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URL  作者: 和まと
第一章
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プロローグ

 生と死とは、誰しも等しく訪れるものである。

 生や死は、本人が望まずとも向こうから足音も立てずにやって来る。

 生きているうちに様々な苦楽を感じ、そうして時が経つとやがて人は土へと還る。

 生物にとって、それが果たして幸福なのか、と訊かれれば答えは出ない。

 しかし、凡その人間がその死の匂いを感じただけで恐れ、退けたがる。

 退廃的な日常の中で、その片鱗を感じ取るだけで生へとしがみつくのだ。

 ──生を感じる瞬間とは、まさに死に直面した時だ。

 では、死を感じる瞬間とは、生に直面した時なのだろうか。

 死とは、すべての終わりを意味する。

 それを全身で体感するとは、いったいどのようなものなのか。

 だが、それを知る者は、この世界ではきっと誰も居ないのだろう。

 これは死者にしか、答えられない問いだ──。

 故に、か。

 未知な存在であるからこそ、人の欲求は刺激され、知りたいと願う。

 死とは、恐れるものであり──また、その恐ろしさ故に不思議と魅せられるものなのだ。


 □ □ □


 思わず、ううんと唸る。

 夏の生気に満ち溢れた木々の色合いはすっかりと抜け落ち、侘しい景色が町中を包んでいる。

 少々都心とは離れた場所にある此処──清菱(せいりょう)高校と掲げられた校門前に佇んだ俺こと久長夕也(ひさなが ゆうや)は、手元を覗き込みながら眉根を寄せた。

「ゆーうや! なに変な顔してんだよ」

「うぐっ!」

 ふいに後ろから声をかけられると同時に、バシンッと思い切り背を叩かれる。

 突然与えられた衝撃に耐えきれず、目を白黒させながら前に仰け反ると、数歩よろめいた。

 堪らずゲホゲホと咳き込みながら、振り返りざま声の相手を睨み付ける。

「光一、いきなり何するんだよっ」

「んー? 夕也がいつにも増して変な顔してるから」

「いつにも増して、は余計だっての」

 じろり、と下から睨みあげると、視線の先の人物──幼なじみである瀬野光一(せの こういち)はけらけらと笑った。

 その友人の反応に、俺は面白くなさそうに口の端をひくつかせる。

 長年の友人だからこそ悪気がないことは分かる。が、光一のこういった性格には、俺は未だついていけない。

「だいたいお前の補習が長引いてたから、わざわざ待っててやった友人様に対して……そういうことを言うのかな? 光一くん」

「いだだだだ! 悪かった、俺が悪かったです! ギブギブ!」

 ひきつった笑みのまま、恩知らずな友人へ手加減なしでヘッドロックを決める。本当に遠慮なしでかけられた(それ)は、思いの外とても効いたらしい。

 数分もせずに呆気なく叫ばれたギブアップに、俺は全く、と小さな吐息とともに光一を解放した。

「〜ってぇ……ほんの冗談じゃんかよ」

「まだ言う?」

「いえ、何も」

 握りしめられた拳を見た瞬間、潔く白旗を上げた光一は「待たせて悪かった」と苦笑とともに謝罪した。

 夏の名残はすっかりと成りを潜め、二人の間を吹き抜ける風も冷たさを孕んでいる。

 都心部から離れた所にある──俺たちが通う清菱高校。その校門をすぐ出た目前には田畑が広がり、畦道が続いている。

 少し都心から離れただけでこの風景だ。

 当然、周囲に時間を潰せるような店もなく、俺は寒空の下で二時間、このバカ友人を待ち続けることになったのだ。

「風邪ひいたら、絶対光一のせいだからな」

「あははは、大丈夫だって。バカは風邪引かないっていうし」

「それお前のことだよな? 俺を指して言ってるんだったら、次はかなりアクロバットな技かけることになりそうなんだけど」

「ちょ、タンマタンマ! 冗談です! 悪かったと思ってるって……だから、ほら」

 はい、と。

 おもむろにコートのポケットから取り出した物を、俺の目の前に突き出される。

 筒形の小さなそれに巻かれたラベルを目にした瞬間、俺は半目で光一を捉えた。

「……コーンポタージュ」

「他は売り切れだったから」

「……受け取っとく」

 缶ジュース一本で二時間も待たせた罪はとても許せそうにはないが、今日のところはこれに誤魔化されておいてやろう。

 何せ、校内一ケチで有名なこの幼なじみが、缶ジュース一本とはいえ奢ってくれるというのだから。

 が、光一の手からそれを受け取った刹那、俺は思わず首を傾げた。

「なんか、冷えてない?」

「ああ、俺が補習中、カイロ代わりに使ってたし」

「なんっで二時間も前に買ったの渡すんだよ!」

 暖はすっかり奪われた後で、指先には微かなぬくもりすら感じない。

 こいつバカだ。本気でバカだ。そしてやっぱりドケチだ。

「い、ら、ね、え」

「えー」

 些か乱暴に突き返せば、目の前の友人は「美味しいのに」と唇を尖らせながら冷めた缶ジュースへ口をつけた。

 あんなものを飲んでは、更に体が冷えるだろうが。

「ま、冗談はさておき。本格的に寒くなってきたから、そろそろ帰るか」

「……冗談が長いんだよ、お前の場合」

 肩を竦め、コートのポケットに両手を突っ込みながら歩きだす光一に倣い、俺も足を踏み出す。

 橙色の夕日が赤く染める細い畦道を、二人並んで踏み締めた。



 吐き出した吐息は宙で白く染まり、一瞬にして霧散していく。

 都心部に近づくにつれ、活気に満ち溢れた空気を肌で感じ取りながら、鼻を赤くした光一がふと何かを思い出したかのように口を開いた。

「そういや、俺を待ってる時にしかめっ面してなに読んでたんだ? ひょっとしてエロ本?」

「お前と一緒にするなよ」

「ちょ、それひどくね!? 俺は至って健全な男子高生なだけデスヨ?」

 半目がちに隣を見上げれば、光一は妙に演技がかった口調でしくしくと泣き真似をし始める。

 この男──一見すれば爽やかな外形にも関わらず、その形の良い薄い唇から飛び出す言葉(もの)は、ギャップの激しいものばかりなのだ。

「この私の知らないうちに、夕也もいつの間にかこんなに大きくなったのね……光ちゃんちょっと複雑」

「気持ち悪いこと言うな!」

 第一、エロ本を堂々と、しかもしかめっ面で読む人間というのも、居ないと思う。

 どうしたら、そんな発想が出来るのか……本当、黙っていればいい男なのに。残念な奴。

 一つ小さな溜め息を零すと、俺は肩にかけていた鞄から一冊の本を取り出し、光一に手渡した。

「……『生死の存在2』? まーたこんな小難しい本読んでたんだ」

「うるっさいな。面白いんだから仕方ないだろ」

「ふぅん? 面白い、ね……俺には分っかんないなぁ」

 言って、片手で本を持ち上げながらヒラヒラと左右に振ってみせる青年の表情は、どこか呆れているようにも見えた。

 夏の終わりを示す肌を刺す寒い風が、赤く照らされた光一の色素の薄い髪を揺らす。

 ──見た目も中身もチャラくて、俺とはまるで正反対な存在のこいつに、分かれという方が無理な話なのかもしれない。

「まあ、光一にはわかりっこないよな、色んな意味で」

「うっわぁ、なんかまとめられてるけど、かなり傷ついた」

 一言で冷たく切って捨てれば、憎たらしいくらいに綺麗な笑みは思い切りひきつった。

「俺だって少しはムズカシイ事考える時だってあるんだよ?」

「うんうん、分かってる分かってる」

「あれ、なんか流されてる!?」

 二人並び、悪ふざけを繰り返しながら歩を進めていくと、見慣れた駅が視界に飛び込んできた。

 周囲は人の波に溢れ、薄暗い空の下、そこらかしこからぽつぽつと灯りが零れ落ちている。

 いつの間にか、街へと到着していたらしい。

「そういえば、今日の晩ごはんは光一の好きなカレー作るって母さんが言ってたけど……食べに来る?」

 駅構内へ足を進めながら、隣を歩く光一を窺うように見上げる。

 好物の名前が出ると、視線の先の顔は嬉しそうに綻んだ。が、次の瞬間、何かに気づいたように唇を閉ざすと、気まずそうに瞳を伏せる。

「あー……嬉しいんだけど、今日は無理だ。(みのり)さんと飯食う約束しててさ」

「あぁ、隣の部屋の大学生さん?」

「そ。侘しい一人暮らしの男だけで飯食おうって。なんとも失礼なことだよなぁ……ま、事実なんだけどさ」

 言って、苦笑する光一は可愛い彼女欲しいなぁ、と虚しい欲望をぼやきながら頭上を仰いだ。

 冗談めかして口ずさむわりには、その横顔はどこか寂しそうなものに見える。

 刹那、俺の心臓はどくりと嫌な音を一つたてた。

「別に……食べに来るなら今日じゃなくてもいいだろ。明日は土曜日で、しかも一緒に遊ぶんだし」

「……だな」

 慰める言葉を探すように紡がれた俺の台詞に、光一はこちらを向くとにっ、と八重歯を見せて笑う。

 いつもの彼らしい態度に戻ったことに──ほんの少しだけ、安堵した。

 そんな俺の様子に光一も気づいたのか、どことなくしんみりとしてしまった空気を払拭させるように、話題を変えた。

「そういや、明日どこで待ち合わせだったっけ?」

「駅前に十二時。……というか、自分で決めたのに忘れるなよ」

「あー、そうだった、リョーカイ」

 思わず吹き出す俺に、光一も困ったように頭を掻くとばつが悪そうな顔をする。

 妙なところには気が回るくせに、肝心なところで抜けている性格は、光一らしいといえばらしい。

「でも、また森都でぶらぶらしてカラオケ行くだけだろ? なら、少しくらい遅刻しても……」

「遅れたらカラオケ代奢りだからな」

「ハイ。スミマセン」

 さりげなく遅刻を宣言する光一に、しっかりと釘を差しておく。

 遊ぶといっても二人だけなのだし、明日はそのままオールする予定だ。

 確かに少しくらいは遅れても問題はないかもしれないが、この友人の遅刻となると下手をしたら遊ぶのは何十時間後となりかねない。

「最近物騒だからって、夕也の母さん遅くまで遊ぶの許してくれなかったしなー」

「そうなんだよ。門限が八時なんて、何して遊べっていうんだか」

「でもまぁ実際、つい昨日もこの北先地区で例の通り魔が出たし……親なら心配になるのも当然だろ。確かに夕也、危なっかしいし」

「……なんか、バカにされてるようにしか聞こえないんだけど」

 どことなく小馬鹿にしているような光一の口振りに面白くないものを感じつつ、俺は鞄から定期を取り出した。

 気づけば、いつの間にか俺たちは別れ道である改札の前まで足を進めていた。

「あははっ。ま、せっかく遊べるんだし、おもいっきり遊ぼうぜ。じゃ、また明日な!」

「ん、また明日」

 改札をくぐり、手を上げる光一に向かって俺も振り返す。

 スーツを着たサラリーマン風の男や、制服姿の女子高生の人波の合間に消えていく背を見送った後、俺も帰路につく人混みに身を呑ませた。



「ただいまー」

「おかえりなさい。……あら、一人?」

 玄関の扉を開くと同時に、習慣となっている台詞を音に出すと、狭い廊下の奥から返事とともにひょこりと母さんが顔を覗かせた。

 夕飯の準備をしていたのか──母さんがこちらへ近寄ってくるとともに、キッチンから漂ってくるカレーの匂いが鼻をつく。

 俺が一人しか居ないことを確認すると、母さんは首を傾げながら不思議そうに目を瞬かせた。

 予想していたその反応に、俺は困ったように笑いながら答えを返す。

「光一は今日用事があるんだって。明日遊んだ後に食べにくるってさ」

「まぁ、そうだったの……。なら、光一くんのために、またカレーをたくさん作っておかなきゃね」

 一瞬残念そうな表情をするものの、直ぐ様浮上すると母さんは綺麗に微笑みながらさらりと「三日間カレー宣言」をする。

 ──光一には甘い甘いと常々感じてはいたが、少しは自分の息子の食事事情を省みて欲しいと思うのは……無理な願いなんだろうなぁ。

 苦笑混じりについ落としそうになるため息を喉元で必死に堪え、家に上がった。

「夕飯出来てるから、先に着替えて来ちゃいなさい」

「うん」

 背にかかる母さんの声に一つ返事をし、自室へ向かって足を進めていく。

 廊下を横切り、キッチンの前を通りかかる──と。

「──おかえり、夕也」

 開かれた戸の合間から覗いた室内。

 四人掛けのダイニングテーブルに腰かけている人物を目にした瞬間、俺は思い切り顔をしかめた。

「…………来てたんだ」

「近くまで来る用事があったから、立ち寄った」

「……ふぅん」

 艶やかな黒髪に、小さく整った顔の造り。しかし、その端整な顔立ちには、一片の感情も浮かんではいない──能面を彷彿とさせるような表情のまま、青年は手にしていたカップをソーサーに戻すと、視線をこちらへ移す。

 一瞬、笑ったところを見てみたい、と興味をひかれるような容姿を持つ兄──十六夜(いざよい)は、俺を見ると小さく首を傾げた。

「夕也も、何か飲むか? コーヒーがあるが……」

「いらない」

 十六夜の言葉を、一言で素っ気なく切り捨てる。

 兄の気遣いを冷ややかな声ではね除けた俺を、背後から追い付いた母さんが「こら」とたしなめた。

「久しぶりにお兄ちゃんが来てくれたっていうのに、そんな言い方ないでしょ。そうだ、十六夜、晩ごはん食べていったら? ちょうど夕くんも帰ってきたんだし」

 生き生きとした様子で話す母さんの誘いに、十六夜が頷きかけた──刹那。

「俺、夕飯いらないから」

「え?」

 どこか険の含んだ声音でそう言い捨て、階段を上がっていく俺を、慌てたように母さんが呼び止める。

「ちょ、ちょっと、夕くんっ!? いらないって……」

「その人と一緒に食事なんてしたくないし」

 とん、と。背後に一瞥もくれることなく階段を上りきり。

 「夕也!」と追いかけてきた母さんの怒声を、自室の戸を叩きつけるように閉じて拒絶した。



 大学入学と同時に、一人暮らしを始めると十六夜が言った時、俺は心底喜んだ。

 昔から俺は、兄である十六夜に良い感情を抱いていない。

 何においても完璧にこなし、簡単に人の上をいく十六夜──外見もそうであるが、本当に造り物なのではないかと思えてしまうその行いを、薄気味悪いとすら感じたほどだ。

 そしてやっと、十六夜がこの家から居なくなると思った瞬間──歓喜するとともに、安堵すら覚えた。

 だと、いうのに……。

(なんで一人暮らししてる家から、時々帰ってきたりするんだよ)

 うざいうざいウザイ。本当にウザイ。

 大した用事もないくせに、帰ってくるな。

 十六夜は俺を苛つかせることに関しては、驚くほどに天才的だと思う。

 こっちはもう顔すら見たくもないというのに──。

(……なんて、こんなことを口にしたら、光一は悲しむんだろうけど)

 明かりの点いていない薄暗い部屋の中、ベッドにうつ伏せになりながら細く息を吐き出した。

 光一は、幼い頃に家族を亡くしている。

 血の繋がった家族の有り難みを子供の頃から体感している光一からしてみれば、俺のこの態度はとても贅沢なものらしい。

 一度、ぽつりと俺の十六夜へ抱いている感情を零したところ、光一は悲しみとも哀れみともつかない表情を湛えながら、そう話した。

(……光一の言いたいことは、分かるけれど)

 それでも、俺は──

「夕也っ!」

 ダンッ、と。

 思考を遮るように、激しく叩かれる扉。

 扉越しに聞こえてきた母さんの怒鳴り声に、俺は気だるげにそちらを振り返り見た。

「夕也、下に降りてきて十六夜に謝りなさい! せっかく来てくれたっていうのに、お兄ちゃんに対してなんなの、あの態度は」

「別に頼んでないし」

「夕也!」

 可愛いげのない俺の返答に、戸の向こうの声が更に鋭さを帯びた瞬間、「母さん」と落ち着いた声音がそれを制した。

「レポートが残っているし、今日はもう帰るな」

「え、ちょっと、十六夜……」

「夕也、俺は帰るから……夕食はちゃんと食べろ」

 優しく宥めるような十六夜の言葉に、俺はただ口を閉ざす。

 無言の答えを特に気にした風もなく、十六夜は「それじゃあ」と母さんに挨拶をすると階下へ降りていったようだった。

「……もう来んなよ」

 薄闇の中、ぼんやりと浮かび上がる扉をきつく睨み付け、俺は憎々しげにそう吐き出した──。



「まったく……なんでお兄ちゃんに対してあんな態度しかとれないの、兄弟じゃない」

 夕飯時──部屋からキッチンへと降りてきた俺は、母さんの長い説教を受けながら本日のメニューであるカレーライスを黙々と頬張っていた。

 真向かいの席に腰かけた母さんは、先刻から何の反応も示さない俺に焦れたのか、小さくため息を吐くと「しょうがないわね」と先ほどより幾分声を柔らかくして続ける。

「今度来たらちゃんと謝るのよ? 十六夜は夕くんのこと大好きなんだから」

 分かった? と言い聞かせ、食器をさげるために立ち上がった母さんの背を見つめながら、俺はひっそりと口の端を歪めた。

「……だから、嫌いなんだよ」

 昔から植え付けられたコンプレックスは、簡単に消せることなどないのだから──



 息詰まるというほど、苦しさを感じるような家族間の空気ではない。

 だが、決していいと言えるような雰囲気ではないことは自覚している。

 十六夜が一人暮らしをしてからは、大分和らいだとは思うが──

 長年抱き続けたこのコンプレックスを容易く解消出来るはずもなく、俺と十六夜とのやり取りはもはや日常ともいえるものになっていた。

 そう、これが日常なんだ──。くだらない、退廃的な日常。

 実の兄を嫌い続ける日々。

 これでいいと、思っていた。

 こんな馬鹿みたいな日常が続いていくんだと、心のどこかで感じていた──

 しかし、非日常はいつでもぽっかりと入り口を開けて待っているということを、俺は思い知る。

 誰かが、その穴に堕ちてくることを──


□ □ □


 森都駅前──一体どこからこんなに出て来るのか、と思えるほど沢山の人々で溢れかえっているそこは、休日ということもあってか、行き交う人の姿は私服が多い。

 待ち合わせ場所である駅前の時計台の下に佇みながら、俺は携帯に視線を落とす。

 現在の時刻は、午後一時三十八分──。

 待ち合わせした時間は、十二時。

 約九十分近くも待たせておきながら、彼の幼なじみは未だ現れる気配がない。

「いったい、何してるんだか……」

 おおよその予想はついていたが、まさか本当に遅刻するとは……。

 光一の携帯に連絡をいれてはみたが、やはりと言うべきか、繋がらない。

 大方寝ているんだろうと、呆れ気味に肩から息を吐き出しつつ、手早くメールを作成する。

 このままここに居たところで、後数十分は待ち人は来ないだろう。

 どこか店に入っていよう、と周囲を見渡した刹那、ふいに辺りがざわめいていることに気づいた。

「?」

 なんだ、と首を傾げる間もなく、傍らを通りすぎる人の声が耳に飛び込んでくる。

「さっき、また通り魔が出たんだって」

「西区だっけ? さっきちらって見たけど、襲われたの茶髪の若い男だったな。まだ若いのに、かわいそー」

 通り魔、茶髪の男、襲われた──。

 囁かれた言葉を理解した刹那、その単語だけがぐるぐると胸中を渦巻く。

 茶髪の男なんて、よく居る人だ。光一はきっと、また寝坊をしているだけ。時間が経てば、遅れてやって来る。

 自分自身にそう言い聞かせてみるも、脳裏を過るは嫌な想像ばかり。

 ──西区は、光一の家の方角だ。

 バクバクと、心臓が早鐘を打った。

 通り魔、襲われた、茶髪の男、光一、未だに来ない、光一──

「……っ!」

 弾かれたように顔を上げると、俺は西区へと向かって走り出していた。



 冷静に考えれば、人が一生のうちに事件に巻き込まれる可能性なんて低いはずと分かるのに──

 でも、それでも、と思考は最悪の事態の方へと向いてしまう。

 秋の色に染まりかけている街中を、一気に駆け抜ける。

 西区に近づくにつれ、人の波が多くなっていくように感じた。

 自然と上がる息に伴い、足も重くなっていく。

「はぁ……、はぁ……っ」

 街路樹が立ち並ぶ歩道の脇。

 一旦立ち止まり、膝に手をついて息を整えていると、遠くからパトカーのサイレンが鳴り響いてきた。

 オフィスビルが聳え立つ谷の合間から届くその音が、先刻の通り魔の話題が嘘ではないことを俺に実感させる。

 心配、不安、戸惑い──野次馬染みた好奇心もあるのかもしれない。

 しかしただ、光一じゃなければいい、と願った。

「っ、くそ」

 再び走りだそうとし──だが、それは敵わなかった。

 野次馬で溢れ返った人混みが、事件現場と思われる場所に密集し、俺の進路を塞ぐ壁となっている。

 人々の手にはカメラや携帯電話が握られていることから、現場はこの先で間違いないんだろう。

 ──本当に光一なのか。光一じゃなければいい。

 せめぎ合う気持ちの中、連絡のない幼なじみの姿を思い浮かべ、他にルートはないか、と視線を辺りに巡らせる。

「……あ」

 高いビルとビルの合間──薄暗く、先の見えない路地裏。普段ならばあまり近づきたくもないであろう、その道。

 はた、とその存在と目が合ったような感覚に陥り、一瞬躊躇うものの、俺は小さく息を吸い込むと引き寄せられるように足を踏み入れていった。



 ぜぇ、ぜぇと荒い息遣いが己の鼓膜に届く。

 日の光が当たらない路地裏にはゴミが散乱し、不快な臭いが鼻をついてくる。

 柔らかい土に足をとられ思うように前に進めない現状に苛立ちつつ、奥歯を噛み締めた。

(道、こっちで合っているのか……?)

 些か冷静さを掻いていたんじゃないか、と酸欠状態の頭の隅でぼんやりと考える。

 茶髪の男性という情報だけで、光一と決めつけるにはなんとも短絡的ではないのか──

 しかし、と。

 壁に手をつき、息を整えながら携帯を取り出してみるが、やはり光一からの連絡はなかった。

 その事実に再び後押しされるよう、道が合っているのかすら分からないまま、一歩、足を踏み出そうとし──

 ──ガァンッ!

 思考を遮るように響いた音に、俺は思い切り身を竦めた。

(な、んだ……?)

 金属がぶつかり合うような、大きな音。

 進行方向から聞こえてきた正体不明のそれに、俺は困惑する。

(……誰か、居る?)

 恐る恐る歩を進めると、細い道の先にうっすらと人影が見えた。

 長身の、一つの影。

 男性だろうか、と警戒しつつ前進し──

 刹那、俺はびくりと体を震わせた。

 グニリ、と。

 靴底に、柔らかい感触。

 はっ、と反射的に足を戻し、目線を落とす。

 視界が暗い中、目を凝らしてみれば、ぼんやりと浮かび上がってくるそれは人の足のように見えた。

「ひっ……!」

 喉の奥から、悲鳴が込み上げる。

 人の、足──横たわっている人が、そこに居た。

 暗がりに慣れてきた目で辺りを見れば、視線の先には数人の男が倒れている。

 そして、人形のように力なく倒れ伏している男たちの中。

 その中心に、佇んでいる一人の青年──

「……あ」

 ゆっくりと、青年の眼差しがこちらへと向けられる。

 狭いビルとビルの合間に降り注ぐ陽光では、満足にその姿は確認出来ないが──僅かに色付く景色の中、うっすらと見えたものは闇にも負けない白銀の色。

 はっきりと容姿は見えないが、彼の顔がこちらを見たと認識した瞬間、ぞくりと背筋を悪寒が走り抜けた。

 来 る 。

 鼻をつく鉄錆の匂い。

 青年が一歩一歩、近づいてくる度にその香が強くなっている気がした。

 まずいまずいまずいまずいヤバいっ。

 脳内では先刻からガンガンと煩いくらいに警鐘を鳴らしている。

 カランッ──。

 ふいに耳に届いたその音に、はっ、として青年の手元に視線を向ければ、長い指先に張り付くようにして赤黒く汚れた鉄パイプが握られていた。

「う、っ……あ」

 一歩一歩、青年が近づいてくる度にパイプの頭が地を削る。

 蛇のような尾を柔らかい土の上に残していく光景を視界に入れながら、俺はただその鉄の棒がこちらへ向けられないことを必死に願っていた。

 ゆったりとした青年の足取りは、まるで死人の如く静かで、気配がない。

 逃げようと背を向けて走れば、或いは逃げられるかもしれない。

 だが、俺はそれが出来なかった。

 鉄の臭いが近づく。

 ぎらぎらと輝く赤い目が、暗闇の中で怪しい光を放つ。

 得体の知れない男から向けられる気配に、俺の足はその場に根が生えてしまったかのようだった。

 来る、来る──!

 足下から聞こえる男たちの唸るような呻き声が、ここで起こった凄惨な出来事を物語っているようだ。

 次は、自分もそうなるような錯覚に陥った。

 恐怖から歯の根が合わず口の中でガチガチと音をたてる。

(どうする、どうするどうする──!?)

 頭が働かない。

 どうする、逃げる、怖い、殺される、警察、誰、助けて、鉄パイプ、男。

 視覚から得る情報や心情が単語となって脳内を飛び交い、上手くまとまらない。

 ただ一つだけ分かることは、青年の纏う空気が決して穏やかなものではなく──また、今まで俺が出会ってきた人たちが持っていたものとは違うと、悟った。 そうだ、これは──

 殺 気 。

 獰猛な肉食獣が、獲物を見つけた時に放つそれに似ている。

 じんわりとした生温い汗が全身を包んだ。

 生まれて初めて、敵意を持った感情を自分に向けられるという現状に、無意識のうちにジリ、と土を噛み後退りする。

 刹那。

「な……っ!」

 まるでそれが合図かのように──一瞬にして青年との距離が縮んだかと思えば、眼前に白い腕が迫り、次の瞬間、俺の体は冷たいコンクリートの壁に叩きつけられていた。

 青年の長く大きな手が首元にまとわりつき、肌に食い込む。

 同時に、気管が締め上げられ、上手く息をすることが叶わなくなった。

「が、は……ぁッ!?」

「──テメェは、何だ?」

 肺の底から冷えるような低い声が、耳元で囁かれる。

 漆黒の闇の中、聞こえた声は足下からゾクリと背筋に悪寒を走らせた。

 ガタガタと体を震わせながら、息苦しさに襲われ自然と曇っていく視界の中ゆっくりと目を見開いた。

 と、赤い双つの目玉がすぐ目と鼻の先にあり、ぎらぎらとした輝きを湛えこちらを睨み付けていた。

 理解すると同時に、ビクリッ、と体が跳ねる。

「……コイツらの仲間、じゃねぇことは確かだよなぁ?」

「がっ、ぐ……」

 首筋を掴む指先に、更に力が込められる。

 熱が頭の天辺に集まり、顔全体が熱くなる。

 後頭部に、チリチリと焼けるような感覚が走った。

「大人しくしていろ。そうすりゃあ、危害はくわえねぇ」

 青年は何かを見定めるように暫く視線を這わせ──数秒後、眼差しが外されると、首を固定していた指先も離される。

 突如ヒュウッ、と気管に空気が入り込み、思い切り噎せ込んだ。

 げほごほと咳き込み、背後の壁に寄りかかるとそのまま垂直にズルズルと座り込む。

 目の前がチカチカと眩む中、ふいに指先にぬるり、と何かの感触が走った。

「っ……え……?」

 一先ずは目前の危機的状況を脱した安堵があったからか──脳に酸素が回らない状態のまま、ぼんやりと手を見る。

 ──泥か何かかな……。

 はぁ、はぁと荒い己の呼気だけが響く闇の中──やっと暗がりに慣れてきた目で指を見れば、それは生暖かい液体のようだった。

 そして、同時に濃くなる鉄の臭い。

 はっ、としてすぐ脇に目を向けると、そこには白目を剥き、口端から小さな泡を吹き出した男の、顔があった──その鼻の両穴からは止めどなく血が流れ、顔全体を覆うような水溜まりを作っている。

 よくよく見れば、男の手は普通では“ありえない”方向に曲がり、ひしゃげていた。

「っ、あ、あ……」

 見えていないはずなのに──男の顔が恨めしげにこちらを見ているような錯覚に陥り、俺の体はその役割を思い出したかの如く再びガタガタと震え出す。

 と、ふいに青年が持ち上げた鉄パイプの頭がコンクリートの壁を叩いた瞬間、はっ、と目が覚めたように全身の感覚が一気に戻った。

 刹那、ひくり、と喉が鳴く。


 ──この人が、や っ た 。


 理解するとほぼ同時に、俺の喉は無意識のうちに叫びだしていた。

「うっ、わ、ぁ、あああ──ッ!!」

 人殺し人殺し人殺し!

 脳内で警鐘がけたたましく鳴り響く。

 恐怖と軽蔑と怒りの入り交じった眼差しで青年を見上げ──瞬間、彼の口の端が思い切り歪められたかと思うと、般若の形相でこちらを見下ろす。

 ──大人しくしていれば──

 数分前に言われた言葉が脳裏を過るも、俺は叫び声を止めることが出来なかった。

 殺される! 殺される!

 青年の額に青筋が浮かび、鉄パイプが高々と持ち上げられる。

 この場の緊張感と狂気が一気に密集し──青年が獣のような唸り声を喉で鳴らした瞬間──それが爆発したように青年の腕が真っ直ぐに俺を目掛けて振り下ろされた。

 刹那。

「──夕也っ!」

 聞き慣れた声が、薄闇の中響き渡った。

 青年の瞳が大きく見開かれ、腕がピタリと止まる。

 俺の頭上を狙って下ろされた鉄パイプも、僅か数センチの間を残し、まるでその場に凍りついたかのように停止した。

 と、次の瞬間、鉄パイプを下ろした体勢のまま、硬直していた青年の側頭部に、黒い影が命中する。

「が、っ……!」

「へ……?」

 ガンッ、と鈍い音をたて、見事に青年の頭を捉えたそれは、どうやら拳程の大きさの石のようだった。

 ──なんで、石が?

 石が当たった衝撃のまま横に倒れ、痛みから低く呻き声を漏らす青年の傍らで、俺は一人目を白黒させる。

 と、突然脇から腕を引かれ、俺は無理やり立たされた。

「夕也、何してんだ、早く逃げるぞ!」

「こ、ういち……?」

 耳元で叱咤する声に、ゆるゆるとそちらを振り返る。

 そこには、長い間待ち焦がれていた幼なじみの顔があった。

 視界が悪いため、はっきりとは見えないが、どこか険しい顔つきをした光一は力一杯俺の腕を引っ張ると、裏路地を疾走していく。

 光一に引かれるまま、俺も震える足を叱咤し、必死に動かすとその後ろに付いていった。

 さっきの男が追ってくるかも、とバクバクと煩く心臓を鳴らしながら、一度だけ後ろを振り返ったが、背後から追いかけてくる気配はなく、そこにはただ、全てを飲み込むような闇が存在しているだけだった──。



「はぁ、はぁ……っ」

「ぜ……、はぁ……っ」

 狭い道を抜けると、人の密集した通りに出る。

 斜めに注ぐ日の光が、暗がりに慣れた眼球を刺激し、脳内をくらくらと揺らした。

 暫く人混みを掻き分け、見慣れた駅前の広場まで足を進めると、光一はそこで漸く腕を離した。

 膝に手をつき、二人揃って肩で息をする。

「はぁ、は……夕、也……怪我、ない、か……?」

「へ、いき……だけど、こ、いち……なんで、あそこに……?」

 息も絶え絶えに、光一と顔を見合わせながら訊ねる。

 思いもよらなかった人物の登場に、俺の脳内は既に状況を理解出来ずにパンク寸前だ。

 通り魔の被害者が光一でないことに安堵はしたが、だが待ち合わせ場所から遠く離れたあの場所に、どうして来れたというのだろうか──?

 目を丸くさせながら問えば、些か息が落ち着いてきたらしい光一が、静かに話し始めた。

「俺、今日寝坊、してさ……待ち合わせ場所に急いで向かってたら、途中で夕也が裏路地に入ってくのが見えて……なんか様子がおかしかったから、後を追った、ってわけ……」

「は、はは……」

 ──まさかお前が通り魔に遭ったんじゃないかと思って、慌てて走って向かっていたなんて……口が裂けても言えない。

 明後日の方向を見つめながら一人乾いた笑いを零す俺を、光一は真剣な声音で呼ぶ。

「夕也」

「ん?」

 光一へと顔を向ければ、ふいにじい、と腹の底まで見透かすような視線を注がれ、俺は居心地が悪そうに身を逸らした。

 しかし、次いで光一の口から放たれた思いもよらぬ質問に、俺は驚愕から双眸を見開いた。

「お前、あの男と知り合いか何かなのか?」

「……はぁ?」

「いや、絶っ対に夕也の知り合いとかじゃねぇとは思うんだけど……」

 歯切れ悪く話す光一は、そこで気まずそうに視線を泳がせる。

 一度唇を閉ざすと、光一は小さく息を吐き出し、続けた。

「夕也、間違いない」

「え?」

「さっきの奴が、例の通り魔だ」

 通り魔。

 光一の唇から落とされた単語に、俺の心臓は一つドクリと嫌な音をたてる。

 忘れていたはずの震えが、再び体を襲ってきた。

 自分で自分の体を抱くように腕を擦る。

「さっきの、男が……?」

「通り魔事件のあった現場の近くに居たし……目撃者の証言による犯人像に似てるから、間違いないと思うぜ」

 言われれば、確かにそうかもしれないと感じた。

 あの、全身を刺すようなプレッシャー──

 今まで感じたことのない、危機感。腸を掴まれたように、身動きを制御するほどの殺気。

 ──本当に、純粋に、恐かった。

 生まれてからこれまで、命の危機を感じるようなことなどなかったが──今日ほど、死の息遣いを身近に感じたことはない。

(あいつが、通り魔……)

 すとん、と心の中にあった正体不明の恐怖に、それが当てはまると俺の背筋をすう、と冷たいものが走った。

 先刻まで犯罪者と、対峙していたのだ、自分は──。

 理解するや否や、俺は情けなくその場にへなへなと座り込む。

「ゆ、夕也!?」

「こ、光一……」

「うん?」

「光一、おれ、俺、こわかっ……!」

 続きは、上手く言葉にはならなかった。

 突然泣き出し、しゃくりあげながらただ光一の名を呼ぶ俺に、傍に居た幼なじみはぎょっと目を剥き、慌ててフォローを入れる。

「な、泣くなよ、夕也。もう大丈夫だからさ! 上手く逃げられたし、大丈夫だって!」

「っ、うぇ、ぐ……」

 光一が来てくれなかったら、本当にどうなっていたか──

 そう考えるだけで、足下が冷たくなっていくようだ。

 往来の中心だというのに、みっともなく泣きわめく俺を、光一は何度も何度も大丈夫大丈夫と囁きながら宥めてくれていた──。



 じんじんと痛みを放つ頭を押さえ、覚束ない足のまま壁を背にして立つ。

 切れ長の双眸は更に鋭利さを増し、きつく噛み締められた奥歯の合間からはただ短い呼気が漏れていた。

 青年は、苛立たしげに一つ舌打ちを落とし──

 しかし、次の瞬間には耳元まで裂けたような三日月を唇に描くと、腹の底から笑った。

「あははっ、アハハハハハハハ──ッ!」

 ──見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけた!

 頭上を仰ぎ、まるで天に感謝するかのような歓喜の籠った熱を全身から発し、青年は笑う。

 しかし、それはただ笑みに近い表情であり、明らかに青年の内にある“何か”の感情は、決して常人の持つそれでないことは確かであった。

 この場に意識のあり、通常の神経と常識を持った他者が居たならば、間違いなく彼の持つ狂気を直に肌に感じ取れただろう。そして己の危機的本能に従い、素早く踵を返し一目散に逃げていったに違いない。

 それほどまでに、青年の纏う空気は異常であり──危険だった。

「ハハハッハハハハハ──ハハはは、は……」

 壊れた玩具のような笑い声は次第に収まり、青年は静かに口を閉ざす。

 口元に弧を型どったまま、瞳を細めると青年は恍惚とした表情をその整った顔に浮かべた。

 まるでそれは、久しく会えなかった恋人との逢瀬の時のような──獲物を見つけた、空腹の捕食者のような──笑みにも見えた。

 彼の場合、この相反する感情のうち──果たしてどちらを表に見せたのか──あるいは、どちらでもないのか。それを問う者は此処には居なかった。

「やっと、みつけた」

 暗闇の中浮かぶ赤い目が、一層強い光を放ったように見えた──

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