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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第八十九話 決心


 シャルと別れて数日。

 俺はまだ揺れていた。

 どこへ行って良いのか、何をして良いのか分からない。

 ……未だに学園の傍を飛んでいる始末だった。


 俺は全くもって割り切れていなかった。

 何度考えてもシャルの事しか思い浮かばない。

 俺は一体どうすれば……。


 そこでふと思い出した事があった。

 ……ショコラの事だった。

 ショコラは俺の境遇に似ていた。

 そしてその結果までもだ。


 俺はショコラを探した。

 そんな事をしても何の解決も得られないのに。

 でもショコラが立ち直った姿を見れば俺も立ち直れるそう思えた。

 なぜかショコラが立ち直っていないと言う事は思いつきもしなかった。


 ショコラは簡単に見つかった。

 そこはなぜか学園だった。

 しかも学園の訓練場だ。

 そして更におかしい事にそこにはキルシュとマルメラ、使い魔のトルテも居たのだった。


「ショコラ、話とは何だろう?」

「……よく考えたんだよー。

 そして分かったんだよー」


 ショコラはいつになく真面目な表情だった。


「王なんて関係ないんだよー。

 ……私はキルシュが欲しいんだよー」

「だが僕は王になる。

 それはもう決めた事だ」


 キルシュもここは引かなかった。

 そしてマルメラもそんな二人を止めようとはしない。

 ただじっと見ているだけだ。


「それも分かっているんだよー。

 だから力尽くで物にするんだよー」


 それはなんとも男らしい? 言い分だった。

 そしてもう話し合いは終わりだという事だろうか。

 ショコラが力任せにキルシュへと殴りかかっていた。


「があ!」


 この事態を予期していたのか、キルシュは剣を構えた。

 先程までキルシュは剣を持ってはいなかった。

 だがキルシュはマジックボックスを使える。

 そこから瞬時にして出したのだろう。


 そして獣人族の重い一撃をその剣で受け止めた。

 それでも更に後ろへと吹き飛ばされる。


「くっ、この程度では負けない!」


 次はキルシュの番だった。


「ファイア!」


 キルシュは時空属性だ。

 それはあまり攻撃には向かない魔術しかなかった。

 それ故に選ばれたのは魔法だった。

 魔法なら全属性が比較的簡単に使えるからな。


「効かないんだよー」


 だがショコラに魔法程度の威力ではダメージなど無かった。

 アンチマジックフィールドを使うまでも無く、手を振るうだけで炎は消えてしまう。


「それは分かっている!」


 キルシュはそのまま走りこんできていた。

 本命は剣での一撃。

 そんな攻撃を当ててしまったらショコラは無事では済まないだろう。

 それでもキルシュは本気で攻撃していた。


「がああ!」


 だがそこまでしてもキルシュにはショコラを捉えきれなかった。

 そしてショコラの拳がキルシュに入る。


「ぐっ!」


 キルシュは苦悶の表情を浮かべる。


「止めなんだよー」


 そしてショコラは距離を取り、魔術を準備する。

 ショコラの周りには無数の炎の球体が浮かんでいた。

 いつだったか冒険者ギルドの依頼中に見た魔術だった。

 そしてその時より炎の球体の数は多い。

 ……その数は百を超えていた。


「ファイアボール!!!」


 キルシュはそれを……回避した。

 自分に当たる物だけをアンチマジックフィールドで防御する。

 それはこれまでキルシュが培ってきた全ての力を見せているようだった。


 全ての攻撃を凌ぎ、キルシュはショコラに攻撃する。

 それでもその剣がショコラに届く事は無かった。

 そしてまたショコラの拳がキルシュを襲った。


 キルシュはまたしても攻撃を喰らうが、今度はそのままショコラの手を取って反撃に出る。

 もう剣など手放して地面に落ちていた。

 獣人族に近接戦、しかも素手で戦いを挑もうというのか。


 だがキルシュのそれは力に頼った物では無かった。

 関節技の様にショコラの腕を取る。

 そしてそのまま勢いよく……折ってしまった。


「きゃぁー!」


 ショコラらしくない女の子の様な悲鳴が聞こえる。

 それでもキルシュは手を止めない。

 そのままショコラの無事な方の手を取って身動きが取れない様に体を固めてしまった。


「ぐぅぅ! がぁぁ!」


 ショコラは何とかそこから逃げようと暴れるが完全に封じ込まれてしまっている。

 力で如何こう出来る物では無かった。

 しかも片腕だ……もう結果は出ていた。


「僕の勝ちだ。諦めて言う事を聞いてもらう!」


 キルシュが勝ちを宣言するが、まだショコラは暴れていた。

 折れた腕が痛々しい。

 もうそれは手がねじれて取れてしまうのではないかと思えるほどだった。


 それを止めたのはやっぱり……マルメラだった。

 ショコラを抑えるキルシュに綺麗に蹴りが入った。


「キルシュ……やり過ぎ……」


 自由になったショコラは……自由では無かった。

 マルメラが折れた腕を薬、ジャムによって治療していく。

 幾らマルメラでもそれは簡単には治せないだろう。

 そしてショコラはマルメラを振りほどけなかった。


「私は……負けたんだよー」

「ショコラの負け……だからキルシュの言う事を聞く……」


 ショコラは落胆していたが、泣いてはいなかった。

 もうこれで本当に最後と割り切っていたのかもしれない。


「……僕の勝ちだ。

 だから言う事を聞いてもらう。

 ショコラは……王妃になってもらう」


 それはショコラにとって意味の解らない事だっただろう。


「何を……いってるんだよー?」

「まずはその言葉遣いからだ。

 王妃になる為には、今までの様に自由には行動できない。

 これから沢山学んでもらうよ?

 それにはマルメラにも手伝って貰う」

「私が……教える……」

「……マルメラも一緒に学んでもらうかもしれないが」


 キルシュは初めからこのつもりだったのだろう。

 今思えばキルシュが戦いを望んでいたのは強くなる為だった。

 その強くなる理由は……ショコラに勝つという事だったのだろう。


 そしてショコラはキルシュの言う事なら何でも聞いてしまう。

 ショコラの本心を聞く為にキルシュとマルメラは一芝居打ったのかもしれない。

 もしショコラが別の道を選んでいたら……芝居では無くなったかも知れないが。


「僕はもうショコラに守って貰うほど弱くはない。

 逆に僕がショコラを守る。

 王は常に周りを守られる立場にあるかもしれない。

 だが王妃くらいは自分の手で守ってみせる。

 ……ショコラ、君だけは僕が守るよ」


 それはずっとキルシュが考えていた事だった。

 ショコラは自分が守ると。


「キルシュ……」


 ショコラは泣いてしまった。

 今まで守っていると思っていた者に守られる事になった。

 それが分かり抑え込んでいた気持ちが出てしまったのだろう。


「さぁ、こんな所にいつまでも居られない。

 ……トルテに乗れるかい?」


 キルシュは風の魔法を使いショコラをトルテに乗せた。

 だがそれだけでは不安定だった。

 ショコラはまだ片腕が使えないのだから。


「後から僕が支えるから安心して。

 寄り掛かってくれても構わないから」


 ショコラを後ろからキルシュが抱きしめるように手を回していた。

 それはいつだったか俺が想い描いた光景だった。

 その後からマルメラがついて行く。

 マルメラはこれを望んでいたのだろう。

 マルメラはキルシュよりもショコラが好きだったのだろうか。

 その顔は何時もより緩んでいた。


 ……これで良かったのだろう。

 ショコラもマルメラもキルシュも、そしてトルテも。


 これ以上ないというくらい上手く行ったのだろう。

 俺は掛ける言葉が無かった。

 今あそこに割って入り、俺の事を話しても良い事など一つも無いからだ。

 他に俺が行く場所は……。




◇◇◇




「お、ファースト。

 どうしたんだ?

 今日はシャルさんは一緒じゃないんだな。

 なんだー?

 リボンを無くして一緒に探して欲しいのか?」


 俺はブリッツの所へ来ていた。

 もうすぐ学園に入学なのだろう。

 荷造りをしているようだった。

 そんなブリッツにこれまであった事を話した。

 俺は十歳の子供に何を話して居るのだろうな。


「……馬鹿!

 こんな弱い奴は俺の従魔にはなれない!

 その前に友達だと思っていた事が恥ずかしい!」


 散々な言われ様だった。


「どうして諦めるんだ?

 嫌われた訳では無いのだろう?

 進む道が違う?

 なら同じ道を行けよ!

 道が無いなら作れよ!

 ファーストは空だって飛ぶ事が出来るのに!」


 それは何度も考えた事だった。


「シャルさんを守るんだろ!?

 そう決めたのならたとえシャルさん自身に否定されても守れよ!」


 シャル自身に否定されても……。

 そこまでの覚悟が俺に無かったという事か?

 だがモンスターである俺がショコラの様に力任せに迫ってどうする。

 それはしてはいけない事だろう。


「モンスターだから力任せに迫れない?

 人間だってそんな事しちゃ駄目に決まってるだろ!

 ファーストはシャルさんに何をした?

 力を貸した?

 身を守った?

 本気の自分をシャルさんに見せたのか!?

 本当の気持ちをシャルさんに伝えたのか!?」


 俺は何時も本気だったと思う。

 だけどそれはどこか遠くで、違う自分がやっていた事に思えた。

 これまで力を隠し、能力を隠し……本心を隠した。


 ……本当の気持ちをシャルに伝えてはいない。


「俺は本気を見せていなかったのか?

 本当の自分と言う物を伝えれば良いのか?」

「そんな事知るか!

 だけどシャルさんと一緒じゃないファーストには何の魅力も感じない!

 その辺のモンスターの方がまだましだ!」


 今の俺は人間でも無くモンスターでも無い、それ以下の存在って事か……。


「……分かった。

 本気の本当の気持ちをシャルに伝える!」


 俺は怖かった。

 本当の事を伝えた時にどうなるかが。

 その前に信じて貰えるかどうか。

 だがそれよりもシャルと離れるのが怖かった。悲しかった。寂しかった。


 そして俺は……決心した。


「……洗礼は明日の正午に行われるよ」


 それはエレクトの声だった。

 俺とブリッツの話を盗み聞きしていたのだろう。

 だがそれは重要な事では無い。


「……今は礼を言っておくよ」


 時間が無かった。

 色々準備もしないとな。

 俺は空へと舞い上がった。


「本当はこのまま見過ごした方が良かったのだが……」

「父さんはそんな打算的だったのですか?」

「本当にそうなら何も口出しせず、ブリッツにはドラゴンを懐柔するように言ったさ!」

「あんな弱虫はいりません!」

「はっはっはっ!

 確かにさっきまでのドラゴンは弱そうだったなぁ!」


 聞こえてるっつーの!

 俺は空を飛びながらもそんな馬鹿な事を考えていた。

 さっきまでの俺にはそんな余裕すらなかった。

 だが今の俺は違う。


 もう、迷わない。




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