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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百四話 柄糸


 ハトノ国に行くにあたり、シャル自身にも護衛が付く事になった。

 護衛と言うより相談役に近いかもしれない。

 ……実際は見張りだけどな。


 ハトノからは勇者に近づく者の人数制限を厳しくされていた。

 勇者を連れ去られたりしたら困るからかもしれない。

 それに護衛の護衛など本末転倒でもあるからな。


 シャルの護衛は一名。

 それに見合った能力の持ち主が選ばれた。


「私はブリレだ。

 一応同じ? 騎士団員になる。

 私の方が先輩で年上だが気にする事は無い。

 同じ女だ、気楽に話して欲しい」


 騎士団員は国のトップエリート達が選ばれる。

 ……少し変わり者のエリートかもしれないが。


 そしてこの女性とは気楽に話す事になる。


「宜しく、女メガネさん」

「女メガネ、宜しくなー!」


 ……メガネだった。

 それはもうあのメガネを思い出すかのようなメガネだった。


「アイゼン様と同じように呼んでくれるとは光栄だな」


 ……本気で言ってやがる!

 少し頬を染めながら嬉しそうに……。


「護衛に付いてはする必要が無いと聞いている。

 国の方針についての助言とハトノについて調べるのが私の仕事だ」


 あと俺達が暴走しないように見張る事だろうな。


 シャルの護衛に付いてはメガネに女性にするよう俺が強く要望していた。

 今回は長旅になると予想される。

 そんな長期間、シャルが男を連れて旅するなど許せなかっただけだ。

 だが次からは眼鏡をしていない者と付け加えよう。

 ……あのメガネに見張られている気がして落ち着かないからな。




◇◇◇




 道中は馬車で移動する事になる。

 モンスターでは無い普通の生物は扱いやすい様に見える。

 大人しいし……人の言葉は話さないし!

 御者のおっさんが寝ているのは大人しいからなのか、話し相手がいないからなのか。

 ……深く考えても仕方ないな。

 取り敢えず起こすべきだったか。

 まぁ、それは置いといて移動に多大な時間が掛かるのが難点だった。


「俺が飛んで行っちゃ駄目なのか?」


 そう言わずにはいられなかった。


「駄目に決まっている。

 目立つ様な事はするなと何度言ったら分かるのだ」


 女メガネは口うるさかった。

 異世界の眼鏡に碌な奴はいないな……。


「……目立った所で何か不都合があるのか?」


 俺は今更ながらに何を言っているのか。


「お前は面倒事が好きなのか?

 ……今回の勇者の様になるぞ」


 女メガネの答えは的確だった。

 今頃、勇者は自由な時間など無く、不自由な生活を送っているに違いない。

 

 そして俺の予想は当たらずも遠からずだった。




◇◇◇




「よくぞお出で下さいました」


 ハトノ国へ着き、まず向かったのはハトノの首都……では無く、更に南西へ進んだ先にある街だった。

 勇者がそこに居るからだ。

 またモンスターが発生した場所でもある。


 その為か此方の挨拶に応じたのはハトノの議員の一人だった。

 数百名からなる議員の内の一人だが偉い人と言えば偉い人らしい。

 アインツの事すら知らないのにハトノの事なんてもっと知らない。

 女メガネが説明してくれたので議員と言う事が分かったくらいだ。

 まぁ、偉い人と言う事で良いだろう。


「……長旅でお疲れでしょう。

 まずは旅の疲れを癒してはどうでしょうか?

 我が国の代表や勇者様とは後日お会いになると言う事で……」


 申し訳なさそうと言う感じでは無く、なんだかおざなりな対応だった。

 他の国からも沢山勇者の護衛が来ているのだろう。

 代表も勇者も多忙を極めるのかもしれないしな。

 ……そうでも無い事をもう既に知っているが。


 ここまでの道中、ハトノの兵士や役人達とすれ違う事が何度もあった。

 その者達はシャルを見るとため息をつくか落胆の表情を見せるかだった。

 それは遠目だが戦闘の訓練をしている勇者と思われる者を見た時に理由が分かった。


 厳ついおっさんと剣を合わせる勇者。

 その周りをドレス? だろうか、美しい服装をした女性達が囲んでいた。

 どう見ても護衛には見えない。

 だがそれは各国からわざわざ勇者の護衛をする為に来た者達だった。


 その各国護衛の目的はきっと懐柔。

 俺達とそう変わらないのだろう。


「……どこも考える事は同じね」

「シャルもドレスを着るか?

 準備してあるぞ!」

「ファーストの趣味は悪すぎるから……」


 俺が準備したのは俺の体と同じ黒色のドレスだ。

 女性を強調する様なデザインや特徴的なレースやフリル、そしてリボン。

 リボンは当然俺の付けている物とお揃いだ。

 ……すいません、少し悪趣味だったかもしれません。


 シャルの服装は着飾った物では無く、動き易さを重視した物だ。

 それに細身の剣を携帯している。

 普通の剣よりそれはかなり軽い。

 だって刀身は木で出来ているからな。

 魔術学園で訓練時に使っていた物だ。

 大量に盗ん……借りてきたので壊しても問題ない。


 まぁ、剣はただの飾りだった。

 護衛と言う事で仕方なく持っているだけだ。

 まだ銃の方が邪魔にならないのだが、こういう場所では伝統とか格式とかが優先されるらしい。

 女メガネの指示でこうなっていた。


 こんなんで本当に護衛が務まるのかよ?

 着飾った服装よりはマシかもしれないが、飾りの剣もどうかと思う。

 本来の目的は違うのだからそれで良いのだろうか。


 建前ばかりで周りの者達は全て分かっている。

 当の本人である勇者もそれはもう気付いているのだろうな。




◇◇◇




 そして三日後。

 まずはハトノの代表と会う事になる。

 なんともゆっくりとした事だ。

 当然の様に勇者とも実際にはまだ会えてはいない。

 妨害工作でも受けているのかと思ったが、それはどうも違ったようだった。


「長らくお待たせして申し訳ない。

 少し調整の方に手間取ってしまった。

 ああ、申し遅れたがハトノ代表のアルタールだ。

 以後宜しく頼むよ」


 調整?

 何の事か分からないが、遅れた理由はそれの様だった。


「アインツ王国のシャルと申します。

 勇者様とハトノ国の為、微力ながら協力させて頂きたく……」

「堅苦しい事は無しで良い。

 建前と言う事は分かっているからな。

 しかしそれを認めている訳では無いと言う事は忘れないで欲しい。

 ……本題に入ろう。

 シャル殿が勇者と会える時間は一日に四十六分間になる。

 時間に関しては教会より借り受けたマジックアイテムにより正確に……」


 なんかもうぶっちゃけすぎてて引いてしまう。

 シャルの話が途中で切られたのにはカチンときたが、面倒な挨拶だったので許してやろう。


 アルタールの話を要約すると、勇者の行動は事細かに決められている。

 各国の護衛、もとい交渉人が会える時間も決まっていた。

 各国に平等にチャンスが与えられると言う事だった。

 また勇者と二人だけで会う事は出来ない。

 警備上の理由らしいがこれではもう何の為の警護なんだかな。


 しかしこれでは碌な交渉も出来ない。

 安直な引き抜きを行おうものなら直ぐに祖国へと帰されるのだろう。

 全て知っているが認めている訳では無いと言うのだから。


 どうやら勇者と交渉する前に代表と交渉しなければならないようだ。

 アルタールの説明が一通り終わった所で、シャルが話し始める。


「お話は分かりました。

 其方の事情も分かりますが、異世界より召喚された勇者とはこの世界に生きる人達全ての希望です。

 説明頂いた食事やお茶の時間に勇者様と会う必要はありません。

 戦闘訓練と実際にモンスターと対峙する際、勇者様の傍に身を置かせて下さい」


 はっきり言って説明された時間では交渉のしようが無い。

 直接引き抜けないとなると好意を持って貰う事しか他に手が無い。

 他の護衛はきっと女性の力を最大限に使ってくる。

 それ以上に好意を得る事は難しいだろう。

 ……同じ事をする以外には。


 本当に護衛をするとしても、シャル一人では勇者を四六時中守るのは難しい。

 どこかで他の者の手を借りなければならない。

 ならば一番危険な時こそ、一緒にいる事が良いのかもしれない。

 シャルの強さに惹かれる可能性もある!

 逆に……恐怖で引かれる可能性もあるが。



「それは出来ない。

 訓練と言っても命の危険もある。

 怪我などは、しない時の方が少ないくらいだ。

 ましてモンスターと戦う時になど危険すぎる。

 ……それで一度失敗もしている」


 失敗の話は女メガネがどこからか情報を得ていた。

 勇者は一度、モンスターの討伐を行っている。

 結果は失敗、護衛の女性を庇って勇者が怪我を負った。

 大事を取ってそのまま撤退と言う内容だった。

 勇者に護衛して貰ってどうするんだよ! と思ったのは俺だけではないはずだ。


 交渉はここまでと思われたが、女メガネがアルタールに提案を持ちかける。


「……では実際に実力を確かめてみてはどうでしょうか?

 幼生とは言えドラゴンを使い魔にしている者です。

 きっと代表の気もお代わりになるはずです」

「ぎゃうぎゃう!」


 ここで久しぶりにドラゴンの鳴き真似をしてみる。

 我ながら本物そっくりだったと思う。


「そこまで言うのなら……クノッヘン!」

「はっ!」


 クノッヘンと呼ばれた者は見覚えがあった。

 勇者と戦闘の訓練をしていた厳ついおっさんだ。


「我が国の将軍で勇者の戦闘訓練も行っている者だ。

 ハトノで一、二を争うほどの腕前を持っている。

 クノッヘン相手に力を見せる事が出来れば再考しても良い。

 ……シャル殿もそれで良いだろうか?」

「はい。それで構いません」


 はぁ、モンスターと戦う前に人間同士で争いか……。

 こうなる事は予想していたとは言え、俺は落胆を隠せないでいた。


『命のやり取りをする訳では無いわ……』

『そうだけど……本当に人間て奴は争い事ばかりだな』


 お伽話の中にある様な勇者(希望)の前ですら纏まれず、争う事ばかりだ。

 人はどうすれば手を取り合う事が出来るのだろうか。


『そんなに気落ちしないで。

 争い事にはならないわ』


 シャルの慰めが唯一の救いだろうか?


『……一方的な蹂躙になるだけよ』


 人は勇者の前ですら纏まれないが……暴君の前には一丸となって平伏すだろう。




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