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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第九十九話 無茶


 俺とシャル、そして多くの冒険者達は合流地点に到着した。

 そこは迷宮近くの町だったのだが……。


「誰も居ねぇ……」

「道中のモンスターは……まさか町の住人……?」


 冒険者達の言葉はきっと当たっているのだろう。


「……俺達のする事は変わらない。

 まずはギルドが提示した作戦内容とその説明をする」


 冒険者達をまとめているのはギルドマスターでは無く、ただの職員の様だ。

 その傍らには軍の兵士と思われる者も数名立っていた。

 ……嫌な予感がする。

 この大事な場面で何を考えているのだろうか。

 その答えは職員の説明で憶測できた。


「冒険者ギルドに与えられた仕事はモンスターの足止めと誘導です。

 実際に討伐を行うのは軍が担当します。

 またこの緊急クエストの依頼中は軍の規律に従って貰います」


 細かい説明もまだ続いたが要約すると冒険者達は囮になれと言う事だった。

 軍がモンスターを包囲しやすいよう誘導し、またその時間を稼ぐと言う事だ。

 普通なら不平不満を漏らす所だがその声は少なかった。


 報酬の高さもあるが実際の所あまり戦闘にはならないかもしれないからだ。

 むしろ戦闘は避けた方が良いのだろう。


 まずは冒険者達の編成から始まった。

 主にAランクの冒険者を指揮官とし、その他の冒険者達が振り分けられていく。

 Aランク同士が同じ編成に入る事もある。

 エーアとボーデンの様に二人で揃っていた方が戦いやすい場合などもある。

 その場合は職員や兵士に申請すれば直ぐに受け入れられた。


 俺とシャルはもちろん一緒だ。

 申請するまでも無い。

 俺は冒険者の一人としては見られていないからな……。


 シャルの配属先の指揮官、Aランクの冒険者は女性だった。

 女性と言うよりも女の子と言った方が良いだろうか。

 シャルと同じか少し年下に思える位だ。

 そして一番の特徴は左右の目の色が違う事だろう。

 オッドアイって言うんだっけ?


 その指揮官がシャルに話しかけてきた。


「あの、もしかして私と同じで使い魔をお持ちで?」


 その指揮官の腕には猫が抱かれていた。

 どうやらローブの効果だけでは俺の存在感をあまり隠せなかったらしいな。


「ええ、そうよ。

 違うのは私の使い魔はドラゴンで貴方は猫って事かしら?」


 シャルは少し興味が湧いた様だった。

 使い魔を使役する者は少ない。

 それが自分と同じ女の子と言う事もあってだろうか。


「はい! 私の使い魔は猫……の様な物です。

 ヴェレ、挨拶して!」

「はいはい。

 わたしゃ、ヴェレさ、宜しくね。

 こう見えても結構な歳でね。

 アンタらよか大分年上さね」


 その猫、ヴェレは黒い体毛に覆われ、黒と白の縞模様の尻尾が二本あった。

 まぁそんな事よりも重要な事があった。


「猫がしゃべった!?」


 俺はその光景にびびって声を上げていた。

 だって気持ち悪いんだもん。


「……それがドラゴンの台詞かね」

「ヴェレ!

 思っている事を直ぐ口にしない!

 本当の事でも失礼でしょう?」


 お前も結構失礼だよな。


「私はシャル。

 ドラゴンはファーストって言うの。

 宜しくね、ヴェレさん。

 それで指揮官さんのお名前は何て言うのかしら?」


 だってまだ名乗っていないのだからな。


「し、失礼しました。

 私はフルートって言います!

 それであの、指揮官を任命されたのですが……こんな事初めてで。

 出来れば同じAランクの方に手伝って貰えないかなーと思いまして……」


 代わって欲しいでは無くて、手伝って欲しい……か。

 正直、ここに居る者は指揮官をやりたい者の方が多いだろう。

 それは一番活躍しやすいからだ。

 つまり、Sランクになれるかもしれないと言う事だ。

 実績だけ寄越せと言っている様に聞こえなくもない。

 まぁ、どっちでも良いか。


「私はEランクよ。

 他を当たった方が良いわよ?」

「えっ? 嘘!

 だって使い魔を持ってるのに魔術師じゃない訳が無い!

 魔術師は直ぐにAランクになれるのに!」


 いや、まぁ、そうなんだけどね。

 普通はそう思うよね。


「私は魔術学園の出身なのだけどあまり成績が良くなかったの。

 その後もギルドであまり上手く行かなくてね」


 成績は嘘を言っていないな。

 ギルドの方は報酬はきっちり貰うがランクを上げるのは断わっていた。


「あの、その、重ね重ね失礼しました……」

「フルートはちょっと馬鹿なんだよ。

 許してやっておくれ」

「ヴェレ、それは酷いよー……」


 フルートは泣きそうな顔をしていたがそれが更に馬鹿っぽかった……。


「それじゃあ、指揮頑張ってね」


 シャルは興味を失ったのか馬鹿に関わりたくないのかその場を去ろうとした。


「ま、待って下さい!

 あのランクとか気にしないので手伝って欲しいです!」


 物を頼むにはまず言葉を選ぶべきだと思う。

 こいつはずっと失礼な事言ってるぞ。

 まぁ、女性の冒険者は少ないからな。

 同性の方が頼みやすいのだろう。


「学園で多少は習ったでしょう?

 その通りにやればきっと大丈夫よ」

「いえ、あの、魔術学園? と言う物に私は行っていません。

 あの、私はその、生まれ育ったのはアインツ王国ではないので……」


 なぜか出身の事は言いにくそうだった。


「もう、仕方ないわね……」


 シャルが珍しく折れ……。


「報酬については後で話しましょうか」


 ですよねー。

 だがこの報酬を得る事は出来なくなった。

 指揮を手伝う事自体が出来なくなったからだ。




◇◇◇




「誰か! お父さんとお母さんを……町の皆を助けて!」


 小さな少女の叫び声が上がる。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「この町の生き残りか?」

「他の者はどうしたんだ?」


 少女に様々な質問が投げかけられる。

 戸惑いを隠せず少女はかなり狼狽えていた。

 だが言葉ははっきりとしている。


「町の皆が大きな虫に攫われたの!

 こっちの方へ行ったわ!

 足跡も付いてるし、辿ればきっと助けられる!」


 しかしそれは難しかった。

 攫われた場所、方向が悪かった。

 モンスターを誘い込む場所とは真逆の方向だった。


 そしてギルド職員と軍の兵士が出した結論はこのまま当初の予定通り進めると言う事だった。

 ……町の住人は見捨てると言う事になる。


「どうして? 助けに来てくれたんでしょ!?」


 命令には逆らえない。

 いや逆らったとしても別のモンスターにこの町の住人とはまた別の人々が襲われる可能性が高かった。

 ……少女の質問には誰も答えられなかった。


「Eランクの冒険者が一人くらい抜けても大丈夫でしょう?」


 シャル以外は……だけどな。

 シャルの提案はギルドと軍に受け入れられた。

 目の前の少女を置いて行くわけにもいかない。

 誰かが保護する必要もあったからだ。


「フルート、悪いけどそう言う事だから手伝いは出来ないわ」

「……私もこの子と一緒に行く!」

「またフルートの馬鹿が始まったよ……。

 ま、わたしゃ、嫌いじゃないがね」


 フルートは本当に馬鹿なのだろうか。

 またヴェレもそれを止めない。


「君はAランクだろう!

 そんな馬鹿な事は認められない!」


 ギルド職員からも馬鹿って言われる始末だ。


「もう決めたの!

 冒険者は自由に依頼を選ぶ権利があるのよ!」

「今は緊急クエスト中だろうに!

 ……ああ、もう、好きにすると良い!

 処分は後でギルドから通達されると思いなさい!」


 職員は匙を投げてしまった。


「本当に良いの?

 ランクアップどころかランクダウンは免れないわよ?」


 シャルはフルートに確認していた。


「良いんです!

 私が本当にやりたかった事はこういう少女を助ける事ですから!」


 真っ直ぐだ。

 本当に真っ直ぐで眩しく思えた。

 それはシャルも同じ気持ちだった。


「そうね。

 私もそうだったわ。

 ……純粋な貴方が少し羨ましい」

「わ、私は純粋なんかじゃありませんよ!」


 そう言って瞳を指さして見せた。

 瞳の色が揃っていようがいまいが何の意味があると言うのだろうか。

 もしかしたらその変わった瞳で苛められた事があったのかもしれないな。


「取り敢えず、急ぎましょうか。

 貴方の名前は何て言うのかしら?

 町の人達の所へ案内出来る?」


 そこでシャルは少女の名前を聞いていない事に気付いた。


「モルトっていうの。

 こっちだよ!

 早く町の皆を助けなくちゃ!」


 少女の示す先には気配を感じる。

 それはモンスターの物では無いが……。

 迷った所で行くしかなかった。




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