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第一話 まんじゅうこわい


「今日は特別だから」


和菓子義煎の店主はそう言って、白い紙包みを差し出した。


あの日、店にいた常連は五人だった。

互いに顔は知っているが、名前も素性も知らない。

この店では、それで十分だった。


饅頭は、ごく普通に見えた。

甘い匂い。 柔らかそうな皮。

だが、家に戻って包みを開いたとき、私はそれを 食べるという選択肢から外した。

底の紙が、わずかに湿っていた。 餡の匂いに混じって、説明しにくい異臭がある。

薬品のような、あるいは保存料のような匂い。

毒だ、と断定できるほどの知識はない。

私は医者でも、化学者でもない。

ただ、これまでの人生で 「口に入れてはいけないもの」は、何度か見分けてきた。

これは、そういう類のものだった。


問題は、他の四人の常連だった。

彼らも同じように、饅頭を持ち帰っている。

だが、連絡先も知らない。


今さら店に戻って騒ぐのも現実的ではない。

何もしなければ、誰かが食べる。

それが自分でなかったとしても、

翌日から私は、この饅頭のことを思い出し続けるだろう。


私は紙袋ごと、饅頭を持って警察署へ行った。


「食べる前に、気になって」 そう言って提出した。

それ以上は、聞かれなかった。 数日後、店主は別件で逮捕された。

饅頭の話は、表に出なかった。


数日後、自宅に一本の電話がかかってきた。


和菓子義煎の主人の親戚からだった。

逮捕された主人からあるものを預かっていないか? そういう内容だった。


しかし、袋ごと届けたものだから、

もう手元には何もなかった。


電話を切ってからも、胸のざわつきが消えなかった。

何かを見落としている気がした。


財布を開けた。

レシートの間から、小さな紙切れが落ちた。


質札だった。


店の名前と、日付。

そして、預かり品の欄に、

見覚えのある形の文字が、乱暴に書かれていた。


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