美術室
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ふと視線を隣に移した真理子は、
『あっ!』
声にならない呻きを漏らした。
バイオリンのスケッチの目を見張るほどの精緻な描写に心を奪われた。
真理子は帰る事も忘れて目がスケッチブックに釘付けになった。
真理子も絵に関してはある程度自信があり、
今度の高校絵画コンクールに出品しようと思っていた。
真理子は眼前のスケッチブックに描かれたバイオリンを見て、
自分の自信が、ガラガラと崩れるような音を聞いたような気がした。
「月さん。
もう帰り?」
「ヒャー、ははぃ」
真理子は突然、自分の名前を呼ばれて動揺して奇声を発した。
学校では一度もクラスメイトに名前を呼ばれた事が無い真理子にとっては、
まさに青天の霹靂とも言うべき出来事だった。
学校の先生でさえ、あたしの名前を知ってるかどうか疑わしいのに。
学校では、昼行灯とか貞子、不気味星人と呼ばれている方が、あたしにとっては安心できる。
突然、美術部員に本名を呼ばれるとは予想だにしていなかった。
ゆっくりと美術部員が後ろを振り返った。
「た、達也……」
真理子は口をパクパクしながら、呆然と立ち竦む。
「真理子、どうしたんだ?」
真理子は突然、名前を呼ばれてスケッチブックを持たずに美術室を飛び出した。
(ど、どうして達也があたしの名前知ってるのよ)
校門を出て少し歩いた所で、胸の動悸は収まった。
『タッタッ』
後ろから誰かが追いかけて来る。
(えっ、まさか達也?
そんな事がある訳ない。
夢でもない限り……)
真理子は自分の身勝手な想像力に呆れたような顔をする。
そして歩きながら、先程の出来事を脳内で再現した。
『トーン』
後ろから肩を軽くタッチされた。
真理子は突然、先程の回想シーンから現実に引き戻される。
怯えたように後ろを振り返る。
一瞬、中学時代に襲われたシーンが脳裏をよぎった。
「どうしたんだ?お前、足が速いな。
忘れ物だよ」
真理子は安心したのか、ヘナヘナと腰砕けになった。
「おっとと。
どうしたんだ?」
達也が抱き抱えるように支える。
「いゃ……」
真理子は身体を捻るようにした。
「スケッチブックを忘れていたから後を追いかけたんだ」
「ごめんなさい」
真理子は引ったくるようにしてスケッチブックを受け取った。
「いゃあ。
ビックリしたよ。
急に逃げ出すように出て行ったから。
俺、何かした?」
「いえ……」
真理子は上目使いで達也を、チラッと見た。
「それならいいけど……。
ごめん」
「……何故?」
真理子は怪訝な表情で呟いた。
「実はスケッチブック見たんだ」
「……えぇ!?」
真理子は真っ赤に頬を染めて俯いた。
「何故、俺の似顔絵を?」
「……ご、ごめんなさい」
「謝る事ないよ。
ビックリしたよ。
俺も鏡を見て自画像を描いた事があるけど、それより似ていたよ。
今度、お互いに被写体になって練習しないか?」
「達也はイケメンだから被写体になるけど。
あたしはブスだから無理……」
真理子は消え入りそうな声で呟いた。
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