第4話 ダンジョン
ついに念願のダンジョンへ足を踏み入れたガルム。
しかし――序盤の階層は、あまりにも手応えがなさすぎた。
「……なんか、つまんない」
「つまらないとは何ですか!?つまらないとは!!」
リアは思わず声を荒げた。
「私はこれ以上強い敵が出てきたら、死んでしまいますぅ!」
実際、リアは序盤の階層ですでにいっぱいいっぱいだった。ギルドからも「挑戦は四階層まで」と言われている。
だが、ガルムは――正直、走破したかった。
「……あ、いいこと思いついた」
「?」
「リア、ちょっとそこで立ち止まってて」
そう言って、ガルムは彼女に手を伸ばす。
「が、ガルム? 何をしているんです?」
「えっとね。どんな攻撃でも弾く結界、張ったの!」
「……結界?結界!?そんなの信用できませんし、ずるじゃないですか!」
「リア、真面目すぎだよぉ。僕お手製の結界は絶対壊れないし、僕が見てきた強い人間たちも、だいたいこういうの使ってたよ?」
「で、でも……」
食い下がるリアに、ガルムはだんだん面倒になり――
「じゃ、先行くね」
と、さっさと歩き出してしまった。
結局。リアはガルムの結界を受け入れることになった。
最初はおっかなびっくりだったが、攻撃を受けてもまったく無傷なのを確認すると、少しずつ慣れていく。
やがて、自分から魔物へ攻撃を仕掛けるようになり――気づけば、あっという間に四階層へ到達していた。
「ねぇ、ちなみにこのダンジョンって何階層まであるの?」
「えぇと……十階層までです」
「ボスは?」
「知りません」
「どんな魔物がいる?」
「知りません」
「……何にもわかんないの?」
「はい」
ガルムは呆れたが、リアが有無を言わせぬ目で睨んできたため、素直に黙った。
「結界はある。無敵。しかも僕がいる。……最後の階層まで行っていい?」
「まぁ……ご褒美で連れてきてあげたんですから、いいですよ」
そう言ってから、リアは真剣な顔になる。
「でも、これだけは守ってください。まずは――」
また始まった、リアの長い注意。要点をまとめると、
・他の冒険者の獲物を奪わない・ダンジョンで暴れすぎない
この二点だった。
五階層に入ると、冒険者の数はぐっと減った。
ゴブリン、オーク、その他諸々。ガルムにとっては、どれも取るに足らない相手だ。
ボスも、ヒュージスライムやオークジェネラル程度。
――だが。
リアは完全に疲れ切っていた。特にゴブリンやオークが現れたときの怯えようは、見ていられないほどだ。
セーフティーゾーンに辿り着いた瞬間、リアはその場に座り込み、大きく息を吐いた。
「……はぁ……」
「おいおい、お前ら。……また会ったな」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには巨人族の冒険者がいた。
「……あっ、でも嬢ちゃんとは初対面か。って、なんでお前まで首傾げてるんだよ! 俺だよ俺! ローグ!」
「……リア、この変質者どうする?」
「お任せします」
「そりゃないだろ!?」
ローグは肩をすくめ、こそこそと声を潜めた。
「噂を聞いてほしいだけだって……このダンジョンに、お前以外にもドラゴニュートがいるらしいんだ。しかも女で――」
次の瞬間。
「ぐふっ!」
突然、ローグが倒れた。
「やっと、見つけた。ずっと探してたのに……」
現れたのは、ガルムと同じくらいの背丈の少女。
「ぎゃぁぁぁぁ! 出たぁ! 化け物ぉ!」
「誰が化け物よ!あんたが勝手にいなくなるのが悪いんでしょ!」
ドラゴニュートの少女は、ガルムの頭に容赦なく手刀を落とした。
「痛っ!」
恐る恐る、リアが尋ねる。
「あの……うちのガルムが、何か……?」
少女はくるりと振り向き、胸を張って名乗った。
「あっ、名乗ってなかったわね。あたしはリュミエル」
そして、ふんと鼻を鳴らす。
「こいつの――幼馴染よ!」
なんやかんやで現在、七階層。
リアはすでに撃沈状態で、無言のまま後ろをついてくるだけ。ローグも正直、限界が近い。
一方、ガルムは別の意味で死にそうだった。
「ガルムぅ……あんた、大人になったら結婚してあげるって言ってくれたよねぇ?」
始まった。リュミエルの“あの時間”だ。
「あたし、ずっと待ってたんだよ?なのにいなくなって、知らない女の子に言い寄って、挙句の果てに人間の女……」
声は柔らかい。だが、圧がすごい。
「別に怒ってるわけじゃないの。でもねぇ……こんな可愛い幼馴染を放置するなんて、ひどい男だなぁって思っただけぇ……」
一拍。
「……マジ、ぶっ殺すぞ」
ひぇ。
見た目は可憐な美少女なのに、声が完全にそっち系だ。例えるなら、ヤ⚪︎ザ事務所に突入する大⚪︎府警。
「「ちょっと休ませて」」
ローグとリアの声が重なり、リュミエルは足を止めた。
「仕方ないわね。休んでて結構ですのよ」
「……なんで急にお嬢様言葉――ぐふっ!」
リュミエルのグーパンチが、ガルムにクリーンヒット。
「だまらっしゃい。ちょっとお話ししましょ?」
「助けてぇ、ご主人!」
ズルズルと引きずられていくガルム。
残されたローグとリア。
「……大変っすね、リアさんも」
「いえ、私もびっくりです。あの自由奔放なガルムを、あそこまで従わせる子が現れるなんて……」
少し考えてから、リアは続けた。
「これで、少しは大人しくなってくれるといいんですけど」
「……母親みたいっすね」
「なっ!? な、何言ってるんですか!」
照れ隠しに、リアがローグの背中を叩いた。
「ぐあっ!?リアさん、あんた馬鹿力じゃねえか!」
地面に倒れ込みながらローグは確信した。
――リア、馬鹿力。覚えた。
やがて、生気を失ったガルムを引きずりながら、リュミエルが戻ってきた。
「それじゃ、出発しましょう!」
結局、ローグとリアの出番はほぼなく、最終階層へ。
現れたボスは――ブラックサーペント。A級冒険者パーティー推奨の化け物だ。
「じゃあ、ここからは男手に頑張ってもらいましょう?」
「えぇ。頑張ってくださいね、ガルム。ローグさん」
いつの間にか完全に打ち解けている女子組。
「……なんで僕も含まれてるの?」
「無理だって!俺、B級冒険者なのにぃ!」
結果。
吹き飛ばされるローグ。明らかに八つ当たり気味にブラックサーペントを殴り倒すガルム。
――瞬殺だった。
宝箱からは、宝石、なんでも入るマジックバッグ、ブラックサーペントの皮と牙、そのほか諸々。
「やっと終わった……」
「もう……帰る……」
「お疲れ様です、ガルム」
「これからも一緒に旅しましょう。よろしくね」
そう話しながらダンジョンを出ると、衛兵が一斉に駆け寄ってきた。
「走破したのですか!?」「ついに現れたか!」「ドラゴニュート二人もいりゃ、そりゃいけるわな!」
質問攻めにされた後、デリックが現れた。
「いやぁ、皆さん。やってくれると思ってましたよ!ガルムさん、リアさん、……ローグさん、リュミエル……さん?」
嫌な予感は、だいたい当たる。
その後は長かった。ギルドに連行され、ダンジョンについて質問攻め。途中でガルムとリュミエルは寝落ちし、ローグとリアが対応する羽目になった。
ギルドを出て。
「これからは、みんなで旅しましょう!」
「いいわね。それ。あたしも大賛成。ガルムの監視もできるし」
「……どうせ、俺に拒否権はないんだろ」
「……頑張る」
こうして。四人パーティの旅が、正式に始まったのだった。




