閑話 ご主人様は真っ白5
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
これまでの内容でまだ明らかになっていない疑問点を挙げています。
ここに挙げた内容は今後明らかになる予定です。
読まない方が今後の内容を楽しめるかもしれません。
俺とシャルは旅をした。
迷宮や他の国、人が行けないような自然に囲まれた場所など色々な場所へと。
冒険者ギルドで依頼を受けた事もあったし、国の仕事をした事もあった。
教会の活動を陰から助ける事も少なからずあった。
そんな中でシャルが選んだ道は……平民として静かに暮らす事だった。
旅先で出会った人達の何人かとシャルは付き合う事もあった。
……俺はその度に酷く苦しんだものだ。
いけない事とは分かっていても、感覚共有を使ってしまう。
そこから感じられる事は俺を苦しめるだけだというのに。
特に……夜ベッドの上でシャルがその者達に何をされ、どう感じるか。
分かり切った事だが、そこにはシャルの喜びがあった。
俺の知らないシャルがそこには存在していた。
俺は焼けるような胸の苦しみを感じた。
幾つかの山が炎に包まれたらしいが、きっとどこかのドラゴンが我を忘れたのだろう。
だが何度も繰り返されるうちに、俺は……慣れた。
そしてそれが良い事だと思うようになった。
シャルはそのうちの一人と結ばれる事になる。
そして俺とは別れる事になった。
シャルは結婚し、子供を産み、畑を耕していた。
俺はたまにシャルへ会いに行く。
その度にシャルは美味しい野菜をご馳走してくれた。
俺に美味しい物を食べさせる為に作物を作る事にしたとはシャルの談である。
シャルの子供が子供を産み、その子供が成長するといった平穏な時間が過ぎていく。
そんな中、シャルの時間は終わりを告げる。
最後は多くの家族や友人達に囲まれながら天に召された。
シャルは俺と別れた後は魔法をあまり使わなかった。
やっぱりシャルの本当の願いは俺とのつながりを断ち、普通の人間になる事だったのだろうか?
それを最後までシャルは否定していたが、本当の事は分からない。
今となってはもうどうでも良い事かもしれない。
そんな事よりも天に召された後、今頃は神をいたぶっている頃だろうか。
これくらい馬鹿な事を考える余裕も俺にはあった。
そんな俺は一匹の竜と出会う事になった。
蒼く澄んだ色をしたドラゴンだ。
得意な魔法は氷。
……シャルとは違いおしとやかで何時も俺を立ててくれる。
シャルと同じなのは優しい事だけだ……少し方向性はちがうが。
そして俺はドラゴンの体のせいか長い時間を生きる事になる。
未だにそれが何時終わるのか見当もつかない。
長い年月は俺の記憶からシャルの事を段々と奪っていった。
シャルと過ごした日々は真っ白な記憶の彼方に消えてしまった。
だが俺はシャルの事を忘れない。
今でも俺にはシャルの結んでくれたリボンが付けられているのだから。
……。
…………。
………………。
これから先の事を考えてみたが……こんな未来はあり得ない!
たとえこれが普通の事で当たり前の結果で最善だったとしてもだ。
それに俺はドラゴンに興味は無い。
相手は人間と決めている。
……相手にはドラゴンを好きになれと言うのだから無茶かもしれないが。
もっとこれまでの事を参考に考えるべきだったか?
◇◇◇ ◇◇◇
俺は……元の世界に戻る方法を探すべきなのだろうか?
それは魂? だけで戻るのかどうかも分からない。
戻った時に体はどうなっているのかも分からない。
転移の魔法では難しいのだろうか?
自分の認識している場所にしか飛ぶ事が出来ない。
今の所、元の世界を認識できないからな。
人間に戻る方法を探すべきなのだろうか?
人間に擬態する事は出来るかもしれない。
両親がそうなのだから。
両親に聞いても俺と言う存在については何もわからないと思う。
俺を完全に息子だと思っていたからな。
擬態は成長すれば出来るだろう。
……それに何年、何十年、もしかしたら何百年かかるか分からない。
この世界で生きていくとする。
その場合、俺とシャルを何かが利用しようと、懐柔しようとするかもしれない。
アインツ王国は勿論、他の国の事も考えなければならない。
そして一番俺達に接触しようとしてきたローブの男の目的はなんだったのだろうか?
洗礼の際、神が言った事も気になる。
選ばれた者、貰えない加護、託された銅貨……はどうでも良いか。
俺と一緒に居ればシャルの願いは叶うとも言っていた。
そして最後に……シャルが神に祈ろうとした願いは……。
◇◇◇ ◇◇◇
いろいろ考えてみるが答えは出ない。
ただ……シャルが別の者といる事には耐えられない。
頭の中で少し考えただけで狂いそうになる。
俺はそれに何時か耐えられるようになるのだろうか。
慣れる事が出来るのだろうか。
分かっている事は、俺の隣にシャルがいれば……。
それだけで十分だと言う事だけだ。