一章
「ほら、今日はケーキ買ってきたんだ。駅前のケーキ屋、いつも行列の。一緒に食べようよ」
あの事故から一週間。とっくに退院した俺は、時間を見つけては、こうして病院まであかりのお見舞いに来ていた。
「……別に。先輩どうぞ。私はいいです」
「あかりのお見舞いなんだから、俺だけ食べてもしょうがないでしょ」
「食べたくないです」
これだ。
右腕の話を聞いてから、ずっとこんな調子だ。
私は機嫌が悪いです、という雰囲気を隠そうともしない。俺と決して目を合わそうとせず、ただじっとベッドの一点に視線を落としている。
「まあそう言わずに。チョコとシフォン、どっちにする?」
「………………チョコ」
「はいよ」
なんだかんだ言って、女子は甘いもの好きだ。
手際よく紙皿に移して、食べやすいようにケーキについているビニールを二つとも剥がし、早速食べてみる。
「んー、美味しいっ!」
大げさにリアクションをとって、チラッとあかりを見る。無反応だった。
「チョコの方はどう?」
「……別に」
チョコケーキは、一口も減っていない。というか、手を付けようとすらしていない。
「食べ辛かったら、食べさせてやろうか? はい、あーん」
「やめてください」
「照れなくてもいいのに」
「……」
「よかったらシフォン一口食べる?」
「別にいいです」
にべもない。
むっつりしたあかりと対照的に、俺はまるで道化のようにおどけた調子で話し続ける。
「今度買ってくるときはちゃんと好みを聞いてからにするよ。っていうか次は二人で買いに行こう。そうだ、それがいい」
「行きたくないです」
「そんなこと言わずに。ほら、メニューも一緒に貰ってきたんだ。これ見て次に食べたいケーキを決め――」
「行きたくないって言ってるじゃないですかっ!」
瞬間、あかりが叫ぶ。俺を睨みながら、悲痛に。
四人部屋から個室に移っていて、周りの迷惑が最小限だったのが、せめてもの救いだった。
「っ……。ごめん。無理に誘って」
「……いえ」
謝る俺。再び視線を落とすあかり。
病室に重い空気が漂う。
「……先輩。私ちょっと疲れちゃったんで、今日はもう休ませてもらいます」
場を取り繕うようにあかりが言う。
「え? あ、ああ、そっか。ごめん、疲れてるところ」
返事を聞き終わらないうちに、あかりはベッドの中にもぞもぞと潜り込んでいた。
ケーキの後片付けをして、「また明日来るよ」とベッドの膨らみに言葉を投げてから病室を後にした。
返事は、なかった。
「ふぅ」
大きくため息を一つ吐く。
大学の学食で四人がけの席を独りで占領しながら、つい一時間ほど前――病院に面会へ行った時のことを反芻していた。
――“行きたくないって言ってるじゃないですかっ!”
あかりから向けられた、あの視線、あの表情。明確な、拒否。
元々感情が表に出やすい性格ではあったけれど、俺が知る限り、あれほど露骨に他人を拒絶するような子じゃなかった。それが、あんな風な反応を見せた。
ヒステリックに言い放ったあの時、彼女の中に一体どれだけの感情が渦巻いていたことだろう。
怒り。憤り。憎しみ。嫌悪。
きっとどれにも当てはまるけど、どれにもピッタリとは当てはまらない気がする。
それだけ、あかりの言葉には、形容し難い歪な情動の“渦”を感じた。
「どうしたもんかな」
思わず、口に出てしまった。
そもそも、俺はどうしたいのだろう。何ができるのだろう。
だが、考えても、俺にできることなんて何もないように思えた。精々、ああしてたまに顔を出したりする程度だ。
プロのギタリストになりたいと言ったあかり。その夢を奪った、俺。
罪の意識に苛まれ必死で償おうとするほど、これはただの自己満足なんじゃないかと不安がよぎる。だけど、二十歳そこそこの子供にできることなんて、たかが知れている。歯痒いほど、無力だ。自分への無力感で、心の重石が増える。悪循環だった。
だけど、自己満足でも、悪循環でも、何もしないでいることなんてできなかった。
答えを出せず、むむむと唸る。すると突然「何がむむむだ!」と横から突っ込みを入れられた。
「結構真面目な事考えてたんですから、ギャグ挟むのやめてくださいよ、三佐和さん」
「あ、そう? ごめんごめん。で、何を悩んでたの?」
ツッコミに対する抗議をあっさり流し、胸のあたりまであるみどりの黒髪をなびかせながら彼女は、俺の対面に座った。
――羽生 三佐和。
モデルのようにスレンダーで、すらりと伸びた長い手足。くっきりとした目鼻立ちで、多分、今まで出会った中で一、二を争うくらいの美人。しかしそれを鼻にかけないさっぱりとした物言いと親身に話を聞いてくれる人柄で、男女関わらず友人は多い。ちょっとだけ、表情というか、感情が読めないところが玉に瑕といったところか。
大学の先輩で、サークルを通じて仲良くなった貴重な相談相手だ。ちなみに以前“君は他人に無関心だね云々”と俺に言い放ったのもこの人だ。
「……俺、悩んでるように見えました?」
「まあ、あれだけ難しそうな顔して唸ってたらね」
髪の先を胸の辺りでクルクルといじりながら、こともなげに言う。
「力になれるかわからないけど、話くらいは聞くよ?」
「……ありがとうございます」
「って言っても、あんまり人に言いたくなさそうだね」
見透かしたように三佐和さんが言う。エスパーじゃないのかこの人。
正直、先輩の申し出は涙が出るほど嬉しい。是非とも相談に乗ってほしい。だが、今回の件は相談するとなるとあかりのプライベートに深く突っ込むことになる。それを考えると、どうしても第三者に相談するのは躊躇してしまう。
「……相談したい気持ちはあります。でも、三佐和さんにそれを話しちゃうのはちょっとマズいっていうか」
我ながら要領を得ない。
「あー、何々? もしかして他人の秘密に関わる事とか?」
「え、な、何で分かったんです!?」
「いや、相談したいけど言えないって、口止めされてるか他人の秘密知っちゃったときくらいしかなくない? あとはよっぽどプライドが高い人とか。でも新井君はそういうタイプじゃないし」
ちなみに新井君、というのは俺のことだ。しかし、適当に当りを付けて言っただけなのか。よくそこまですぐ思いつくな。やっぱりエスパーじゃないのかこの人。
「名前とか出さない程度に、話してみなよ。別に私、個人の特定とかしないからさ。人に話すだけで、意外と心が軽くなるもんだよ」
三佐和さんは柔らかく、だけど無表情に言った。
悩んだ末、あかりの事を三佐和さんに話してみることにした。あまり他人に言っていい内容じゃないのかもしれない。でも、情けない話、俺はもう自分の中だけにしまっているのが辛くてしょうがなかった。誰かに話したかった。相談、したかった。
俺は時々早口になりながら、垂れ流すように話した。交通事故に遭いそうになったこと。バイトの後輩に助けてもらったこと。自分の代わりに後輩が事故に遭ったこと。そして……その後輩の右腕が、動かなくなったこと。
終始無表情で話を聞いていた三佐和さんは、「ヘヴィな話だね」と呟き、祈るように手を組み、視線を落とした。
「それで、どうしたらいいか、分かんなくなっちゃった訳だ」
三佐和さんに言われ、遠慮がちに「はい」と答える。実に格好悪い。
「そ。じゃあ、話聞いといてなんだけど、第三者が答えを出せる問題でないこと、分かるよね?」
「……はい」
そう。分かっている。分かっているけど、言わずにはいられなかった。
「強引に聞いといて、ごめんね」
「いえ」
「そのかわりさ。話したくなったら、私に何でも、いつでも話して。何でも、いつでも聞くから。私は、新井君の味方でいるから」
「……ありがとうございます」
結局何もわからないし、何も解決していない。だけど、三佐和さんに話したことでことのほか心が軽くなったような気がした。
「――んで、話は変わるけど。その後輩ちゃんって、新井君と同じバイトしてるんだよね」
三佐和さんは視線を俺へと戻して、おどける様に、しかし変わらず表情無く言った。
「してた、ですね。事故の件があって、バイトもやめました」
「そうなんだ……。何のバイト?」
「『あら井』っていうラーメン屋です」
「へえ、新井君と同じ名前なんだ? もしかして知り合いとか、親戚のお店とか?」
「っていうか俺の実家です」
「嘘ぉ!?」
「マジです」
「マジですか。知らなかった……新井君の家ってラーメン屋だったんだ……」
三佐和さんは腕組みしながら、何度も「そうか、そうか」と噛み締めるように言う。実家がラーメン屋というのは珍しいんだろうか。
やがて、意を決したように三佐和さんが言った。
「じゃあさ、今バイトが減って、大変だったりしない?」
「そりゃまあ、正直に言えば大変です」
だけど、弱音を吐く訳にはいかない。そもそも、あかりがバイトを辞めることになったのも元を質せば事故の一件、つまり俺のせいで、だ。
だったら、あかりが抜けた穴は俺が埋めるべきだろう。大変なのは百も承知だが、これも俺の取るべき責任の一つだと思った。
「だったら」
我が意を得たりと言わんばかりの表情で、三佐和さんは言葉を続けた。
「私、そこのバイトやらせてもらえないかな?」
「え? えぇ?」
唐突な申し出に、思わず困惑する。
きっと顔にも出ていたんだろう。察して三佐和さんが、
「大変なんでしょ? バイト。相談してもらった手前、何も力になれないってのも悔しいし。少なくとも、病院に通う時間ぐらいは確保させてあげたいじゃん」
と言ってくれた。
「気持ちは嬉しいですけど、悪いですよ」
「私はいいよ。ちょうど何かバイトしたいなって思ってたところだし。新井君の家に行くのも、ちょっとワクワクする」
そう話す三佐和さんは、本当にワクワクしているのだろう、テーブルに身を乗り出して俺の顔を覗き込む様にして話している。
声を弾ませながら話す三佐和さんをみると、もう少し、頼ってもいいのかな、と思ってしまう。
「……。分かりました。店長に相談して、近いうちにまた連絡します」
「ホント? いやぁ、ありがとね!」
こちらこそ、と言って暫く取り留めない話を続けた。きっと、これは三佐和さんなりの気遣いだったんだろう。だったら、ありがたく受取ろう。いつか恩返しする日の為に。
ありがとう、三佐和さん。
三佐和さんのバイトは、驚くほどすんなり決定した。店長、つまり俺の親父曰く、「可愛い娘が来てくれるんならそれで充分」だそうだ。実の父親のムッツリスケベさに恥ずかしさと切なさで呆然としたが、事がスムーズに進んだんだ。文句は言うまい。
元々の人当たりの良さもあり、三佐和さんはあっという間に看板娘としての地位を確立させた。おかげで、病院に行く時間をつくるのも大分楽になった。
三佐和さんがバイトをしてくれるようになってからは、ほとんど毎日あかりの元に通い詰めた。
俺が病室に行くと、あかりは露骨に顔をしかめた。一言も喋ってくれない、なんて日もザラだった。それでも、行き続けた。わざとらしいくらい明るく振る舞った。辛辣なあかりと、不器用で軽薄な俺。病室では、常にどんよりとした空気が立ち込めていた。それを取り払おうとするかのようにピエロを演じ、病院へ行き続けて、いつのまにか二週間が経っていた。
「あかり、ほら、これ。前にあかりがよく読んでた雑誌。買ってきたよ」
面会の際、必ず何かお見舞いの品を持っていくようにしていた。最初は定番のフルーツやスイーツを買っていったが、長い入院できっと退屈しているだろうと思い、最近では何か退屈しのぎになるものを選んで持っていくようにしている。
「……これ、違いますよ」
「え?」
「私が読んでた雑誌。これじゃないです。ていうか前も間違えてたじゃないですかっ」
言うや否や、あかりはたった今手渡した雑誌を投げ返してきた。雑誌は俺の太ももにぶつかり、バサッと音を立てて床に落ちる。痛い。
「……ごめん、間違えた」
女性モノのファッション雑誌なんてみんな同じに見える。
「いちいち謝らないでください。ウザいです」
「……ごめん」
「っ……。あぁーもう!」
あかりがイライラとした様子で声を上げた。
「面会に来るのは使えないウザい奴ばっかだし、病院退屈だし! マジもう最悪!」
声を荒げ、吐き捨てるように言う。
反射的に、ごめんという言葉が喉元まで出かけるが、何とか呑み込む。
もはや二人でいるとお馴染みとなってしまった重い沈黙の後、ややあってからあかりが話し出した。
「……先輩。もう、やめてください。帰って、ください。勝手に罪悪感を感じて、自己満足で来てるだけでしょ? 私、先輩が悪いなんて思ってない。思ってない、はず、なの。でも、先輩を見ると気持ちがグチャグチャになって、もう自分でも訳分かんなくなっちゃうの! だから――」
堰を切ったように話すあかり。感情の渦から溢れてきた悲痛なそれは、俺の心をこれ以上ないほどに抉る。
「――だから、お願い。ひとりに、させて」
あかりは、震えていた。まるで今にも爆発しそうなところを、必死で抑えているかのように。
何か気の利いたフォローをしなければと思い、必死に考える。が、出てきた言葉は、
「……ごめん」
の一言だった。馬鹿の一つ覚えみたいにそう言って、俺は重い足取りで病室を静かに出た。
「……っ、ぅう、うぅっ……!」
出る瞬間、病室から、ゆっくりと嗚咽が漏れていた。
自分を責めずにはいられない。沈んだ気持ちのまま次の日を迎え、昨日のことを「ごめん」という言葉を使わずどうやって謝ろうかと悩んでいると、意外にもあかりの方から連絡をくれた。
ケータイにメールで短く「明日、十時。来て」とだけ書いてあった。
現金なもので、見た瞬間、鈍色だった心にパッと花が咲くように気持ちが晴れる。が、同時に一抹の不安も覚えた。
昨日の今日で、いったいどういう心境の変化なのか。ひとりにしてと言ったり、来てと言ったり。大体、入院してからあかりが俺を呼び出すなんて初めてだった。ずっとあの壁を感じる、突っぱねるような態度だったんだから、当然と言えば当然だけど。
あかりの思惑が掴めず、暫く悩む。でも、悩んだところで結局俺の取る行動は一つだった。
こちらも短く「わかった」とだけメールを送り、そのまま今度は三佐和さんに電話をかけ、明日のバイトを代ってほしいと伝えた。
三佐和さんは、理由を聞かずに二つ返事で引き受けてくれた。あるいは、理由を察してくれていたのかもしれない。どちらにしても、ありがたい限りだった。
明日、十時。と何度も心の中で繰り返す。あかりが入院してから初めて、向こうからのアクションがあった。そのことに、自分でも驚くくらい、期待に胸を膨らませていた。
「遅い」
翌日。第一声で、怒られた。
一昨日の事、どう謝ろうとか、今日はいったいどうしたのとか、色々話すことを考えながら病室まで来て、聞いた言葉がこれだった。ちなみに現在時刻は十時三分。遅れたと言えば、遅れたのかもしれない。でも、どんだけ時間にシビアなんだ。
「まだ三分しか過ぎてないよ」
「何それ開き直り? 超かっこ悪い。良いから早く準備してよ」
釈然としない理不尽さを我慢しつつ「準備?」と聞き返すと、あかりは露骨にため息をついた。そしていつの間にかタメ口だった。
「先輩。私、今日行きたい所があるの。だから、そのための準備」
「外出ってこと?」
「そう言ってんじゃん。何? 嫌なの?」
「まさか!」俺は即座に言った。一気に気持ちが盛り上がる。
今まで、ずっとあかりに何かしてあげたいと思っていた。でも、あかりは俺に何も求めず、むしろ無干渉を望んでいた。そんな彼女にしてやれることは、何もないんじゃないかと歯痒く思ったりもしていた。
しかし今、あかりはっきり自分の要望を伝えてくれた。今までが今までなだけに、一体どういう心境の変化なのか少し気になったが、そんなことを気にしている余裕はない。鉄は熱いうちに打て。あかりの気が変わらないうちに、出かける準備をしなければ。
まず、病院に一時外出許可をもらいに行った。急な申し出に医者は困っていたが、怪我の具合も落ち着いているということで、渋々承諾してくれた。
許可をもらいに行く間に、あかりに着替えてもらった。入院中はずっとパジャマを着ていた所為か、私服姿はとても懐かしく感じた。温かい気持ちになって暫く私服姿を眺めていたら、「見んな」とぶっきらぼうに言われてしまった。
病院側から簡単な説明と注意を受け、最後に、松葉杖と車イスのどちらを使いますか? と聞かれた。あかりの左足は、もうギプスは取れているものの、まだ痛々しく包帯が巻きつけてある。無理できないのは明白だ。どっちを借りるか本人に決めてもらおうと尋ねると、
「車イス。先輩押してよ」
と即答した。俺はこの日、生まれて初めて車イスを押すことが決定した。
「どう?」
「早すぎ。もっとゆっくり押してよ」
「……。どう?」
「遅すぎ。そんなペースじゃ日が暮れるよ?」
「……」
車イスを押しながら、ショッピングモールを歩く。
今日の目的地は? と出発の時あかりに聞くと、「いろいろ買い物したい」と非常にざっくりとした答えが返ってきた。
時間的にもあかりの体力的にも、色々な店を移動して回るのは、きっと難しい。
なのでそこに配慮して、かつ移動の効率よく買い物するためにはショッピングモールが最適だと思って提案したら、やれダサいだのセンスがないだのと大ブーイングを食らった。その割に、さっきから春物の服をこれでもかと買いこんでいる。ダサいんじゃなかったのか?
「ちょっと、また遅い。早く次の店行ってよ」
更にここまでの道程、ずっと車イスのスピードでチクチクと文句を言われている。初めて車イスを押すということもあり、自分ではさっきからかなり神経を使って押しているつもりなので、理不尽に感じる事この上ない。
それでも、無視されることなく、会話が成立している。以前に比べて、格段の進歩だ。それが今はこの上なく嬉しい。
どうして急に、と疑問は残るが、せっかくあかりとまた話せるようになったんだ。藪を突いて蛇を出すような真似はしたくない。今はとにかく、聞きたいことや、言いたいことは我慢してコミュニケーションを充実させなければ。
「ほら、今度は早すぎ! まったく、何回言ったら分かるんだかっ」
「……」
我慢、我慢……。
「ちょっとは気配りってものを――あ」
ふと、騒いでいたあかりが急に静かになった。
どうしたんだろうと思い通りがかったテナントを見てみる。そこは楽器屋の前で、店頭ポップには黄色や赤といった目立つ色で「ギターフェア開催中!」と大きく書いてあった。
ギター。あかりの夢。事故。動かない右腕。絶望と罪悪感。
一瞬にして、胸の中に苦いものが広がる。
「……」
「……」
まるで時間が止まったかのように、二人とも、押し黙る。あかりは哀しいような、困ったような、寂寞を感じる表情をしていた。
「……寄っていく?」
楽器店を顎で指し、意を決して聞いてみる。
あかりは右腕が動かなくなってから、ギターの話を全くしなかった。それが意識的になのか無意識的になのか分からなかったけれど、あかりが話題に出さない以上、俺もあえて触れることはないと思って、なんとなく避けていた。
そんな風に、変にタブー視していた所為かも知れない。一言、寄っていく? と聞いただけで、手に嫌な汗が滲んだ。
「…………。いい。行かない」
あかりはゆっくりと、無表情に言った。
「……わかった」
俺も、短く返事をする。
それから暫くの間、あかりは驚くほど静かだった。やはり、ギターを見ていろいろ思うところがあったんだろうか。ぼんやりとした様子で、服屋のマネキンを眺めたりしていた。つられて、俺も取り留めなく考える。
――“目指すはプロのギタリスト、です!”
久しぶりにギターを間近で見て、あかりは何を思ったんだろう。何を感じたんだろう。
知りたいけれど、聞くのが怖い。そこに決定的な何かがあるような気がしてどうしてもそのことに触れるのは躊躇われた。
「――先輩っ!」
呼ばれて、はっと気付く。見れば、どうやらあかりはとっくにマネキンは見飽きていたようで、今度はジトっとした目つきで俺を見ていた。
「何? 考え事? もう次の店行きたいんですけどぉ?」
頬を膨らませながら聞いてくる。その様子が不覚にも可愛くて、思わず笑顔がこぼれた。
「あ、ちょっと! 何笑ってんの!?」
「別に。さ、行こっか」
笑いを噛み殺しながら車イスを押す。「急に発進すんなぁ!」とあかりは顔を真っ赤にして怒っていたが、それすらも何だか可笑しくて、俺はさっきよりも幾分か軽い足取りで歩き出していた。
「それで、次はどの店に行くの?」
聞きつつ、そろそろ引き上げ時かな、とも思った。もうショッピングモール内のテナントはほとんど回りつくしたし、俺の両腕には買い物袋がいくつもぶら下がっている。いい頃合いだろう。主に俺の残り体力的に。
「もう少しで日も暮れるし、そろそろ帰る?」
それとなく提案してみる。
「んー……ま、いいか。そこそこ買えた方だし」
これでそこそこなのか。女子の買い物は恐ろしい。
「じゃあ、先輩」
あかりは車イスから俺を見上げて、
「帰りに、少し寄ってほしいところがあるんだけど。多分そろそろちょうどいい時間だし」
と続けた。
「寄り道? いいけど、どこ?」
あかりは返事をせず、代わりに小悪魔のようにニヤリと笑って答えた。
何となく、嫌な予感がした。
「ほら、もうちょっと。早く早くー」
永遠に続くんじゃないかと思うほど長い上り坂。
俺はその坂道を、車イスを押しながら、息を切らせて登っていた。
玉のような汗が浮かび、滴り落ちる。着ているコートの下には熱気がこもり、襟元から零れる。吐く息が白いのか湯気が立ち込めているのか、分からなくなるくらいだ。
「ちょっと、ペース落ちすぎー。もっとシャカリキ登りなよぉー」
一方あかりは悠々とカップコーヒーを飲みながら檄を飛ばしていた。その余裕っぷりに、思わなければいいことや、言わなければいいようなことが頭をちらつく。
……余計なことを考えないように、先の見えない坂道を睨む様に見上げた。
この坂を上りきると、小高い丘に出る。そこは街全体を見下ろせる、地元の名所として有名だった。
あかりは、そこで「夕焼けが見たい」と言った。街に沈む夕日が、とても綺麗だと。
夕日を見ること自体は賛成だった。でも、そこに至るまでの道のりが問題だ。街全体が見渡せる丘ということは、つまりそれなりの高さがあるということだ。坂道の傾斜はそれほどきつくないが、距離はゆうに片道二キロを超えている。買い物の荷物を腕に吊るしながら、人ひとり乗せた車イスを押すには、容易な距離ではなかった。
それでも、坂道を上り続けた。だんだん腕に力が入らなくなっていく。足も引きずるように出しているし、膝はがくがくと笑いっぱなしだ。視線がぼやける。何だかやけに音が遠い。また叱咤とも野次とも取れることを言われている気がするが、耳に入った言葉が理解できるほどの余裕なんて今は無かった。それでも、上った。上り続けた。
何となく、弱音を吐いたり諦めたりしたら、そこで終わってしまう気がした。
何が、と言われても自分でも漠然として分からない。もしかしたらそれは、以前とは違う形だけどあかりが話しかけてくれる日常かもしれないし、あるいは、以前と同じくらいに縮まった気がする距離感かもしれない。それはきっと、終わらせてはいけないものだと思った。
だから俺はただひたすらに、赤い顔で白い息を吐きながら、橙に染まる空を目指した。
二十分くらいは上り続けただろう。坂道は緩やかになり、景色が開けてくる。同時に、刺すように鮮やかなオレンジ色が、視界いっぱいに広がった。
地平線に沈む夕日と、同じ色に染まる世界。その美しさに、言葉が出なかった。
暫く呆けたように落陽を見つめる。やがて奪われていた心が段々と戻ってきて、ふと感傷的な気持ちになり、今日一日のことを反芻する。
あかりは、何を思っていたのだろうか。何を考えていたんだろうか。なぜ急に出かけたいなんて言ったのか。夕日が見たいなんて、言ったのか。考えるのを後回しにして頭の隅に追いやっていた疑問が、次第にむくむくと大きくなってくる。
ちらりと彼女を盗み見ると、未だ夕日に釘付けになっていた。斜陽に照らされるその横顔はより可憐さを際立たせていた。気付くと、夕日ではなくあかりの方に目を奪われている自分がいた。
視線に気づいたのか、ゆっくりとこちらを見上げてくる。
「先輩。今日、どうだった?」
ポツリ、と呟くようにあかりが言う。
俺の感想なんて、決まっている。久しぶりに話ができて、久しぶりに一緒に歩けて。楽しくないわけがない。というか、それはこっちが聞き返したくなるくらいだ。
「楽しかったよ。上り坂はちょっとキツかったけど。でも、いいリフレッシュになった」
疲労感で、少し歪な笑顔になっていたかもしれない。それでも、今できる精一杯の笑顔で伝えた。
あかりは下を向いて、「そっか」と言い少しだけ苦い顔をした。が、それも一瞬。すぐに向き直して、散文的に言葉を続けた。
「久しぶりに出かけることができて、良かった。買い物ができたのもよかった。夕日は思い付きで見たいって言ったんだけど、びっくりするくらい綺麗だった」
「そりゃあ良かった」
「でも、先輩にすっごく迷惑をかけた」
「迷惑なんて全然思ってないよ」
「私は迷惑をかけるつもりで言ってたの」
虚を突かれ、急には何も言えなかった。今日のあの高慢ちきというか横柄というか、あれはわざとあんなふうに振る舞っていたってことなのか。何故。
疑問が頭を駆け巡り口ごもった俺を見て、あかりは少し寂しそうに笑った。
「先輩、優しいんだもん。正直言って、気持ち悪いくらいに。優しくしてもらえるのは嬉しいけど、ああ、この人は私に負い目があるんだなってのが丸わかりな感じの優しさなの。必死すぎるっていうか。思い当たる節、あるでしょ? 流石に」
「……流石にね」
「でしょ? 私、それがすっごく嫌だった。やめてほしかった。でもだんだん加虐心が出てきて、そこまで必死になるならせいぜい優しくさせてやろう、困らせるくらい我儘言ってやろう、って思ったの」
「で、昨日のメールに至ったと」
「そう」
嫌な奴だね、とあかりは自嘲気味に吐き捨てる。
「今日の私、酷かったでしょ?」
「いつもよりは、じゃじゃ馬な感じだったかな。でも、さっきも言ったけど、迷惑だとかは全然思ってないから」
「フォローとかいいよ。自覚あるもん」
「もっとシンプルに考えなよ。あかりは我儘言いたい。俺は我儘聞きたい。ほら、ニーズがガッチリ一致」
「少しでも、一瞬でも、面倒くさいって思わなかった?」
「それすらも楽しかったさ」
おどけた調子で言うと、そこでやっとあかりは昔はよく見せてくれた、弾ける様な笑顔になった。
「先輩って、もしかしてドM?」
「あかりがドSなら、もしかしたらそうなのかもね」
ばか、とあかりは小さく笑った。俺もつられて笑う。気が付けば夕日はほとんど沈んで、夜の帳が下りて来ている。それでもあかりの顔は、赤く染まっていた。そしてきっと多分、俺も。
帰り道は、暫く二人とも無言だった。それは、病室にいるときのものとはまったく違う、心地よい、沈黙だった。
「先輩」
沈黙を破り、不意にあかりが俺を見上げながら言う。
「何?」
「私、次は朝焼けが見たい。今日の夕日に負けないくらい、とびっきりのやつ」
楽しそうで、嬉しそうで。でも少しだけ、不安も交じっていて。
そんな顔でお願いされたら、どうしたって、断ることなんて、できるわけがない。
「まかせとけ」
だから俺は、胸を張って、答えた。
あかりは、満足げに、ニッと笑った。
それからも、あかりはちょくちょく俺を呼び出した。ラーメンが食べたいから出前しろだとか、封切りされたばかりの恋愛映画が見たいとか、また買い物に行きたいとか。
要望が出たら、俺は可能な限り期待に応えた。それが、俺の役割だと言わんばかりに。
バイトも、できるだけ回数を減らさないように気を付けた。いつまでも三佐和さんに仕事を代ってもらうわけにもいかない。というか、あかりに付き合ってこれだけ遊んでいると、とてもじゃないが俺の財布が持たない。
昼間はあかりと一緒にいる時間に使いたかったので、必然的に夜から深夜の労働が増えた。
勿論学校も通った。と言っても、自分の中での優先順位は低かったので、通学回数はかなり減ったが。
睡眠時間は、ほとんど取れなかった。でも、充実した毎日だった。
「最近、随分張り切っているね」
バイト中、ふとそんな事を三佐和さんに言われた。
「でも、頑張り過ぎない方がいいよ? 新井君、けっこう周りが見えなくなるタイプだから。きっとどっかで無理が祟るよ?」
若干深刻そうな顔で言われ、少したじろいでしまう。だけど、今の俺に止まっている余裕なんてない。全ての事をがむしゃらに頑張らなければいけなかった。
曖昧に、気を付けます、とだけ返事をする。三佐和さんはまだ何か言いたげだったが、俺が構わず仕事に戻ると、向こうも黙って仕事に戻っていった。
暫くは、そんな慌ただしい日が続いた。
その間に、あかりはギプスがとれ、病院を退院し、自宅に戻っていた。一人暮らしをしていた彼女は、両親に「実家へ戻ってこい」と何度も何度も、切実に説得された。
しかし、それを頑なに拒否し、「先輩が面倒見てくれるから」の一点張りで現在に至るまで無理やり独り暮らしを継続していた。
片腕の生活は予想通りというか、予想以上というか、かなり大変なようで、あかりの期待にたがわず、俺は日常の炊事洗濯から買い物や外出にと、その力を発揮した。
「んじゃ、ゴミ出してくるね」
その日は、ゴミを集積所まで持って行っていた。集積所はアパートの前なので、なんてことはない距離だが、片腕で運ぶのは中々に大変なので、俺は率先して手伝うようにしていた。
集積所は、カラス除けに金属製の扉がついている。これがまた妙に重い。両手を使っても苦労する。
もうちょっと開けやすい扉にしてほしいと、アパートの管理人にひとこと言っといた方がいいのかなー、なんて呑気に考えながら扉を開けると、中にひとつ、目を引くものが置いてあった。
ギターケースだ。
山のようなゴミ袋に埋もれるようにして、それはそこにあった。
瞬間、思い出す。
あの日、あの時、ライブの帰り道。
あかりが背負っていたギターケースに、それはとてもそっくりだった。
ゴミ山を掻き分けて、恐る恐るケースに震える手を伸ばす。ファスナーを下ろし中を見ると、ネックが折れ、切れた弦がだらしなく伸びた、無残な姿がそこにあった。
特徴的な木目調のギター。見間違えるはずはない。
あかりの、ギターだった。
眩暈がした。
ふらふらとした足取りでアパートに戻ると、あかりはのんびりとソファに横になりながら朝の占いを眺めていた。
「あかり」
「んー? 何、先輩。どしたの、青い顔して」
横になったまま、視線だけをこちらに向けてきた。構わず俺は答える。
「ゴミ捨てに行ったら、ギター、捨ててあった」
「……ふぅん。今日は燃えるゴミの日なのに、非常識な人がいるもんだね」
「……あれ、あかりのギターでしょ?」
「あ、わかっちゃった? ごめんごめん、やっぱり粗大ゴミで出すべきだったかな」
「そうじゃなくて、いやそれもそうかもだけど!」
わざとだ。わざとズレたことを言っている。分かっていても、噛み合わない会話につい語気が荒くなる。もどかしい。
「もう、必要ないじゃん」
俺が何か言おうと口をパクパクさせていると、あかりがボソッと呟いた。
「だってそうでしょ? この右腕。これで私、何ができるっていうの?」
言うや否や立ち上がり、右腕をまるで振り子のように揺らす。無機的に揺れるその姿からは、本人の意志で動いている様子は感じられなかった。
「これで、ギターが弾けるっていうの?」
あかりの、試すような口調。何を試されているのかは分からない。だけど、間違えることは絶対にできないと、直感が告げていた。
「…………弾けるさ」
――退院前に一度、二人で一緒に右腕のことを聞きに行っていた。また動かせるようになるのか、以前のようにギターを弾けるようになるのかを。
本当は、聞きたくなかった。聞くのが怖くて仕方なかった。だけど、聞かないわけには、逃げるわけには、いかなかった。
医者は、リハビリを続ければ、もしかしたら再び動くようになるかもしれない、と言った。しかし、以前と同じようになるには、何年かかるか分からない、とも。
医者に言われたことを思い出しながら、絞り出すように言った。
「弾ける。弾けるよ。そう、信じてる」
「嘘つき」
「本当だよ。医者も言っていたじゃないか」
「『もしかしたら』とか、『かもしれない』とか、そんな風にしか言ってなかったじゃん。そんなの信用できない」
「でも、諦めなければ可能性はあるさ。諦めたら、その先はないよ」即座に言い返す。
あかりは唇を噛みながら逡巡するように視線をそらし、やがて、今にも泣きだしそうな顔で口を開いた。
「ダメだよ。先輩。私、そこまで強くない。そこまで希望を持てない。だって、考えてみて? 今まで何事もなく使えていた腕が、ある日を境に全く動かなくなるんだよ? そんなこと、私今まで考えたこともなかった。考えられないくらいの、悪夢。こんな状態なのに、前みたいにギターが弾けるようになるなんて、どうしても思えない。私、思えないよ」
気が付くと、目の前の少女はさめざめと泣いていた。涙がフローリングに滴り落ちる。咄嗟に駆け寄って指で拭うが、後から後から止め処なく溢れてくる。
何か声をかけるべきだと思いつつも、情けないことに、こんな時に限って気の利いた言葉の一つすら出てきやしない。気休めに、彼女の頭を撫でさする。
咽ぶあかりが泣きやむまで、俺は、ゆるやかに頭を撫で続けた。
どれくらい、時間が経っただろうか。
涙が止まってからも、暫くは二人でソファに隣り合って座り、空気を読まずに垂れ流され続けているテレビの情報バラエティ番組を眺めていた。
「あかり」
お互い落ち着いた所で、撫でていた手を放す。一瞬、あかりが潤んだ瞳で名残惜しそうに見て、「あっ」と小さく声が漏らした気がした。しかし次の瞬間には何食わぬ顔で再びテレビに視線を戻していた。少し申し訳ない気がしたが、俺は構わず話を続けた。
「あかりは、これからどうしたい?」
「え?」
「これからの事について、さ。リハビリをすれば、きっとまた腕は動くようになる。少なくとも、俺はそう信じてる。ギターだってまた弾けるようになる」
「……」
「勿論、諦めるのも一つの選択肢だと思う。でも、説教臭いかもだけど、あかりには、後悔しない選択をしてほしい」
陳腐で、ありきたりで、説教臭くて。
でもそれは、やっぱり気の利いた言葉なんて逆立ちしても出てこない俺の、精一杯想いを込めた言葉だった。
あかりは、目を赤く腫らし押し黙ったまま、視線はテレビから離さない。
「――先輩は」
やっと、口を開いた。と思ったら、ソファの上で体育座りになり、随分不安げな表情で上目使いに見てくる。
「先輩は、私がどんな道を選んでも、私の味方で、いてくれる?」
きっとそれは、俺と同じで実は不器用なあかりの、精一杯の言葉で。
仄かに俺への期待をにじませて、でも結局不安は拭えない彼女の、遠回しで、切実な願いだった。
俺は馬鹿な男だけど、ここで答えを間違えるほど馬鹿じゃない。
答えは、決まり切っていた。
「当り前さ」
言ってから、十秒経ち、三十秒経ち、まるまる一分は経っただろうか。能天気なテレビを背景に、暫くは二人とも無言でお互いの目を見つめあっていた。
やがて、あかりは表情を崩し、「くっさいセリフっ!」と吹き出すように笑った。つられて俺も肩の力が抜ける。
「わかった。私、頑張る。頑張ってみる」
「ホント?」思わず聞き返してしまう。
「うん。正直、またギターが弾けるようになるとは思ってない。思えない。でもやっぱり、少しでも動くようになるなら、やれるだけ、やってみる」
「そっか」
素っ気なく答えても、自分の顔が綻んでくるのがわかる。
「そっか。うん、そっかそっか」
もう一度、繰り返し呟く。
「なに先輩、気持ち悪い顔して。ばっかみたい」
恥ずかしそうに口を尖らせる彼女。「ごめんごめん」と咄嗟に謝るが、俺の頬は変わらず緩みっぱなしだ。
「もー、まったく!」
ショートボブの髪をふわふわと揺らして、ぷりぷりと怒る。だけど、そこには以前の殺伐とした感じはなく、穏やかで、優しい感触が伝わってきた。
「先ぱ――康さんってば」
あかりが、途中まで言いかけて、言い直す。名前で呼ばれるのは、これで二回目か。
康さん、と呼ばれることに特別悪い気はせず、むしろちょっと親近さが増したようで嬉しかったが、それを察せられるのはなんだか気恥ずかしい気がして、努めて気にしない振りをした。
「康さんってば、ほんと、ばっかみたい」
辛辣なあかりと、不器用で軽薄な俺。
病室の頃と同じようで、全く違う。
ここでは、二人の笑顔が、満ち満ちていた。




