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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百十一話 意志


 俺とシャルは何食わぬ顔でハトノへと帰還した。

 アキラと別れてからそれ程時間は経ってはいない。

 すぐという訳でも無いが。


 合流した場所はハトノの軍の前線だ。

 ハトノの軍は前線を少しだけ下げて待機していた。

 ゴーレムの追撃が長く行われなかったからだろう。

 もしかしたら俺達の為に下がらなかったのかもしれないが……。


「シャルさん! 生きていたんですね!」


 ハトノに戻った時、一番喜んでいたのはアキラだった。

 腕には包帯の様な物を巻いており、魔術で治癒したと思われるがまだ怪我は治っていない様だ。

 だがそんな事は関係ないとばかりに腕を広げる。

 そして感動のあまり? シャルに抱き付こうとしていた。

 軽く鳩尾にドラゴンアタック! を喰らわせてやったがな。


「ぐはっ!」


 感動のあまり? 涙目になっていたな。

 まったく、ふざけやがって……ぶっ殺すぞ!


 アキラだけで無く、ハトノの兵やクノッヘンも同様に喜んでいた。

 しかしアルタールだけは帰還までの時間が長く、不信に思っていたようだった。


 そしてシャルは再会を喜ぶ事もそこそこにハトノの皆の前で報告を始めた。


「撤退時に気付いた事があるわ。

 ゴーレムは一定以上は攻めては来ない。

 私が無事に帰還できたのはこのお陰ね」


 この事をハトノは知っていたはずだ。

 だから前線のラインをほとんど下げなかったのだ。


「それにゴーレムはモンスターでは無いわ。

 突然変異(・・・・)のただの生物では無いかしら?

 ただの生物なら無理に討伐する必要も危機感を持つ必要も無いのかもしれないわね」


 つまりシャルはゴーレムを脅威では無いと言っていた。

 しかしそれは上手く伝わらない。


「突然変異とは……我々の知らない未知の生物と言う事か?」


 クノッヘンは首をかしげていた。


「……モンスターでは無いとしても脅威である事に変わりは無い」

「そうだ! 戦闘になった事は事実だ!」


 アルタールは討伐の意志をまだ持っている様だ。

 そして他のハトノの議員達も同じ考えの様だった。


「おお、よくぞもどったー!」


 女メガネは棒読みな感じの台詞を言っていた。

 こいつは何も心配していなかったようだな。

 むしろ勝手な行動を取った事を怒っているのか此方をずっと睨んでいた。


「生物には普通、生活する範囲が決まっています。

 警戒は必要かもしれませんが、このまま手を出さない方が良いのかもしれません」


 アキラはシャルの考えを受け入れていた。

 結局、その場ではすぐに結論は出ず、一度ハトノの代表と議員達によって協議される事となった。

 何よりもまずはアキラの治療が優先されたようだ。

 シャルが戻らなかった間、アキラは前線から動こうとしなかったそうだ。


 アキラはグレーテに引っ張られながら治療の為に連れられて行った。

 グレーテはシャルの事を毛ほども気にしていない様だ。

 いや、意図的に無視していたのかもしれないが。




◇◇◇




 ハトノの協議は暫くの期間続きそうだった。

 少し違うか、協議はすぐに終わるだろう。

 だが次に打つ手がないと言う事で終わる訳にもいかない。

 大型ゴーレムを倒す手段が無いのだ。


 協議は結局無難な結論に至る。

 アキラ、勇者の怪我の回復を待って再度の討伐と言う事になる。

 これはハトノの治癒技術の粋を集めて行われる。

 まぁ、魔術で治すだけだがな。

 これは主にグレーテが担当していた。

 グレーテは白の治癒属性だったらしいな。


 また同時に勇者の武器についても用意しなければならなかった。

 これが難航していた。

 武器の入手には様々な方法がある。

 買う、作る、探す、授かる(・・・)


 勇者の持つような武器はそう簡単には買う事が出来ない。

 売りに出ないし、元々数が少ないからな。


 製作するのは難しいだろう。

 実際に作った物は壊れてしまったのだ。

 それ以上の物を簡単に作れるはずが無い。


 マジックアイテムは迷宮の奥深くからも入手する事も出来る。

 ただ見つかる確率は低く、また迷宮から生きて帰ってくる事すら難しいかもしれない。


 最後の授かると言うのが一番手っ取り早く確実? だ。

 神の洗礼を受け、マジックアイテムを授かるのだ。

 神は洗礼で加護だけでなく、マジックアイテムを授ける事もある。

 過去に召喚された勇者は神から洗礼で一振りの剣を受け取ったらしい。

 それはエルフの国で補完されている。

 エルフの至宝とはその剣の事であろう。


 ただマジックアイテムを授かるのは稀らしい。

 なんでも異世界の住人である必要があるとかないとか。

 洗礼は神聖な物であり、妄りに内容を広める物では無い為、良く分かっていなかった。


 だがハトノは洗礼を行おうとはしなかった。

 それどころかエルフの国に剣の譲渡を求めたそうだ。

 逆に勇者をエルフの国で預かると言われ、交渉は上手く行かなかったそうだが。


 洗礼に必要な魔石を準備出来ない訳では無いはずだ。

 それには莫大な資金が必要だが一国が払えない額では無い。


 ここまでくるとどうしても考えてしまう事がある。

 ハトノは勇者の召喚に何かやましい事があるのではないかと。


 最終的にハトノは武器をまた製作する事にした。

 それだけでなく、ハトノは勇者の回復を待って新たな訓練をする事を要請した。

 武器を強くする事が出来ないのなら扱う者の力量を上げるしかなかった。




◇◇◇




 アキラの怪我はそれほど時間が掛からずに治ってしまった。

 アキラの肉体が凄いと言うのもあるが特筆すべきはグレーテの魔術だろう。


 治癒魔術は術者の魔術だけでなく治す対象の魔力や体力、というか生命力を使って治癒する。

 その為、回復直後は物凄く疲労する事になる。

 だがグレーテの魔術は凄い。

 アキラはそれほど疲労を感じる事も無く回復していた。


 これは媒体を使っている為だと思われる。

 知り合いにジャムを媒体にして治癒魔術を行う者もいたが、グレーテの治癒魔術はそれを遥かに凌駕していた。

 この魔術があればどんな怪我人も瞬く間に回復する事だろう。


「これは勇者様だけに使用出来る特別な治癒魔術です。

 他者に使う事は出来ません」

「……グレーテ、魔術の内容を簡単に教える物では無い」


 グレーテはクノッヘンに諌められていた。

 確かに簡単に魔術と言う技術を見せるのは良くないかもしれない。

 ただそれだけでもない様に感じられたが。




◇◇◇




 アキラの怪我が治ってすぐに訓練が始められた。

 一応、ハトノの代表達は未だ協議を続けている。

 だが新しい案は中々出てこないのだろう。

 ……もう討伐を諦めればいいのに。


 まだ明確に討伐を続行すると結論が出た訳では無い。

 それにゴーレムは攻めてこない。

 議論する時間は十分にあった。

 その間に勇者、アキラが新たな力に目覚めるのを待っているのかもしれないが。


 今度の訓練教官はクノッヘンでは無い。

 ……シャルだ。


「剣を自分の肉体の一部だと考えて。

 手や足と同じ様に扱えば良いの」

「くっ!」


 シャルはアキラと剣を交えている。

 シャルは以前使っていた物ではないがいつもの木刀だ。

 アキラは折れた剣の代替えとは言え、それなりの名剣を使っている。

 それでもシャルの木刀は持ちこたえていた。

 魔術を使わずに。

 アキラは剣の扱いでは未だシャルに及ばなかった。


「でも技を覚えろと言っているのでは無いわ。

 そんな技を越える圧倒的な力を身に付けて欲しいの」

「むっ!」


 アキラは逆に魔術を使用している。

 魔力を纏わせながら剣を振るっていた。

 だがそのせいで技が疎かになっているのかもしれない。

 アキラはシャルの木刀によって何度も攻撃を受けていた。


「これくらいで何をしているの!

 ゴーレムの一撃を受けたらそれでお仕舞なんだから!」


 攻撃力、破壊力を上げる訓練だが防御を疎かにしても行けない。

 ……アキラの訓練は議員達の協議より難航を極めた。




◇◇◇




 訓練が続く日々だったがずっと訓練をしているという訳でも無い。

 そしてシャルはアキラと訓練以外はあまり顔を合せなかった。

 ……他の護衛の手前と言う事もあった。


「シャルさん、居ますか?」


 だがアキラから会いに来ることは結構あった。

 まぁ、そんな事よりこいつは今、ノックしたか?

 部屋の中はマジックアイテムの効果で外の事が分かりにくくなっている。

 だが俺はそんな物なんて関係なく外の気配が分かる。

 アキラはいきなり部屋に入ってきた様な気がしたが……やはり殺すか。


 シャルは入浴中だ。

 しかし部屋の中に入れば何となく気配は伝わる。

 つまり……シャルはあられもない姿でアキラの前に現れようとしていた。


『シャル!

 今は来客中だ!

 きちんと身なりを整えてくれ!』

『……分かったわよ』


 もし俺が居なかったらどうなっていたか?

 アキラはやはり勇者らしく謎の加護(補正)? が掛かっているのかもしれない。


「んー、使い魔君だけか。

 君のご主人様はどこに居るのかな?」

「ぎゃうぎゃう!」


 俺は帰れ帰れ! アピールをするが無視される。


「そう邪険にしないで欲しいな。

 君とも仲良くなりたいと思っているのに」


 それはシャルと仲良くなる為だろう。

 アキラはそんな俺の気持ちをまたしても無視して語り出した。


「……君のご主人様は強いね。

 戦う力もそうだけど、戦う意志が僕とは違う気がする」


 アキラはただシャルに会いに来た訳では無いようだ。

 アキラは何かに迷い、そして焦っていた。


「僕は名ばかりの勇者だ。

 功績を上げようと焦った結果が今の有り様さ。

 たとえハトノに言われた事だったとしても僕自身が決めた事だ。

 ……責任は僕にある。

 ご主人様を危険に晒して悪かったね」

「ぎゃうぎゃう?」


 アキラは俺に謝っていた。

 いや本当は皆に謝りたかったに違いない。

 でも勇者と言う立場が邪魔をする。

 アキラが謝ったとしても逆に皆に謝られるに決まっている。

 それはいらぬ心配を掛けるだけだった。


 アキラには頼れる者が居ない。

 それどころか対等に話せる者も居ないのだろう。

 ……こんな人間では無い使い魔なんかに話している位だからな。


「僕は本当に勇者なのだろうか?

 それどころか僕には……」

「人の部屋へ勝手に入って何をしているの?」


 アキラは俺に愚痴を吐いている途中でシャルに見つかってしまった。

 シャルの部屋なのだから当たり前だが。


「いや、これは、あの、勝手に入った訳では!

 使い魔が……そうこのドラゴンが入って良いって!」

「ぎゃうぎゃう!」

『そんな事言ってないけどな!』


 お前はシャルが使い魔とテレパシーで会話しているのを忘れたのか?

 それともそれほど明確な意思疎通が出来ないと思っているのだろうか。

 何方にしろ、お前は俺に大きな借りを作った事になったな。

 ……速攻で嘘だってばらしたけど。


「……まぁ良いわ。それでどういったご用件かしら?」


 シャルは少し怒っているような素振りを見せていた。

 素振りだけだが。

 俺とシャルは勝手に入られると困るような事をしている時がある。

 ……そんな時に女メガネは入ってきた事があった。

 シャルのそんな所を見たのが男だったら喰い殺す所だったな。


「えと……ここの所あまり訓練の成果が上がりません。

 それで気分転換に街へと行きたいなと。

 ハトノからは許可が出たのですが……シャルさんもご一緒にどうかなぁと!」

「ぎゃうぎゃう!!!」


 お前はデートの誘いに来たのかよ!

 俺はシャルに行くな行くな!!! アピールをする。

 テレパシーで言えば良いのにその余裕が俺には無かった。


「んー、使い魔も一緒で良いなら……ね?」

「一番一緒に来て欲しくない奴ですが、仕方ありませんね」


 それはこっちの台詞だ!

 まぁ、勇者を狙う者は多いからな。

 レーム達も監視しているかもしれない。

 索敵の為にも俺が一緒に行くのは必須とも言えるだろう。

 ……そんな事はアキラは考えていないだろうが。


「僕はハトノからそれなりのお金を貰っています。

 街で何か欲しい物があったら何でも言って下さいね!」


 最後にアキラはシャルの喜びそうな事を言っていた。

 アキラはそんな事知らないはずなのに。


 だがシャルは喜ぶかもしれないが靡く事は無いだろう。

 ……本当に欲しい物とはお金では買えない物なのだから。





マルメラ

性格はおっとりしているが実は腹黒

趣味はお茶とジャムの製作

シャルの同級生でエルフだ

卒業後はしばらく家庭教師の様な事をしていたが、実際は自分自身も生徒だった

現在は魔術学園で新薬の研究をしている……実験台は元担任らしい

お茶の販売で莫大な利益を得ているので研究費には困っていない


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