表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出交換所  作者: 西季幽司
シーズン2
26/26

引き籠り④

 思い出交換が始まった。

「瑠璃子ちゃんのことは、ずっと気になっていました。私に出来ることでしたら、喜んでお手伝いします」と真衣が言ってくれた。

 高校に入学し、過去の自分とおさらばした真衣は、勇気を振り絞って美術部に入部した。そこで、友だちが出来た。真衣は新しい人生を歩み始めていた。

「瑠璃子ちゃんにも新しい生活を始めてもらいたいのです」と真衣は真剣な眼差しで言った。

 真衣に瑠璃子の家まで来てもらい、二階の廊下で、壁を背に楽な姿勢で座ってもらった。姫美子はドアの前に胡坐をかいて座ると、膝の上で掌を上に両手をおいた。

「瑠璃子ちゃん。聞こえる? この前、話を聞かせてもらった姫美子よ。今日はね。望月真衣さんに来てもらっているの。彼女には、あなたに伝えたい思いがあるそうなの」

 姫美子がドアに向かって話しかけるが、相変わらず反応が無い。姫美子の両手が動かない。瑠璃子が姫美子をシャットアウトしようとしているのだ。

「お願い。私の話に耳を傾けて。それだけで良いの。いいの。嫌なら答えなくて。ただ、私の話を聞いてくれるだけで良いの」

 姫美子が懸命に話しかけ続ける。やがて、ぴくりと姫美子の指が動いた。どうやら、姫美子の声が瑠璃子に届いたようだ。

「さあ、真衣ちゃん。お願い」

 姫美子の言葉に真衣は頷くと、眼を閉じた。

 姫美子の指が優雅に動く。

 先ずは瑠璃子の思い出だ。カンニングが見つかった後に、友だちから浴びせかけられた誹謗中傷の思い出を切り取った。その思い出を切り取った穴に、真衣の思い出を移植する。

 姫美子が選んだのは、真衣と二人で制作したポップが完成した時の思い出だ。完成したポップを前に、二人で泣いた思い出だ。

 思い出は、最初はフルカラーだが、時間が経つに連れ、色が薄れ、セピア色となり、白黒になる。そして、やがて真っ白になる。真っ白になっても、消えた訳ではない。何かの拍子に、ふと蘇ったりする。

 瑠璃子にも同じ思い出があるのだが、既にセピア色となっていた。瑠璃子にとっては、大事な思い出ではなかったのだろう。その思い出を色付けして鮮明にすると、「瑠璃子と友だちになれたら、どんなに楽しいだろう」という真衣の思い出を埋め込んだ。

 そして、真衣には、セピア色になってしまっていた瑠璃子の思い出を移植した。体育祭で瑠璃子と真衣が制作したポップが評判になった時、瑠璃子は友だちに言われた。

「瑠璃子。すごいじゃん!あなたに、こんな才能があったなんて、びっくり。頭も良いし、瑠璃子って、本当にすごい!」

 その時、瑠璃子は答えた。「私一人でつくったんじゃないよ。真衣ちゃんと一緒につくったんだ。下絵なんか、ほとんど真衣ちゃんが書いたものだし、私は色を塗るのを手伝っただけ」

「真衣ちゃん? あんな、ぶりっ子の肩を持たなくて良いのよ。本当は、あなたが一人でつくったんでしょう」

 そうしつこく言う友だちに「違う。真衣ちゃんと一緒につくった。彼女、才能があるんだから!」と瑠璃子は怒鳴り返した。

 その思い出を色鮮やかにして真衣に移植した。

 こうして思い出交換は終わった。


 廊下に真衣を残して、姫美子は一階のリビングで二人が目を覚ますのを待った。

 思い出交換は直ぐに効果が出る訳ではない。本人が思い出を自覚し、どう思うか予測がつかない。時には効果が出ないことがあるし、効果が出るまでに長い年月がかかることだってある。

 とにかく二人が目を覚ますのを待つしかなかった。

 やがて、二階から話し声が聞こえて来た。真衣の声だ。真衣がドア越しに何か話しかけている。

 真衣の声を聞けば、たった今、瑠璃子に移植した思い出が呼び覚まされるかもしれない。そうなれば――

 覗きに行きたい衝動をぐっと抑えた。瑠璃子の母親にも、「ここは真衣ちゃんに任せた方が良い」と言って、様子を見に行こうとするのを制止した。

 二階の物音に耳を澄ませる。

 カチャリとドアが開く音がした――ように聞こえた。そして、トントンと足音がする。足音が多い。二人分だ。

 瑠璃子が真衣に連れられて、リビングに姿を現した。

 その姿を見た途端、母親が飛んで行って瑠璃子を抱きしめた。「瑠璃子~!」と名前を呼びながら泣いた。

 思い出交換は成功したようだ。

 真衣が姫美子の顔を見て、にっこりとほほ笑んだ。真衣の呼びかけに、瑠璃子は部屋を出て来てくれたのだと言う。

 姫美子が「ありがとう」と言うと、「いいえ。私のほうこそ、ありがとう。姫美子さん」と真衣が答えた。

 その後、「マル・オブ・キンタイヤ」を訪ねて来た瑠璃子の母親から、真理子の近況を聞くことが出来た。

 一年遅れになるが、瑠璃子は高校入学を目指して予備校に通い、勉強を始めたと言う。真衣がいる高校に入って、美術部に入るのが目標だそうだ。

「良かった。瑠璃子ちゃんが立ち直ることが出来て」

「全て、姫美子さんのお陰です。どうお礼をしたら良いのか。大したことはできませんけど、これ、受け取ってもらえれば」とぶ厚い封筒を差し出した。

 それを押し返しながら姫美子が言った。「お礼はこうして瑠璃子ちゃんの様子を聞かせてもらったことで十分です」


――恰好、つけ過ぎちゃった。


 ヨシキをブックに報告をしながら、姫美子はそう言って笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ