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あいつら、しつこいすぎ。
よじ登った木の上で、私はつかの間の休息を得ていた。
早く体力回復しなきゃ。
さっきから、あの男達に見付かっては逃げるを繰り返していた。
運がいい事に、私は中高と陸上部所属。
その上、自慢じゃないが大会では上位に入るぐらい早い。
……あ~、お風呂入りたいよ。
襟元をパタパタと手で動かし、服の中に風を送り込むがさっぱり涼しくならない。もう背中は汗でぐっしょりで肌くっついてしまっている。
大体、金持ちなんだからルビーぐらい買えばいいのに。
うちと違うんだからさ。
彼らの本命は、このルビーで私はおまけ。
そもそもなんで私がこんな目に逢わなきゃならないのよーっ!!
織もただ見てないで、止めなさいっうの。
いつものように、にこにこしてさ。
私があの中の誰かと結婚しても良いって言うの!?
「……良いんだろうなぁ」
誰でもなく、自分が呟く。
だって、私の事好きなら血眼で探してくれるはずだもん。
他のやつらには何度と見付かったけど、織には一度も見付かってない。
それどころか、声すらも聞かない。
私の事探してくれているなら、他のやつらみたいに私を呼ぶ声とか聞こえて来るはずなのに。
それなのに、織の姿は見当たらない。
棄権して、どっか行ったのかな――
ずっと織に一番近い女の子はずっと自分だって思ってた。
でも、それは幼馴染としてなんだと思う。
織の周りに集まる女の子達可愛いもんな~。
しかも織、モテるし。
「約束したのに。私だけ覚えてるなんて馬鹿みたいじゃん……」
それは幼稚園の頃、織と交わした約束。
あの頃ちょうど親戚の結婚式に呼ばれた後で、自分も花嫁さんになりたかった私は、織にワガママを言った。
その辺に生えている花で作ったブーケもどきに、シロツメグサで作った冠。
織はせっせと子供ながらに考えて準備をしてくれた。
でも私は、色鮮やかなブーケとあのキラキラしたティアラじゃないと嫌だと泣き叫んだ。
『ごめんね、椿ちゃん。大人になったら、僕が全部叶えてあげるから』
泣き叫ぶ私を、あいつはそう言って慰めた。
『絶対?』
『うん。だから、椿ちゃん僕のお嫁さんになって』
『うん。私、織のお嫁さんになる。じゃあ、約束のキスしよう!!』
『うん』
なぜ、あの時指切りげんまんじゃなかったのだろうか?
高校生になった私は、さすがにツッコミたい気分だ。
きっと、ませてたんだろうな、私。