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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第一話 プロローグ

 



 俺の目の前に女の子が存在していた。

 小学生くらいだろうか、かわいらしい制服のような物を着ている。


 周りにも同世代の子供が幾人もいて同じような服を着ているのが確認できる。

 周りは少し騒がしく、何かに驚いたような声がそこらかしこから聞こえる。

 驚いている大体の理由は想像つくがな。


 周囲を気にしていたら女の子に抱きかかえられてしまった。

 そして……キス……をされた。

 俺と女の子は光に包まれ、地面には魔法陣のような物も見える。

 これもなんとなく想像できる契約? ってものだろう。


 そして俺達を囲む光はすぐに消えてしまった。

 いきなりの事だったがあまり悪い気はしなかったし、むしろ幸運だと言えた。

 動揺してそれどころではなかったともいえるがな。

 一番の理由は目の前の女の子がその……とても可愛かったからだ。

 そしてその声までもが可愛かった。




「いくらで売れるかしら?」




 ……可愛い事だけが幸運だった。




◇◇◇




 俺は気が付いた時には暗闇の中にいた。

 そこはとても狭く密閉された空間だった。


 手でうまく周りを探ることができず、体当たりで壁のような物を壊そうと試みる。

 それは苦労したが成功し、眩しい光が壁の亀裂から差し込んできた。

 そしてそこから脱出した時、自分の閉じ込められていた場所を見て驚いてしまった。


 卵だったのである。


 それよりも驚いたのが自分の体は黒く、そして爬虫類のような皮膚だったのだ。

 

「ギャウギャウ!」


 驚いて声を上げるが、その声は人の物では無かった。

 

 自分の現状をよく把握する前に頭の中に直接言葉が流れてくるような感覚に襲われる。


『おお、生まれたか! 元気そうな声も上げておるし大丈夫だろう』

『そうですね、無事元気に生まれて嬉しいわ!』


 その流れてきた言葉に俺は返事をすることができなかった。

 人にあらざる声で叫ぶことしかできなかったのだ。

 そして声の主であろう、二体の大きな体が見える。


 それはドラゴンだと思う。


 漫画やアニメでしか見る事のなかった空想の存在がそこにはあった。

 いったい何十メートルの大きさがあるのだろう?

 その黒くて大きな体はすべてを見渡すだけで一苦労だ。


『この姿では抱くことができぬな』

『そうですわね、本来の姿を見せた事ですし大丈夫でしょう』


 そういって二体は二人(・・)になった。

 人間としか言いようのない姿に変わってしまったのだ。

 一体どうなっているのか服まで着ている。


「この姿でなら丁度いいのう」

「私が先ですからね!」


 頭に直接流れてくるのではなく、普通の声としてそれは聞こえてきた。

 そして俺は女性と思われる方に抱き上げられた。

 俺は小さなドラゴンのようだ、人間の赤ちゃんくらいの大きさなのだろう。

 俺の親と思われる男性と女性。

 卵から生まれたばかりの存在。

 夢なら覚めてほしかったがこれは多分あれだろう。


 ――転生。


 それも人外になってしまったようだ。

 人間が化けているのかもしれないがドラゴンの時を本来の姿と言っていたのでそれはないだろう……。

 

 人間だった時の記憶は確かにあるが、死んだ記憶は全くない。

 不平不満を言いたいが誰に言えばいいのだろうか。

 誰かに仕組まれたとしたら神様以外には思いつかない。

 そんなものが存在するのならだが、ドラゴンという空想の存在がいるのだから決めつけることもできない。


 まだ混乱してどうしたら良いか分からないが、とりあえず腹が減ったので叫んでおこう。


「ギャウギャウ!」


 幼いドラゴンだからこれでなんとかなるはずだ。




◇◇◇



 俺は体が四頭身の可愛らしいドラゴンだった。

 これから順調に育てばあのとんでもなく大きな体になるのだろうか?

 そして俺の新しい(ドラゴン)生は順調には行かなかった。


 まず言葉が通じない。

 言っていることは普通の声も頭の中に流れるそれも不思議と意味は理解できた。

 だが俺からは伝えることができなかった。

 伝えることができたのは 「はい」 と 「いいえ」 くらいだ。

 

 次に食べ物だ。

 これが思ったよりも大変で、まず出されたのが生肉。

 ミルクなどではなくいきなり肉である。

 ドラゴンならこれが普通なのかもしれないが生は勘弁してほしい。

 両親は人の姿になっていたのでもうちょっとこう調理された物を出して欲しかった。

 しかも俺は味覚が人であった時のままだったのだ。

 口にいれてすぐに気持ち悪くて吐き出してしまう。


 両親はしばらく野菜か果物っぽい食べ物だけを持って来てくれた。

 だがドラゴンは肉を食べる物なのだろう、定期的に色々な肉を出してくる。

 まぁすべて生なので吐き出してしまうのだが。

 そして見たこともない生き物を生きたまま……という時もあった。


 ある時、珍味だといって生きた人が連れてこられた。


「この子は肉が苦手だが人間の肉ならきっと食べれるだろう」


 などと恐ろしい事をその可哀想な人に言いながら俺の目の前に運んでくる。


「ま、待ってくれ。こ、この子が食べれるような肉を調理して見せる!」

 

 可哀想な人の必死の懇願は両親に受け入れられた。

 場所を変えどこかで調理するようだ。

 しばらくして俺の前に両親の手によってきちんと調理された肉が運ばれる。


「どうだろう、これなら食べられるか?」


 俺は転生してから初めて肉を食べることができた。

 それは何の肉だろうか、今まで食べた事のない味だった。


「なかなか旨いのう、だがやはり生の方が旨いと思うがな」

「そうですわねぇ、久しぶりに料理なんてしたのであまり上手くいかなかったのかしら?」

 

 どうやら作ったのは両親らしい。

 あ……れ……? なんだか嫌な予感がする。

 

「人間の肉はやっぱり珍味じゃの」

「そうですね、他の肉とはやっぱり違いますね」


 俺は今までにないくらい吐いた。

 そしてこれ以降、俺は肉を食べることができなくなってしまった。

 もう出されても口にすら入れんわ……。




◇◇◇




 そして両親との生活になれた頃、いつも人の姿だった父親と思われる男性がドラゴンの姿になり俺を空高く運んだ。


 ドラゴンの形態は複数ある。

 生まれた時の姿が幼生。

 今俺を運んでいる数メートルくらいの姿が成体。

 生まれて初めて両親を見た時の姿が完全体。

 人の姿は擬態であり、ドラゴンの本来の力を発揮するには向かないらしい。

 また成長しても前の形態に戻れるがそれは擬態であり、人の姿ほどではないが力が抑えられるらしい。


 話がそれたが、俺が空を運ばれているのには理由がある。

 ただ空を見せる為ではなく、俺自身が空を飛べという事らしい。


「初めは怖いかもしれないが、ドラゴンは飛ぶものなのだ。

 上手く行かぬはずが無い!」


 元人間の俺にしたらまったくもって説得力がない。

 この姿でも人の言葉を普通に話せるんだとかどうでも良い事ばかり気にしてしまう。


 それよりもだ、ドラゴンの体自体が飛ぶように出来ていない。

 羽を動かしてはいるがそれはあまり意味がないらしい。

 実際は魔力を使い魔法の力で飛んでいると、母親と思われる女性から事前に説明を受けた。

 ドラゴンが居る世界だ、魔法くらいはあるだろう。

 ドラゴンなんだから魔法くらい簡単に使えるのだろう、俺は一度も使ったことが無いが。

 時を経て体が成長するか、必要に迫られた時に魔法やドラゴンの特殊な力が使えるようになるらしい。

 つまり……無理矢理に必要に迫られた時というのを作るってことだ。


「ギャウギャウ!」


 抗議の声を上げてみる。


「そうか、自信あるか! それでは行くぞ!」


 まったく理解されず、俺は空へと落とされた。

 獅子は我が子を千尋の谷に落とすというがドラゴンは空から地上へ落とすのか……。

 馬鹿なことを考えてる暇もあまりなく、俺は必死に魔法を使おうとした。

 あるのかどうかもわからない魔力という物を信じ、感じようとする。

 風圧は思ったほどでも無いな、地上がどんどん近づいているななどと余計なことばかりが気になってしまう。

 俺は全く何もできなかった。

 ただ迫りくる地上に恐怖していた。

 周りに両親の姿はない、まったくの放置だ。

 そしてすべてを諦め、短い(ドラゴン)生だったななどと考えていた。

 だが地面に叩き付けられる瞬間、俺は魔法が使えたのかも知れない。

 空に飛ぶことはなく、ただ地面に立っていた。

 今の今まで叩き付けられると思っていた地面ではなく、見た事が無い地面。




 そして目の前には可愛い女の子が存在していた。




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