起動
「そこにいるの。だれ。」
「あ、いや、こう見えても怪しいものではなくって…」
いや、どう考えても怪しいものだろう。しかし返答はない。
そうしているうちに目が慣れてきて相手の姿が次第に見えるようになる。
最初は女性かと思ったが、年齢は俺よりも下だろうか。あどけなさが残る顔立ちで、女性と呼ぶよりは少女と呼ぶ方がふさわしい。
かなりやつれているが、身なりはこの家に住んでいる割には悪くないのが不思議だ。
「家を追い出されてしまってお金もなくて…あ、俺は陽斗といって…少し休む所が欲しかったから空き家なのかと思って…」
まとまらない説明をする。
「そうなの。わかった。」
どうやら不法侵入は許されたらしい。少女が家の中に入ってくる。
(ん?)
足取りに微かな違和感を感じる。そうして少女は奥の部屋の隅に敷いてあった布団とも呼べない藁の上に体を横たえる。
「あ、あの。勝手に入ってごめん。もう出ていくから。」
「あなたわるくない。もうすこしいてもいいよ。」
そう言って少女はすぐに眠ってしまった。
改めて見るとと本当に何も無い家だ。冷蔵庫などの家電製品は当然ない。埃もあちこちに積もっている。
(一宿の恩もあるし何かしないとな)
そう思い辺りを見回すと、雑巾のようなものが見つかる。これしかないか。今は何かに集中してとにかく何も考えたくない。
そう思い、家の掃除を始めた────
気が付いたら日もすっかり登った。部屋もあらかた片付いたところだ。ほこりっぽさは扉を開けても中々取れないが。
「なにしてるの。」
後ろから声をかけられる。
「ごめん勝手に、掃除したんだ。このくらいでいいかな?」
「そうじしたの。そうなんだ。」
会話が絶妙に噛み合わない。そう思い少女の顔を見ると目を閉じている。何故だろうか。
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少女から話を聞く。
少女は周りからロゼと呼ばれていること。年齢は分からず、生まれつき目が見えないこと。物心ついた頃には両親はおらず、身よりもいないこと。街で踊りを踊り、代わりに食材を貰って暮らしていること。
代わりに自分の身の上話もした。少女は心なしかワクワクした表情で話を聞いている。
「いえがないの?だったらいてもいいよ。はなしたのしい。」
そうして共同生活が始まった。
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俺もなにかしなければと必死に仕事を探した。
しかし魔力量が0の俺にできる仕事なんて限られている。街の人間がやりたがらないような肉体労働しか選択肢は無い。
そうして日々わずかな日銭を稼ぎながらロゼと暮らし始め、なんとかその日食べるわずかな食事くらいにはありつけるようになっていた。
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ある頃からロゼが怪我をして帰ってくることが増えるようになった。
理由を尋ねても、目が見えないのでぶつかってしまったとしか答えない。今まで行きは街まで送っていたが、心配なので帰りも迎えに行き一緒に帰ることにした。
そのまま数日がすぎたある日、いつものようにロゼの務めるお店に迎えに行くと、中で男女が争うような声が聞こえる。
店内に入るとそこには目を疑いたくなるような光景が広がっていた。酔っ払った身なりの良さそうな肥満男がロゼを始めとする踊り子に絡んでいたのだ。
そして手を振りあげると振り降ろそうとする先にはロゼの姿が。目が見えないのだから避けられるはずもない。
その瞬間自分の中で何かが切れる音がした。
肥満男の顔面を横から肘で打ち付けロゼを救う。
「なにするんだてめぇ。」
「お前この方になにをするんだ。」
男と店長らしい人物が同時に激高する。
「お前こそ何をしてたんだ!」
「なんだお前?俺がどれだけこの店に払ってるか分かってるのか?!その女もうこの店で働けないようにしてやる。お前もだ!この街にいれると思うなよ。」
大騒ぎする男を背に店を後にする。
帰り道に、ロゼが「ごめんなさい。」と口を開く。
「いいんだ、ロゼは悪くない。」
そうして何があったのか詳しく話を聞く。肥満男はここ最近店に来るようになったこの街の大商人らしい。酔っ払うと踊り子たちに乱暴をするらしい。
そして店長もグルで味方はしてくれないらしい。
腐っている。
「明日から行かなくていい。代わりに俺が働くよ。」そう伝える。夜は更けていく。
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翌日、いつものように仕事をしようとすると、雇い主から呼ばれ帰るように告げられる。
「なんでですか?!」
「陽斗お前あの方に何をしたんだ?悪いが目をつけられたくないからお前に仕事はやれん。」
どうやらあの男が根回ししたらしい。他にいくつか回ってみたが、仕事をくれるところはなかった。
唯一畑仕事をしていた老婦人が親切に、どうやらあの商人に睨まれた状態でこの街で暮らすのは難しいらしく、見つけ出したら何をされるか分からないこと、明日早くこの街を出る他国の商団があるのでそれについて行く形で街を出た方がいいことを教えてくれた。
家に帰りロゼにその事を伝える。
「ごめん。でもロゼがあんなことをされているのに我慢できなかったんだ。」
「いいの。ありがとう。わたしたちどこにいくの?」
そうして急遽第2の故郷も失うこととなったのだった。
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その翌朝、教えられた場所に向かうと小規模な商団が街を出ようとしていた。
「お願いします。俺と妹も連れて行ってください。」
「そう言われてもなぁ…俺たちだって仕事だしよ」
「荷物持ちでも雑用でもなんでもします。お願いします!この街にいられないんです。」
事情を伝えると商団長が動向の許可をしてくれた。その代わり俺は当然歩きだ。
商団の人数は30人くらいだろうか。大半はみすぼらしい身なりをしており、上等な服装をしているのは数人だけだ。
そして護衛なのか小型の機動兵器が1台。上半身は人型で大きな使い古した斧を装備しているが、下半身はキャタピラのような車輪になっている。
パイロットは地球ではなくエアデ生まれの傭兵のようだ。エアデ人でも稀に魔力量が多い人間が生まれるのでその類いだろう。
とはいえ王宮でみたような大きさの機動兵器ではなく大きさは半分以下だ。このくらいの大きさが動かせる限度ということか。
そうして商団との旅が始まった。商団はガリソン商業連合を目指すらしい。もっとも、ガリソン商業連合は複数都市国家の商人ギルドによる連合体から成り立つ国家のため、厳密にいえば目的地は国外れのボノニア国とのことだ。
旅を続けるうち、商団員達とも色々話すようになり、特にロゼが団員の前で踊る踊りは大好評だった。
ボノニア国まで最後の野営となったある日、商団は盛大に宴をひらいた。
この日だけは労働者もお酒を飲むことが許されるようで、みんな浴びるように飲んでいる。俺とロゼは未成年なので飲んでいないが…操縦士のおじさんも酔っ払って潰れている。
そうして夜が更けた頃、それは起きた。突然闇から5mくらいのハンマー状の武器を持った機動兵器も2機現れて辺りを取り囲んだ。それだけではなく、人の姿もあるらしい。
「さ、山賊だ!!」
「山賊が何故機動兵器を?!しかも複数台?!」
団員がそう声をあげた時、俺はロゼを連れ咄嗟に護衛の機動兵器の足元に姿を隠す。
「男は殺してよし!お前たちやっちまえ!」
その掛け声とともに、山賊が一斉に襲いかかる。団員も武器を手に抵抗しているが、相手には機動兵器もいるので相手にならない。
団員に起こされた操縦士のおじさんが機動兵器の方に駆け寄ってこようとするが、そこにもう一機の敵の機動兵器が立ちはだかる。
(ドシャッ!!!)
手に持つ槌を振り下ろした鈍い音が聞こえる。辺りを土煙が覆う。ダメだ絶対に助からない。
「おい!あそこに女がいるぞ!!!」
見つかった…迫り来る山賊たち。剣を手に携えている。
「こっちだ!」
ロゼを連れて操縦士を失ったばかりの護衛の機動兵器に乗り込む。
「おい!ヤツら機動兵器に乗りましたぜ!お頭!」
足元で大声が聞こえる。何とかしなければ。
操縦席を見渡す。作りは簡易なもので、左右に操縦桿が配置され、両脚にはペダルがある。これが左右のキャタピラだろうか。
「動け!動け動け!」
虚しく叫ぶが、反応しない。当然だ。俺には魔力がないのだから。
前を向くと山賊の機動兵器が2台とも地響きをあげて迫ってくる。もうだめだ…。
「はると…!」
ロゼが操縦桿を掴む俺の手を上から握る。
その瞬間、
「ピシューン…」起動音と共に機動兵器が息を拭き、大地を踏み締める。
「う、動くッ!!」
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機動兵器コレクション
???? 機動兵器
護衛用小型機動兵器
全長:4.2m
本体重量:12.3t
一般的な機動兵器より小型で、民間作業用・簡易戦闘用として設計されている。
パワーこそ一般的な機動兵器には劣るが、魔力量がある程度多くなくても扱う事ができ、重宝されている。
傭兵用にバトルアックスを装備している。




