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異世界冒険録  作者: Alpha
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第2話 従魔契約

ガルムとの運命的(?)な出会いから、早くも一時間が経っていた。



リアは泉で、砂まみれになった体を丁寧に洗い流している。一方そのすぐそばでは、ガルムがやけに張り切りながら、近づいてくる魔物を片っ端から追い払っていた。


「リア〜、お風呂終わったぁ? 早く二人でご飯食べようよぉ〜」


「ちょっと待ってください! 女の子は湯浴みに時間がかかるものなんです!」


「……あの子も、同じこと言ってたなぁ。まぁいいや。待ってるね。」


しばらくして、さっぱりした様子で泉から上がるリア。その姿を見たガルムは、じっと見つめてから呆れたように言った。


「リア……そんな無防備な格好してるから、人間の男どもに見られるんでしょ?」


突然の叱るような口調に首を傾げつつも、言われるがまま上着を羽織るリア。

それを確認すると、ガルムは満足そうにちょこんと座り、隣をぽんぽんと叩いた。

「はい、これ」


オアシスに群生している果実――ラムルをちぎって差し出される。(とある転生者の話によると、見た目はバナナで、味と食感はイチゴらしい)


二人は並んでラムルを食べながら、たわいもない話に花を咲かせた。やがて話題は、自然と従魔契約のことへ移る。


「ねぇ、リア。僕、人の従魔になるの初めてでさ。よく分からないんだ。教えて?」


キュルンとした瞳で上目遣いに見つめられ、リアは内心で悶絶する。


(なにこの子……可愛い。守りたい、この笑顔……!)

「え、えっと……契約はギルドで行います! 専用カウンターで、私のギルドカードにガル

ムのことを記入してもらえば終わりです!」


「それだけ? 血の契りとか、いらないの?」


「そういうのは必要ありません。一部の少数民族では今も行われているみたいですけど、医療的観点から――」


説明を続けるリアの声は、途中から返事がなくなった。気づけばガルムはすっかり眠りこけ、彼女の背中で規則正しい寝息を立てていた。


「むにゃ……ママぁ……」


「私はママじゃありません! あなたの主人のリアですっ!」


そうは言いつつも、文句を言えない自分にため息が出る。デルモの街へ向かう道中、リアは黙ってガルムを背負い続けた。



――デルモの街に着いた、その瞬間。


「うわあああああ!」「この世の終わりだぁ……!」「神よ、どうかお救いくだされ……!」


伝説級のドラゴニュートの姿に、街は一瞬で恐怖に包まれる。

だが、隣にいるリアを見た途端、空気が変わった。


「……リアだし」「……あの子なら、なんとかするだろ」「……うん、リアだもんな」


なぜか全幅の信頼を寄せられ、阿鼻叫喚は一瞬で収束する。日頃の行いって、すごい。



こうして辿り着いた冒険者ギルドでは、すでに噂が広まっており、職員総出でのお出迎えだった。


「お待ちしておりました! 従魔登録ですね!」

――嫌な予感がする。



その予感は的中し、三時間後。質問攻めにあった二人は、揃ってぐったりしていた。

宿へ向かう道中、ガルムが改めて胸を張る。

「僕はドラゴニュートのガルム! これからよろしくね!」

「こちらこそよろしく。私はリア。そう呼んでね」

こうして、E級冒険者と伝説級従魔の、少し不思議で騒がしい旅が本格的に始まったのだった。



さて、従魔契約を終えた二人は、宿へ向かってデルモという街を歩いていた。


街のあちこちから向けられる好奇の視線に、リアは居心地の悪さを覚え、思わず顔を伏せてしまう。

一方のガルムはというと、視線を向けられている理由を正しく理解したうえで、角や牙を誇らしげに見せびらかしていた。


つい先ほどまで、ギルドマスターに質問攻めにされてぐったりしていたとは思えないはしゃぎようだ。

どうやら、久しぶりの人間との交流に心が弾んでいるらしい。


「そんなところ行きません!」「勝手に店に入らないでください!」「もう、宿に行きますよ!」



小言を言い続けるリアの声は次第に弱まり、宿に着く頃には、すっかり力尽きていた。

宿に入ると、リアはまず湯浴みへ向かう。その間、ガルムはというと――呑気に宿の中を散策していた。


「人の部屋に無断で入ってはいけない」


そんな暗黙のルールを、ガルムが知るはずもなかった。次から次へと隣の部屋に入り込んでは、住人を驚かせて回っていた。

最初の数部屋では、ドラゴニュートが突然現れたことで、皆ただただ固まるばかりだった。


しかし、五つ目の部屋に入った瞬間――。

「うわっ!?」

首根っこを掴まれ、ガルムは勢いよく廊下へ放り出された。


「なにするの!」

ムッとしたガルムは、懲りずにもう一度部屋へ侵入を試みる。


「お前、人様の部屋に何度侵入する気なんだ?」

そこには見上げるほどに大きな、巨人族の男が立っていた。


「魔族だからって調子に乗ってるのか?

マナーも守れないのか?」

落ち着いた口調ながら、圧のある声音に、ガルムはさらに不機嫌になる。


「おじさん、なんなのさ。僕、ただ散歩してただけだもん。それより、名前教えろ!」


あまりに予想外の物言いに、男は一瞬言葉に詰まった。


「……なんだこいつ。まあいい。俺はローグ。巨人族の冒険者だ。お前はガルムだっけ? E級冒険者のリアって女と組んでる――」


「ふん」

話の途中で、ガルムは興味を失ったように部屋を出ていった。


「おい! 人が話してる途中だぞ!」

ローグはしばらく文句を言っていたが、やがて諦めたように肩をすくめた。

数時間後、酒場にて。ローグはドラゴニュートが伝説級の存在であり、ガルムがその中でも規格外の化け物だと知り、文字通り泡を吹くことになる。

(なお、巨人族は驚くほどの世間知らずが多いことで有名だが、ガルムの知るところではない)



一方、湯浴みを終えたリアは、ガルムがそんな騒動を起こしているとは露ほども思っていなかった。


「あれ? ガルム、どこか行ってたんですか?」


得意げに胸を張り、ガルムは答える。


「うん! いろんな人の部屋にお邪魔してきた!」


「絶対に不法侵入じゃないですか!!もう、ガルムのバカ!」


リアの心からの叫びが、宿の廊下に響き渡る。こうして、出会って初日の夜は、騒がしく更けていった。



――後日。ガルムが迷惑をかけた部屋の人々に頭を下げながら、申し訳なさそうに宿を歩くリアの姿があったという。



宿での一幕を終え、いよいよ二人はデルモの街を出ることになった。出立の直前、ギルドマスターから「次の街のギルドマスターには、すでに話を通してありますから」と、一方的に告げられたのは少し気がかりだったが、今さらどうにもならない。


二人は次の街へ向かうため、馬車に乗ることになった。


「あれがいい!」


ガルムが指さしたのは、何台も並ぶ馬車の中でも、座席がふわふわで窓に装飾まで施された、いかにも高そうな一台だった。


「あんなの乗れません!」

リアは即座に却下する。

「私たちは駆け出し冒険者なんですよ? 少しでもお金を残さないと!」


するとガルムは、まったく悪びれずに言った。

「でも、依頼をこなせば報酬が出るんでしょ?だったら、次の街でたくさん受ければいいじゃん。僕、強いからさ。高額な依頼だって余裕だよ?」


「もう……ガルムったら……」

リアは反論しかけたものの、言っても無駄だと悟り、言葉を切った。

「……いいですか。私たちはまだ“E級冒険者”なんです。だから今は、地道な生活をするしかないんですよ。たとえば――」

そこから始まる、いつもの長い説明。ガルムは最初こそ頷いていたが、やがて瞼が重くなり、そのまま夢の世界へ誘われていった。



――しばらくして。

ガルムが目を覚ますと、視界がやけに近い。気づけば、リアの膝の上に乗せられていた。

一見すると、ただ膝に抱かれているように見えるが、実際は違う。馬車の中でガルムが余計なことをしないよう、動きを封じられているだけだった。

力ずくで抜け出そうと思えば、すぐにできる。だが、リアが涙目で見つめてくるものだから、どうにも動けない。


「……わざわざ、窓のある馬車を選んであげたんです……」小さな声でリアは言う。「大人しく、外の景色でも見ててください」


ガルムは頬をぷくっと膨らませながらも、(さすがに、これ以上迷惑かけるのはダメだよね……)と自重することにした。


御者は、ちらりと二人を横目で見てから、何も言わず前を向く。

(ドラゴニュートとE級冒険者の組み合わせって、なんだよ……しかもあの冒険者、伝説級の存在を親戚のちびっ子みたいに扱ってるし)

やれやれ、と心の中でため息をつきつつ、仕事は仕事だと割り切るのだった。



さて、馬車に揺られて一時間も経つと、変わり映えしない景色にガルムは飽き始める。

「まだ〜? 早く次の街に着きたい〜!」


駄々をこねるガルムを、リアは困ったように見つめる。

「ガルム……もう少し我慢してください。あと一時間です」そう言って、優しく続けた。「ガルムなら、我慢できますよね?着いたら、ダンジョンでも何でも連れていってあげますから」


その瞬間、ガルムの目がきらりと輝く。


「ほんと!? ダンジョン行く!……がんばって……我慢……する!」


約束の効果は絶大だった。

その後は何事もなく、無事に隣の街へ到着する。


御者に料金を支払うリアを待つ間、ガルムはそわそわと落ち着かない。

支払いが終わった瞬間、「ダンジョンだ!」と走り出そうとした――が。

「ガルム?」

腕を掴まれ、ぴたりと止まる。

「先に、ギルドに挨拶ですよね?」

にこにこと微笑んでいるが、目がまったく笑っていない。その圧に、ガルムは思わず寒気を覚えたのだった。


素人なのでいろんな意見を聞かせてほしいです。

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