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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第八十六話 旅行


 学園に通うのも残りわずかだった。

 その最後の期間にクラスメイト達は卒業課題でバラバラになっていた。

 だがそれも終わり、ほとんどの者に余裕が出来ていた。


 そこで企画されたのがクラスメイト全員での旅行だった。

 その場所も都合の良い事に丁度誘いがあったのだ。

 ……エルフの国から。


「カトライア様とローゼ様が……是非にって……」


 それはマルメラの手によって伝えられた。

 そして拒否する者はいない。

 エルフの国に行くなど普通では叶わないからだ。

 それだけで無く、きっとこれが最後の団体行動になる。

 そんな気持ちをみんなが持っていたからかもしれない。




◇◇◇




 だが初めから波乱に満ちていた。

 道中は最悪の形での移動だったからだ。


「……で、なんで頭に布袋かぶせられてんの?」

「これじゃあ誘拐されてる気分だな!」


 アネモネが不満を述べていた。

 トイフェルは少し楽しそうだったのが対照的だった。


「私語を慎んでください。

 ……口まで塞ぎたくはありません」


 それはエルフの国から派遣された護衛? の者からの忠告だった。

 人攫いの間違いかもしれないが。


 何でもエルフの国はその道からして秘密らしい。

 生い茂った木々でそんな物は普通分からないと思う。

 ……俺は何となく分かるが。


「マルメラだけ自由でずるいんだよー」

「マルメラはエルフだからね。

 僕達は我慢しよう。仕方のない事さ」

「どうせ……木しか見えない……」


 ショコラも不機嫌だった。

 キルシュは相変わらずどんな状況でも紳士的だ。

 エルフはキルシュが一国の王子だと知っているのにこの対応だ。

 いや秘密にしているのだからこれが正しい対応なのだろう。

 そして行動の自由なマルメラは見飽きた光景で退屈そうだった。


「お静かに!」


 大きな声と一緒に床を剣で叩く音が鳴り響いた。

 ……怖い。

 エルフってこんなに乱暴なのか?

 イメージが崩れていくぜ……。


「皆さん、言う通りにしましょう。

 此方は招待されている身ですからね。

 人や種族、国が違えばその礼儀も違ってくる物ですよ」


 レーレン先生が少し皮肉を込めて生徒達を諌めた。


「やはり教師となると物分りが良くなるものだな」


 エルフの護衛は先生の首に剣を当てながらそう言っていた。

 ……怖い。

 エルフってローゼみたいな奴ばかりなのかもしれない。

 それなら納得の行動だった。

 この護衛もローゼに鍛えられたり、教わったりしたとかなら分かる気がする。


 俺達は先生に教わったのだ。

 こんな非礼な対応にも我慢しよう。




◇◇◇




「窮屈な思いをさせ申し訳ありません。

 これも国を守る為、理解して頂けたらと思います。

 そしてようこそエルフの国へ。

 私達エルフは貴方達を歓迎いたしますわ!」


 エルフの国へついてからは道中とは打って変わっていた。

 ここは城だろうか?

 そこへついてからは本当の客人の様な対応を受ける事になった。

 幾人ものエルフの兵達が頭を垂れ、その中央ではカトライアが出迎えていた。

 そして兵の中の一人が立ち上がり此方へとやってくる。


「久しいな。ここからは私が案内しよう」


 それはローゼだった。

 俺達はローゼの案内の元、エルフの国を見て回る事になった。

 勿論その前には長い長いエルフの重鎮と思われる者達の歓迎の言葉を聞いた。

 その後には此方からもお土産みたいなのを渡していた。


 ……ケーゼからだ。

 酒やご馳走の様な物を持って来ていたのだ。

 道中ケーゼだけ違う対応で移動していたのだが、そう言った事も関係していたのだろうか。

 この辺はもういつも通りだな。


 そんな事よりも今はエルフの国の観光を楽しもう。




◇◇◇




 城の中は建物の中だというのに、どこか自然を感じる作りだった。

 城のすぐ横には木々が生い茂っており天然の要塞と言った感じだ。


 城の外の街並みはアインツ王国とそれ程変わらなかった。

 住んでいる人が皆、エルフと言う事以外は。

 ただ街自体が良く整備されており、道や住居がきっちり分けられていた。

 その辺りの差だろうか、アインツ王国より美しいと感じてしまうのは。

 それともエルフの住人に見とれていただけだろうか。

 エルフは整った顔立ちをしており、全員が美しかったからだ。


 そして最後に案内されたのは大きな木の前だった。

 それは世界樹と呼ばれる物だった。


「この世界樹がエルフを守ってくれる。

 この世の全ての自然と繋がっており、このエルフの国に厄災が訪れれば必ず払ってくれる。

 また世界樹の影響で、この辺りの木は特殊な育ち方をする。

 それがエルフの国をより強固にしてきたのだ!」


 それは特殊な製法で作られる武器の事だろうか?

 いやきっとそれだけでは無い。

 この辺りの木からは特に強く魔力を感じる。

 ……外敵が現れたならこの木々自身がエルフの国を守るのかもしれない。




◇◇◇




 観光も終わりその後は宴が催された。

 その時にどうして俺達が招かれたのかをローゼから聞くことが出来た。


「エルフは強い者を好む。

 お前達はその力を示したのだからな」


 本当にそんな理由なのだろうか。


「……お前やシャル殿には礼を尽くさねばならん。

 それは……エルフの国が決めた事だ」


 簡単な事だった。

 エルフは外敵を恐れていたのかもしれない。

 エルフの至宝すら凌駕する可能性がある者を。


「まぁ、深く考えるな!

 お前はもてなしを受ければ良い!

 ただそれだけだ!」


 ローゼの態度がどこか俺に優しい物だったのは命令だったのだろうか?

 そんな事を考えていたがローゼの言葉通り今はもてなしを楽しむ事だけにした。


「ローゼがー、もてなしてー、くれるのよー」


 ……しまった。

 シャルが……手遅れか。


「今夜はローゼがー、ベッドの中までー……」


 誰か止めろよ……。

 それはマルメラの手によってかろうじて止められた。


「……そんなもてなしは無いぞ」

「俺もお前には興味ない」

「……それはそれで腹が立つという物だな」


 何言ってんだこいつは……。


「シャル殿は少し酔いが回っているようだな。

 ……どうだろう、酔い覚ましに皆で温泉にでも入られては?」


 エルフの国には温泉があるのか。


「それが……良いかも……」


 マルメラはシャルを持て余しているようだった。

 ……結構暴れるからな。


「当然だが男女別だ。

 そしてその周りは厳重に守られているから安心しろ。

 ……覗こうなどとは思わん事だな」


 ローゼよ、なぜ俺の方を見ながら言う。


「たとえドラゴンと言えど覗くのは不可能だ!

 空さえも魔術により厳重に防衛されている。

 過去突破した者はいない!」


 そんなフラグ立てないで下さい。

 だがそれは杞憂だったのかもしれない。

 ……その必要が無くなったのだ。


「ファーストはー、こっちよー」


 俺はシャルの手によって女性側へと連れて行かれたからだ。


「くっ! 俺達の奥の手が!」


 馬鹿なトイフェルが嘆いていた。

 ……覗く気だったのかよ。

 その後は大人しく男性達は温泉へと向かって行った。




◇◇◇




「……何で私はこんな所にいるのだ?」


 ローゼは困惑していた。


「厳重なー、防衛を見に来たのー」


 だがそこは女性側ではない……男性側、男湯だった。


「くっ、まさか此方を覗くなど想定外だった!」


 そこはあまり厳重な防衛とは言えなかった。

 ……というより防衛なんて何も無かった。


「ふふふ、この感覚ー、堪らないわねー」


 シャルさんがどんどん壊れていく。

 そして絶好の覗きポイントへと女性達はたどり着いた。

 ……ぶっちゃけ中が丸見えである。


「湯気で良く見えないわよ!」

「魔術で温度調整するんだよー!」

「気付かれない様に……そっと……」


 アネモネは率先して覗いていた。

 ショコラもノリノリである。

 マルメラまでやる気だった。


「私、ケーゼ様以外には興味ありませんのに」

「他のを知っておくとよりケーゼの事が分かるのでは無くて?」


 メッサーは興味なさげだがリーリエの勧めで覗く事にしたようだ。

 ……この場に止める者はいなかった。


「この様な事……いやしかし男を見るのは良いのか?」


 ローゼは何か一人で自問自答をしていたが結局覗いていた。

 こんなエルフはいやだな……。


 そして皆が注目される中でそれは段々とあらわになって行った。

 俺は見たくもないが。


「……結構大きいのね、さすがケーゼ様」


 メッサーの言う何がさすがなのかは知りたくも無かった。


「んー、でもこの状態ではまだ分かりませんわね」


 リーリエの言うこの状態とは何なのか。


「ふふふ、抜かりはー、ないわよー」


 シャルはまだ何かするつもりだった。

 それは暫くして分かる事になる。


 遅れて一人、男湯に入ってくる者がいた。

 それは胸まで大きな布で隠したトートだった。

 それはどこか色っぽく女の子にしか思えなかった。


 男性達はトートから距離を取る。

 本当にこいつらは紳士的というかなんというか。

 だがそんな中一人だけトートに近づく者があった。


「この様な場で何を緊張している。

 相手が男でも女でも関係ないだろうに」


 それはケーゼだった。

 なんていうか大物だ。

 だがそれを台無しにすることもあった。


「ケーゼ様……まだそんなにも大きく……」


 馬鹿すぎた。


「これは失礼した。

 だが気にする事はない。

 さぁ背中をながしてやろうぞ」


 駄目すぎる。これではただの変態だった。


「ぁ、ぃゃ……大丈夫ですから」


 トートはそれを怖がっていた。

 そしてなんて微妙な反応を。


「トート、大丈夫かい?

 僕が背中を流してあげようか?」


 優しい言葉を掛けて来たのはキルシュだった。

 そして前を隠せよな!


「ぁ、ぇぇ? あのそんな……」


 トートはしどろもどろになっていた。

 どうして良いのか分からないのか、トートはその場から逃げ出そうと駆けだした。

 だが慌てたせいか転んでしまう。

 その布を大きくはだけながら。


 男性達の目をどうしても引き寄せてしまった。

 だがそこへ庇うように立ちはだかる者がいた。


「不埒な! この様な事は許されない!」


 それはローゼだった。

 多分、トートを女性と勘違いしたのだろう。

 ……仕方のない事だが。


「ローゼさん……どうしてここに?」


 だが男性達の言葉は冷静な物だった。


「あれだけ厳重に守られてるって言っておいて……」

「そうだな……」

「自分で覗きに……」

「これは騙されたな……」

「やっぱりそう思いますよね……」


 ローゼは思っていたのと違う言葉を受け、戸惑っていた。


「いや、これは、違うのだ!」


 そしてその場には女性はローゼだけだった。

 シャル達はもう既にこの場から立ち去っていた。


「私達も―、女性側の温泉に入りましょー」


 ……なんとも連携の取れた事である。




◇◇◇




「エルフの国はどうでしたでしょうか?

 楽しんで頂けたと思います」


 エルフの国での滞在はあっという間に終わってしまった。

 最後にカトライアが感想を聞いてきたが皆の意見は一緒だったろう。


「温泉が良かったです。特にローゼ様の歓迎が……」

「いや、それは、違うと言っただろうが!」

「……ローゼ、後で話があります」

「カトライア様! 本当に違うのです!」


 俺達はそれなりに楽しめたと思う。

 もう皆で一緒に行動する事は無いかもしれない。

 だが最後がこの様な争い事と全く無縁だったのは本当に良かったと思う。

 ……エルフにとっては違うのかもしれないが。




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