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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第九話 休業

 二年に一度の復活祭に合わせ、学園は長期の休業になる。

 期間は三十日。

 大抵の生徒達は実家へと帰郷する。

 余程遠くから来ている例えば他国からなどの生徒はそのまま寮で過ごす者もいる。

 シャルは寮で過ごす。

 実家が他国という話では無い。

 お金が無いという建前で実際は家族との折り合いが悪いだけだ。

 ケーゼの家、ブラゼン公爵家から招待されているがこれも断っている。

 まぁ何をされるか分かったもんじゃないしな。


「アンタも家に帰りたい?」


 生徒達が帰郷するのを窓から眺めながらシャルは聞いてきた。


「特にそういう気持ちは無いな。

 どこに帰っていいかも分からないけどね。

 まぁ何時か帰れるさ、ドラゴンは長生きらしいし。

 それにここはご飯が美味しいからな。

 できればずっと居たいくらいだよ」


 たとえ戻れたとしてもすぐに人の世界に来たくなるだろう。

 食べ物が違いすぎるからな。

 素材その物のおいしさを味わえるがそのまますぎる……生だし。

 調味料っぽい物もないから調理してもイマイチなんだよな。

 こんな事を考えたのはフラグだったのかもしれない。


「何よ、ちょっと質素なのは我慢しなさいよね」

「いつものと違うなぁって思っただけだよ!」


 休みに入ってからご飯のグレードが何ランクか落ちてしまった。

 生徒達がほとんどいない為、食事は自費で準備する事になっていたのだ。

 

「復活祭の十日間だけはもう少し豪華なのにするから許してよね」


 復活祭は再生祭、転生祭とも呼ばれ神様が生まれ変わる日だと伝えられている。

 何か伝説や記録が残っている訳では無いがそういう物という事だけはずっと伝わって来ていた。

 そしてその日に何か起きるという訳でも無い。

 いや、一つだけあったか。

 迷宮である。

 迷宮は二年に一度のこの十日間は入口が閉じてしまう。

 そして次に開いた時にはその構造が全く新しいものになっている。

 まぁだからと言って神様と何か関係があるかというと何もないのだが。

 ただ迷宮の最深部に到達した者はいない……最深部という物があるのかも分からないが。

 そういった人の手の届かない場所に神様がいると考えられてもおかしくは無いのかもしれない。


「ああ、マルメラも帰らなかったのね。

 ってそれが食事?

 パンだけじゃない」

「ジャムもある……」

「い、何時の間に!?」


 いつの間にかマルメラが俺の隣に座って食事をしていた。

 神出鬼没でしかも気配を感じない。

 魔力を使うようになってから周囲の気配にはより一層敏感になったのに……だ。


「私と一緒でお金が無いの?」

「料理無理……面倒……」


 三十日間もパンとジャムで過ごすのだろうか。

 いやシャルと違って行動に制限が無いだろうし町で何か買うのかもしれない。

 シャルは自由に行動が出来ない。

 だがそれも実家と公爵家の誘いを断るのに利用したし、特に行く場所も無かった。

 ちなみに休みに入る前にキルシェに頼んで食料を大量に買って来て貰っていた。

 良いように使われて少しだけ可哀想になったが。

 それでもしばらくは持つが、三十日分はとてもじゃないが足りない。

 どこかで一度、学園から出る必要はあった。




◇◇◇

 



 休日だからと言ってシャルはだらけない。

 いつもと同じように起き、トレーニングも欠かさない。


「アンタは別に付き合わなくても良いのよ?

 みんな今は休んでいるのだし、たまには自由にしてて良いわよ」

「こうして本を読んでいるだけだし気にしなくても……」


 俺は魔術の訓練は一端お休みし、シャルに図書館から借りて来てもらった本を読んでいた。

 ドラゴンの両親が確か時間が経って成長したら魔術が使えると言っていた気がする。

 もしかしたら今はまだ使えないのかもしれないと思ったのだ。

 だから今できる事は知識を集める事。

 人は学習し、知識を集め、技術で進化する。

 まったくもってドラゴンらしからぬ事なのかもしれないが。


「本当に変わっているわね……魔物(モンスター)って食べる事で強くなるんだと思ってたわ。

 肉も食べないし」

「そう……ならこれ……」


 いつの間にか現れたマルメラがジャム? を俺に差し出していた。


「なにこれ、緑色のジャム?」

「貴方の為……」


 俺の為に作ってくれたのは素直にうれしいがこのタイミングで出すという事は……。


「食べたら強くなるの?」

「そう……ムキムキになる……」

「それ絶対怪しいよね!」

「なる……はず……」

「はずって!!!」


 やはり危ない物だったか。

 というかなんでそんな物を俺に食べさせようとするかな。


「私の使い魔に勝手に餌を与えないでね」

「実験に人は駄目……ドラゴンなら良い……」

「いやいやいや!

 ドラゴンはもっとダメだから!

 俺希少だから!!!」

「そう……実験にドラゴン駄目……」


 シャルも注意してくれたがなんだが扱いが酷い。

 取り敢えずマルメラのジャムだけは口にしない事にした。

 食事の時に少しだけ美味しそうだと思ったが今はもうそんな考えは無かった。




◇◇◇




「シャルは本当によく走るね。

 走るのが好きなの?」


 俺はシャルになんとなくそんな事を聞いていた。


「そうね、好きよ。

 ……昔ね、事故で足を怪我したの。

 走るどころか歩く事も出来なかったわ。

 その時かな?

 自由に動き回る事が楽しい事だって思うようになったのは」


 そんな事があったのか。

 今のシャルからは想像もつかないがきっと大変だったことだろう。


「まぁ動けないこと以外にもいろいろあったんだけどね。

 その反動かな?

 とにかく動いていたいのよ。

 アンタは走るのが、動くのが嫌い?

 いや飛べるから走らなくても良いのかもしれないけど」

「そうだなぁ……動くのは好きだけど自分ではそんな動きが出来ないね。

 シャルみたいにその……活発にっていうか男勝りな所が羨ましいとは思うよ」

「走るのに男も女もないと思うけれど。

 でも剣を振るう女は少ないかもね。

 今はまだ無理かもしれないけどドラゴンなんだから何時か私より凄い動きが出来るようになるわよ」

「早くそうなりたいね!」

 

 俺は少し焦っていたのだろうか。


「さぁ……これを……」


 目の前に濃い緑色のジャムが差し出された。


「一応聞くけど何これ?」


 もういきなり現れても俺は驚かなくなっていた。


「足が伸びる……ジャム……」

「絶対食べないし!

 たとえ成功するとしてもそんな物食べないから!」


 休日のほとんどはシャルとトレーニングの日々で過ぎて行った。

 たまにマルメラを交えながら。




◇◇◇




 長期休業も中頃、復活祭はもう終わっていた。

 上級生達が迷宮内の一新に合わせ帰ってくる者もいて学園が慌ただしくなってきていた。

 だがそれは復活祭の終わりとともに、迷宮へと人が移動し学園内は落ち着いていた。

 そんな中ついに買い溜めしておいた食料が少なくなってきた。

 キルシュでも帰って来ていたら買い出しに行かせたのだがまだ戻ってきてはいない。


「仕方ないわね。

 でもまぁ丁度良いかも。

 復活祭も終わったし町はいつも通り落ち着いてるでしょうし。

 これでやっと買い物に行く事ができるわ」


 復活祭の最中は町も慌ただしく外出は控えて欲しいと言われていたのだ。


「でもアンタは駄目よ。

 万が一って事もあるし、魔物(モンスター)と間違われても困るからね。

 私と護衛の兵で行ってくるわ。

 まぁ護衛なんていらないんだけどね……仕方ないわ」

「はいはい、お土産楽しみにしておくよ」

「仕方ないわね、何か見繕ってくるわよ」 

 

 シャルはそう言って一人で町に出かけて行ってしまった。


「……暇だな。

 食堂でも行くか」


 なんか暇だと物を食べたくなるのは俺だけだろうか。

 食堂に言ってもシャルが居ないと何も食べられないかもしれない。

 しかし結構生徒達が俺に食べ物を分けてくれる。

 学園に戻ってきている生徒達が少ないがいたはずだ。

 だがペットか何かと思わていそうで複雑な気分だが。


「珍しい……シャルは……」

「ああ、シャルはお買い物で俺はお留守番だよ」


 マルメラと食堂へ行く途中で出会った。

 こいつからは何も食べ物は受け取らないぞ。


「まぁする事が無くてその辺を歩いて(飛んで)ただけだよ」

「そう……これ食べる……」

「な、なんで食べ物を求めてるってわかるんだよ!

 い、いやいらないからな!」

「残念……」


 予想通りの展開過ぎて逆に焦ってしまった。

 そしてふと思いつく。


「そういえばそれ(ジャム)って自分で作ってるんだよな。

 どうやって作ってるのか見せて貰っても良いか?」

「別にいいけど……作ったら食べて……」

「食べるのは遠慮しとく!」


 その材料がとても気になる。

 きっと未知の物なのだろう。

 そしてマルメラの部屋に行く事になった。

 だがその時、思わぬことが起きた。


「ドン!!!」


 何か爆発音のような物が聞こえた気がした。

 それは気のせいでは無く周りの生徒達もそのせいで慌てていた。

 

「何……事故?……」


 マルメラも何が起こったのか分からないようだ。


「えー、静かに!

 生徒諸君は寮の自室に戻っているように!

 そして鍵をかけて決して外に出ないようにしなさい」


 学園の職員が注意を促していた。

 何か良くない事があったのだろう。

 ちょっと見に行きたいが指示に従ってマルメラと移動した。

 だが部屋につく事は無かった。


「なに!? んーーー!!!」


 マルメラの口に何か布のような物が当てられていた。

 そしてそのままぐったりとし、意識を失ったようだ。


「な、何してやがる!」


 俺はそのあまりに唐突な出来事にすぐには反応できなかった。

 そしてマルメラには刃物が突きつけられていた。


「抵抗するな。

 大人しくしていれば主人に危害は加えない。

 ……黙って俺について来い」


 俺は理解した。

 狙いは俺達だと。

 そして相手が間違いを犯している事も。

 だが今はどうする事も出来ない。

 無視して逃げるのが正解だ……そんな事は分かり切っていた。

 ……マルメラを見捨てるには少し仲良くなり過ぎた。

 俺は冷静に判断出来ているだろうか。




 俺は男の指示に従った。




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