが本題だとでも言いたげだった。


「ブリレにもきつく言っておいたが……ハトノの軍事施設を破壊したね?」

「久しぶりに成体へ変態したから上手く飛べなかったんだよ」


 俺は取ってつけたような言い訳をする。


「そもそも成体の姿を晒すべきでは無い。

 それに一か所ならまだしも兵の駐屯所、全てを破壊するなど狙ってやったとしか思えない。

 証拠もある。

 ブリレはその場所を君達に教えたと吐いたよ」


 吐いたって同じ騎士団員にどんな事をしたのだろうか。

 女メガネにはドラゴンの搭乗料の代わりに情報を頂いていた。

 言わなかったら途中で降りて貰う事になっていた。


「軽い挨拶みたいな物よ。

 ハトノでは色々とお世話になったからね」


 シャルのそれは脅しと言う物だった。


「ハトノは君達に大変感謝していると言っていたよ。

 剣の使用料も必ず払うとね。

 だからもう二度とハトノには来ないで欲しいそうだ!」


 まぁそうなるよね……。


 これはシャルの描いた構想だった。

 ゴーレムの討伐を利用した剣のデモンストレーション。

 円滑な支払いを促す為の軍事施設破壊。

 大義名分、主にアインツに対する言い訳を得る為にわざと捕まる事も忘れない。

 軍の信用を落す事で更に勇者の重要性を上げる。

 勇者はゴーレムの討伐には反対だからな。

 今回の事でゴーレムの姿をもう現さない様にレームには行ってある。

 だがたとえまた見つかったとしても勇者がそれをさせないはずだ。


 最後に俺の成体を晒す事。

 アインツには騎士団長以外にもドラゴンを操る者がいる事を内外に知らしめる事にしたのだ。

 俺とシャルはもう目立たない事は諦めた。

 いやそんな事は気にしない事にしたのだ。

 その方が自由気ままに過ごせる様な気がした。


 そしてここからは俺の描いた構想だ。

 アインツの有名人となってしまえばもう裏の仕事は無くなるだろう。

 国の者がそんな事をしているとは大っぴらにする物では無いからな。


 シャルは疲れていた。

 決して口には出さないが。

 そして俺は心配だった。

 このままではいずれシャルは壊れてしまうのでは無いかと。


「お金さえ支払って貰えればそれで良いわ。

 あとは依頼の報酬ね。

 成功したんだから弾んでくれるんでしょうね?」


 こんな言葉は全て建前だ。

 何か目先の目標が無ければ簡単に心が折れてしまいそうだ。

 ……俺はシャルを支える事が出来ているだろうか。


「今回は大成功と言える結果だからな。

 当然報酬もそれに見合った物を貰おうか!」


 俺はただシャルの後を付いていくだけだが。


「君達は本当にもう……。

 報酬は五千万ギル分。

 更に勇者の懐柔にも成功したと言えるだろう、それが五千万ギル分だ。

 合わせて一億ギル分が今回の報酬になる」


 メガネは本当に報酬を弾んだ。

 数年かけて数千万ギルだったのにな。

 でもまだまだ半分にも到達していなかった。


「割と多いのね。

 最後に……しばらく依頼は受けない事を伝えておくわ」

「此方でも今後の依頼は慎重に選ぶ事になるのでしばらく依頼はしないと伝えておく」


 メガネは不機嫌なのか少し突っ張った言い方だった。

 不機嫌なのはいつも通りか。




◇◇◇




 俺とシャルは久しぶりにゆっくりする時間が取れた。

 ハトノではいつも誰かに監視されていたからな。

 人間じゃないゴーレムみたいなのもいて本当に心休まる時が無かった。

 ……自分達の事を落ち着いて考える事も出来ない。


『ファースト、アキラはやっぱり異世界人では無いのね?』

『たぶん……ね』


 シャルはアキラに探りを入れていた。

 異世界人しか分からない言葉を交える事で。

 アキラはそれに何の反応も示さなかった。


 それは俺の提案だった。

 つまりシャルは俺がそう言う事を知っている者……異世界からの転生者と言う事を知っていた。


『私はファーストが転生者と知って本当に嬉しかった』

『それは俺も同じ気持ちだったよ』


 そしてシャルは凄く喜んでくれた。


『この世界でたった一人。

 私だけ(・・・)が異世界から転生した者では無いと分かったから』


 それはシャルも同じ転生者だったからだ。

 この事はシャルが俺を受け入れた事に影響を与えたはずだ。

 いや、むしろ同じ転生者、異世界人でなければあり得なかったかもしれない。


 ……シャルは異世界人なら誰でも良かったのかもしれない。

 そんな事は無いとシャルは言うが俺はどうしても気になっていた。

 そこへ現れたのが異世界からの召喚者、アキラだった。


 俺は不安で堪らなかった。

 シャルが俺から離れるのではないかと。

 しかも俺とは違い人の姿をしている。

 ……杞憂に終わったがな。


 シャルの誘いを断るとはなんて凄い奴だと今は尊敬すらしている。

 今となってはどうでも良い事だが。


『同じくらいどうしてもっと早く教えてくれなかったのかと言う怒りもあったけどね』

『そ、それはお互い様って事で許して欲しい!』


 だがシャルは過去の事を簡単には忘れない。

 もう本当に忘れて下さい……。


 自分が異世界からの転生者だったとして、それを他の者に伝えるのは難しい。

 だがそれが同じ転生者ならそれほど難しい事では無かった。


 俺とシャルはそう言った理由で異世界に関する情報を集めていた。

 そして今回、重要な情報を得る事になった。


『私ね、実は自分が選ばれた存在なんじゃないかって少しだけ思っていたの』

『それは俺も少なからず思ってた』


 だがそれは違っていた。


『……召喚の失敗作が私達だったのかな?』

『何を持って成功か失敗かと言う事になるかな。

 ……成功していたらシャルは男の体になっていたかもしれないぞ?』

『それはそれで面白いじゃない!』

『俺は嫌だよ。シャルが男なんて!』


 此方の召喚で言う所の俺達は失敗作と言う事にはなるのかもしれない。


『そうね、考え方次第よね。

 失敗したから私達は出会う事ができた』

『それは成功よりも難しい事だったのかもな』


 今だからこそ言える。

 召喚が失敗して良かったと。


『でも私は更に難しい事をしようとしている』

『俺はそれを手伝うだけさ』


 しかし今度は失敗する訳には行かない。


『元の世界に帰る。

 いえ、必ず元に戻るわ!

 勝手に異世界に連れてこられたなんて耐えられない。

 私は自分の事は自分で決めるのよ!』

『俺はシャルに決めて貰う!』

『……それは自分で決めて欲しいって何度も言っているでしょう』


 シャルは元に戻る道を選んだ。

 絶望的に険しい道のりだ。

 初めから不可能な事なのかもしれない。

 だが俺はただそれを手伝い、付いていくだけだ。


『んー、取り敢えずお店に顔を出そうか?』

『そう言う事を言っているのでは無いのだけど……まぁそれには賛成ね』


 俺はシャルからの問いにはいつも濁すだけだった。

 たとえシャルの頼みでも聞けない事もある。


 俺はシャルが一番だから。




◇◇◇




 久しぶりにお店に顔を出すと見慣れた顔がいくつもあった。


 女将さん、料理長、トレーネにツェーレ。

 モルトにエグ、ルグ、カーグ。

 常連のお客達も忘れない。


「シャルちゃん、おかえり!

 旅の話を聞きたい所だけど、お友達だよ!」


 女将さんがいつもの感じで話すが、その内容はちょっといつもとは違っていた。


「あ、奇遇だね。

 ここのお店で働いてるらしいね?

 僕達もしばらくこの王都に滞在しようと思っているから宜しくね」

「主人共々宜しくお願いします。

 それでつかぬ事をお聞きしますが、このお店のお勧めなんでしょうか?」


 お友達とはレームとフェルスだった。

 こいつら……。

 レームとフェルスは王都で観光を楽しんでいるらしい。

 俺とシャルは呆気にとられて何も言えなかった。


「いやー、故郷がちょっとばたばたしちゃってさー。

 暫く離れた方が良いかなぁってね!」

「この前はお茶をご馳走したはずです。

 ぜひおすすめの料理を!」


 レームが説明する中、フェルスは珍しくレームを無視して料理の事から離れなかった。

 ……ちょっと怖い。


 俺達はレーム達に囮にされたのかもしれない。

 実際目立ったのはゴーレムよりもドラゴンである俺だった。

 まったく勇者にも魔王にも碌な奴は居ないな。


「……良いわ、自慢の料理を振る舞ってあげる。

 竜の姿煮よ!」

「おお! さすがはドラゴンマスター!」

「私の歯は何でも噛み砕きます。

 たとえドラゴンと言えど食べ切って見せます!」


 フェルスはガチガチと歯を鳴らしていた。

 それめっちゃ機械の歯だから。

 ギザギザですんごく痛そう。


 震えていた俺をシャルが鷲掴みにする。


「ぎゃうぎゃう!!!」


 ドラゴンの悲痛な叫びが響くがやがて……聞こえなく……。

 ……口が塞がれただけだ。

 まだ生きているからな!


 だが生きているだけでは意味は無い。

 この厨房(世界)から逃げ出す? のはまだまだ先になりそうだった。





ザフィーア

性格は真面目

趣味は神への祈り

シャルが学生時代に教会の奉仕活動で何度か顔を合わせた事がある

教会では枢機卿と呼ばれる高い地位にあるが、洗礼は受けていない

加護を貰っていないが、純粋な祈りの力? は治癒の効果がある

シャルの洗礼の際、少し? 揉め事があり仲は良くない、教会と仲が悪いのはその時の事が原因


負債…………4憶3000万

報酬…………5000万

追加報酬……5000万(勇者の懐柔に大きく貢献)

追加報酬……2000万(ハトノとの友好? 関係に貢献)

――――――――――――――――――――

負債残高……3憶1000万


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