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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第九十八話 無謀


 シャルに国から久しぶりの依頼が出された。

 同時に冒険者ギルドからも似たような依頼が冒険者達に出されていた。

 内容はそれ程複雑では無く、モンスターの討伐だ。

 この世界では地上にモンスターはあまり生息していない。

 それは過去に異世界から召喚された勇者の功績だが……今はあまり関係ないか。


 地上に居ないのならどこにいるのか?

 それは迷宮だった。

 迷宮は世界各地に存在し、その内部は広大だ。

 内部は空間が歪んでいるといったら分かりやすいかもしれない。

 地下のはずなのに空や太陽まであるのだから。

 まぁ、そんな階層まで行ける奴はそうは居ないがな。


 その迷宮からモンスターが溢れだしたのだ。

 これははっきり言ってとんでもない事態だ。

 天災や災害に例えると巨大な隕石が降ってきた様な物だ。

 生態系が大きく変わる可能性すらあった。


 勇者が召喚された理由にも繋がってくるが、大昔、この世界の大地はモンスターで溢れていた。

 人間は脆弱で虐げられる側だった。

 勇者の活躍により地上からモンスターは姿を消し、迷宮でひっそりと暮らすようになる。

 全て怪しげな伝承や口伝なのであまり信用してはいけないがな。


 そして今はその迷宮に人間がモンスターを求めて侵入していくほどだ。

 モンスターの体内には魔石がある。

 魔石はマジックアイテムを使用するのに欠かせない物でとても価値のある物だからな。


 話がそれたが、つまりまた地上がモンスターに支配される事態が考えられると言う事だった。


「すいませんが、またしばらくお休みさせて下さい」

「分かったよ! 今度もまたちゃんと帰ってくるんだよ?」

「はい!」


 女将さんは理由を深くは聞かない。

 ただ必ず帰ってくる事だけは約束させる。


「……修行を忘れるな」


 料理長は口数は少ないが気にかけてくれているのは分かる。


「シャルちゃんの分も頑張るから!」

「私も頑張るけど、早く帰って来てね!」


 トレーネとツェーレは笑って送り出してくれる。


「シャル! 皿洗いは任せて頑張って来いよ!」


 俺も笑って送り出そう。


「ファーストは私と一緒に決まってるでしょ!」


 俺はシャルに尻尾を掴まれ、無理矢理連れられて行く。

 モンスターの相手はしんどいんだよ。

 ……シャルの注文が多くなるからな。




◇◇◇




 世界の危機と言う事もあってアインツ王国の総力を挙げてこの事態に対応する事になる。

 戦争は一時中断、最低限の人員のみを残し、モンスターの討伐に総力を掛ける。

 そしてモンスターの溢れだした迷宮はアインツの南側に当たる場所だった。

 アフュンフ国はアインツの北東よりだ。

 軍を移動させるには時間が掛かった。


 その為、先行して冒険者ギルドがこれに対応する事になった。

 冒険者ギルドは勇者の作った機関だ。

 この未曽有の危機に対応してこそ、その価値もあると言える。

 そしてシャルはまた冒険者達と行動を共にする事になる。


『またこのローブを着ないといけないなんて』

『今回は冒険者達の人数がかなり多い。

 俺達の事を知る者がいる可能性が高いからな』


 今回はギルドからの緊急クエストと言う物になる。

 対応できる冒険者は優先的にこの依頼(クエスト)を遂行しなければならない。

 強制的ではないが、ほとんどの冒険者が受ける事になるだろう。

 そしてアインツ王国以外からも冒険者達は集まってきている。

 これほど大規模なギルドのクエストは歴史上初めてらしいな。


 シャルはまずは冒険者達の集合場所、モンスターが溢れだした迷宮の近隣の町へと急いでいた。

 俺は前回とは違い、シャルの傍に付いている。

 今回のクエストでは普段では見かけないような高ランク冒険者、Aランクの者達も参加している。


 つまり魔術師も多くはないが居ると言う事だ。

 その中には使い魔や従魔を使役している者も居る。

 今更小さなドラゴンが一匹増えた所でそれ程目立たないだろう。

 ……本当の所は違うがメガネにはそれで納得してもらった。


「ファースト、こっちに」

「ん? ……ああ!」


 シャルは俺を抱きかかえ周りから少しだけ見にくくした。

 こうしていれば俺にもローブの気配を薄くする効果があるかもしれない。

 理由は周りに見知った顔があったからだ。

 ローブを着ていなければ見つかっていたかもしれない。

 いや、そんな事もないか。


 そいつは何度かギルドの依頼を一緒にこなした事のある奴だった。

 ああ、また自分は本当はすげーんだぞアピールをしてるわ。

 元Bランクで今は確かDランクに下がったのだったか。

 ……俺とシャルに関わったせいで。

 まぁ、どうでも良い事だった。

 だが少し気になる事も言っていた。

 俺は伝説になるとかなんとか。


 今回の緊急クエストは純粋に世界の為にと集まった者は多い。

 だがそれ以外にも報酬、取り分け栄誉や名誉を求めている者も多くいた。


 Sランク。

 歴史上、ほんの数人しかSランクの冒険者は存在しない。

 そのランクに上がる事が出来る可能性がこのクエストにはあった。


 だがあいつにそれは無理だろう……。

 低ランクからいきなり高ランクとか異世界からの転生者(・・・)か召喚者しか無理だろうよ。

 それこそ勇者のようにな。

 高望みして死んでも知らないぞっと。


 だがそんな奴は者は沢山いる様だ。

 人間やっぱり報酬があった方が頑張れるよね!




◇◇◇




 緊急クエストはやっぱり緊急事態なのだろう。

 その道中からして既に波乱に満ちていた。


「「「モ、モンスターだ!!!」」」


 合流予定の町へたどり着く前にモンスターにたどり着いてしまった。

 その数は此方の冒険者達よりも倍する程であった。


 出会ったモンスターは人型で……ゾンビとかスケルトンとかそう言う感じだ。

 ぶっちゃけ怖かった。

 ドラゴン(・・・・)になる前だったら腰を抜かしていた所だ。

 ……ドラゴンの腰ってどこだろうな?


「慌てるな。我々はそのモンスターを倒す為に来たのだからな」


 慌てる者、落ち着く者、既に戦闘態勢に入っている者など様々だった。

 ここにいる冒険者達は実力に大きな差があるのかもしれない。

 一度合流してから冒険者達の編成を行う予定だったから仕方のない事かもしれないが。


「フッ。僕に任せろ!

 ……ウィンドアロー!」


 腕に覚えがあるのだろう。

 まぁ、魔術師なら当たり前か。


 魔術で作り出された風の矢が一体のゾンビへと命中する。

 ゾンビの腕が吹き飛び、同時に地面へと倒れた。

 だがそんな物は最初から無かったと言うのだろうか。

 何事も無かったようにゾンビは立ち上がりまた冒険者達へと向かってくる。


「坊ちゃんはお下がりを!

 ……アースランス! ランス! ランス!

 ラン……げほっげほっ!

 爺はどうやらここまでのようですじゃ……」

「爺!!!

 よくも爺をやったな!

 ……ウィンドトルネード!」


 その魔術は風の竜巻だった。

 ゾンビは四肢が全てもぎ取られ、もう立ち上がる事は出来なかった。

 ついでに頭ももげていた。

 ……それでも地面にはいつくばりながら動いているのだから恐ろしい。


 だがもっと恐ろしいのは坊ちゃん? と爺? だった。

 馬鹿な三文芝居をやりながらモンスターを次々に倒していく。


 魔術師は冒険者になるよりも国に仕える事の方が一般的だ。

 その方が普通は儲かるしな。

 その為、魔術師の冒険者は変わり者か……何かしらの事情があるかだ。


「Aランクのエーアとボーデンだ!

 流石魔術師!

 そこいらの冒険者とは違うぜ!」


 冒険者の誰かがそんな事を叫んでいた。

 まぁ、こんな感じでAランクの冒険者が数人、ここには居た様だった。

 つまり楽勝って事だ。


「ここでやらなきゃ、冒険者の名折れだ!」


 魔術師に続いて他の冒険者達も戦いに参戦していく。

 冒険者達の士気は高い。

 勿論、シャルの士気も高い。

 だがその理由はまちまちだった。

 俺とシャルはというと……死体漁りをしていた。


「ファースト! 魔石は全部回収よ!」

「……分かってる」


 そう、これは分かり切った事だった。

 倒す事よりも魔石の回収がメインだと言う事は。

 俺がシャルの傍に付いているのは魔石の回収を手伝う為だった。

 この作業が本当にしんどい。


 そして士気が高かったのは初めだけだった。

 主にシャルの事だがな。


「……魔石が無い?」

「どうやら何者かに操られていたみたいだな」


 つまりゾンビはモンスターでは無いと言う事だった。

 そして操っていたのは多分、今見ているコレだろう。

 ゾンビの中から無数の虫の様な物が這い出てくる。

 それは直ぐに地面の中へと潜っていった。

 わざわざゾンビをばらさないと虫には気付けなかっただろう。


「はぁ、嫌な予感しかしないわ」

「面倒事は全部、メガネに押し付けるのが良いと思うよ!」

「冴えてるわね!

 でも……今回の緊急クエストは少し様子を見ましょう」


 国からの依頼はモンスターの討伐だ。

 それは緊急クエストの内容とそう違わない。

 だがモンスターを倒すだけでは終わらないのかもしれない。


 そしてゾンビの大軍は冒険者達の手によって難なく撃退した。

 それが何なのか、冒険者達はすぐに知る事になる。





ゲファール

性格は粗暴に思えるが実は義理堅い

趣味は嫁を愛でる事だが、嫁とは娼館の女達だ

元はBランクの冒険者で平民としては最高ランクだった

冒険者としては武闘派では無く、頭脳派になるのだろうか

ファーストとシャルに関わった事で今はDランクに下がっている


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