外伝1 『サブカルチャー研究会部室にて』 (SIDE:桜夜)
第一章『エピローグ』の別視点での続き。
【キャラクター】
■橘 桜夜
鼓の先輩。二年生。
サブカルチャー研究会の部長。
このエピソードは桜夜の視点で書いています。
■中大 鼓
《Tale Gift Online》の主人公。
桜夜からは『つーちゃん』の愛称で呼ばれている。
「あぁぁ!暇だー!」
つーちゃんが行ってしまった。遊び相手がいなくなってしまった。だから暇だ。
そうなら、ゲームをやればいいじゃないか。
「でも、これをやるのは……」
今、この手に持っているゲームパッケージはいわゆる――エロゲーだ。しかも凌辱モノだ。
うぅむ……やはりこれを学校の一室で、女子が『ぐへへ』などと呟きながらプレイするのは、いろいろとアウトだろう……。
ならば、他のゲームはどうだろうか。
そういえば、まだクリアしていないRPGゲームがあったような……。
「あれ……終わってる……」
あぁ……また暇になってしまった。
RPGゲームを起動したところ、誰かがすでにクリアしてしまっていた。
しかも、隠しダンジョンも小ネタも含めて。つまり、全クリである。
「誰だよまったく……、つーちゃんか?」
――いや、それはないな。つーちゃんなら、こんなレトロゲームより、あのVRゲームに時間を使うだろう。
「そんなにおもしろいのかなー、TGOって……」
おもしろいんだろうなぁ……。だって、つーちゃんは口を開けばいつもその話ばかりだし。
私もやってみようかな……。でも、ADダイバー高いからなぁ……。
「はぁ……、やっぱりバイトするしかないか……」
「ほう、バイトを探しているのか」
聞き慣れた声に振り向くと、男子生徒が部屋に入っていた。
「部長、おかえり!」
「ああ、ちょうど戻ってきたところでね。それと――」
男子生徒は苦笑しながら付け加える。
「僕は元部長だ。今の部長はお前だろ、桜夜」
この男子生徒のは私とつーちゃんが所属する非公認同好会『サブカルチャー研究会』の元部長である。
三年生で、今は就職活動中なので、最近はあまり顔を出さなくなっている。
「そうだっけ。てか、サブカル研は非公認だし」
「それもそうだけどな……」
元部長は荷物を置くと、椅子に腰かけた。
「でもさ、桜夜ならこの部活を校内一の部活にしてくれると思ったんだよ」
「そ、そうかな……」
――いやいやいや。何かいい笑顔で言ってるけどさ、この部活は遊んでいるだけだぞ……。
「そう、桜夜には部長の才能があるんだ。今年なんて新入部員をゲットしてきたからな」
「あのコ、なかなか入ってくれなかったんだよなぁ」
あのコ――つーちゃんこと、『中大 鼓』。一年生だ。
《Tale Gift Online》というゲームに熱中していて。それを理由になかなか入部してくれなかった。
ちなみに、私のハトコだ。そして、小さくてかわいい。たまにイジワルだけど。
「それを入部させたんだ。もっと誇ってもいいだぜ?」
「ああ、うん」
「そうだ、素直が一番だぞ、桜夜。……そういえば、今日は鼓はいないのか」
元部長は室内を見回して言った。
「うん、用事があるからって帰っちゃったんだよ」
「そうか。またTGO関係かな」
「ううん、誰かに会いに行くみたいだよ」
――そういえば、その誰かは男か?と訊いたら否定はしなかったな……。
「彼氏でも出来たのかもな」
――やっぱり元部長もそう思うか。
「今度、跡をつけていこうかな」
「それは面白そうだな。実行するなら僕も参加するぜ」
ここに、『鼓追跡ミッション』の計画が立ち上がった。
「それはそうと、桜夜。バイトをするとか言ってたよな」
「ああ、聞いてたのか」
ただの独り言で、実際は働くつもりは無いのだが……。だって、めんどくさいじゃん。
「そこで、良い話があるんだよなぁ……、聞きたいか?」
「いや、実のところ、バイトなんてめんどくさいし……」
「そう言うと思ったぜ。そんな面倒くさがりな桜夜でも出来るバイトがあるんだ」
そう言って、元部長は荷物から一枚のチラシを取り出した。
それに大きく書かれていた文字は――『コスプレ喫茶』。
「あの……元部長……」
「珍しいだろ?俺も驚いたぜ、コスプレ喫茶なんて僕らの親がガキの頃の産物だぞ。今じゃなかなか見ないだろ」
「そうだけど……確かに珍しいけど……」
「まぁまぁ、怪しい店じゃないぜ。俺の知り合いが経営しているからな」
そして元部長は「とりあえずここを見ろ」とチラシの一部分を指す。
「えーっと、なになに……えええぇっ!?」
――時給五千円だとぅ!?
「ぶぶぶ部長っ!!これってマジなんすか!?本当だったらかなり怪しいぞ!」
「だから怪しくないって。知り合いの資産家が道楽で作ったんだ。あと、俺は元部長だ」
うーむ、道楽でやっているなら儲けはどうでもいい。だからこんなに時給が高い、そう言われれば納得できないことも無い。
それにしても、元部長の人脈は良くわからないなぁ……。夏休みなんて、世界的に有名な冒険家と無人島に行ってたし……。
ちなみに、冬休みはオーストラリアの友人に会いに行くそうだ。
「時給は魅力的だな……」
「だろ?なんならもっと上げてくれるように頼むこともできるぜ」
「むぅ……でもなぁ、でもなぁ……」
「大丈夫だって。桜夜の容姿ならきっとオーナーも気にいるぜ。その乱暴な言葉遣いも、ギャップ萌えとかなんとかでプラスになるかもな」
「ううぅ……」
「シフトは自由に入れていいそうだ。僕や鼓がいない日に行けば退屈しなくていいだろ」
「……じゃぁ、やってみようか」
ここまでの条件を出されたら断れなかった。まぁ、怪しいのには変わりないけど。
「そうと決まれば、さっそく連絡しておくぜ」
元部長は携帯端末を取り出し、その店のオーナーに連絡をする。
「うーむ、バイトか……」
まぁ、冬休みは特に予定もないし。つーちゃんと遊べないのなら、バイトをして過ごすものいいかもな。
そうだ、私もADダイバーを買ってTGOを始めよう!
そうすれば、つーちゃんと遊べる時間が増えるじゃないか。
待ってろ、つーちゃん。私も仮想世界とやらに行くぞ!
だから向こうでも……、一緒に遊ぼうぜ!!