閑話 ご主人様は真っ黒2
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
私は堕ちてしまった。
この真っ黒なドラゴンの手に。
私はもうこのドラゴン無しでは生きていけないのかもしれない。
それくらいにこのドラゴン……ファーストを求めていた。
「ん、ん、んっ!」
私は支配されている。
上げる声も、仕草も、感じる感覚も、その考えすら。
……ファーストが想い描く通りになってしまう。
「あ、あっ、あんっ!」
私とファーストは一線を越えていた。
◇◇◇
「ファースト……」
私は忘れたい事が沢山あった。
苦しい事や悲しい事もそうだが一番は……酷い行いをした時だ。
それは決して許される事では無い。
でもそうするしか、他に思いつかなかった。
私の手は血塗られている。
その感覚は忘れたくても忘れられない。
そして次第にそれに慣れてしまった。
その感覚を忘れる為には、より強い感覚が必要になった。
「もっ、と……はげし、く……ひゃう!」
ファーストはそれに答えてくれる。
初めはどうしてそんな事が出来るのかと考えた。
私の他にも経験があったかもしれない事などと。
しかしそれは違うとファーストは言う。
そしてその理由は納得の行く物だった。
感覚共有。
この力を使えば可能な事だった。
だがこれはとても危険な事だったのかもしれない。
私は危うく気が狂うと思った事が何度もあったのだから。
それでも私はファーストを求めた。
……初めは体だけを求めていた。
◇◇◇
私の体は契約の恩恵なのか、強靭な肉体へと変化していた。
ドラゴンであるファーストを受け入れる為に。
生物の頂点であるドラゴンを守る者は必要ない。
必要な物は長き時を生きるドラゴンの……玩具だったのかもしれない。
これは私の考えでファーストにも言っていない。
ファーストは私を対等なパートナーだと言っている。
恥ずかしそうに伴侶の様な物だと。
私は笑って誤魔化した。
それは違うと思っている事を。
私達は同じ時を生きる事は出来ないのだから。
「ファースト……きて……」
私はファーストの相手をするのが難しかった。
強靭な肉体で何とか可能になったと言った方が良いか。
でもその全てがどうでも良い事だった。
私はファーストを求めた。
たとえそこに心が伴っていなくても良い。
体が壊れてしまったとしても後悔は無い。
でも……捨てられる事だけは嫌だった。
玩具はいつか飽きられてしまう物だから。
「ぁぁ……んあっ!」
私は強烈な快感に耐える。
そんな事出来ないと分かっていても。
「んっ、んっ、んんんっ!」
そしてそれは長くは続かない。
「ぁ、ぁ、あ、んーっ!」
私は簡単に絶頂を迎えてしまう。
だがファーストは違う。
決して絶頂を迎える事は無かった。
……子孫を残す事も出来ない。
これではファーストの言う事が信じられなくても仕方のない事だろう。
人間とドラゴンで残せるかどうかはまた別の問題だ。
私は捨てられない為に、ファーストを喜ばせる為に何度も何度も求めた。
「ファーストが……ま、だ……」
私も同じようにシンパシーを使えば可能だと思い至った。
だがファーストの感覚は全ての感覚が分かるが、その通りに感じる事が出来ない。
……私ならこの程度の快感では満足出来ない。
私は初め、自分の為にファーストを求めていた。
体だけ、嫌な事を忘れる為だけに快感を求めていた。
それはファーストも同じだと思っていた。
次は捨てられない為に、ファーストを喜ばせる為に求めた。
でもそれは間違いだったのかもしれない。
ファーストは私の為だけにこの生殺しの様な感覚に耐えていた。
楽しくない玩具、快感を得られない物に存在価値は無い。
……私は玩具では無かった。
いや、玩具かもしれないが愛されている事だけは確かだ。
私はファーストの為に求めるようになった。
それには更に強い感覚、快感が必要だった。
「ファース、ト……はや、く……」
契約の上では私もファーストも両方とも主人だ。
だがそれが平等と言えるかは疑問だった。
私の体は完全にファーストの手に堕ちている。
……心も半分以上堕ちている。
ファーストの心は私の手に堕ちているのかもしれない。
でも体は半分どころか一パーセントだって堕ちていない。
人間とモンスターの差だ、とでも言えば良いのだろうか。
でもそんな事は理由にならない。
私はいつか必ずファーストを堕として見せる。
私の心が真っ黒で快感の為に体しか求めていないと思われてもだ。
本当の気持ちをファーストが知ってしまったら、対等なパートナーでは無くなってしまうから。
ファーストは私の言う事は何でも聞いてくれる。
本当の主人は何方なのか分からずに。
でもそれが私を慰める事になっていた。
……自分に嘘をついても仕方がない。
私は心も完全にファーストの手に堕ちている。
私はファーストの全てを求めていた。