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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百六話 柄巻


「勇者様に牙を剥けるとは!

 一体全体何を考えているのだ!」


 女メガネは口うるさかった。

 これだからメガネは嫌なんだ。


「結果的にこれで良かったろ?

 シャルは勇者と一緒に訓練も出来るし、実際にモンスターの討伐にも行けるしな」


 此方の提案はハトノ国に受け入れられた。

 代表のアルタールや議員達も少しは考えを改めた様だ。


「だがこれではアインツ王国は危ない国だと思われただろうが!」


 思い通りに行かなければ、力尽くで来る。

 そんな国に思われたのかもしれない。


「でも提案したのはお前だろ?

 ……ちょっとやり過ぎるのはいつもの事だし!」


 提案は女メガネだったが、勇者を脅せとは言っていないな。

 これでは勇者と友好的な関係を作れないと思われた。

 しかしそれは杞憂に終わる。


「シャルさんは強いなぁ。

 ……僕なんてまだまだです」


 シャルは勇者と共に訓練をするようになった。

 教官は将軍であるクノッヘンのままだったが、シャルとの対決後からは友好的だった。

 むしろシャルを気遣うぐらいだ。


「お疲れではありませんか?

 今、冷たい飲み物を用意させます。

 もし良ければハトノ自慢の酒でもお持ちいたしましょうか?」


 護衛に酒を進めるのはどうかと思うが。

 結局、シャルと勇者は果実を絞った様な飲み物を片手に休憩していた。

 訓練中はそれ程でもないが、休憩中などにシャルと勇者は話をようになっていた。


 話の内容は主に勇者が愚痴を吐いていた。

 これまで勇者は頼られる側だった。

 勇者が頼れる者はいない。

 そこに現れたのがシャルだった。


「僕は召喚されてからずっと言われるまま戦闘訓練のような事をしていました。

 それ以外の時間は美しい女性に囲まれては居ましたが、お世辞ばかりで……。

 本音で話せる人が居なくて、少し寂しかったのかもしれません」


 たった一人、知り合いどころか自分の知らない事しかない世界に召喚されたのだ。

 それは仕方のない事とも言えた。


「戦うのは嫌?

 その力があったとしてもやりたくない事はしなくても良いと思うわ」


 勇者には力があった。

 この世界に召喚され、魔力を得たせいなのかその体は驚くほど強靭だ。

 当然、魔術の才もある。

 そして訓練により剣の腕前は日々上がっている。

 魔術に関してもアロー、ランス、ウォールまではあっという間に覚えてしまったらしい。

 この世界では幼少より魔術の訓練をしたとしても、普通は十年近く掛かると言うのに。


「戦う事に抵抗はあまりありません。

 相手がモンスターで人間では無いと言う事なので。

 実際に対峙した時も躊躇なく剣を振るう事が出来ました」

「でも戦う理由が無いでしょう?」

「この世界には無理矢理召喚されましたが、事情を説明され仕方ないかなと。

 謝罪を受けましたし、元の世界では到底得られないだろう報酬も約束されています。

 ……ただ帰る方法は無いと言う事はショックでした」


 ハトノは勇者に帰る方法は無いと話しているのか。

 本当に無いのか隠しているかはまだ分からないが。


「元の世界に帰りたいの?」

「そう言う気持ちが無いと言ったら嘘になります。

 特に召喚されてすぐはそうでした。

 でもこの世界でどんな事が出来るのか試してみたいと言う気持ちも今では持っています」


 勇者はこの世界で自分の力を試したいのだろうか。


「ですが初めてモンスターと対峙した時、僕は失敗しました。

 僕自身もですが……ハトノの兵士や護衛の方も傷を負いました。

 この世界は遊びじゃないと初めて実感したのもその時です」


 夢物語の様にこの世界は優しくない。

 その事は俺も知っているし、分かっている。


「今は自分の力がこの世界の人々の役に立てたらなと思っています。

 戦いばかりでなく、元の世界の知識でも役に立つ事はきっとありますから!」


 俺も元の世界の知識で何か役に立つ事がないか考えた事がある。

 ……特に無くて自分の不甲斐なさを実感できただけだった。

 それはまぁどうでも良いだろう。


「自分の事よりも他人の、しかも育った世界とは違う世界の為に尽くす。

 見返りの報酬はそれに見合う物だったの?」

「お恥ずかしながら……女性にちやほやされるのは悪い気はしません。

 たとえ勇者と言う力の見返りを求めての事だったとしてもです。

 それに……シャルさんとも出会えました」


 ……殺そうか。

 やはり異世界からの召喚者なんて災いしかもたらさないな。


「勇者様にそう言って頂けるとは光栄です。

 ですが、私は他の国の護衛の方とは違い勇者様の力を求めていません。

 それに……分不相応な見返りは身を滅ぼしますよ?」


 シャルも悪い気はしていない様だ。

 ……殺す。

 後はどうやって闇に葬るかだな。


「確かに今のままではそうかもしれませんね。

 もしシャルさんより強くなったら僕を認めてくれますか?」

「勇者様なら私なんてすぐに追い越してしまうわ。

 ……でも私の使い魔を倒せたなら再考する事を約束しましょう」


 シャルは先日のアルタールの言い方を真似していた。

 それは勇者も知っていたのかシャルと一緒に笑っている。

 ……楽に死ねると思うなよ。

 俺に挑んで来た時がお前の最後だ。

 少しばかりやり過ぎても良い訳なんていくらでも出来るからな。


「ぎゃうぎゃう!」

「ファースト、落ち着いて。

 今すぐに如何こう言う話でもないでしょう?」


 俺は少し逸る気持ちを抑えきれなかったようだ。

 シャルの腕の中で暴れてしまった。


「可愛い使い魔ですね。

 ご主人様が取られると思わせてしまったかな?」

「ぎゃうぎゃう!!!」


 ……今殺す、すぐ殺す、苦しませて殺す。

 俺はシャルの腕の中で暴れまわる。

 完全に抑え込まれて全然動けなかったが。


「もう暴れないで。

 勇者様の前で恥ずかしいでしょう?

 それに私はファーストの世話ばかり。

 本当のご主人様(・・・・・・・)はファーストかもね?」


 ……落ち着こう。

 こいつを殺るチャンスはいくらでもある。


「僕はまだ何も成し得ていない名前だけの勇者です。

 勇者様などと呼ばずに本当の僕の名前、アキラと呼んで頂けないでしょうか?」


 言ってる事は謙虚に感じるが、実際はより親しくなろうとしている。

 これが勇者か……侮れん。

 シャルの返答次第では今すぐ殺そう。


「アキラさ……ん。

 今はアキラさんと呼ばさせて頂きますね」

「呼び捨てでも構いませんが……今はそれで我慢します」


 立場を考えると本当は名前で呼ぶ事すら許されないだろう。

 お前が何かを成し得たらすぐに勇者さんに格下げ? だ。




◇◇◇




 シャルと勇者は順調? に親しくなっていた。

 シャルは勇者自身に何か思い入れがある訳では無い。

 その置かれた境遇(・・・・・・)昔の自分(・・・・)を思い出させているのだろう。

 そんな勇者を少しだけ気にかけているに過ぎない……はずだ。

 

『ファースト、あまり気にしないで。

 これは国からの依頼よ。

 ただの仕事だと思えば良いのよ』

『必要以上に仲良くなる事は無い……と思う』

『……たかが呼び方をまだ気にしているとは思わなかったわ』


 俺は勇者が「様」付けで呼ばれる度に切れそうになっていた。


『そんな小さな事にこだわる男だったとはね』

『どうせ俺は小さいですよー』


 俺は小さな幼生の体を更に小さく丸め、いじけていた。


『もぅ……。

 本当のファーストは凄く大きいって知ってるわ。

 ……私が受け入れられないくらいね』


 そう言ってシャルは俺を強く抱きしめた。

 そして俺のリボンを外す。

 これは合図だ。

 ……シャルに縛られず、俺の好きにして良いと言う事の。


 俺とシャルは肌を合わせ……慰め合った。




◇◇◇




 シャルとアキラはいつも一緒に居る訳では無い。

 大抵は傍に控えているが。


 アキラは他国の護衛以外にも勧誘を受けている様だった。

 教会の関係者、枢機卿などが祝福を祈りに来たり、ハトノ支部のギルドマスターが冒険者ギルドは過去の勇者が作った物だと態々説明しに来たりしていた。

 他にもハトノの議員が見合いの話を持って来ていた。

 ……それは職権乱用にならないのか。

 当然、護衛にガードされまともに話は出来なかったようだがな。

 そして次はその護衛を議員連中がガードしていた。

 ……もう何が何やら分からないな。


 そんなある意味、平和な? やり取りは一度終わりを告げる。

 アキラを中心とした再度のモンスター討伐が実行されようとしていた。




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