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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第九十四話 裏口

「すいません、しばらくお店をお休みさせて下さい」

「そんな事は良いんだよ!

 でもまた戻ってくるんだよね?」

「はい! 勿論です!」


 シャルは女将さんにまた休みを願い出ていた。

 しかも今回はかなりの日数を休む事になる。

 俺とシャルは最近、怪しい行動が目立ってきていた。

 この仕事は本当にタイミングが悪いと言える。




◇◇◇




「あのメガネ!

 この依頼が終わったら報酬をふんだくってやるんだから!」


 シャルは荒れていた。


「そこのローブの女! 静かにしないか!」

「……分かったわよ」


 シャルは目立たないようマジックアイテムのローブを身に着けていた。


 今回の依頼は複数の冒険者達と一緒に行う事になる。

 製造元の候補箇所が多く、その全てを網羅する事は難しいからだ。

 一応、一番可能性の高い場所へと俺達は派遣される。


 そして冒険者ギルドに出された依頼は盗賊団の壊滅と言う事になっている。

 安易に情報を漏らさない為だろうか。

 シャルは冒険者達に混ざり、秘密裏に銃の製造について調べなければならない。

 ……無茶振りだと思う。


 シャルは身元が割れると面倒なので、王都から離れた冒険者ギルドで依頼を受けた。

 また身元を確認するギルドカードの偽造は難しい。

 その為、シャル自身を偽る事は出来ない。

 せめて見た目だけでもと言う事でメガネから渡されたのが、このローブだった。


 このローブは羽織っている人物の気配を薄くする効果がある。

 その状態でもう既に目立っているのだから効果は怪しい物だがな。

 ……シャルが荒れ過ぎていたという事もあるかもしれないが。


 本当はもっと効果の高いマジックアイテムを進められた。

 だがそれはちょっと付けたくない物だった。

 メガネの言葉を借りるとするなら……。


「これは過去の勇者が使用したと言う伝説のマジックアイテムだ!

 その名も……鼻眼鏡!

 異世界の技術で作られた認識疎外の道具だ」


 ……馬鹿か!

 たとえ認識疎外の効果が有ったとしても絶対に付けたくは無い。

 しかもメガネの野郎は真面目に進めてくるのだから困った物だ。

 結局何とかメガネを説き伏せ、このローブを付ける事で合意した。


 そしてシャルの冒険者ランクはEランクだ。

 本来なら余裕でAランクのはずだったのだがな。

 登録する時に国の横やりが入ったせいでこうなってしまった。

 まぁ、Aランクなんて魔術師しかなれないからな。

 目立たない為にはその方が良かったのかもしれない。

 出来過ぎていると思うが考え過ぎだろうか。


 最後に俺はどうしているかと言うと……。


『ファースト、ちゃんと私についてくるのよ?』

『ああ、今もシャルを見ているよ。

 ……空の彼方からな!』


 俺は空高く、シャルの頭上を飛んでいた。

 ドラゴンの使い魔なんて連れていたら目立って仕方ない。

 本当の俺達の事を知っている者は結構多いからな。




◇◇◇




 道中はすんなりとは行かなかった。

 ここが敵国だからでは無い。


 アインツ王国とアフュンフ国は戦争状態にある。

 だがそれはアインツの一方的な勝利で展開していると言えた。

 そしてアインツは敵国を侵略しない……と言う事になっている。

 過去の出来事の報復でアフュンフを攻めてはいるが、領土などを取るつもりは無いと言う事だ。

 その為、アインツの制圧した場所でもアフュンフ国の領土である事に間違いは無かった。

 だが統治している訳では無いので、この現在地点は無法地帯となっている。

 悪巧みをするには適した場所と言えるのかもしれない。


 そして盗賊団のアジトの場所はきちんとギルドにメガネから伝えてあったはずだ。

 だが山中に盗賊団のアジトがあった為、冒険者達が迷ってしまったのだ。

 俺はシャルに感知した正確な場所を伝えた。

 だがシャルからそれを聞いた冒険者達はまともに取り合わなかったのだ。

 ……こんな状態でどうやって秘密裏に依頼をこなせと言うのだろうか。


 なんとかアジトに辿り着いたが、まだ問題はあった。

 盗賊団は当然武装している。

 ……その武器は銃だった。


 此方の冒険者達は剣や槍、盾と言った装備だった。

 勝ち目は薄いと言える。

 頼みの綱はシャルと言う事だろうか。


 魔法を使える魔術師は数がとても少ない。

 千人に一人くらいの割合しか存在しないからだ。

 そしてこの場には魔術師がシャルしかいなかった。




◇◇◇




「くそが! 銃を持っているなんて聞いていないぞ!」


 冒険者達はシャルの言う事など案の定聞かず、無謀な攻撃を仕掛けていた。

 だが被害は甚大だったが、盗賊達を何とか追い詰める事に成功する。

 俺が盗賊の位置をシャルに伝え、シャルの魔術によって密かに援護しなかったら一体どうなっていた事だろうか。


 追い詰めたと言ってもまだ終わりでは無い。

 盗賊達は完全に籠城の構えになっていた。

 此方からは手が出せない。


 盗賊の銃での攻撃を盾で防ぎつつ守る事しか此方は出来なかった。

 今ここでシャルが魔術を使い援護しようものなら流石に冒険者達に気付かれてしまうだろう。

 面倒事は御免だった。

 そしてシャルは回りくどい事も嫌いだった。

 ……早く終わらせたいだけだ。


「私の話を聞いてくれる?」


 シャルは再度、冒険者達に提案を持ちかける。

 今度は話だけでは無い。

 その方法も見せながら。


「……爆発石じゃねーか! なんでそんなもん持ってんだよ!」


 冒険者達は俺と似たような事を思っていたようだな。


「このままではどうしようもないわ。

 ……建物ごと破壊しない?」


 これは俺とシャルが、いやシャルが好む手段だった。

 手っ取り早いからな。


 冒険者達はこの提案を受け入れた。

 此方の被害をこれ以上増やさない為にも受け入れるしかなかったと言った方が良いか。


 冒険者達の手によって爆発石が盗賊達の潜む建物に投げ込まれる。

 これで今回の冒険者達の受けた依頼は達成された。




◇◇◇




「こんな強力なモノがあるなら、初めから出せよな……」

「当然、爆発石の代金は別途貰うわよ?」

「まじかよ……今回の報酬が飛んでっちまうな……」


 冒険者達は分かっているのだろうか?

 命の代金はそれなりに高額だと……。

 まぁ、それはまた後の話だ。

 今は金よりも命の心配をした方が良い者が目の前にいるのだから。


「ぐ……殺せ!」


 それはなんとか爆発から生き残った盗賊だった。

 そして命の心配なんてしていなかった。

 今は最低限の手当てだけして拘束してある状態だ。


「盗賊の生き残りと話をしたいのだけど?

 ……少し手荒な方法でね」


 今度はシャルの話を冒険者達はきちんと聞いてくれるようだった。

 そして盗賊とシャルは二人きりになる。

 冒険者達には聞かせたくない話をする事になるからな。


「銃の製造方法をどうやって知ったの?

 正直に話せば殺してあげるわ」

「話す訳が無い!

 それにそれでは死ぬ意味がないだろう?」


 盗賊は自分の立場が分かっていないのか、どこか上からの物言いで挑発的だった。


「製造方法の事を知っているようね。

 ……楽には死ねないわよ?」


 そしてすぐに盗賊の叫び声が響き渡る。


「何をしているんだ!」


 騒ぎを聞きつけ様子を見に来た冒険者は……驚きを隠せなかった。


「なっ! お、お前は一体……」


 そこでは目に余る光景が広がっていた。


「少し手荒な方法って言ったでしょう?

 仲間を傷つけた報いを受けさせている所よ。

 こういうのは女の方が……上手く出来るのよ?」


 言葉と一緒にそれは続けられた。

 同時に盗賊の悲鳴も上がる。


「……好きにしろ」

「盗賊は最後まで抵抗した為、全員戦って死んだって事で宜しくね」

「ああ、他の奴らにもそう伝えておくさ」


 仲間の為と言えば多少の行いには目を瞑ってくれる。

 それは都合の良い言葉だった。


「さて、続きをしないとね。

 正直に話せば楽に死ねるわよ?

 言わなくても死ねるから安心して」


 そこに救いなど何も無かった。




◇◇◇




 得られた情報は少なかった。

 名前も知らない男が儲け話があると盗賊達に持ち掛けて来たのが始まりだったそうだ。

 それは盗賊をするよりもよっぽど儲かったのだから断る理由も無かったと。

 その男の特徴を聞くが何もわからないそうだ。

 しいてあげればシャルと同じ様にローブをいつも深くかぶっていたそうだ。


 ……心当たりは会ったがそれはあまり意味がなかった。

 同じ特徴を持つ者をずっと探しているのだから。

 そいつは悪事の裏側に見え隠れするがどうしても所在がつかめない者だった。


 これ以上の情報を得るには倒壊した建物内を探すしかない。

 それはメガネが後で兵を送るのを待つ方が無難だろう。


 これでシャルが受けた国からの依頼も完了だった。

 冒険者達には何も知られなかったはずだ。

 シャルの素性も含めて何も。

 ただ……危ない奴だと思われたかもしれないが。


『仕事は終わり。早く帰りましょう』

『まだギルドとメガネへの報告があるよ』

『はぁ、ギルドへは私が行かないと駄目ね……』

『メガネの方も行って欲しい所だよ……』

『そっちは任せるわ。

 私はギルドからも追加の報酬を得られるよう交渉しないとね!』


 ギルドからも追加報酬を取るのかよ!

 もう十分すぎるほどの資産を持っていると思うのだが。

 まぁ、お金は幾らあっても良いけどね。


 取り敢えず今は帰りの旅路を急ぐだけだ。

 何時もの日常に早く帰りたい。

 だが王都で待っていたのはありふれた日常では……無かった。




負債…………4憶5800万

報酬…………1000万

追加報酬……200万(ローブの男、情報分)

――――――――――――――――――――

負債残高……4憶4600万


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