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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第四章 擬態
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第九十一話 裏表

 四章からは鬱展開が大目になる予定です。

 その分、より面白くなるよう頑張ります!


「おまちどー! 竜の姿煮定食でーす!」


 可愛らしい女の子がお客に料理を運んでいく。

 そこは王都で最近流行りのお店だった。

 流行りと言っても貴族向けでは無く、一般人……つまり平民向けのお店だ。


 そして出された料理は……。

 安い! 速い! 危ない!

 この三拍子が揃っている? 人気? 料理? だ。

 その料理を見てお客は困り果てていた。


「シャルちゃん……いつもの普通の料理を頼んだと思うんだが……」


 そこにはいつもの料理に追加で一品足されていた。

 大き目の皿に小さな竜が一匹、煮込まれた状態で横たわっている。

 竜が真っ黒で焦げた様に見えるからお客が困っている訳では無い。

 それは素材の竜が元からそういった物だからだ。

 そんなお客を無視して、シャルは料理を進める。


「竜の姿煮はおまけなので気にせず食べて下さい!」


 そしてもっと困り果てていたのは……俺だった。


「俺が悪かった。この辺で勘弁してくれ」


 俺は今、お客に出された料理の一品になっている。

 俺は皿の上からシャルに懇願していた。


「もう二度とお皿を割らない事!

 次割ったら竜の活け造りだから!」


 俺は皿を割った時からじっくりコトコト煮込まれていた。

 次は体をぴくぴくさせながら刺身にされるのだろうか。

 シャルの手に握られた……刀によって。


「シャルちゃんそれは料理の道具じゃねーよ!

 一体どこから出したんだか……。

 そんな物騒なもんはしまって酒でも出してくれ」

「はーい! ご注文ありがとうございまーす!」


 新たに注文を受けシャルは機嫌を直してくれたようだった。


「おっさん! 恩に着るよ!」

「良いって事よ!

 ドラゴンには息子も良くなついているからな。

 また今度遊んでやってくれ」

「ああ、勿論だよ!」


 子供とは遊んでおくものだ。

 何方かと言うと俺が遊んで貰っていたような感じだったかもしれないが。


「ファースト! サボってないで皿を洗う!」

「はぃぃ!!!」


 俺は引きつった声を上げてしまった。

 これ以上のミスは許されない。

 俺のこの小さな手に全ては掛かっていた。


 俺は今日も戦場(厨房)で命(皿)を賭ける(洗う)!

 ……パリン。

 俺の手には少し大きすぎるんだよ……。


「ファーーーーーストーーーーー!!!!!」


 俺は今を生きる事に全力を尽くしていた。

 ……次の瞬間にはもう保障されていないのだから。




◇◇◇




 俺とシャルはアインツ王国王都の宿屋兼食事処、最近流行りのお店でバイトをしている。

 働けば働いただけ給金が貰え、急な休みにも対応してくれる中々良いお店だ。

 ちなみに最近流行りと言っているのは従業員達などの関係者だけで実際はそれ程でも無い。


 俺とシャルの関係はご主人様と使い魔だ。

 そして俺は誇り高きドラゴン……の幼生で、まだ体は小さな物だった。

 今後に期待と言った所だろうか?


 シャルはドラゴンを使役出来るがただの一般人で平民だ。

 田舎から王都へと出稼ぎに出て来たのだ。

 言い寄ってくる男は多く、人気者と言った所だろうか?


 ……と言う事になっている。

 周りの人達はそれを信じているはずだ。

 魔法(・・)を使えない者がドラゴンを使い魔になど出来るはずもないが、一般人はそんな事すら知らないのだ。


「シャルちゃん、もう上がって良いわよ」

「はーい。

 あの、女将さん。

 すいませんが、今日の夜は用事で仕事に出られません」

「はいはい、分かったよ。

 明日の朝はまたお願いできるかい?」

「はい! また明日の朝、宜しくお願いします!」

「俺、朝は弱いんだけど……」


 俺の言葉は完全に無視されて話は進むと思われたが……。


「大丈夫、ファーストは今から一睡もしないから!

 朝なんて関係ないわよ!」


 確かにそれなら朝なんて関係ない。

 朝とか夜とか関係なく眠いからな。

 ドラゴンに睡眠なんて必要ない!

 でも……優しさは必要だと思います。




◇◇◇




 俺とシャルは仕事や用事が無い暇な時は大抵町を歩いていた。

 貴族達が行くような場所では無く、平民ですらあまり歩かない場所を。

 そこはスラム街と言った様な感じの場所だった。

 本当に貧しく今日この日を生きる事すら難しい人々が暮らしている場所だ。


「シャルお姉ちゃんだー!」

「ファーストもいるー!」


 俺とシャルを見つけるとスラムの子供達が集まってくる。

 ここでは俺達は人気者と言う事もあるが、理由はそれだけでは無かった。


「美味しそー!」

「いつもありがとー!」


 ここに来るときは大抵何かしらの食べ物も一緒に準備してきていたからだ。

 勿論、子供達にあげる為に。

 まぁ、教会の慈善事業の真似事だった。

 教会と一緒に行えば良い事だが、少し仲が悪く一緒に行動する事は出来ないからな。


 こんな事、ただの自己満足で何の意味も無いとも言える。

 自分より弱い者の存在を確認し、安心感を得ているだけかもしれない。

 それでも俺とシャルはこの行動を止める事は無かった。


 これから行う用事……それが弱い者を助ける為の事だと信じる為に。




◇◇◇




『目標を確認。

 敵、盗賊達は全部で十三人。

 全員、武器を所持しているな』


 俺は目標が居る建物の上空を飛んでいる。

 周りは既に闇に包まれ、出歩く者は少ない。

 俺はドラゴンの感覚を駆使し、目標の居る建物内を感知していた。

 そしてシャルに念話(テレパシー)で状況を説明する。


『盗賊と言ってもただの平民でしょう?

 武器の有無なんて関係ないわ』


 シャルはめんどくさそうに返答する。

 だが俺はシャルに伝えなければならない。

 シャルの安全の為に。


『盗賊の持っている武器は銃だ。

 規制されているのに一体どこで手に入れたんだかな。

 ……あと今回は周辺の被害を抑え、穏便にと言われている』

『はぁ、どうしてこう回りくどい事をしないといけないのよ』


 この仕事の前に俺とシャルは少しやり過ぎた事があったからな。

 きっとそのせいだろう。


『裏口が比較的手薄だ。

 そこから侵入しよう』

『嫌よ。明日も早いのだからさっさと終わらせるわ!』


 俺とシャルにはもう一つ仕事があった。

 宿屋でのバイト以外の仕事が。




◇◇◇




 シャルは建物の正面、入口から堂々と侵入していた。

 見張りもおらず、鍵も掛かっていない。

 それは簡単な事だった。


「んあー? お嬢ちゃんがこんな所に何のようだ?」


 中に居た男達は酔っぱらっていた。

 そして本来なら盗賊達は侵入者を直ぐに拘束するか排除しなければいけないはずだ。

 だがそれが可愛らしい女の子と言う事もあって酷くぬるい対応だった。


『一階には六人。

 全員射角に入っている。

 いつでも大丈夫だ!』


 俺はシャルに開始の合図を送った。


 シャルは男達の言葉を完全に無視し、一方的に攻撃を始めた。

 男達が持つ武器と同じ……銃によって。

 銃の出所はちゃんとした所なので特に問題などは無い……はずだ。

 そして男達が気付いた時にはもう既に勝負はついていた。


 六人全員が銃弾を受け、悲鳴もしくは苦痛の声を上げていた。

 運の良い事に死亡者はいないようだった。

 だが戦える者もいない。


 ここにもう用は無い。

 シャルは二階へと上がっていく。

 そしてシャルの姿が男達から見えなくなると同時に一階を爆発が襲った。

 一階に生存者は……もういない。


 それは爆発石による物だった。

 魔石を特殊加工して作られた手榴弾の様なものだ。


『学校で習った事がこんな所で役に立つとは思わなかったわ』


 シャルは少し変わった一般人向けでは無い学校に通っていた。

 だがそこでは確かまず閃光石、激しい光を放つが破壊力は無いそれを使用し、敵を牽制する。

 その後、敵に攻撃していくと習ったような……。

 動けない敵に止めを刺すような使い方では決してなかったはずだ。

 それ以前にどこから爆発石を手に入れたんだ?

 閃光石しか準備していなかったはずなのに……。

 まぁ、深く考えるのは止めよう。


『二階にも六人だ。

 盗賊の頭領はいない……更に上だな。

 全員倒しても良いが穏便に頼むよ!』

『……なるべくね』


 本当だろうか?

 だが今はシャルを信じるしかない。


「何が起こっている!?

 下の奴らはどうなったんだ?」


 二階の敵は爆発に釣られ、部屋から慌てて廊下に出て来ていた。

 そこをシャルがいとも簡単に銃で打ち抜く。

 一人二人、三人と倒した所で敵も応戦して来る。


「襲撃か!? 敵は何人いるんだ?」

「分からねぇ!」

「確認出来たのは女が一人だけだ!

 くそがぁ! 他の仲間は何をやってんだ!

 みんな死んじまったのか!?」


 シャルも敵も物陰に隠れながら銃を撃ち合う。

 これでは膠着状態になってしまうのだが、シャルは容赦が無かった。

 絶妙なタイミングで敵に爆発石を投げつける。

 それにより敵は三人とも吹き飛んでしまった。


 そしてシャルは三階へと上がっていく。

 だが敵が一人、まだ生きていた。


『シャル! まだ生き残りが居る、気を付けろ!』

『分かっているわよ』


 シャルは生き残りに銃を放つ……が弾が出なかった。


『もう! ちゃんとした道具を準備しなさいよね!』


 銃はまだ信頼性の高い武器とは言えなかった。

 こういうのをジャムるというのだったか?

 動作不良により薬莢が詰まってしまった訳ではないがイメージとしてはそんな感じだ。

 この世界の銃は魔石を使用して弾を飛ばす。

 銃は魔石を使用して使う事が出来る道具でマジックアイテムの一種に過ぎない。


「くそ……お前も死ね……」


 敵は傷つき今にも死にそうだったが、最後の力で銃を撃つ事は可能だったらしい。


『シャル!!!』


 俺の叫びは……間に合わなかった。




◇◇◇




 そこには大きな穴が開いていた。

 建物の外と中が繋がり、人が通り抜ける事が出来るほどだ。

 そこに敵の姿は……もう人であった何か、肉片の様な物しか見つける事は出来ない。

 そしてそれはシャルの魔法、アイスアローによって出来たものだった。

 通常のアローの魔法の威力とはとても思えない結果だった。


『魔法は使っちゃ駄目だって!

 周囲の被害を抑えるように言ったのに!』

『悪いのは粗悪品を準備した方よ。

 報告書にはその辺の事を強調して書いておきなさいよね!』


 俺が報告書を書くのは決定なのかよ!

 俺はいつもいつもシャルに上手く押し付けられていた。


『もー!

 ……最後の一人、盗賊の頭領は屋上でシャルを待ち伏せているよ』

『どーするの?

 爆発石はもう無いわ。

 ……魔法も駄目って言われたら、どーしようも無いわよ?』


 制限してばかりでは手も無くなるか。


『……敵の銃は俺が何とかするよ。

 シャルは普通に頭領を追い詰めちゃって!』


 シャルは俺の言葉通り、普通にただ歩いて屋上へと向かう。


「……馬鹿が! これで仕舞だ、死にやがれこの悪魔が!」


 敵の頭領はシャル目がけて物陰から銃を放った。

 だが弾が飛んで行く事は無かった。

 ジャムった訳では無い。


 これが俺の魔法、アンチマジックフィールドだった。

 普通、アンチマジックフィールドは魔法や魔術を魔力によって無効化する。

 だが俺はマジックアイテムすら無効化出来る。

 少しはドラゴンらしく、理不尽な強さも見せないとな。


「な、なんでだ! お前は本当の悪魔か何かだとでもいうのか!?」


 あながち間違っていないが……口には出せない。

 頭領は起こった出来事が理解できず混乱しているようだった。


「こんなかわいい女の子を捕まえて悪魔とは酷いと思わない?」


 シャルの問いは頭領に向けて行った言葉では無い。


「そうだな。シャルは悪魔というより天使だからな!」


 シャルの問いは俺への言葉だった。

 俺は上空から屋上へと降りて来ていた。

 そして悪人にとって悪魔も天使もさほど変わらない。


「盗んだ魔石はどこ? この建物の中かしら?」


 シャルによる頭領への問いは言葉と同時に銃弾も頭領へと撃ち込まれていた。


「ぐぅぅ! は、話すから、こ、殺さないでくれ!」


 頭領が言葉を話すと同時にまた銃弾が撃ち込まれる。


「どこ? 早く言いなさい。

 早くしないと死んじゃうわよ?」


 シャルは全く持って容赦が無かった。


「ぐぁぁ! ち、地下だ! 地下にある! もうやめてくれーーー!!!」


 頭領は素直に吐いた……ギリギリ死ぬ前に。


「分かったわ。

 じゃあ、ファースト。

 ……後はお願いね」

「オーケー!

 ……すぐ楽にしてやるからな」


 俺は頭領を空の旅へと連れ出した。

 悪いが帰りは……自力で帰って貰う事になる。




 これが俺とシャルのもう一つの仕事だった。




◇◇◇




「はぁー、疲れた!

 これでたったの百万ギルとかやってられないわね」

「……今回も被害を出したから報酬が減るかも」

「はぁ!?

 その辺はちゃんと報告書にそっち(・・・)の準備が悪いって書いときなさいよ!」

「たまにはシャルが報告書を書いてくれよ!」

「私は明日も朝が早いのよ!」

「それは俺もだよ!」

「あー、そう言えばあといくら?」


 シャルは俺の話を全く聞く気が無いようだった。


「……あと四億六千二百万ギルくらいかな?」


 それは膨大な金額だった。


「三年間でそれとか……返す頃にはおばあちゃんになっちゃうじゃない!」

「シャルはおばあちゃんになってもきっと可愛いよ!」

「ありがと!

 でも報告書はファーストが書くのよ。

 魔石もちゃんと探しておいてね。

 それじゃあ、お休み―!」


 シャルはさっさと一人で帰ってしまった。

 日頃の行いが悪いせいかと一瞬考えたが、この状況はどうやっても変わらなかったと思う。

 ああ、今夜はきっと徹夜だ。

 一睡も出来ない事だろう。




 この世界(・・・・)には優しさが少し……足りなかった。

 



負債…………4憶6200万

報酬…………100万

――――――――――――――――――――

負債残高……4憶6100万



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