第5話 パーティー任務
新たな街に向かうため、四人は移動を始めた。
ローグが大柄なことをいいことに、ガルムとリュミエルは彼にひっついている。ガルムとしては本当はリアに抱きつきたかったのだが、リュミエルから放たれる「コロス」という意思を感じ取り、あっさり諦めた。
一方のリアは手持ちぶさたなのか、自分の剣をやたらと触っている。
四人に共通しているのは、「暇だ」という思いだった。
「ねぇ、暇なんだけど?」
ぽつりと、ガルムが呟く。
「大丈夫よ。この大男がなんとかしてくれるわ」
リュミエルが丸投げの一言を放ち、ローグが目を見開いた。
「ちょっ! お前、何を――痛い痛い!」
文句を言おうとしたその瞬間、リュミエルが急に腕を掴んだため、ローグは悲鳴を上げる。
「みなさん、馬車に乗ればすぐですよ。……と言っても、馬車乗り場が街のはずれにあるんですけどねぇ。景観を守ろうなんて、ふざけた条例のせいで」
三人が騒がしいので、リアとしては一刻も早く馬車に乗り、次の街へ向かいたかった。だが、今言った通り、この街では景観保全の条例によって、馬車乗り場だけが徒歩三十分の場所に追いやられているのだ。
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ようやく馬車乗り場に到着した。
だが今、このパーティーは決裂の危機に瀕していた。
ことの発端は、ガルムの能天気な発言と、それに乗っかったローグ。そして、それに対してリュミエルがブチギレたことである。泣きながら怒るリュミエルをリアが必死になだめたものの、空気は依然として最悪だった。
「フン……ガルムなんて知らないもん。そこの大男も」
リュミエルがぐずりながら悪態をつく。
「べ、別に……傷つけるつもりじゃなかったのに……。ただ、“僕とリアだけだったら、こんなふうに退屈じゃなかったのに”って言っただけで――ふぎゃっ」
リュミエルのグーパンチが炸裂し、ガルムは宙を舞った。
「俺まで巻き込まれるのはなんでだよ! 俺はそもそもパーティー組むのに反対だって――早く解放させてほし――ごふっ」
ローグも続けて吹き飛ばされる。
「みんなで頑張ろうって言ったじゃない!私はガルム、あんたの許嫁なのよ!?それに、そこの大男もそう! ダンジョン攻略した後、みんなでこれから頑張ろうって言
ったでしょ!」
リュミエルの怒りは、完全に爆発していた。
リアはオロオロしながらも、一歩前に出る。
「み、みなさん……今は仲良くしましょう!せっかくパーティーを作ったんです。ガルムも、ローグさんも!」
決して迫力のある喝ではなかったが、ガルムとローグは素直に頭を下げ、リュミエルに謝罪した。
ひとまず危機は脱した。
――が、まだ腹の虫が収まらないリュミエルによって、二人はその後もしばらく吹っ飛ばされ続けることになる。
リアは思った。とにかく、これからはもっと上手くやらなければ。そう、静かに決意するのだった。
なんとか決裂の危機を脱した一行は、ようやく馬車乗り場に到着し、一番安い馬車に乗り込んだ。
ガタゴトと路面の振動が伝わってくる。
リュミエルとガルムは並んで眠っていた。
リュミエルがぎゅっとガルムの手を握りしめているのが、リアの目に留まる。
今回はローグが御者役を務めていた。冒険者ではあるが、彼はなかなか多彩な人物だ。慣れた手つきで馬を操っている。
「リアさん、その子たちは寝ましたか?」
「静かにしてあげてください。リュミエルちゃんが、ようやくガルムと二人きりになれて落ち着いてるんです」
「……はい」
ローグは素直に前を向いた。
ただ聞いただけなのに、なぜか怒られたような気分になり、少し落ち込んでしまう。もっとも、そんなローグの心情を知る者はいないが。
馬車での旅は、あっという間だった。
なぜなら――途中で衛兵に止められてしまったからだ。
「すまんが、止まってくれ。この先は魔物が現れたせいで通行止めになっているんだ。……野生のワイバーンが出てな。臨時の討伐依頼は出ているんだが、討てる冒険者パーティーが見つからなくて……」
ローグに話しかける衛兵は、困り果てた様子だった。
「余計なお世話かもしれんが、夫婦旅行なら引き返すことを勧めるよ」
「「はぁ!?」」
ローグとリアは同時に声を上げ、顔を真っ赤にして慌てた。
その騒ぎで、リュミエルとガルムも目を覚ましていた。
四人の様子を見て、衛兵は自分の勘違いに気づき、慌てて頭を下げる。
「こ、これは失礼しました! 冒険者の方々でしたか。……つかぬことを伺いますが、ワイバーン討伐をお願いできませんか?」
久しぶりの“特別扱い”に、ガルムは目を輝かせた。
「いいよ!」
即答だった。
それに続いて、リュミエルも言う。
「ガルムがやるなら、あたしもやる!」
ほぼ保護者役のリアとローグは注意しようとしたが、衛兵の必死な頼みと、二人の実力を思
い出し、最終的に了承する。
討伐は、一瞬で終わった。
縄張りに侵入した敵をワイバーンは攻撃したが、ガルムの防御とリュミエルの速攻によって、あっけなく消滅した。
「……やっぱり、すごいな」
ローグは素直に感心する。
「怪我がなくて、本当によかった……」
リアは彼とは対照的に、安堵のため息をついていた。
衛兵からは何度も感謝され、謝礼もたっぷりと受け取った。こうして、パーティーとしての初依頼は、思わぬ形ながら無事に解決した。
ローグとリアはほとんど何もしていないが、同じパーティーということでランクも上がった。
リアはCランクに、ローグはBランクへと昇格する。
「僕のおかげだね」
「違うわよ、あたしのおかげ!」
リュミエルとガルムは小さな言い争いを始めたが、リアとローグに褒められると、すぐに機嫌を直した。
再び、旅を再開する。
とりあえず、新たな街――ドリエステへ向かうことになった。そこで何が起こるのか、四人はそれぞれ、胸の奥で少しだけ期待していた。




