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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第百二話 無碍


 俺とシャルは王城へと来ていた。

 メガネに事情聴取という名の説教を受ける為に。


「一応確認するが、あまり目立たないようにと言ってあった事は覚えているか?」

「覚えているわ。

 守るつもりもあった。

 でも今回は仕方がないでしょう?」


 メガネの言い方はいちいち癇に障る。


「銃や魔術は仕方ないとしても、ドラゴンの成体は問題だ。

 いらぬ不安や期待を煽る事になると言ったはずだ」

「国の対応が遅いのよ。

 民が傷ついていたのを見過ごす事は出来ないわ」


 シャルの言い分はもっともだ。


「それでも成体になる必要は無いだろう。

 それも低空を飛行し、目立つような方法をわざわざ取る必要は全く無い」


 それは魔石の為だが……シャルはどう言い訳をする?


「魔石の為よ。仕方ないでしょう?」


 正直すぎる。

 しかも真っ当な理由になっていない。


「君は国の一大事に何を考えているのだ……」

「それは貴方達、国に仕える者の事でしょう?

 直ぐに魔力砲を使用すれば被害はもっと防げた。

 どうせ民を囮にして兵の被害、自分達の被害を押さえようとしたのでは無くて?」

「……その様な事は無い。

 急な襲撃で対応が遅れただけだ」

「モンスターの狙いは無差別に人間を襲う事では無く、王城を狙った物だった。

 浅はかな考えで無駄に被害を増やしたわね」


 国は民よりも王城や兵士を優先的に考えたのかもしれない。

 シャルは王城よりも魔石を優先的に考えたのは……確定だ。

 当然、その前には民の事を考えていた。

 本当はわざと目立つように民とモンスターの間に割って入っていた。

 モンスターの注意を俺とシャルにひきつける為に。

 その事をシャルは直接は言わない。

 俺にはそんな事、言わなくても伝わるからな。

 ……魔石の回収を優先したのは本心と言う事も含めてな。


「……過ぎた事はもう良い。

 今後の事を指示するには少し時間が掛かりそうだ。

 それまであまり人前に出ない様にして欲しい」

「なるべくね。

 それで話は終わり?

 ……次はこちらの話を聞いて貰おうかしら」


 周囲の雰囲気が一瞬にして変わる。


「ファースト! やりなさい!」


 話をすると言って起きながら、すぐに行動を起こす。

 俺はメガネを拘束し……いやこれはもう拘束が既に拷問と言える物だったのかもしれない。


「ぐあああ! やめるんだ!」


 メガネの悲痛な叫びが響き渡る。


「これから話す事は私からのお願い。

 ……素直に聞いてくれる事を望むわ」


 お願いと言う脅迫が始まる。

 俺が少し力を入れるとメキメキと軋みを上げる。


「があああ! そ、それ以上は止めて欲しい!」

「私達の自由を束縛しないで」


 俺は更に力を入れる。

 見た目には分からないが、内部はボロボロになっている。


「がはっ! 分かった、分かっている!」

「私達の周囲にも危害を加えない事」


 俺は咬みきる一歩手前まで力を入れた。

 もう既に元の形を留めていない。


「ぐっ! 本当に分かっている! そ、それ以上はもう……」 

「一応確認するけど、この二つは前から言ってあった事よね。

 覚えている?」

「お、覚えている。

 守るつもりもある。

 でも仕方がないだろう?

 国の命令は絶対だ!」


 メガネはどこまで行っても国の人間だと言う事か。


「なら考えを改める為に……新しく生まれ変わりなさい」


 俺はメガネを……噛み砕いた。


「ぎゃあああ!」


 メガネは断末魔の悲鳴を上げながらぐったりとその場へ倒れた。


「今回の迷宮から溢れだしたモンスターと王都襲撃のモンスターは繋がっている。

 そんな気がするの。

 人の遺体を操るモンスターも居るようだし、しかもそれを策として使う様な痕跡もあった。

 ……詳しくはファーストが出す報告書を読んで」

「そこはまた俺なのね……」


 俺はメガネの掛けていた眼鏡を噛み砕いただけだ。

 だからメガネは意識があるはずだ。

 ……死んでいる様に見えるのは気のせいだろう。


「ああ、冒険者達のランクダウンは直ぐに戻してあげてね」


 シャルの最後の声は聞こえたのだろうか。

 もしそれが実行されなければ……死んだ事を後悔する事になる。

 メガネの苦労は本当に絶えないな……。




◇◇◇




「シャルちゃんは国のお仕事をしていたんだね?

 真っ当な仕事じゃないかい!」


 俺とシャルはお店で女将さん達に事情を説明していた。

 女将さん達はやっぱり誤解をしていたようだ。

 だがそれも今回の件で解けた事だろう。


「あら、もしかしてシャル様とか呼ばないといけないのかい?」

「今まで通りでお願いします」

「俺はファースト様でも良……」


 殴られた。酷い。

 呼び方は置いといて、それよりもモルトの事を説明しなければ。


「モルトは旅先で出会った子です。

 出来れば一緒に暮らしたいのですが、どうしてもここを離れる事も出てくると思います。

 その時は面倒を見て頂けないでしょうか?」


 シャルはなんだかんだでまだアインツ王国から離れるつもりは無い。

 負債分の仕事はきっちりこなすつもりがあるのかもしれない。

 他にも理由(・・)はあるが、俺は正直何方でも良かったが。


「良いよ。ただし条件がある!

 ……シャルちゃんの代わりにお店を手伝わせるがそれでも良いかい?」


 その問いにはモルトが答えた。


「私は行く当てはありません。

 出来れば私の方から仕事を手伝わせて欲しいとお願いしたいくらいです!」


 あれ、モルトってこんな言葉も使えるのか。

 それとも少し背伸びをしているのか。


「モルトもこう言っています。

 私と一緒にお店で働かせて貰えたらと思っています」

「それは良いんだけど普段は手が余っちゃうね」


 そこで何故か女将さんは俺を見ていた。


「……ファーストは首になるね」

「えっ!?」


 俺にはまさかの解雇通告が下された。


「何方にしろ、ファーストは暫く目立たない様にしなければなりません」


 シャルもこの提案に賛成のようだ。

 今、王都はモンスターの事に敏感になっている。

 ……過剰とも思える反応をするかもしれない。

 メガネの言っていた事を今更ながらに思い出していた。




◇◇◇




「ファースト! 大きくなってくれよ!」

「フッ、それは簡単には見せられねーな!」


 俺とシャルはスラムへと来ていた。

 そこではエグが俺に成体になるようにねだられていた。


「炎も吐けるんだろ? 見せてくれよ!」


 ルグは炎がお気に入りになったようだ。


「助けてくれてありがとよ! またモンスターの世話になるなんてな!」


 カーグは、カーグ達三人は前にもモンスター(・・・・・)に助けられた事があるらしい。

 ……お前ら今何歳だよ。

 どんだけ奇想天外な人生を送ってんだ。

 いや、実は結構普通の事なのか?


「いつまた同じような事が起きるか分からないわ。

 女将さん達は今度はもっと早くお店に逃げて来いって言ってたわよ?」

「あの人達は信じられないくらい親切だね」


 シャルはエグ、ルグ、カーグに伝言を伝えた。

 それはシャルの気持ちでもあったかもしれない。

 そしてまた食事を配り始める。


 王城から強奪……いやメガネが快く差し出してくれた物だ。

 まだモンスターの襲撃で街は混乱している。

 スラムの住人以外の普通の一般人達、平民にもそれを分け与える。


「ファーストは何でそんな隅にいるんだよ!」

「「「こっちに来いよ!」」」


 俺はあまり目立たないようにしていた。

 だが子供達はそれを許さない。

 無理矢理引っ張られて皆の真ん中へと連れられる。


「お、この前は助けてくれてありがとうな!」

「お前さんは良いモンスターなんだって?

 誤解する奴もいるかもしれねーが、気にするなよ!」

「国の兵士は当てにならねぇ。

 助けてくれる奴は例えモンスターでも大歓迎さ!」


 言葉を掛けながら俺の背中を叩く者、頭を撫でる者、高く放り投げる者など様々だ。

 まったく調子の良い奴らだ。

 普段は俺の事なんて見向きもしないかペットくらいに考えてるくせに。

 ……だが悪い気はしなかった。


 その内に俺は大勢の人達からもみくちゃにされる事になる。

 みんなモンスターが珍しくて本当は触ってみたかったのかもしれない。


「結構堅いな」

「ひんやりしてるー」

「全身全体が黒いのな」


 俺の体の状態を述べる者。


「こうしてみると結構可愛いわね」

「小さくても強そうだな」

「モンスターなのに人間っぽい動きでおもしれーな」


 感想を述べる者。


「こっそり持って帰るか!」

「鱗の一枚くらい……」

「爪とかならまた生えてくるだろ?」


 少し危ない考えの者。


「俺も一匹くらい欲しいな」

「私の所へ来ない? 可愛がってあげるわよ?」

「俺の所へ来たら好きなもん食わせてやるぞ!」


 俺を欲しがる者まで居たくらいだ。


 もみくちゃにされ本当に身動きが取れない。

 だがここで珍しく俺に助けが入った。

 本当に珍しい事だった。

 信じられないくらいにな。


「ダメ―! これは私のなんだから!」


 俺は両腕で抱きかかえられていた。

 それはこれまで見た事も無いような……シャルだった。

 こんな事は信じられず、虫に操られているのではないか? とまで思ったほどだ。


「冗談だよ。

 嬢ちゃんが主人なんだろ?

 とったりしねーって!」

「御免なさい、悪ふざけが過ぎたわね」

「はっはっ! ドラゴンには良い主人が付いてるじゃねーか!」


 俺はこんな嬉しい事は無かった。

 正直な所、俺は恨みの目や迫害を受けると思っていた。

 これまでがそうだったからだ。


 でも違った。

 俺は……モンスターとしての俺が皆に受け入れられた。

 こんな事は初めてだった。


 だからだろうか?

 シャルがこんなにも焦っているのは。

 今はからかわれた事が恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。


 それでもシャルは俺を放す事は無かった。





負債…………4憶4600万

報酬…………500万(溢れたモンスターの討伐、問題行動で五割減)

追加報酬……1000万(虫のモンスターが死体を操る情報)

追加報酬……100万(王都襲撃の防衛、問題行動で九割減)

――――――――――――――――――――

負債残高……4憶3000万


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