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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第八十七話 課題


 最後の授業が行われる。

 学園での最後の授業は卒業課題の発表だった。

 ある者は冒険者ギルドでの依頼を。

 ある者は教会での奉仕を。

 ある者は遠征での指揮を。

 ある者は魔法の研究成果を。

 それぞれがそれぞれの内容を皆に説明する。


 そんな中、俺の順番が回ってくる。

 俺が長らく研究し、モーンに助言を受け、そしてシャルの協力でそれはなされる。


「俺の卒業課題は魔法の研究だ。

 それを今から実践する」


 そしてその魔法が使用された。

 シャルが可愛げな仕草をして見せる。

 それに合わせ俺は魔法を使用し、服装を交換していった。


 ある時は足を、ある時は手を強調しながらシャルは動いて見せる。

 そしてそれは完璧なタイミングで交換されていく。

 特に下半身や胸の辺りを交換する時はより一層の注目を浴びる事になった。

 だが決して中は見えない。

 俺はこれまで血の滲むような努力をし、タイムラグ無しの完璧な換装を行っていた。


 俺の使用した魔法はマジックボックスの応用だった。

 ただそれは俺から離れシャル自身の服装を交換すると言った事だった。

 装備の換装。

 または攻撃から身を守るのに瞬時にして盾を出現させる。

 必要な時、必要なタイミングで武器を出現させる。

 これは非常に効率の良い魔法と言えるだろう。


 そしてそれは実際に使用する者以外が使用する為、主人と使い魔の間でしか使えないような限定的な物だった。

 全ての装備を換装したシャルは……漫画やアニメの様な魔法少女の姿になっていた。

 フリフリのドレスに足元や靴なんかも少女の物だった。

 何方かと言うとゴスロリとか言われるのに近いかもしれない。

 これは俺の趣味ではないが、参考にしたのが漫画やアニメで見た変身シーンだったので仕方がない?


「……ファースト、すげーよ!」


 それはトイフェルからの絶賛だった。


「「「本当に凄い」」」


 その他の者達からも称賛の声が上がる。

 ……主に男性からだが。


「「「見えなかった!!!」」」


 何が見えなかったのか。

 そして称賛の理由が魔法と関係あるか疑問だった。


「シャル……何か心配事が……」

「色々溜まってる物があったんだよー」


 女性からはその服装からか行動からかは分からないが憐れみの声が駆けられていた。


「私も本当はしたくなかったのよ……」


 シャルはこんな事言っていたが結構ノリノリだった。


「……格好はどうであれ使い魔らしい素晴らしい魔法でしたね。

 これなら主人の身を守るのに打ってつけです。

 卒業課題として認めてあげましょう」


 先生からも認められた。

 ちょっと気になる言い方だったがな。

 そしてシャルは卒業課題は何も準備していなかった。

 だが俺の成果がそのままシャルの成果と言う事で免除される事になった。

 よく考えればそうだなと思い納得しておいた。

 損する事が何も無いからな。




◇◇◇




 卒業課題以外にも試験はあった。

 例年通りの試験だったが。

 それにより最後のクラス、ランク分けがされる。

 この結果が進路によっては大きく影響を受ける者もいるようだ。


 シャルはこの試験を一切手を抜かずに受けた。

 最後と言う事もあってか気合を入れて受けていたようにも思える。


 結果は文句無しのAランクだった。

 筆記で多少マイナス点はあったようだが実技は全て満点だった。

 そして俺はそれに続くように手を抜かずに試験を受けた。

 受けたのだが……結果は散々な物だった。


 実技では魔術を使えと言われ何も出来なかった。

 モンスターは魔法は使えるが魔術は使えないからな……。

 筆記では王族の礼儀作法を聞かれ、そんなの習っていないから分からなかった。

 ……ちょっと難しすぎだろうとは思った。


 シャルと俺の総合での結果はEランクだった。

 シャルがAランクの上位だった事を考えれば俺がどれだけ酷い結果だったのか分かるだろう。

 だがそれをシャルは責めなかった。


「試験なんて卒業さえ出来ればどうでも良いのよ」


 でもシャルは冒険者ギルドに進むのではなかっただろうか?

 冒険者になる訳では無く、職員になろうとしているのだから関係ないのだろうか。


 そして長かった学園生活は終わりを告げる。




◇◇◇




 最後の授業から数日後、卒業式の様な物はあったが簡単に終わってしまった。

 お偉いさん方の長いお話が延々と続いただけだ。

 生徒達の両親や親族も来ており、その中でも偉い人がたくさんいたようだった。

 ……本当に長い話だった。


 卒業生代表はケーゼが務めた。

 ……成績順では無く、地位の問題なのだろう。

 最後までキルシュはその身分を明かさなかったようだ。


 そして本当の最後にレーレン先生からの言葉があった。


「君達は一番優秀な生徒で、一番手間のかかる生徒でした。

 ですがこれからも君達は私の生徒です。

 困った事があったら何時でも相談に来なさい」


 先生は卒業しても俺達の先生だった。

 ずっとそれは変わらないのだろう。




◇◇◇




「今日で皆とはお別れね。

 ファーストもちゃんと挨拶を済ませておくのよ」

「……ああ」


 俺はシャルと別れ、友人達と最後の挨拶をする事にした。


 俺はこういう事が苦手だった。

 だが挨拶くらいはちゃんとしておかないとな。

 そしてほとんどの者とは卒業式の際に挨拶は済ませてあった。

 残るは一番親しかった者達だった。

 そして俺はあまりいてはいけない場に遭遇したようだった。


 そこにはショコラとマルメラ、そしてキルシュが真剣な面持ちで立っていた。


「……ショコラ、済まない。

 僕はマルメラと行くよ」


 それはずっと先延ばしにされていた答えだった。


「……謝る事では、ないんだよー」


 ショコラは泣いてはいなかった。

 だが何かにじっと耐えている感じだった。


「ショコラは……ずっと友達……」


 マルメラのその言葉は今ショコラにどんな風に伝わっているのだろうか。


「それは、変わらないんだよー」


 ショコラの言葉に力は無かった。

 キルシュとマルメラはそのまま去って行った。


 キルシュは王になる事を決意したのだろうか。

 マルメラはそれを支えていくのだろうか。

 ……そこにショコラの居場所はないのだろうか。


 俺は掛ける言葉も無く、その場にとどまっていた。

 それにショコラは気付いた。

 そして俺に近づくと……俺を抱きしめた。


「私は……私は……」


 その力は強く、きっとショコラは痛かったに違いない。

 俺の体はごつごつして堅いからな。

 でも本当に痛いのは違う所だったのだろう。


 どれほどの時間が経っただろうか。

 ショコラが落ち着いた所で俺は質問した。


「……ショコラはこれからどうするんだ?」

「まだ、分からないんだよー。

 少しだけ考えてみるんだよー」


 まだ頭の中が整理出来ないのだろう。

 仕方ない、簡単に整理など出来るはずがないのだから。

 ……俺にはその気持ちが痛い程分かっていた。




◇◇◇




 次は俺達の番だった。

 それは学園に入った当初からの問題だった。

 卒業式と言う事もあり、その関係者は全て集まっている。

 またこの日の為に学園生活はあったのかもしれない。

 そしてその準備をしっかりと行ってきた。


 俺とシャルはここ数日の間、十分に話し合っていた。

 ……この先の事を。

 それはショコラと似た結果だったかもしれない。

 そんな俺はいつも以上に乗り気では無かった。


 だがこれからの結果がシャルを助ける事になるのだ。

 俺のやる事は何も変わらない。

 その先に待っているのが、俺の望む結果では無いと分かっていても。




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