第百九話 意外
俺とシャルは大型ゴーレムから撤退していた。
撤退先は森の奥だ。
森の奥には何かがある。
だがハトノはそれを分からないと言っていた。
そんな事はあり得ない。
女メガネの情報から憶測する。
ゴーレムがハトノを襲って来たから森へ進軍したのでは無いだろう。
ハトノが森の奥へ進軍したからゴーレムが襲って来たのだ。
そしてハトノはただ闇雲に森へ進軍するはずが無い。
何かがあるからこそハトノはそこへ行こうとしているのだ。
……森の奥へと。
俺達は上空からその場所へと向かう。
ドラゴンの感覚ならばそれはもう何かは分かっている。
森の奥にあったのは小さな村だった。
とても有益な物があるとは思えない。
だがハトノはそこで何かを知ったか見たはずだった。
俺達は村から少しだけ離れた場所へと降り立った。
俺は幼生へと擬態する事を忘れない。
……成体の姿で村へ入ったら余計な警戒心を持たせてしまうかもしれないからな。
俺とシャルは村へ徒歩でこっそり近づくが、そんな事は意味がなかった。
そこでは強烈な魔力を感じる者が待ち受けていた。
その者が気楽な感じで話しかけてくる。
「やぁ! 僕と同種の存在かな?」
「……何の事か分からないわ」
シャルは簡単に見つかったが、動揺を見せない様にしていた。
しかしその問いにはどうしても反応してしまっていた。
その話し掛けてきた者は良く整った顔立ちをしていた。
まるでエルフの様に。
その違いと言えば肌が褐色な事くらいだろうか。
まぁ、エルフの様では無く、エルフその物なんだがな。
その者はダークエルフと呼ばれる種族だった。
だがその者が言った同種の存在とはその事では無い。
シャルは普人族だからな。
……俺は言わずもがな。
怪訝な顔をして一歩引いたような感じのシャルにその者は説明を始めた。
「そう警戒しないで欲しいな!」
「それは無理な相談ね。
……貴方が何者なのか、分からない限りはね」
警戒するのはハトノに狙われているそっちでは無いのだろうか。
……俺達も警戒はしているが。
「いきなり同種の存在と言っても納得出来ないよね。
だけど説明も難しいな。
僕の言う存在って言う物には様々な呼び名があるからなぁ。
神の干渉を受けない者、世界の特異点、呪われし者、でも一番気に入っているのは……」
それはアキラが大型ゴーレムに対して言った言葉だった。
「……魔王かな?」
それは勇者の対極に位置すると思われる名前だ。
シャルは確かに魔王のような所はあ……殴られた。酷い。
自称魔王はシャルが自分と同じ存在だと言っている。
だがそれは……俺にも同じ事が言えるのではないだろうか?
「魔王さんがどうしてこんな所にいるのかしら?
……それに私は魔王では無いわ。
何方かと言うと勇者の方が近いわね」
シャルは勇者の護衛をしているからそんな事を言った訳では無い。
シャルは神の洗礼を受けている。
神本人から世界を救ってほしいと言われた事もあるくらいだからな!
……シャルは神の言う事など聞かず、逆に神を恨んでいる気がするが。
それどころか俺とシャルは全く逆の事を……。
そして言葉通り以外の意味もある。
自称魔王に対して自称勇者。
それは挑発としか取れない台詞だった。
「ははは! こんな魔物くさい勇者が居る訳無いだろう?」
自称魔王が挑発に挑発を返してくる。
……それはシャルの逆鱗に触れていた。
シャルは一瞬にして剣を抜き放ち、自称魔王の首を刎ねていた。
……本物の剣なら、だがな。
木刀なので自称魔王が吹っ飛ぶくらいで済んでいた。
シャルは身内に甘い。
逆に身内を傷つける者や貶す者に対しては容赦がない。
特に……使い魔に対しての事には。
「言葉には気を付けなさい。
敵ではないかもしれないけど、知り合いという訳でも無いわ」
吹っ飛ばしてから忠告するのがシャルらしくて清々しい。
俺の気分も晴れると言う物だ。
……俺は臭くないぞ!
「……覚えておくよ。
でも出来れば知り合い、友達になって欲しいかな?」
こいつはどこまでもふてぶてしい奴だった。
「友好的にしたいと言う事は分かったわ。
……後ろに潜んでいる者が反撃してこなかったからね」
自称魔王の後には仲間と思われる者が潜んでいた。
シャルが攻撃した瞬間、恐ろしい程の殺気を放ってきたが反撃はしてこなかった。
自称魔王に何か指示を受けていたのだろう。
「分かって貰えて嬉しいよ!」
自称魔王は明るく無邪気な顔をしている。
吹き飛ばされた事などもう忘れてしまったかのようだった。
『……シャル、良いのか?』
『私達と同種と言う事が気になるわ』
『情報は聞きだしておいた方が良いか。
いざとなったら逃げるか、倒してしまえば良いしな』
俺は自分達が圧倒的有利だと思っていた。
それはいつもの事で当たり前の事だった。
『ファースト、気付いていないの?
さっきの剣での一撃は当たっていないわ。
自称魔王が自分で当たった様に吹っ飛んだのよ』
……まじか!
俺は全くそんな事には気付いていなかった。
だっていつも通りのシャルさんだったんだもん!
『私は直前で止めるつもりだった。
ただの脅しのはずが、実際に攻撃してしまった……事にさせられた』
俺が気付かない程だ。
実際にはほんのちょっぴり剣が当たっていたのかもしれない。
『自分が被害者になってどうするか?
……代わりに何かを私達にさせようとしているのかもしれない』
戦って言う事を聞かせると言う方法もあったはずだ。
だがそれでは出来ない様な事をさせるつもりなのかもしれなかった。
「テレパシーで会話しているのかな?
僕を仲間外れにしないでよ!
僕はただ君達と友好的な関係を築きたいだけさ!」
それは本当かどうか分からない。
こいつがきっとあの大型ゴーレムを操っていたに違いないのだから。
なぜなら後ろで控えていた者もまた……ゴーレムだったのだから。
「……レーム様。
ここで立ち話も良いかもしれませんが、部屋へと案内した方が、なお宜しいかと」
「分かったよ、フェルス。
君達を僕の部屋に案内しよう!
美味しいお茶も用意させるから是非来て欲しいな!」
自称魔王はレーム様と呼ばれていた。
……羨ましい。
それはどうでも良いとして、フェルスと呼ばれた者は人間では無かった。
ゴーレムだ。
人の形をしてはいるが、その体は機械その物だった。
大きさも普通の人間と同じで、服装も人間のそれだ。
あえて特徴を上げるなら、他のゴーレムとは違って女性の様な感じだった。
そして多分……使い魔だろう。
「分かったわ。
……私の使い魔と違って礼儀正しいのね」
「ぎゃうぎゃう!」
『お世辞だよね? 俺も礼儀正しいよね?』
俺は馬鹿な事を考えてしまいシャルの腕の中で暴れていた。
「ははは! 何を言っているか分からないけど、君の使い魔は否定しているみたいだね!」
レームは俺の行動が面白いのか笑っていた。
和やかな雰囲気が訪れた様に思えたが、フェルスの言葉でその場は一瞬にして凍り付いた。
「……すぐに剣を抜かない分、貴方より使い魔の方が礼儀正しいのでは?」
な、何を言っているのでしょうか。
全く持って正しい事だが言う相手が悪い。
先程と同じようにシャルは剣を抜いていた。
先程と違うのは本気で当てに行っている事だろうか。
剣はフェルスの首筋に当たった。
だがフェルスが吹っ飛ぶ事は無い。
首が刎ねられたわけでも無い。
代わりにシャルの木刀が粉々に砕けていた。
「硬いのね。木刀の代金は後で請求するわ」
自分で攻撃して壊しておいて言う事ではない。
「……さぞかし貧困に喘いでおられるのでしょう。
次はまともな剣が買えるよう、代金を恵んで差し上げます」
あー、これはシャルが一番嫌いなタイプだ。
今は違う? が、シャルは昔、お金に困っていた。
その時も同じ様に金の力を誇示しようとする奴がいたな。
そいつには事あるごとに突っかかった物だ。
「一億ギルで良いわよ」
吹っかけた!
……と言うよりは子供の喧嘩みたいになってきた。
「……物の価値を知らないようね」
「貴方を斬るにはそれくらいの剣でないとね?」
ああ言えばこう言う。
女同士? の戦いは終わりを迎えるのだろうか。
「フェルス、もう止めなさい。
君もそれくらいで許してくれないか?」
「……分かりました」
「そうね、美味しいお茶を頂けたら考えてあげるわ」
レームの言葉によってフェルスはあっさり引いた様に感じた。
シャルもこれ以上不毛な言い合いは止めにしたようだ。
……しかし第二ラウンドがレームの部屋で行われる事になる。
ケーゼ
性格は高飛車だが大抵の事を受け入れる器量もある
趣味はお金や贈り物を配る事
シャルの同級生で公爵の息子
シャルと同い年だが既に二児の父親になっている
……子供の母親はそれぞれ違う
様々な分野に投資をし、巨万の富を得る……のはいつになる事やら