何も言わせない
ーーーまた何かが足りないーーー
私のルーティンは大抵はこの虚無感から始まるようだ。あの女を始末した後、死ぬような多幸感と快感を味わった後にいつの間にか意識を手放していた。
そして虚無感から目覚めると見知らぬ場所に私は佇んでいた。何故かは分からないが行く先は身体が分かっているようだった。
「お前はさぁ、何でこんなことも分からないんだよ!」
その先ではパタパタと足で地面を小刻みに叩いて苛立ちをアピールしている男がいた。よく分からないが、あの動作を見ているとこちらも苛立ちと例の虚無感が募ってくる。
「あ?何だよお前は?」
こちらの存在に気が付き苛立ちながら睨みつける男。私は何も答えなかった、いや答えなくとも胸の内では強い憎悪が燃えていた。
そしてあの女と言い、この男と言い私のことを忘れているようだが、私は覚えている…。
『お前さぁ、人より仕事が悪いくせにちょっとしたことで癇癪起こして人としてどうなんだよ!』
この男はかつて私の仕事が悪いことに対して注意と言う名の怒号でまくし立てていた。
『俺も色々言われて変わったよ。けどお前はどうなんだ!人としてどうかと思うぞ俺は!』
自分が人間の代表みたいな言い草で、そのくせして私を人としてと扱わなかった男だ。
『第一お前の夢なんて収入源としては不安要素が多過ぎるしどうかと思うぞ!子供みたいに駄々をこねるな!お前はもう大人だろうが!』
最もらしいことを言っているが、要は私の夢を遠回しに貶しておいて、自分の幸せを押しつけようとしてるだけにしか聞こえなかった。思い出す度に虚無感と復讐心が掻き立てられる。
「おい…何だお前は?」
「!」
「がっ!?」
パタパタパタパタと足踏みをして、腕を組んで苛立ちを露わにしている男の足を、私は力強く踏んづけて強制的に動かなくさせる。だが、それで終わるわけがなくそのまま硬い物を踏み砕く感触を味わっていた。
「な…何を考えて…ぶっ!?」
そのまま足を引っ掛けて転ばせ、更に踏みつけて顔を壁に何度も何度も何度でも踏みつけて嫌な音を響かせる。
「て…てめぇ!?ぶち殺すぞてめぇ!」
激昂した男は私に殴りかかるがやはり痛くはない。それどころか男の腕は抜けなくなり、私の身体の中に留まる。
「こ…こいつ!?」
今度は上段蹴りをしてくるがこちらも腕と同じ結果に終わる。それにいよいよ焦り始める男に私は埋まった腕と足をすり抜け近寄っていく。
「っ!」
「がっ!?ぐっ!?ぶっ!?」
動けなくなったところを私は何度も何度も何度でも殴りつける。やはり痛みを感じない…例え相手の歯が折れようと、骨が折れようと殴り続ける。
「あがっ!?かっ…!?」
そして私はその男の舌を無理やり引きずり出し、顎を膝で蹴って無理やり閉じさせる。途端に見たことがないほどに血が口から噴き出る。
「ああああ!?」
舌が噛み切れて私の指に男の舌が残るのだった。舌が切れて男は悶絶していた。その間に私は釘を何本か手に取りカナヅチを持って近寄る。
「ぎゃああああ!?」
私はその男の指の一本一本にカナヅチで埋め込んで動けなくさせる。これでもう苛立ちをアピールするなんてことはさせない。
「お前…!?殺す…!?絶対にぶち殺…がっ!?」
やはりこの男の声は耳障りだ。舌を斬るだけでは黙らないと踏んだ私はその男の顎を両手で掴んで無理やりゴキリと言う音ともに無理やり開かせる。
「か…!?あ…!?」
そんなに罵倒したいなら開かせてやったぞ。これで思う存分喋ればいいさ。二度と閉じることはあるまい。
「あ…が…!?」
最も人間扱いをしないで平気で罵倒し、夢を嘲笑う奴が自分の幸せ受け売ろうなんて…許せるはずがない。
「がっ…!?」
それ以前にお望み通り人ではなくなったのなら、もはやそんなの気にせずそんな奴の幸せを奪う権利が私にはある。
持っていた釘を口に目一杯含ませてから肘打ちを食らわせ、針千本を飲ませたかのような有様にしてみせる。もはや物理的に喋ることは出来ないだろう。
「…!?」
あまりの激痛に気絶していた男は水か何かをかけられたことに驚いて目を覚ます。しかしこれは水ではない、その証拠に私はマッチで火をつけその水に近づける。
「〜〜!?」
その水はガソリンで、火は一気に男にまで燃え広がりその身を焼いていく。最高で最低の復讐の料理を作っているかのようでまた違った高揚感があった。
「……!?」
その火は男の皮膚を灰にし、その下の筋繊維すらも灰色に変え、見るも無残な有様となった。それでも死んでいないらしくピクピクと痙攣し、言葉にならない声を発していた。
「お前は人として恥ずかしくなかったなんて言えるのか?まあ、私はもはや人ではなくなってるんでね。」
私は灰になった男の首を釘抜きで突き刺し、捻って首の骨を粉砕する。私はあの時と同じく多幸感と高揚感の果てに意識を手放しそうになるのだった。
「な…何だあれは…!?」
「殺人鬼!?」
全てが終わり私が快感の余韻に浸るも一部始終をたくさんの人に見られていたらしく気が付くと大騒ぎになっており遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。