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深紅のレディメイド 1

高校二年生の僕は、まだ生きている。死ねるなら眠るように死にたい。でも、まだやるべき事は山積みだ。

なのに、気付くと僕の目の前には僕と同じ目をした大男が、死神のように立っていた。

……まただ。


…………全身が痛い。


……ところどころ、自分のとは思えない生ぬるい、赤黒い液体が張り付く。


…………雨粒がコンクリートに叩きつけられる音がする。


………その音に混じって、自分の荒い呼吸が聞こえる。


……頭が痛い。


…………体が重い。


……顔をあげる。


…………首も、痛めてる。


……焦点の合いづらい、死んだ目を開ける。


…………目の前で、胸から血を流す女性が倒れた。


……女性とは言うものの、彼女は確か高校生だ。


……………僕を、助けてくれた、大切な人。


…………なのに。


………僕は何も出来ずに、それを見ていて。


……視界が、深紅(まっか)に染まり。


…何もかもが赤になって。




何も、わからなく、なった、




























































































































































































………。

……………。

…。


重たい瞼を眼球の上で引き摺るように開けると、見覚えのある天井と、見覚えのあるLED照明が見える。

窓から差し込む朝日が、僕の視界にこれでもかと飛び込む。

まだ、三年前の夢を見る。

もう忘れていいことなんだろうけど、僕にはそう簡単に忘れることは出来ない。

夜に仕事をした次の日は必ず、三年前の平日の、この夢を見る。

今の高校生?若者?の言葉で言うなれば

夜の仕事、確定演出。

…最悪だ。


「………。」


寝起きってこんな変なテンションだっけ?

まぁいいや。

今日は……確か土曜日、学校は休み。

だから昨日は遅くまで続く仕事を受けたんだっけ。

まぁ、僕みたいなだらしない生活態度の高校生でも出席日数は足りてるはず。

だから、寝る。


「………?。」


いや。

寝ようとしても、一度違和感に気づいてしまうとなかなか寝付けない。二度寝をするためにもこの違和感の正体を突き詰めなければ。

仰向けに寝ている僕の腹部に重たい物が乗っている感触がする。

というより、僕の腹部で何か重たい物が寝転がってる。

そして、ほのかに香る霊音(れぜん)姉さん特有の甘いシャンプーの香りと、僕の視界の下辺りにそれらしき人物が掛け布団の上で僕の腹部に横になっているのが見える。


「……霊音姉さん、どいて。」

「・・・あ~!、起きたんだ~、おはよ~」


靈音姉さんは時折、こんな状態になって伸びている事がある。人が寝てる布団の上で人が寝てるっていう、謎。

人。

布団。

人。

人間サンド。

僕が縦向きに寝てたら横向きになってるとか、いろんなパターンがあるけど、今回は僕が縦、そして音姉さんが横。

何故。

謎。

シリアスな空気に茶々入れないで?。


「朝食できてるよ~」


そんな事も気にかけてない様子で、相変わらず寝ころんだまま間延びした声の、伸びきってしまったしゃべり方をする。

でも多分、霊音姉さんがシャキシャキ喋ったら多分、天変地異が起こる。


「わかったから、離れて。」

「つれないな~…」


霊音姉さんはそんなことを言いつつ渋々ベッドから降りる。

そのままカーペットの上にペタリと座り込む。

照明をつけたり、カーテンを開けたりせず、光源が少ない僕の部屋の中でも霊音姉さんの喋り方や匂いは強烈な存在感を放つ。

目が慣れてきたのか、それとも最初から暗順応は済んでいたのか、瞼が仕事をせずにしっかりと開けきれていなかったのか、ゆっくりと、視覚から得られる情報にピントが合う。

霊音姉さん。

僕の2つ上の大学生の姉。

肩甲骨のアタリまで伸ばされたウルフカットのようなオシャレ(?)な外ハネのある黒髪に、大人びた体つきと、常日頃から変わらずにこにこと微笑んでいる優しげな表情の整った顔立ちが特徴の、霊音と書いて「れぜん」と読む、完全な不思議なわけわからない当て字の人。

というか、当て字にもなっていない。

「ぜ」はどこから出てきた、「ぜ」は。

まぁいいや。

今日は大学に行くらしく、白い女性用のワイシャツの上から茶色いカーディガンに下はスキニージーンズと、普段のだらしない家着とは大違いの格好。

…そんな格好で寝転んでたら皺付かない?


「……で、なんだっけ?。」

「朝ごはん出来たからさ〜、呼びに来たんだよ~」


無邪気な、悪意の全く感じられない笑顔をこちらに向ける。

人の上に乗るのってそれなりに罪悪感を感じそうな行為だけど、彼女にとってはそうとも限らないらしい。

朝ごはん。

……それ布団に寝転がる意味ないよね。

何がしたいのかわからない。

まあいいや。

起きます。

二度寝は諦めます。

霊音姉さんは早く起きるんだよと言い残し、僕のベットから降りると愛用のふわふわとした暖かそうなスリッパを履いて先にパタパタと部屋を出ていった。

僕もせっかく作ってもらった美味しい朝食が冷めないうちに、僕も部屋を出よう。

ベッドから上半身だけをムクリと起こして部屋を見渡す。

布団がめくれた部位に、冬のよく冷えた空気が容赦なくその温度を突き刺す。

この感覚は、18年生きていても嫌悪感が拭えないらしい。


「…寒い。」


代り映えしない普通の部屋。

7畳程のコンクリート打ちっぱなしにフローリングの現代的な、高校生1人にしては少し広い部屋。大きなスチールラックの上半分には服が折り畳まれて置かれていて、下半分は仕事に必要なものが。木製の机にスタンドライト、プライベート用PCと学校用のタブレットが充電器に差し込まれている。本棚にはいくつかの小説や漫画。白い壁に、地味だが目立たずに役割を全うしている、グレーのカーテン。

広いと思うのは僕の部屋にある荷物や物が少ないからかもしれない。霊音姉さんの部屋とか物だらけだからか、同じ広さの部屋でも狭く感じる時がある。

カーテンの隙間からは朝日が差し込み、その光は家具や物の少ない簡素な部屋に舞っているホコリの粒子を、雪のようにみせかけている。

そんな、普通の部屋。

普通の、男子高校生の部屋。

そうだと思いたい。


「……どちらにせよ、部屋の内装は自己満足の領域だからね。」


どうでもいいや。


ベットから降り、寝ている内に固まってしまった体を、ゆっくりと柔軟に動かしほぐす。


「………。」


ある程度ほぐすとベットから抜け出した時の温もりは薄れ、その代わり、部屋着の隙間から差し込んでくる冬の空気が、自分の肌に触れ、体温を奪おうとする。

それを感じつつも、若干の諦めの気持ちを持ちながら、僕はもう一度ベッドを見る。

週末の惰眠を渇望している訳では無い。


「…………。」


決して、週末の惰眠を渇望している訳では無い。


「…………。」


マットレスにシーツ、冬用の分厚い毛布というだけの簡素だが十分に寝床として機能するベッド、ベッドのフレームに機能の1つとしてついているヘッドボード。

その上にはこの部屋のLED照明やエアコンのリモコン。目覚まし時計やコンセントから伸びた充電コードの刺された2台のスマホなど、あまりにも生活感のある中に、あまりにも自然と置いてある不自然な存在感を放つ、顔。

顔。

狐の、顔。

独特な白地に赤と青と黒でデザインされた、狐のお面。


「…。」


狐面の隣に置いてある目覚まし時計を見る。

午前8時過ぎ。

昨日何時寝たっけ?


「んー…いいや。」


伸びをしながら呟き、狐面に黒い手袋を付けた手を伸ばす。そのまま狐面とスマホ1台だけを持って一階の洗面所を目指す。

木造2階建て、その2階の、いくつかある内の一部屋が僕の部屋として割り振られてる、一般的な住宅よりも少し広く作られてるのは田舎の利点。

近所のおじいちゃんも言ってたけど、こんな辺鄙な郊外には使おうにも市街地や重要な建造物までは遠く不便で使い道も落とし所もなにもない田舎には、物価高のこのご時世でも腐るほど土地が余っているらしい。

この家系のご先祖さま、というより開祖様もとい改組様(?)はそれを見越してこの場所に、普通の1世帯住宅に広すぎて、2世帯住宅にも少し広くて、3世帯住宅にはすこし狭い、妙な塩梅の家屋を立てたらしい。

この家系の僕の世代は、少し人数が多めだから丁度いいくらいかもしれないけど。


「……。」


廊下に出ると、より一層、冷たい空気が容赦なく、肌の露出した首周りや手首、足首より下、そういった場所をより的確に感じさせ、冬に対する嫌悪感をより一層際立たせる。

足裏が氷でも踏んでるかのような感覚にさせる廊下を歩き、階段を降りて洗面所に行き、冷たい水を出す。手袋を付けたままの手で作った小さな器に溜まる水の冷たさに躊躇しかけるが、そのまま顔へ。それを数回繰り返す内に眠気が収まり思考がクリアになってきた。そして蛇口を捻って水を止め、そのまま正面の鏡を見る。

赤い目の、死んだような表情の人間もどきは、今日も元気そうだ。

鼻先に垂れた冷水がくしゃみを誘発する前にタオルで拭き取ってしまう。顔に着いていた水がタオルに拭き取られると、水に盗られた自分の体温がじんわりと内側から補充されるような感覚がする。何度起きても、何度顔を洗っても何度顔を拭いてもこの感覚は嫌いだ、自分が生きてるってことを朝から自覚させられるから。

死ぬ時は眠るように死にたい。

死ねるなら、ね。


「…あぁ、(いや)(いや)だ。(いや)な人間だね。」


狐面を後頭部に下げ、脱衣所を出る。脱衣所前の廊下には微かに漂う朝食の匂いが鼻をくすぐり、食欲をそそる。その感覚も、僕は今日も生きている、と、実感させる。

また氷のような廊下を歩きダイニングに近づくにつれ、テレビから流れているのが毎朝流れている地方のニュースだと気づく。恐らくつけたのは母さんだ、そして付けたまま仕事に行ったらしい。

眠気が覚めたとはいえ、体内の酸素が足りないのかひっきりなしに欠伸が出る。

欠伸をしながらダイニングの扉を開けると、暖かく、朝食の匂いが混じった空気が僕を包む。生活感の溢れるダイニングの真ん中には、今日の日付の新聞とその横に調味料と僕の分の朝食が置かれた、大人数が囲める食卓に見覚えのある学生服を来た男女が並んで腰掛け、僕の朝食と同じメニューの食事をしている。特に食卓に座っている男の中学校の制服は僕も中学時代に着ていたからか、どこか懐かしさと切なさ、それにほんの少しの嫌悪感……と言うよりは嫌な思い出のせいで連鎖的に不快感を覚える。


「あ、おはよう、兄さん」


先に僕に気づいたのは弟の暦夜、暦の夜と書いて、れきやと読む。いやそれなら「暦」じゃなくて「歴」じゃないの?と思っていたがそれを母さんに聞いてみると、名前の中に「止」まるという漢字があるのはなんか嫌だったとのこと。

それなら僕の名前はどうなんだい。

思いっきり裂かれてるよ。

高校二年生の僕と違い、中学三年生の暦夜は朝から優しげな声色で挨拶をし、僕に向けていた常日頃から優しそうに見える糸目をテーブルに広げた新聞に戻し、食事を再開する。

学校の規定に従ったものの、母親の遺伝のせいか少し茶色味かかった髪と、学校ではさぞかし人気が出るであろう、テレビで見る俳優のような嫌味のない、爽やかな美顔には集中の2文字が書かれていた。が、姉が作ったであろう朝食が美味しいのか、綺麗な形をした鼻の下にある口は、楽しげに朝食を咀嚼していた。


「あっ…」


暦夜につられ、日本の朝の挨拶をしながら結音が僕に顔を向ける。結音。結ぶ音と書いて、れきん(「れ」と「き」はどこから出てきた、「れ」「き」は。)と読む。中学二年生の、僕含め6人兄弟の末っ子。

学校の規定に従った、癖のない艶やかな黒のポニーテールが反動でブンブンと動き、眉毛の上で切りそろえられた前髪の下に並んだ伏し目がちな切れ長の目が一瞬だけこっちを見る。

日本人らしい小さくも、母に似たしっかりとした鼻筋、その下の薄い桜色をした小さな唇が小さく動く。


「…おはようございます」


少し小さく、自信の無いような声色で話す。

しかしそれでもどこか凛としていて、今の制服姿とよく合っている。

だらしなく家着のまま、欠伸をしながら起きてきた僕とは対照的だ。

週末にも関わらず朝早くから起き、学校の制服という、身分証とも言えるユニフォームを身にまとい、今から学校に向かうと思われる中学生2人組がした日本の朝の挨拶にどこか眩しさを感じながらも、僕も日本の朝の挨拶を返す。


「ん、おはよう。」


後ろ手にドアを閉めると今度こそ全身が完全にダイニングの暖かな空気に包まれる。

もう寒い場所には行きたくない。そう思わせるほどにダイニングの温かみは強かった。

寒いのは苦手だ。

床暖房のおかげか、スリッパを履かずに素足のままで歩いても、指先と足裏が冷たいを超えて痛くなる寒さとは無縁だ。

そんなこと考えながらテーブルに置いある朝食の前に、2人とテーブルを挟むような位置に座る。

朝食に向かって頂きますとつぶやき、霊音姉さんか露音姉さん(露音姉さん、大学生、「露音」と書いて「れかん」と読む、赤毛、言葉と手が同時に出る怖い人。)が作ったであろう朝食を食べる。


「2人ともこんな朝早くからご苦労だね、部活かい?。」

「いや、俺は生徒会。冬休みに向けて生徒会役員で話し合わないといけないこととかあるけん、休みでも行かないとなんだ」

「体育祭かぁ、大変だね。結音も?。」

「…いえ、私は部活です」

「そっか。」


感心感心。

僕は部活も委員会も何もしてないから、2人のように休日でも出席したり登校したりすることは無い、けど、仕事があるから2人とあまり変わらないかもなぁ。

あ、そういえば補習で休日返上で登校したことは何度かある…。

まぁいいや。

味噌汁を啜る。


「………のニュースです。今朝の4時頃、またも同一人物による犯行と思われる事件が発生しました。場所は白ノ瀬市〇丁目付近のビル地下駐車場で、今月だけでも同一犯による犯行と思われる事件は既に10を超えています。現場からの中継です、現場の……」


テレビから聞き慣れた女性アナウンサーの真剣な声が流れる。

……なってこったい。

平和に鯵の塩焼きを食べてる時になんてニュースが流れてるんだよ、朝くらいゆっくりさせてください…。

それでも好奇心によるものか、自然と視線はテレビに向いてしまう。


「………が事件が起こった地下駐車場です。被害者はこのビルの会社員で、事件当時は帰宅する直前でこの駐車場に停めた自家用車に乗ろうとした所、犯人によって殺害されてしまったそうです。犯人は被害者を大きな刃物で大きく切り裂き即死。警察の調べによると、近頃起こっている無差別連続殺人犯によるものと見て間違いないとの事です。」


今度は男性リポーターが真剣そうに、少し落ち着かない様子でカメラに向かって語りかけていた。

同じくニュースを見ていたのか、結音が怪訝な顔をしている。


「……嫌な事件ですね、ここのとこ、ただの殺人よりも凶悪な事件が増えてる気がします…」


結音の言う通りだ、最近は通り魔や強盗なんてのは日常茶飯事だとしても、こんなに文字通りざっくばらんな殺人を犯す人が隣町にいるとなると、なかなか穏やかには過ごせそうにない。


「……わ。」


ふと視線を前に戻すと、暦夜が読んでいた新聞の背面にも同一犯の事件が載っている。

確かに世間を騒がせてる事件だから、そりゃ載るよね……。


「……。………ん?。」


遠目に新聞の記事を読んでみると小見出しに「犯人の同期は怨恨か? 被害者の意外な共通点」と書かれている。どうやら犯人は無差別に殺害してる訳じゃなく何か共通点があるらしい……。


「……んー、調べてみるか。」

「裂兄、好奇心は猫も殺すけん?、裂兄の場合猫じゃなくて狐かもだけどさ」

「でも、これに関する仕事が来るかもしれないし、直接的な関係は無くとも仕事に支障をきたす存在かもしれないからね。最悪にならないよう用心するに越したことはないかもね。」

「まぁ確かにそうかも、裂兄の場合は荒事が多いけんなー、うかうかしてられないけど深入りは禁物……いや、裂兄の場合そんな事ないか」

「そんなに興味は無いよ。ただ、邪魔されると厄介っていうだけだよ。」


暦夜に釘を刺されながらも味噌汁を飲み干し、ご馳走様とだけ言い残して席を立つ。シンクに食器を起き水に漬けるとそのまま部屋に戻る。

洗い物は引きこもりの三男に任せた。

廊下に出るとまた冬の冷気が足元から脳天までを舐める。

寒いのは苦手だ。

それでも廊下を歩くと、足裏に痛い程冷たく硬い感触が帰ってくる。もうこれ以上冷えなくてもいいだろうに……。

靴下やスリッパを履いたりして対策するのも悪くないかもしれない。

……そう思うと霊音姉さんのスリッパは案外いいのかも。


「………寒い。」


自分の部屋を開ける。ダイニングと違い暖房をつけてないせいで冷えきった空気が流れる。

寒いのは苦手だ。

ベッドに座り、例の惨殺事件について調べようとしても、カーペットの上とはいえ、今までフローリングを歩いていた足裏は冷たく、思わずベッドに上り、壁に背を付けるようにして座る。それでも寒く、布団をひざ掛けのように足に乗せる。

やっと落ち着いた。

……いや、コンクリの壁もなかなかに冷たいな。

もういいや。

スマホでニュースサイトを開くと案の定、惨殺事件について何件か上がっていた。

今どき殺人事件なんて珍しいものでは無いが、ここまでニュースになるとは、なかなか凄惨なものらしい。

いくつかある記事に目を通してみる。


「………ふーん。」


記事を要約すると


・事件が起きた時間は大体が深夜帯。

・犯人像は正確なのが浮かばず、分かっているのは長身の男ということだけ。

・犯行の瞬間はカメラの死角で、凶器等の情報はない。

・しかし、傷口から考えるに大きな刃物で引き裂くように1度だけ切られている。それが致命傷となり即死、もしくは多量出血により死亡。

・被害者の所持金は持ち去られているため、指紋は採取されたが被害者の関係者全員と一致せず、捜査した結果、金銭目的の殺人ではなさそうだということ。


そして気になっていた共通点というのは


・被害者は全員、元危険指定団体「[[rb:八垣 > はちがき]]」の関係者。


「…………。」


計画者絡み、か。面倒臭い事になりそうだね……。


「面白い事になってるね〜」

「うわ。」


気づくと横に霊音姉さんが座って僕のスマホの画面を見ていた。

思わず反対方向に仰け反ってしまう。それなりの勢いで仰け反ったからか、後頭部に下げていた狐面が壁に擦れる音が、僕の頭の真後ろから聞こえる。


「いつの間に……。」

「いや〜、リビングに行くと暦くんと結ちゃんが〜」


息継ぎ。


「れつくんが何か考えながら〜、部屋に戻ったっていうからさ〜?、気になっちゃって〜」

「だとしたら普通に入ってきてよ。そしていきなり人の隣に座らないでよ、怖いから。」


露音姉さんとは違う怖さがあるから、と付け加えると霊音姉さんは腕を組みながら胸を張り、笑った。


「フッフッフ〜、私は静かに動くの得意だからね〜」

「はいはい。」


そこでドヤられても。こんなことに特技を使わなくても、もう少しマシな使い所があるだろうにね……。


「そういえば今日の朝ごはんね〜、露音ちゃんが作ったんだよ〜、露音ちゃんどんどん上手くなるね〜」

「あぁ、そうなんだ。普段の霊音姉さんが作る味噌汁より少し濃かったから、最後に煮詰め過ぎたのかと思ってた。」

「おぉ〜、よく気がついたね〜、褒めてやろ〜」

「別にいいよ、子供じゃないんだから。……やめろ、撫でるな。」

「可愛い猫とか〜、撫でたくなるでしょ〜?、それと同じ〜裂くんは狐だけど〜」

「どっちでもいいから、撫でるな、子供じゃない。」

「ちぇ〜、つれないな〜」

「すぐ人を撫でる癖、いい加減直しなよ。」

「えぇ〜、いいじゃんか〜」

「結音が恥ずかしがってたよ。」

「結ちゃんは恥ずかしがり屋さんだもんね〜」

「暦夜も。」

「中学生だもんね〜」

「分かってるなら辞めてあげなよ。僕に至っては高校生だからね?。」


そんな他愛もない雑談をしてると、ベッドのヘッドボードに置いてあるもう1つのスマホがメールの通知音を鳴らす。

普段使い用とは別の、仕事用のスマホ。

メールの通知音と共に、さっきまでの和やかな食う気が一変し、霊音姉さんの顔からも笑みが消え、真剣な顔になる。

まぁ、真剣な顔っていっても、霊音姉さんも慣れてる事だからか緊張したり嫌な顔をしてる訳でもなく、あくまでもスイッチが切り替わったというような感じだ。


「…あら〜?、仕事〜?」

「かもね。」


仕事。

僕の、仕事。

「便利屋 肆屍 裂夜」への、仕事。


「………。」

「内容は〜?」

「……いや、そんな対した事じゃなさそう。でも急ぎの仕事みたいだから、すぐ出た方が良さそうだね。」

「そっか〜、まぁ〜何かあったら〜お姉ちゃんに言いなね〜!」

「はいはい。」


霊音姉さんはまたもスリッパをパタパタと鳴らして出ていく。というか大学には行かないのかな。

まぁいいや。

準備をします。

ベッドから立ち上がると、今までの布団の温かさから急に冷たい床に変わったせいで足裏がピリピリとする。その感触が、平凡な平和な休日から現実に叩き戻される。

仕事だ、切り替えよう。

狐面を頭から下ろしベットに置く。スチールラックから黒いハイネックインナー(裏起毛で凄く暖かいやつ…)の上下セットを取り出し、今の今まで着ていた家着のスウェットを脱ぐ。袖から腕を抜こうとすると、危うく手袋も脱げそうになる所だった。脱いだものはそのまま狐面の隣に脱ぎ捨てる。

抜け殻。

真っ裸。

この瞬間が1番寒い……。

ベッドの温かさが恋しいよ…、せめて暖房くらいつけてれば良かった。

1つ勉強。

忘れるだろうけどね。

インナーを着終わると、その上から仕事用の黒くストレッチ性能の高く暖かいチノパンを履き、ベルトを締める。上半身にはハイネックインナーの上から直接、タクティカルベストを着る。タクティカルベストといっても上から上着とかを着ると違和感が無くなるほど薄く、軽量で、機能を最低限まで落としてある、どちらかというとタクティカルベストというよりはホルスターに近い物。

僕の体格や体型に合わせて作られた特注品。

煤村には感謝しなきゃね。

タクティカルベストにいつも使う仕事道具をいくつか仕舞い、その上から白い下地に赤いラインのデザインが施された冬用の暖かい厚手のマウンテンパーカーを羽織る。フードを整え、最後に狐面を顔の横に引っ掛けるように頭に被せる。

仕事の準備、完了。

……あぁ、なんか面倒くさくなってきた。

厚手の靴下を履くと、僕の皮膚が露出してる部分はついに顔だけとなる。

冬の家の中で靴下、意外と良いかも。

スマホをズボンのポケットに入れ、部屋を出る。

廊下に出ると、廊下の窓から自転車に跨る学ランにマフラー姿の暦夜が見えた。こうやって見ると、僕の”これ”も時間だけで見れば部活や生徒会と変わらないかもしれない。

まぁ部活も生徒会もやったことないから実際の内容には天と地の差があるかもしれないけど。


「さて、行くか。」


廊下を進み、階段を降り、リビングや応接間の襖の横を通り過ぎ、玄関で仕事用の丈夫なトレッキングシューズに足をねじ込む。

玄関のドアノブを掴み、捻ると手袋から軋む音が聞こえ、少し遅れてドアが開く。

その瞬間、外の空気が玄関エントランスに雪崩込む。室内の冷たい停滞しているような冷気とは違い、人体を深く、芯まで突き刺すような、容赦の無い、自然の厳しい冷たさが、僕の精神を試すように蝕む。

それでも1歩、外に出てしまえば途端に澄み切った綺麗な空気が肺を満たす。家の中とは違う温かさが僕に生きていると証明する。


「あぁ、眩しい。」


もう、日は高い。

空は透き通っていて、空気は冷えきっていた。

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