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2ヶ月以上というより、ほぼ3ヶ月更新途絶えてました。すみませんm(_ _;m)三(m;_ _)m

しかし、その分、一話が長い……はず。

また暫く待って貰えるとうれしいです(._.)ノ ポイ((((((●~*

『綺麗な目!』

『あ、あの……』

『こらこら。先ずは自己紹介だろう?』

『私、フローラ!よろしくね、綺麗な目の人さん!』

『えっと……よろしく…お願い、します……フローラ様』

『やだ!』

『……え?』

『フローラ、どうしたんだい?』

『お父様、やだ!』

『あ、あの、フローラ様――』

『やだ!フローラ様じゃないの!私はフローラ!』

『アレン君はお前の護衛としてここにいるんだ。そうやって駄々を捏ねているだけでは、アレン君が困るぞ?』

『僕……は、アレン・レヴァラント……です。……護衛として、この命を懸けて……貴女様の身を……護ります』

『だから、私は……―』

『フローラ、言っただろう?彼はお前の護衛。護衛である限り、お前は彼のお姫様。護るべきフローラ・リゼッティア様なんだ』

『なら…………お友達!私とアレンは友達!友達ならフローラ様じゃないもの!』

『え……あ……僕……』

『だってさ、アレン君。娘の友達になってくれないか?』

『ローレン様……』

『お友達よ、アレン。よろしくね!』

『えっと……ふ……フローラ…………よろしくお願いします』

『うん!』







アクアさんの横顔は恐ろしいくらい最愛の人に似ていた。


柔らかそうな頬。

目を縁取る睫毛のライン。

細い指で髪を耳に掛ける姿。

少し首を傾けて見せる笑顔。


もしあの時、彼女が城下町に出掛けていなければ……。

もしあの時、彼女が近くの村の麦の収穫日について聞いていなければ……。

もしあの時、馬車がぬかるみで止まったりしなければ……。


彼女は今頃、アクアさんのように俺の隣で笑ってくれていたのだろう。



もしあの時、あの人が俺に気づかなければ……―


『ああ……お前か』

喉元に突き付けられた剣先。

それは俺を貫きはしなかった。


そして、俺は生き残ってしまった。



愛する彼女のもとに行けずにただ一人……。






「アクアさん」

立ったままぼーっと一人で空を見上げる彼女に、アレンはそっと声を掛ける。

「え?……アレンじゃない」

“アレン”って初めて呼んでくれたかも。

にやけそうになるアレンは口許を手で隠した。

しかし、

「何?へなちょこ」

一瞬で冷えきったリアルワールドに戻ってしまった。

さっきのは夢か……。

「今からでも良ければ、家まで送ります」

じとーっとしたアクアの皿のような瞳。疑いしか籠っていない。

「あの、ここはベッドとかないですし……団長が客人として丁重にと……」

「今日はもう歩きたくないの」

長い間の緊張と夜中の山登りをさせたアレンは、アクアの言葉に、純粋にすまないという気持ちと早く休ませてあげたいと思った。

「えっと……女性の団員のところへ案内します」

「それよりも、団長さんに会いたいのだけど」

「団長にですか?」

「駄目?」

勿論、お堅い隊長様などというわけでないから駄目ではないが。

寧ろ、団員達には他の団長より話し掛けやすかったりする。

「団長は今、ソラの長と……いえ、俺と待つなら」

「あんたとぉ?」

語尾からも察するに、アクアはまた疑っている。アレンは既に、常に疑心暗鬼状態の彼女への溜め息は尽きていた。

「団長は大切な話の最中です。アクアさんだからではなく、団長がロザリオを掲げる時は、俺らは無闇に団長には近づけないんです。俺と離れて待つなら、他の団員に疑われたりしません」

「用心深いのね、あんたの仲間」

皮肉めいた言い方。

しかし、アレンだってアクアの発言への言い訳は持っていない。

用心深く、疑り深いからこそ、疑わない為の掟があるのだ。

「って、別に嫌がらせで言ってるんじゃないの」

「いいんです。本当のことですから」

「…………」

アクアがまた少し淋しそうな表情をし、アレンは胸の奥にチクリと痛みを感じた。



「アレンーっ、イオ君がぁ!!」

アレンがアクアをリヴァのもとへと案内しようとした時、彼の左腕に少女が飛び付いた。

「チェン……俺は客人の案内中ですよ?」

「だってぇ!イオ君がうじうじじとじとして寝ないの!団長がまた怒ったらイオ君首吊っちゃうぅ!」

「ったく……アクアさん」

名前を呼ばれたアクアはアレンの言葉を聞かずに頷いた。

「吊られたらどうすんの?真っ直ぐの荷馬車の裏でしょ?近くの暇そうな子に頼むわ」

そして、すたすたと彼女は行ってしまった。

そう言われれば有り難いので、アレンは短髪を右耳の上辺りでちょこんと結ぶチェンに手を引かれてアクアを横目に見ていた。

彼女の後ろ姿がぶれる。



「暇そうな子……いない」

というより、皆寝てしまっていた。

木に寄りかかって火の番をしながら、そのまま眠る男。

眠る赤子の頭を撫でたまま眠った母親。

心地好い静寂が満ちていた。

アクアは大層顔立ちの似た少年二人に掛かる毛布を正すと、その隣に座る。

双子だろうか。

口を開け、二人は手を繋いで幸せそうな寝顔を浮かべていた。

「大変だったよね」

泥の付いた鼻先や頬。

その細かい刺繍の入った衣服はソラの子供達だ。

彼らの顔の泥を拭ったアクアは、立てた膝の上で腕を組み、そこに額を乗せた。

ゆっくりと漏れてくるのは吐息。強張っていた肩は今更気付いたようにぎこちなく力を抜いた。


ソラ。

北の大地。

戦争。

奴隷商。


死。


知らないことばかり。

いや、知ろうとしなかったことばかりだ。

街に出て、旅支度を整えようとした矢先にそれらを知ったのは不幸中の幸いか……否か。

何もかも捨てて国を出て、他の国へ。

簡単に考え過ぎていた。

もし、パスの提示を求められれば不法入国者だ。他国に移住にもパスがいる。

お金も限りがある。

自国を一歩でれば法も常識も通用しない。

自分の国以外逃げ場はない。

だから、ソラの民は奪われたら奪うことでしか未来への道はないのだ。

「お父様……助けて……」

私は誰からも何も奪いたくない。


なら、どこへ逃げればいい?




「イオ、フラれて落ち込むぐらいなら告白しない方がいいのです」

「って言ってるよ!連戦連敗のヘタレアレンが!」

「ちょっと!紳士がむやみやたらに連戦するわけないでしょう!!不埒な!」

「って言ってるよ!負け惜しみだよ!」

と、チェンがぴょんぴょんとイオの回りを跳ねた時、跳んだ彼女はアレンが彼女の頭上に翳した剣鞘にぶつかった。

「――ぃっ!!」

「口は災いのもとです。また一つ大人になりましたね」

「馬鹿ぁ!!」

馬鹿に馬鹿と言われても痛くも痒くもないのがアレンだ。


年少者の教育もアレン達団員全員の仕事であり、チェンとイオはこの度の任の途中で拾った子供達。

アレンに正しく鉄拳制裁を喰らってもどこか嬉しそうなのは弟のイオと二人きりで父親や母親とはぐれてしまったことに関係をするのだろう。

しかし、本来なら急を要する任務がなければ両親を探すのだが、彼らが「皆」「暗い」「ぎゅうぎゅう」「ギシギシ」「奴隷」と言ったので、奴隷商の奴隷船からどうにか逃げたのだ。「逃げろ」と「逃げて」は恐らく、二人を逃がそうとした父親と母親が最後に彼らに告げた言葉。

子供二人を鳥便で迎えが来るまで数人の団員と待つ。

今のご時世、それは危険すぎた。

それに、彼らの両親の売買先は多分……。

違う場所だとしても、各地で保護した者は全て商団本部へと集める予定になっている。

二人のようにもう離れ離れにならないように。

そして、情報の統合。

これが最重要だったりする。


「イオ。大人のお姉さんに『好きー』なんて、『あらボウヤ、私もボウヤのこと大好きよ。それじゃあね』と返されるだけですよ」

「じゃあ、どうしろって……アレンは連戦連敗だもんな。聞いたって……」

ばこん。

またも鉄拳――剣で制裁を加えた。

「っぅぅ……鬼ぃ……団長と変わらないぃ…………僕、首吊る」

姉共々頭頂を押さえるさらさらした黒髪のイオは淡々と手頃な縄を懐から取り出し、端に結び目を付けて木に向かって投げる。うまく枝を回った縄を手慣れた風にきつく結び……。

ただの縄は首吊り自殺用に早変わり!

「わわっ!イオ君ダメぇ!アレンのバカ!助けてよ!」

イオはせっせと作ったわっかを持って木に登り、枝の分かれ目に立つ。

本気で首を吊るようだ。

アレンは止めようと必死なチェンを見下ろし、溜め息を吐いた。

「まったく……俺がモテるテクを教えますよ」

突如、キラキラした瞳がアレンに向いて、イオは輪に首を通した。

表情と行動が真逆の彼。

「お姉ちゃん、僕……死んじゃうね」

「イオ君!?何したのさ、アレンっ!!」

「それは俺が聞きたいですよ!俺のモテるコツを知りたくないと!?」

マル秘テクを教えてあげようというアレンは聞き返す。

そして、

「モテない人間のモテるコツなんてないよ!」

その時、チェンとアレンが子供みたいにぎゃーぎゃー言い合う間、なんやかんやで二人の戯れが終わるのを待っているイオがいた。



「―……で?分かりましたか?」

「へぁ……?」

いつの間にか寝ていて、薄目を開けたイオの前にはアレンがいた。

「俺のテク、聞いてました?」

「テク……首吊りは……?」

「イオ、首吊り首吊りってね、やめなさい。そんなに首を吊りたいなら、イオが死んだ後のチェンのこと考えて、納得のいく未来が見えてからにしてください」

ぽけっとするイオの頭をよしよしと撫でたアレンは、自分の膝を枕に眠るチェンの頭も撫でる。

「お姉ちゃん……」

「さ、何をしても、明日も太陽は昇ります。もう休みなさい」

「ふぁーい」

返事に欠伸が混じり、イオはチェンの投げ出された片手を握った。そして、直ぐにチェンに抱き付いて眠る。

暫くチェンに膝を貸していたアレンだが、一度地面に二人を寝かせると、積み荷の中から手頃な藁の束を選んで姉弟の頭の下に敷いた。その序でに、嘶いた馬の背中を撫でる。

と……―

「レヴァラント様、まだお休みになられないので?」

「バロンさん、見張りお疲れ様です。俺は団長が起きている限り起きていますよ」

バロンと呼ばれた体格のいい、しかし、年齢相応のシワがちゃんと刻まれた男は、蓄えた白い顎髭を引っ張った。その腕にはクロスにSを型どる穴が空いた腕輪がはめられている。

一度俯き、背筋を伸ばしたバロンは空を見上げた。そして、アレンを見ることなく口を開く。

「リゼッティアお嬢様にはちゃんと会えましたか?」

しゃがれた、しかし、はっきりした声。

「会えました。墓が綺麗になっていたからリオ様と入れ違いになったのかもしれません。それでは、俺はこれで」

アレンはその場で一礼して歩き出した。

“リオ”の言葉に涙を流したバロンを残して。






天を裂く悲鳴が聞こえたのは見張りを除く殆どが今夜の疲れも手伝って熟睡していた時だった。

森が騒ぎ、そこを漆黒の衣を纏う者が腰の獲物に手をかけて駆け抜ける。そして、彼は許しを貰うことなく主の前に現れた。

「団長!!ご無事ですか!!!!」

息を切らしたアレンは荷馬車の裏手にいたリヴァの無事を一番に確認する。

当のリヴァは短剣を抜いたまま、エルを荷馬車と自分の間に隠して闇に溶けた森を睨んでいた。

「アレン、私は大丈夫だ。だが、彼女が……」

「彼女?」

アレンも気配を探るようにリヴァを背にし、森を向き、刀を構えて聞き返す。視覚から得られる情報に集中していたアレンだが、リヴァの次の言葉に一瞬で乱された。

「お前の客人が襲われた。幸い、怪我は逃げようとしてどこかに擦った肘の擦り傷だけだが」

「アクアさんが!?」

エルが守っていたのは紛れもないアクアだ。

刀を鞘に仕舞ったアレンは、慌ててぐったりしている彼女に駆け寄る。

「どうしたんですか、アクアさん!!」

反応のないアクアを揺するアレン。

「アクアさん!アクアさん!」

「気絶している。やめとけ。今は手当てだ」

リヴァはアクアの場所を移動させようとしたが、アレンが邪魔をした。

彼はアクアの肩を掴んだまま動かない。

「おい、アレン!」

リヴァがアレンの首根っこを掴んで無理矢理アクアから引き剥がす。しかし、アレンはその時もずっとアクアを見詰めていた。

「………………………………フローラ……どうして……」

彼はただ呆然と彼女を眺める。

強く掴まれた彼女の着るアレンのコートの肩口にはシワが寄っていた。

「冷静になれ!」

べちんとアレンの頬をひっ叩いたのはリヴァだ。

彼の頬が手形に真っ赤に染まり、アレンは地に尻餅を突く。

それでも、その虚ろな瞳は焦点を合わせていない。

すると、眉をひそめたリヴァはアレンの胸ぐらを掴んで立たせると、問答無用で背負い投げをした。

それも、顔色一つ変えずに。

「いっ!!!?」

ドシンという鈍い音と共に、地面に伸びたアレンは唖然と口を開閉する。

「だ……団長……?」

「後悔するぐらいなら早く手当てしろ。私の護衛はいい。今はお前は彼女を守れ。いいな?」

これはリヴァの命令だ。

「……………分かりました」

衣服に付いた土を払ったアレンは大人しくなった。



アレンは、大木の下で膝を折る黒馬の隣まで、彼女をそっとおぶる。

気付いてか、耳をひくつかせた馬はアレンを見た。

「賢いユリン。あなたはアクアさんを見ていてください。俺は少し周りを見たら戻ってきます」

ユリンの腹にアクアの頭を凭れさせると、ユリンは項垂れて再び目を閉じた。


まだ夜は長い。

アレンは鞘から刀を抜いた。




「リヴァさん」

「エル?」

用意された毛布を膝に掛けたエルは訪ねた。

「アレンさんは……ロリアの方……ですか?」

「何故そう聞く?あいつは過去を語らない。だから私は、あいつがどこで生まれ、どこで何をしたのかは知らない。アレン・レヴァラントという名前以外はな」

そして、そんな素性の分からない人間を護衛にするほど、彼は強い。

「父からロリアという国について聞いたことがあります。数年前に王家が絶え、民は散り散りになったけれど、田園だけは今も美しさを残している。この田園都市『ロリア』には、水の精によく似たお姫様……フローラ様がいたのだと」




彼女の笑顔は、雨上がりに雫を輝かせて朝日に開く花のようだったと。


そんな彼女の隣には、いつも若い騎士がいたと。


彼は無口で無愛想。



しかし、



彼女が笑うと、彼は微かに笑い返したそうだ。

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