第1話 運命の出会い
初投稿です。拙い文章ですが暖かく見てくれると嬉しいです。
砂漠の真ん中に、一人の女性冒険者が立っていた。黒いアーマーに身を包み、赤く長い髪を高くポニーテールに結んでいる。名はリア。まだ駆け出しの身でありながら、この過酷な地に足を踏み入れてしまった冒険者だった。
リアは、早くも後悔していた。本来ならパーティーを組んだB級以上の冒険者が挑むべき討伐依頼を、駆け出しのE級冒険者が、たった一人で受けてしまったのだ。
最初はパーティーを組んでいた。けれど、仲間たちの心無い言葉や、じっと絡みつくような視線に耐えきれず、リアはその場を離れた。単独冒険者としてやり直そうと決めたものの、現実は甘くなかった。
薬草採取では魔物に追い回されて失敗。スライム討伐では、まさかのメタルスライムに剣を弾かれ、武器はぽっきり折れた。ゴブリン討伐に至っては――思い出したくもない。
ギルドに戻るたび、向けられるのは呆れと軽蔑の視線。何度、心が折れそうになったかわからない。
だからこそ、リアはこの街へ来た。自分を知る者が誰もいない、新しい場所で、もう一度やり直したかったのだ。
臆病な自分を変えたい。他の冒険者たちを、見返したい。
そんな思いだけで受けた依頼の結果が、これだった。
水は尽き、食料も底をついていた。砂漠の照り返しで汗は止まらず、視界が揺れる。
――帰りたい!
心の底から、そう叫んだ。
それでもせめて水だけは、と、リアはふらふらとオアシスに立ち寄った。
そして、そこで――見つけてしまったのだ。
討伐対象を。
オアシスの縁で、気持ちよさそうに昼寝をしている、小柄なドラゴニュート。見た目は子供のようで、思わず拍子抜けするほどだった。
胸が高鳴る。恐怖よりも、期待が勝ってしまった。
「今なら……!」
リアは剣を握りしめ、一気に駆け出した。油断しきっている今しかない。そう思い、渾身の一撃を振るう。
(――B級冒険者どころか、S級冒険者パーティーが四つ集まっても、倒せるかどうかわからない存在だとも知らずに)
「私のために……倒されてっ!」
こうして、駆け出し冒険者・リアと、
伝説級のドラゴニュート・ガルムの出会いは、最悪の形で幕を開けたのだった。
彼女の渾身の一撃は、自分でも驚くほど力を振り絞ったものだった。その証拠に、周囲は一瞬で粉塵に包まれる。
(やった……! これで、皆を見返せる)
そう思った、まさにその瞬間。
「ねぇ、お姉さんは何しに来たわけ?」
その声が、耳元で響いた。
次の瞬間、視界がぐるりとひっくり返る。
頭がくらくらする。強い眩しさに目を細めながら、誰かにのしかかられている感覚に気づき、恐る恐る見上げると
――
そこには、立派な金色の二本角。くりっとした淡い赤色の瞳に、中性的で子供らしい顔立ち。
ドラゴニュートだった。
「お姉さん、基本がなってないよ。それにさ、挨拶もなしに襲いかかるなんて、ひどくない?」
無邪気な口調とは裏腹に、肩を押さえる力がぐっと強まる。鋭い痛みが走り、リアは息を呑んだ。
「聞かれてないけど言わせて。僕、今や貴重な国宝級の存在なんだよ?ドラゴニュートのガルム! こんなに愛らしくて、か弱い僕をいじめるなんて、よほど酷い人だよね?」
「ちが……っ! うそ……」
反論しかけた言葉が、喉で凍りついた。
――思い出したのだ。村にいた頃、長老から何度も聞かされた昔話を。
ドラゴニュートは、かつて優しく穏やかな種族だった。しかし愚かな人間による乱獲で数を減らし、それが深い傷となって、警戒心の強い存在へと変わってしまった。生き残った彼らは、なりふり構わず人を襲う――そう言われていた。
だが、その中でも決して怒らせてはならない存在がいる、と。
S級冒険者パーティーが十も集まって、ようやく討ち倒したドラゴニュート・ゴルリア。その愛息子、ガルム。
――手を出してはならぬ。半端な冒険者など、瞬殺される。
その名を思い出した瞬間、リアの体は小刻みに震えた。
「ご……ごめんなさい……! お願い、助けて……!わたし……知らなくて……。ただ、これ以上、皆にあんな目で見られたくなかっただけで……」
生きたくて、必死に命乞いをした。
すると、不意に体が解放される。
「お姉さん、お名前は? なんだか……辛そうだね。僕でよければ、お話、聞いてあげるよ!」
その気まぐれが、命を繋いだのだろう。リアは、目の前の存在がどれほど恐ろしいかを一瞬忘れ、人生の大先輩に向かって、これまでのことを包み隠さず語った。
しばらく、ガルムは黙って話を聞いていたが――やがて、ぽつりと言った。
「……大変だったね。じゃあさ、僕がリアの従魔になってあげる!」
(……じゅう、ま……?)
「え……?」
(従魔? 従魔って、あの従魔!?伝説級のドラゴニュートが……こんな私の!?)
頭が追いつかないリアをよそに、ガルムはすでに決意した顔をしていた。どうやら、この展開を止める術はないらしい。
こうして半ば強引ではあったが、ガルムはリアの従魔となった。
「これからよろしくね、リア!」
屈託のない笑顔を向けられ、リアはぎこちなく、けれど確かに頷いたのだった。




